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五精霊と守護龍~溶岩荒れ狂う『煉獄の牢』~

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五精霊と守護龍~溶岩荒れ狂う『煉獄の牢』~

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●『煉獄の牢』下層部:下層B

「厳しい、危険だ、と言われたら行ってみるというものだろう。
 ……しかし実際に厳しいな。これはライトボウガンと水冷弾で来るべきだった……!」
 『マグマフィーチャー』の吐いた岩を避け、爆ぜて生み出された小さな炎に風術を撃ち込んで消し飛ばした毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)が、物陰に隠れて一息つきつつ愚痴る。彼女は下層を、生身で侵入した者の一人であった。『下層に生身で行けと思った』という理論で向かってみれば、マグマフィーチャーを単騎で相手するには少々厳しいように思われた。本気を出せば一体くらいは片付けられそうだが、倒して剥ぎ取っておしまい、帰りは自動で行われるよ、じゃないのでそれは却下である。あくまで探索がメインなのだ。
「とりあえず、奴らが入ってこれないような狭い路地に逃げ込むのが一策か。さて……」
 チラリ、と様子を伺い、大佐が行動を開始する。最短距離である溶岩の河を渡ってその先にある隙間に逃げ込めば、難は免れそうであった。軽々と溶岩の河を渡り、後もう少しで対岸という所でしかし、河が突然せり上がり、飛び出してきた複数のマグマフィーチャーが大佐を取り囲む。
「……どうやら、本気を出さないといけないようだ」
 不敵に微笑み、大佐が両手に試験管を装備して飛び込む――。

「ふむ……事前に聞いていた通り、やはりここは厳しい環境。……であるならば、この地に重要なものがある可能性は高い」
 同じ頃、人一人がやっと通れそうな険しい道を、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)とパートナー達が進んでいた。彼らもやはり、事前の忠告にもかかわらず生身で下層へ向かった者の一組であった。
「まったく……何故このような無茶をしておるのだ。今の所マグマフィーチャーとやらに接触はしとらんからいいものの……」
「あ、暑いですねー。水分補給をこまめにしないと、熱中症になってしまいそうです」
「……魔鎧も、そして機晶姫も、熱中症というものになるのでしょうか?
 ともかく、この行いが勇敢で終わる努力をいたしましょう」
 甚五郎の後に続く草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)がそんなことを口にしつつ、そしてしばらく進んだ所で羽純が険しい顔を浮かべる。
「これは……前方に殺気を感じるな。状況からして複数のマグマフィーチャーがいる」
 その直後、連続した爆発音が響き、一行を震動が襲う。
「わわわ、誰かが戦っているみたいですねー」
「……どうしますか? こちらは生身、極力戦闘は避けたいものですが」
「まずは状況を確認しよう。行動はそれからだ」
 甚五郎の言葉に従い、一行は道を翔ける。そして彼らが開けた空間に出ると、飛び込んできたのは複数のマグマフィーチャーに対し爆発物と妖刀を手に奮闘する大佐の姿であった。炎を纏い突進するマグマフィーチャーをギリギリの所で避け、爆発物で怯ませた隙に目にも留まらぬ剣戟で仕留めていく様は、見事であった。
「……じゃが、いささか数が多いな。あれではいずれ圧倒されてしまうじゃろ。
 どうする? 手を出せばこちらとて、被害は免れぬぞ」
「……だが、見てしまった以上、何もしないわけにはいかない。
 一体に狙いを集中し、目の前の契約者が離脱する切欠を作る!」
「このまま立ち去るのは流石に出来ませんからねー。それじゃーワタシは防御スキル全開で!
 皆さんはワタシが、護ってみせます!」
 ホリイが、一行に加護を与える技を複数展開し、被害を負う可能性を極力減じていく。
「先陣はワタシが。羽純は後方より援護を、甚五郎は渾身の一撃を!」
 ブリジットがブースターを起動させ、狙いを定めた一体のマグマフィーチャーへ飛び荒ぶ。敵が接近に気付いて迎撃態勢を取る前に、構えたマスケット銃で狙い撃つ。放たれた魔法弾はマグマフィーチャーの頭部を貫き、その巨体をぐらつかせる。
「援護する! ブリジットは一度撤退、代わりに甚五郎、突っ込め!」
 羽純が札を取り出し、空へ放つ。その札を媒介にして電撃が降り注ぎ、反撃を見舞おうとしていたマグマフィーチャーの行動を阻害、ブリジットの離脱を支援する。
「おおおぉぉぉ!!」
 冷気を纏った大剣を振りかざし、甚五郎が怯んだマグマフィーチャーの上空へ跳ぶ。鍛えた筋肉を躍動させ大剣を振り下ろせば、マグマフィーチャーの首と胴体は切り離され、解放された冷気が彼の身体をただの岩へと変えた。
「そこの者! 今のうちに離脱しろ!」
 甚五郎が大佐に呼びかければ、最後に両手の爆発物を投擲して大佐が離脱を図る。羽純とホリイ、ブリジットが後に続き、殿を務めた甚五郎が隙間に逃げ込んだ直後、放った岩が隙間を完全に埋めてしまう。
「塞がれてしまったか。だがこれで、追撃はあるまい。
 ……む、先程の者はどうした?」
「それが……先に行ってしまったようです」
 ブリジットが甚五郎に報告する。助け出される形になった大佐は助けてもらったことには礼を言ったものの、共に行動することは遠慮したようであった。
「そうか。……個人には個人の事情がある、深くは詮索しない。
 わしらも探索を続けるぞ」
 甚五郎がこの場をまとめ、そして一行は探索を再開する――。


「イナテミスを襲っていた暑さの原因が、龍だったとはね。でも龍なら、目覚めた原因があるはずだわ」
 そう口にし、茅野 菫(ちの・すみれ)パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)を伴い、『煉獄の牢』下層部の調査を始める。あえて危険な場所に飛び込んだのは、一番危険と思われる場所にこそ原因は隠されている、という理論に基づいている。
(とはいえ、生身でこのような場所に行くのは危険が過ぎるわ。暑さはアーデルハイトの魔法薬で何とかなっているけど、溶岩に飲み込まれでもしたら……)
 箒で飛ぶ菫の後方を、パビェーダが周囲に警戒を配りながら慎重に飛行する。すぐ傍を流れる溶岩の河からは絶えず溶岩が噴き出しており、一歩間違えれば火傷を負いかねない。イコンはイコンで熱処理に大変だとは思うが、生身の場合これらに触れれば一発でアウトだ。ましてや菫は今はいいが、何か手がかりを見つけると無茶しがちである。警戒し過ぎても足りない。
「随分奥まで来たわね。これ以上進むと戻れなくなりそうだから、一旦引き返しましょうか――」
 そこまで言いかけた所で、菫の視線がある一点に釘付けにされる。
「菫? 何か見つけたの?」
 パビェーダの言葉に応えず、菫が箒を加速させ、注意を向けた場所へ飛ぶ。パビェーダも急いで後を追い、到着した先は壁と壁の間に出来たような隙間だった。
「あたしのカンだけど、この先に何かあるような気がするの。お願い、最後にここだけ確認させて」
「……ダメだと言っても、諦めないのでしょう? 一人で行かれるくらいなら、私も付いて行きます」
 菫の性格を熟知しているパビェーダが、ため息をつきつつも一緒に行く事を申し出る。
「それじゃ、行きましょ。……あ、あんたはここにいて。もしあたし達に何かあった時はこの子を飛ばすから、その時は全力で助けを呼びに行くのよ」
 召喚していたフェニックスを入り口に置いて、二人は隙間の先へと潜っていく。……しばらく時が経った頃、同じ場所に一組の、やはり生身で下層を調査する者たちが現れた。
「あっ、フェニックス! 先生、サラマンダーは多分あのフェニックスを感じ取ってここに来たんだよ!」
 ミスノ・ウィンター・ダンセルフライ(みすのうぃんたー・だんせるふらい)シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)に報告する。彼女の連れて来ていたサラマンダーが突然飛び出したのを追って来てみれば、誰かが召喚して置いていったと思しきフェニックスが待機しており、そして前には壁と壁の隙間のような道が先まで続いていた。
「こういう場所は、イコンじゃ見つけるのは難しいわね。……さて、どうしたものか……と考えても、結局は先に進むしかないんでしょうけど」
 飛空艇を降り、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)がともすれば模様にしか見えない道の先を見据える。先にこの先へ向かった契約者――それも多分、自分たちと同じようにイコンに乗らず、生身で探索を行なっていた者たち――も、この先に何かあると思ったからこそ進んだはずなのだ。召喚獣を置いていったのは、トラブルがあった時に助けを呼ぶためだろう。
「それじゃ、行きましょう。狭いから飛空艇は降りて、羽で……っと」
 シルフィスティが自身の羽を展開し、リカインとミスノも飛行するための準備を整える。重要なアイテムを獲る気に満ちているシルフィスティを先頭に、ミスノを真ん中、最後尾をリカインが務める形で一行は、隙間の奥へと進んでいく。
(上下左右への移動……自分がどう進んできたのか見失いそうだわ)
 その辺りは自分だけでなくシルフィスティもミスノもやっているはずだが、とにかく進みにくい道だった。それでも我慢して進み続けた結果、一行はようやく開けた空間に辿り着く。
(途中は一本道だったから、先に入った人もここに来ているはずだけど……?)
 そう思ったリカインの耳に、誰かと誰かが話しているような声が聞こえてくる。シルフィスティとミスノもそれに気付いたようで、一行は足音を消して慎重に声の元へ近付いていく。
「……まさかねぇ、こんな所に誰か来るなんて思わなかったよ。溶岩もある、マグマフィーチャーもいる、普通に来たら危ないじゃない」
「それはあんただって同じでしょ? ……見たところ契約者でもない、でもマグマフィーチャーのことを知っている、あんた誰? ……って言っても、素直に答えるとは思わないけど」
「そうだねぇ、僕のことは言っても信じてもらえないだろうから伏せておくとしても、『炎龍』をこの場所に目覚めさせたきっかけを作ったのは僕だよ。あ、僕ともう一人いるけどね」
「……ふーん。つまりあんたともう一人が、今回龍を目覚めさせた原因ってわけ。一体何のために?」
「強いて言うなら……これから起こることを直感的に経験してもらうため、かな。
 さて……と。お話を途中で切っちゃって悪いんだけど、君たちの他にもここを探り当てた人がいるみたいなんだ。僕の存在が明るみに出るのはまだ待ってほしいから、出来ることなら黙って帰ってほしいんだけど……」
「そういうわけにもいかないのよね。また変なことされても困るし、あたしとしては一緒に来てもらえると助かるんだけど?」
 会話の内容が段々と不穏な雰囲気になっていく中、どうやら片一方は先に入った契約者であること、もう片一方はこの事件の鍵を握っている人物であること、その人物に自分たちの存在がバレていることを悟った一行は、どうせバレているなら一度その顔を拝んでやろうと、地を蹴って大きく飛び出す。
「秘密を知ったものは消すなんてありきたりな悪役を演じているのは誰よ!」
 声の雰囲気から少年と予想した――ただ、パラミタでは外見と年齢が一致しないことがしばしばあるので、あくまで外見のみ――リカインの目に飛び込んできたのは、自分達を見る菫とパビェーダ、そして予想通り、茶色の髪をした少年の姿。
「ほら、来た。……うわ、しかもさらに二組増えた。君たちどれだけ危険知らずなのさ」
 少年の言葉に、他の者たちが背後を振り返る。確かに二組、大佐と甚五郎たちの姿が見える。彼らもどうやらこの場所を探り当て、中を調査しに来たらしかった。
「そんな危険知らずなみんなには、ちょっと危険を味わってもらおうかな」
 言葉の音色に危険なものを感じた一行が再び振り返れば、少年が掲げた掌に見る見る、魔力光が凝縮されていく。彼らが身構えるより早くそれは放たれ、入って来た入口付近へ飛ぶと炸裂し、空いていた隙間を埋めてしまう。
「それじゃ、僕はやることがあるから。……多分また会うと思うから、その時はどうかよろしくお願いします」
 ぺこり、と丁寧にお辞儀をして、少年の姿が忽然と消える。
「な、なんなの、一体?」
「考えるのは後にしましょう! 今ならまだ入り口の瓦礫は少ないはず、急げば――」
 戸惑うミスノをシルフィスティが叱咤して、そしてその場にいた一行は入り口へと駆ける。

 ……彼らを強烈な震動が襲ったのは、そのすぐ直後だった――。