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リアクション
【3】続・入門万勇拳!……1
空京中華街公園。
しばしの休息を終え、門下生たちが修行を再開し始める時分。
安芸宮 和輝(あきみや・かずき)も秘伝をものにするため修行に没頭していた。
敷き詰めた濡れた紙の上を破らないように歩行する。安芸宮に伝わる秘技『水月捷歩』の特訓である。
「よいのでしょうか。万勇拳の技ではなく他流の技の練習などしていて」
クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)は心配そうに言った。
「私は剣士ですから、入門したとしても中途半端なことになってしまいますし……」
それにと付け足す。
「腰を落ち着けて練習に没頭出来る機会なんですから、一族の技を学ぶのもよいかと思いまして」
歩くと言うより滑るように、和輝は紙の上を渡っていく。
この技は、水に映る月の如く気配なく滑らかな踏み込みを行うことで、こちらの行動を予測不能にする技なのだ。
「たしか、神社の秘伝書に記されていた技、よくこんな技を見つけてきたものです」
安芸宮 稔(あきみや・みのる)は言った。
奥まで歩を進めると踵を返し、二人に向き直る。
「さて、ひとまず破らずに歩けるようになりましたが、問題は実戦に耐えられるかです」
「それで、この林檎を私たちに守れと」
「ええ、遠慮は無用です。パラディンとメイガスを突破出来なくては、お話になりませんけら」
和輝は滑るように歩き、二人の間をすり抜けようとする。
間は狭いがこの技なら、二人が反応するより先にすり抜けられるはずだ。正しく技をものに出来ていれば、だが。
「はい、捕まえました」
「あれ?」
あっさり稔に捕まってしまった。
「ではこれなら!」
「すみません、失礼します……」
クレアにも止められてしまう。
「これもダメですか」
何度か繰り返しても上手くいかない。
「すり抜けることを意識しすぎなのじゃ。はやる気持ちは技を乱す、さながら水面に投じる石のようにな」
「……わかるのですか、老師?」
「わしクラスになれば、他流の技も見ればわかる。精進するがよい」
「ご指導ありがとうございます」
ウムと頷き、老師は小腹が減ったのかリンゴを勝手に食べた。
「あの老師、そのリンゴは修行で……」
「フーー!!」
「うわっ!?」
万勇拳道場訓、ひとつ、老師に食べものをとられても文句を言ってはいけない。
老師は別の門下生に目を向ける。
紫桜 瑠璃(しざくら・るり)と片栗 香子(かたくり・かこ)の幼女二人だ。
「二人とも、怪我をしないように楽しく修行するんですよ」
保護者の緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)が言うと二人は「はーい」と元気よく返事をした。
「せいしんをとういつしてあいてをこころにおもいえがけばとぎすまされたいちげきはあいてをつらぬくらしいの」
瑠璃は奥義の概要をむにゃむにゃ呟くと、香子に向かって拳を突き出した。
「わぁ瑠璃ちゃん、お上手ですわ」
「ほんとう?」
「ええ、とっても」
ニコニコして言う癖に、香子はサクッと拳を受け流す。
「ぜんぜんあたらないー」
「瑠璃、もっとよく相手を見ましょう」
遙遠は言った。
「次にどんな動きをしようとしているのか、それを見極めた上で自分はどう動くのか、よく考えましょう」
「わかったの」
瑠璃はぶんぶん腕を振り回す……が、ふと何か思い出して動きを止めた。
「蹴ってもいいの?」
「あ、ああ、別に蹴りでもいんじゃないですか?」
「よーし、がんばるの」
どうやら足技のほうが得意らしい。張り切って瑠璃は飛びかかった。
しかし、それでもこと格闘に秀でてる香子を前に、瑠璃の技は容易くいなされてしまう。
「頑張りましょう、瑠璃ちゃん。一緒に技を体得して帰りましょうね」
「うん、ありがとう」
微笑む香子。マジいい子……と言いたいところだが、内心は大分はらわた煮えくりかえっていた。
……瑠璃のやろー、こういうのは私の領分だっていうのに出しゃばりやがって。
……これで格闘術を覚えられたら私の立場ないっつーの。
……兎に角、瑠璃以上に出来るって事をしっかりとお兄様にアピールしとかないと。
「ふーむ、こっちはちびっこカンフー教室みたいじゃのう」
老師は言う。
「……ところでなんの奥義の修行をしとるんじゃ?」
「なんでも『御犯津真撃』とか。相手のパンツのみを貫く技だとか……なんなんです、この技?」
「うぐ……」
万勇拳の技という体で、と言うルールが、まさか万勇拳の品位を下げる事態を引き起こすとは……。
もはやルールを逆手にとったテロである。乳輪加算とかよー。
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