First Previous |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
Next Last
リアクション
――少し時を戻して、同じ下層Bで探索を行う者たちの行動を追っていこう。
その時、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)とクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)は『ソーサルナイト』の後継、{ICN0004496#ソーサルナイト?}に搭乗し、『ブラックバード』より転送された情報を元に探索を行なっていた。
(最近の異常気象や地震は、炎龍の目覚めが近いという予兆みたいなものだったか。
……そういえば、氷龍や雷龍のときも同じようにその属性にまつわる天変地異があったな。それを鑑みれば辻褄は合う)
データを魔道レーダーに入れ、地形の確認をしながら周囲を隈なく見て回る。壁の僅かな隙間から時折蒸気が噴き出し、溶岩の流れは絶えず、グツグツとたぎる音を発している。この中に飛び込んでしまえば、いかな堅牢な『ソーサルナイト?』であってもいくばくと持たないであろう。
(……にしても、ここには何があるのだろうか。可能性として考えられるのは、『鍵』となるものだろう)
『氷龍』や『雷龍』の時も似たようなことがあったと聞いたことを思い出した涼介が、これからの調査を少しでも楽にするべく、対象となるべき『物』を想像する。
(これだけの環境だ、普通のアイテムなはずはない……そう、もっと魔力を含んだものだ。なら、この溶岩流の中にある魔力の流れを感知出来るようにしよう)
涼介が端末を操作し、魔道レーダーの探索項目に『魔力とその流れ』を付加させる。レーダーは他にも熱源などの項目を設定できる――今は熱源では意味を成さないだろうが――ようになっていたが、これが目的の物を探し出すために最も適切であるように思われた。
(だが、魔道レーダーばかりに頼るのも危険だ。精神を集中させて自分自身をレーダーにするんだ。
ソーサルナイト?と私自身を一体化させ、風を、気配を、魔力の流れを敏感に感知して探し当てるんだ)
しばしの間、涼介が目を閉じ呼吸を落ち着かせ、意識を集中させる。自らの中に流れる魔法使いとしての力を、『ソーサルナイト?』を通して拡大させていくイメージを頭に思い描く。
(……! これは……)
そして、一瞬ながら脳裏にヴィジョンが飛び込んでくる。開けた空間に佇む、燃え盛る炎を閉じ込めた水晶体。それを守る複数の『マグマフィーチャー』。
――これだ。これこそが『炎龍』に繋がる『鍵』だ。
「……クレア、目的の物が見つかった。だがそれを手に入れるためには、多少の戦闘はやむを得ないようだ」
『分かったよ、おにいちゃん。迎撃は私に任せて。後、近くを探索している他のイコンにも、情報を送っておくね』
クレアの言葉に頼む、と答えて、涼介は頭に浮かんだ場所と実際の場所を一致させると、その場所へと向かう――。
「……炎龍に繋がる鍵を発見した、付近を調査するイコンは応援に向かわれたし……ね。
そう、先行隊が見つけたのね。それじゃさっさと見つけて終わらせましょう、暑くてかなわないわ」
先に下層Bへ突入していたイコンにやや遅れる形で、入口付近に到達したアカシャ・アカシュの元へ、『ソーサルナイト?』がもたらした情報が『ブラックバード』を介して届けられる。それを目にしたグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)が額に汗を滲ませ、目的のポイントへと向かう。彼女の搭乗する『アカシャ・アカシュ』は炎熱への抵抗に優れていたが、それでも機体の中は暑い。
「外は、やはり暑いのでしょうか」
一方、同じく搭乗するシィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)は涼しい顔をしていた。あまりに無表情であるため、暑がっているのか平然としているのかの判断さえつかない。シィシャの手が撫でるように空間を這うと、予め刻まれていた術式が可視化され、情報を提供する。いわゆる一般のイコンでは計器が担当するものを、術式で行う辺りはいかにもイルミンスールのイコンらしい。
「……あぁ、これは、確かに暑いですね。それに……凄い。
まるで、生という力に満ちているよう」
周囲の様子を映し出すモニターへ、シィシャが顔を近付ける。その様子はどことなく、無邪気な子供を連想させた。
『……シィシャ、何をしているの。目的の場所に着いたらまずは状況確認からよ』
主、グラルダの叱責にも、シィシャは聞いているかどうか分からないくらいにマイペースだった。状況確認といっても実際はグラルダと、展開した術式が行う。彼女が“見て”“判断する”ことはない。グラルダが“見る”のを助け、“判断した”事柄を実行に移すだけ。シィシャの仕事は要約すれば、その二点。
『……? ……どうやら、のんびりと状況確認してる暇はないかもしれないわね』
ただ、グラルダのその言葉を耳にすると、シィシャは何が起きているのか少々気になった。よってモニターを前方に向け、状況を確認する。そこでは視認する限り3機のイコンが、炎を纏った生物――『マグマフィーチャー』――と激しい戦いを繰り広げているのが見えた。
『防護術式を常時展開。余剰の魔力を『カナンの聖剣』用に貯蓄』
「はい」
主の求めに応えるべく、シィシャの手が空間を舞う。装甲の表面に刻まれた術式が光を放ち始め、片方の手にはビームを発することも出来る大剣が握られる。
「さあ、アンタ達のケツはしっかり見といてあげる。とっとと手がかりを見つけて、帰るわよ!」
いつでも攻撃態勢に移れる状態で、『アカシャ・アカシュ』は戦場を睥睨する――。
「とうっ! ……ここが、指定されたポイントか。むっ、あれは!」
『ガオオオォォン!』(気をつけろハーティオン、あの化け物がおそらく報告にあった、『マグマフィーチャー』だろう)
探索ポイントへ到着したコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)と龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)の前に、多数のマグマフィーチャーが立ちはだかる。
「これほどの数、やはりここに炎龍への手がかりがあるのだな。ならばやむを得ん、通らせてもらう!
行くぞ! ドラゴランダー! キングドラグーン!」
『ガオオオォォン!』(よし、存分に暴れてやるか!)
ハーティオンの呼び声と共に、多数のパーツに分解されたドラゴランダーがハーティオンの各部へ装着され、そこへキングドラグーンが組み合わさり、一つになる。
『黄龍合体! グレート・ドラゴハーティオン! 心の光に導かれ、勇気と共にここに見参!』
グレート・ドラゴハーティオンへ合体変形したハーティオンが、『グレート勇心剣』を手にマグマフィーチャーの群れへ切り込む――。
「いやー、ハーティオンってこういうのホント、似合うわよね。
……まあ、メンテが大変っちゃ大変なんだけど。必ずどこかしか損傷して帰ってくるから困り者よね」
地上に設けられたベースキャンプにて、ハーティオンの頭部に設置されたカメラが映し出す映像を端末で見ながら、高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)が楽しげに言う。ロボであることも人を守ろうとすることもいいとは思うが、もう少し修理をする人のことを考えてほしいとは思う。
「でも、この『煉獄の牢』って不思議な所ね。どう、ラブ? あんたちょっと降りてみない? おもしろそうよ。
つうか、遊んでないで手伝いなさいよ。何のために連れて来たと思ってるの?」
「はぁ? じょーだん。何が悲しくて、あたしがあんな熱いところに下りなきゃならないのよ〜。
ハーティオンみたいな真面目バカはともかく、生身であんなとこに下りていくのはマゾよマゾ。この花の用に可憐なラブちゃんには無理な話よね〜♪」
辺りをふよふよ、と飛ぶラブ・リトル(らぶ・りとる)に鈿女が提案すれば、人によっては可愛く見えるし、人によってはマジウゼェと感じる仕草で返事が返ってくる。
「……あんたの今月の小遣い、マイナス30パーセント」
「はいはい、手伝いますってば! もう、鈿女はすぐお金に首突っ込んでくる!」
プンプンしながら、ラブが鈿女の所にやって来る。どうやら鈿女に財布事情を握られているようだ。
「ハーティオンが“見ている”映像から得た情報を、他のチームにも共有させて頂戴。これだけの敵がいるんですもの、必ず何かあるはずよ」
HCを渡されたラブが、不満気な顔を浮かべて言う。
「まったく、こんなの誰にだって出来るじゃん……」
「小遣い、マイナス50パーセント」
「ああもう! 分かったから、だからお金のことはもう言わないでってば〜!」
いつかギャフンと言わせてやると思いながら、ラブはHCの前に位置取り、情報を共有させようとする。
「さーて、何が出てくるやら……」
この後の展開を面白がるように見つめる鈿女、その映像の向こうでは――。
『エンド、私はここで、あなたのサポートに回ります。無理は禁物ですよ』
ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)の声が、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)とエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)の搭乗するシュヴァルツ・zweiの機器の一つから聞こえてくる。彼の本体は機器に接続されており、情報を共有している。
「ああ、分かっている、キース。
エルデネスト、ツヴァイ、この先に炎龍の存在を示唆するものがあるはずだ。行こう!」
「ええ、グラキエス様」(ああ、大層喜ばれている……とても素敵ですよ)
顔は見えずとも、声だけでグラキエスが喜んでいるのを悟ったエルデネストが魔道レーダーを注視し、『シュヴァルツ・zwei』から最も近いマグマフィーチャーを標的に定める。その定められたマグマフィーチャーに対し、グラキエスはレーザーバルカンを抜かせ、撃ち込む。
(あぁ、この感じ……久しく忘れていたものだ。
見たことのない場所、見たことのない存在……それらが俺にこの気持を思い出させてくれた)
自身を突き動かす高揚感に心地いいものを感じながら、グラキエスはレーザーバルカンによる牽制から『ビームサーベル』『ソードブレイカー』の二刀流スタイルへ切り替える。記憶は忘れてしまっても、機体を操作する手筈は覚えている。そのことに不思議は覚えたが、今は“彼”を、ツヴァイを自由に動かしてやれることがこの上なく嬉しかった。
「共に翔けよう、ツヴァイ!」
グラキエスの呼びかけに応えるように、『シュヴァルツ・zwei』が爆発的な加速でマグマフィーチャーの眼前に迫る。迎撃に放たれた溶岩を避け、飛んできた欠片をビームサーベルの一振りで全て薙ぎ払うと、跳躍しソードブレイカーの切っ先をマグマフィーチャーの眉間に突き入れる。悲鳴を上げる間もなくマグマフィーチャーはただの岩と化し、地面に転がり落ちていった。
『見事な腕前です、グラキエス様。……ん、これは……。
ロアから新たな情報がもたらされました、モニターに映します』
エルデネストの操作により、モニターにロアの発見したものが映し出される。それは燃え盛る炎を閉じ込めた水晶体だった。その周りをマグマフィーチャーが執拗に飛び交うことから、どうやらこの水晶体がこの場における重要品であることを悟る。
「敵は三体、流石に一機だけでは厳しいか……?」
増援は見られないものの、水晶体を守るマグマフィーチャーは三体。一体を最速で仕留めたとしても、残り二体に集中攻撃を受ければ無傷では済まない。万が一冷却装置に深刻なダメージがいけば、身体がこの場の高熱に耐えられないだろう。グラキエスが攻め込むのを躊躇っていると、二機から通信が寄越される。
『『ソーサルナイト?』は左のマグマフィーチャーを相手する。『シュヴァルツ・zwei』は右のマグマフィーチャーを、『グレート・ドラゴハーティオン』は中央を進み、真ん中のマグマフィーチャーと水晶体の破壊をやってもらえるか』
『了解だ、私に任せておけ!』
――そうだ、俺は一人ではない。共に戦う仲間がいる。……そのことに気付いたグラキエスが口元に笑みを浮かべ、通信に答える。
「こちら『シュヴァルツ・zwei』、了解した。
……エルデネスト、引き続き周囲の警戒を頼む」
『言われずとも、もちろん』
後方の警戒をエルデネストに任せ、グラキエスはただ前方のみに意識を集中させる。
「ごめんね、でもイルミンスールの異変を解決するため、私達も引けないの!」
クレアが『ソーサルナイト?』に魔法拳銃を抜かせ、放った弾丸はマグマフィーチャーの眉間を貫く。
「俺とツヴァイの動きに、付いてこれるか!」
『シュヴァルツ・zwei』の振るったビームサーベルに、マグマフィーチャーの首と胴体が切り離される。
「グレート勇心剣! 彗星! 一刀両断斬りーっ!」
そして、『グレート・ドラゴハーティオン』の一撃必殺技、『彗星・一刀両断斬り』が残る一体のマグマフィーチャーと、その後ろにあった水晶体を直撃する。激しい破壊音が辺りを揺るがし、水晶体の中で燃えていた炎が消えると、水晶は弾けて欠片となり、辺りの熱に溶けて消えていった。
「……終わったか。……ん、あれは……」
戦いを終え、一息ついた涼介は、水晶体のあった場所の上空から何かが降りてくるのを見つけ、その降りてきた球体を受け止める。
「凄い魔力だ……これこそがきっと、炎龍に繋がる『鍵』だろう」
こうして、【下層B】でも契約者達は『サークル炎塊』を手に入れたのであった。
First Previous |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
Next Last