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五精霊と守護龍~溶岩荒れ狂う『煉獄の牢』~

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五精霊と守護龍~溶岩荒れ狂う『煉獄の牢』~

リアクション

 咆哮をあげ、放たれたモンスターの極太ビーム砲を避け、私は地を蹴って跳躍する。無数の砲口が私に向けられた直後、横合いから魔穂香の魔銃が正確に、そして無慈悲に撃ち貫いていく。さっすが魔穂香!
「これで終わりにしてあげる!」
 常人では耐えられない加速Gも、私は物ともしない。あっという間にモンスターの真上に出た、モンスターは私を見失い、魔穂香に攻撃を加えようとしている。ふふっ、それがキミの命取りだよ……なんてね。
「いっけーーー!!」
 最大まで強化した剣を振りかぶって、私は渾身の一撃をモンスターの延髄に叩き込む。どんなに硬い装甲も、私の剣と技量の前には豆腐のようなもの。
「おやすみ……あ、レアアイテムはちゃんと落としてってね♪」
 剣を収め、微笑む私の前で、首と胴体が切り離されたモンスターが崩れ落ち、やがて消えていった――。

「わーん、また出なかったよー。もうこれで573回狩ってるのに、なんで1個も出ないの!? 設定おかしいんじゃない!?」
 グラディウスのコクピット内で、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がぶぅ、と頬を膨らませる。『煉獄の牢』突入前にも関わらず、美羽は端末からネットゲームにアクセスし、ログイン中だった馬口 魔穂香と一緒にモンスター狩りに勤しんでいた。
『甘いわ、美羽。『サン・ディザスター』は確率では、2000分の1よ。ちなみに私は2個持ってるけど』
「ちょ、魔穂香、おかしいってば! 何回狩ったの!?」
『3939回くらいかしらね。途中何度、「あぁ、この身体が機械になったら、24時間眠らずにプレイ出来るのに」って思ったことかしら』
「やっぱり魔穂香、恐ろしい子……! ねぇ、2個あるなら1個、譲ってよ〜」
『それは美羽のお願いでも無理だわ。この武器、最大まで強化して合成すると『サン・ディザスター+』になってMAX攻アップするの。……もし3個目が出たらその時は、あげてもいいけど』
「はぁ、やっぱりそうだよね〜。……あっ、ごめん魔穂香、そろそろ時間みたい! 付き合ってくれてありがと、今度はリアルでね!」
『うん、また』
 魔穂香とのボイスチャットを切り、ネットゲームからもログアウトして、美羽は『グラディウス』を戦闘状態へと移行させる。
『美羽さん、仲間の方から地図が転送されてきました。怪しげなポイントも発見されたそうです』
 同じく搭乗するベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が、美羽の目の前に地図を表示させる。『最優先調査ポイント』と指示された場所、そこまでの経路、中の様子を順に確認していく。
『調査ポイントには、『マグマフィーチャー』もいるかもしれない。美羽、気をつけて』
 ジェットドラゴンに乗って待機するコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)に「大丈夫だよ! 予行練習は済ませたし」と返して、美羽が操縦桿を握る。
「システム、オールグリーン! グラディウス、ゴーッ!」
 金色に輝く『グラディウス』が、真紅のマントをなびかせ『煉獄の牢』に侵入し、目的のポイントまで飛ぶ。その少し後ろを飛びながら、コハクは『何故この時期に炎龍が復活したのか』の理由を思案していた。
(直接話を聞くことが出来れば……そのためにも、『鍵』の回収は絶対、だね)
 既に中層部では、『サークル炎塊』なるものがいくつか発見されているという。どうやらそれが『炎龍』に繋がる鍵であるようだった。
(あ、名前も一緒に、聞くことが出来たらいいな。どんな名前かな……)
 考えていると、目的地であるポイントに到達する。そこは既に指摘されていた通り、異様な光景だった。
『浮遊する岩、下には溶岩の池……ここには一体何があるのでしょう』
 ベアトリーチェの声を耳にしながら、美羽はここには何かがある、と直感する。さっきは手に入れられなかったレアアイテムを、ここで手に入れよう、そう思いながら機体を進ませると、溶岩から複数の『マグマフィーチャー』が出現、道を塞ぐ。
「出てくるってことは、やっぱりここにはレアアイテムがあるんだね! 全部倒して、ゲットするよ!」
 両手にビームサーベルを持ち、『グラディウス』が空を翔ける。数多くの強化が為された機体は、装甲こそ貧弱であるもののその他の性能は第二世代機にも劣らない。加えて美羽とベアトリーチェ自身、凄腕の操縦技術を持っていた。
「さっき魔穂香と狩ったモンスターより、動きが遅いよ!」
 放たれる燃え盛る溶岩を軽く避け、機体を加速させサーベルをマグマフィーチャーの眉間を狙って繰り出す。避ける間もなく弱点を貫かれたマグマフィーチャーは活動を停止し、ただの岩となって溶岩の池に落ちていった。


(本来は私達が乱入者なわけだし、無益な殺生は避けるべきだけど……。
 でも、ここだけ数が多いってことは、ここにはきっと何かあるってことだよね。『炎龍』に会うためにも……ごめんっ!)
 心の中で『マグマフィーチャー』に謝罪の言葉を見舞った遠野 歌菜(とおの・かな)が、セタレを操りマグマフィーチャーと対峙する。飛んでくる溶岩、そこから生み出される小さな炎塊はマジックソードで打ち払い、本体が体当たりをしてくるのに合わせて氷の魔力を帯びた一対の刃を展開する。
(炎を使う相手なら、氷結攻撃が効くはず!)
 予想通り、振るわれた刃に裂かれたマグマフィーチャーは、傷の割にはその後の行動を大幅に減じていた。
(出来れば、この場から逃げてほしいな……)
 歌菜の望みは、しかし、一旦溶岩の池に飛び込んだマグマフィーチャーが、再び元の姿で襲い掛かって来たことで打ち砕かれる。彼らは完全に息の音を止めぬ限り、何度でも復活して立ちはだかってくるようだ。
「歌菜、辛いだろうが――」
 同じく搭乗する月崎 羽純(つきざき・はすみ)が言葉をかけようとして、歌菜の明るい声が響く。
「そこまでするってことは、やっぱりここに大事なものがあるんだね。私達がそれを手に入れれば、あなた達は諦めて帰るでしょう? なら、私達はその大事なものを手に入れてみせる!」
 ここにあるであろう『大事なもの』を手に入れるまでは、自身に向かってくるマグマフィーチャーに対しては決してトドメを刺さず、追い払うに留める。そんな意思を固めた歌菜に、羽純がフッ、と微笑む。
(歌菜がそう決めたのなら、俺は支えてやるだけだ。 ここには炎龍への手がかりがある、必ず見つけ出そう)
 羽純が戦場を眺める、マグマフィーチャーは今の所、多くとも2体で契約者と対峙している。マジックカノンによる砲撃は今は効果が薄い。ならば――。
「歌菜、俺達は仲間の支援に回るぞ。“歌姫”の歌をマグマフィーチャーにも聴かせるつもりで、歌ってこい」
「羽純くん……うん! 私、歌うね!」
 羽純に背中を押してもらった歌菜が、歌声を響かせる。その歌は同じく戦っているイコンの耐久力や活動力を回復させ、マグマフィーチャーに対してはその動きを鈍らせる効果をもたらす。
 決して一人ではない、仲間が入れば困難も乗り越えられる――そのことを伝えるべく、“歌姫”が戦場を翔ける――。


(下は溶岩……万が一引きずり込まれでもしたら、ひとたまりもないわね……。
 『マグマフィーチャー』は溶岩から半永久的に現れる、前方だけでなく下方も索敵を怠らないように)
 {ICN0004822#アウクトール・ジェイセル}に搭乗するキャロライン・エルヴィラ・ハンター(きゃろらいん・えるう゛ぃらはんたー)が、周囲の状況、敵対する『マグマフィーチャー』の特徴を鑑み、自身が為すべきことを素早くまとめ、行動に移す。
「トーマス、周囲の警戒はあたしに任せて。それと冷凍ビームのエネルギー消費が普通より激しい、使用は控えた方がいいかもしれないわ」
『了解。それだけ周囲が暑いということかしらね。ビームキャノンに切り替え、『ゼノガイスト』の援護をするわ』
 トーマス・ジェファーソン(とーます・じぇふぁーそん)の声が聞こえ、メインウェポンの表示が冷凍ビームからビームキャノンへと切り替わると、消費されるエネルギー量が緩やかになる。ついでにコクピット内の冷却も強化されて、キャロラインは額に浮かんだ汗をふぅ、と拭う。
(この機体は、トーマスが心血を注いでやっと完成させたもの。そう簡単に傷付けさせはしないわよ)
 計器がもたらす情報を注視していると、上方にひときわ強力な反応が察知される。
(大きい、敵!? ……いえ違う、これは魔力を蓄えた存在……これを守るために、マグマフィーチャーはあたし達を狙っている?)
 端末を素早く操作し、断片的な情報から一つの推測を導き出したキャロラインが、編成を組んでいるもう一機のイコン、『ゼノガイスト』へ通信を送る。
「こちら『アウクトール』、強力な魔力反応を確認したわ。そちらでも確認できる?」
『ええ、確認しています。正体を探るため、一度攻撃を仕掛けてみます。可能であれば援護をお願いします』
「了解、タイミングはそっちの動きに合わせる。気をつけてね」
 ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)との通信を終え、トーマスと行動予定を共有する。『ゼノガイスト』がマグマフィーチャーの突撃を避け、出現した強力な魔力反応を有する物体へ接近するのに合わせて、群がろうとするマグマフィーチャーへ射撃を行い、援護する。

(まるで道を塞ぐように群がる……それだけお前たちの後ろにあるものが重要なものだということか)
 ゼノガイストを目標の物体へ進ませる最中、数を増す『マグマフィーチャー』の挙動に柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が一つの推測を導き出す。視界でも確認した水晶体、中で燃え盛る炎を消す事が出来れば、ここでの戦闘は終結するはずだと。
(敵は強い……だが性能ではこちらが上。それに仲間もいる……やってみせるさ)
 第一目標を灼熱の水晶体に定め、ヴェルリアへ『アウクトール』に砲撃支援を要請するよう指示する。自身がマグマフィーチャーを引き付け、視認範囲外からの砲撃で大多数を殲滅、その隙に水晶体へ飛び込み大出力のビームサーベルで一刀両断、という手筈だった。
『了解しました。真司の立てた作戦を元に、『アウクトール』へ支援要請を送ります』
「頼む。……さて、暫くの間、付き合ってもらうぞ」
 操縦桿に力を込め、真司が『ゼノガイスト』を翔けさせる。天御柱学院の第二世代イコン、強化された機動力を存分に駆使した挙動に、マグマフィーチャーは付いて行くことが出来ない。滅茶苦茶に岩を吐き偶然のヒットを狙うが、それは逆にマグマフィーチャーの統制を混乱させる結果となる。
『『アウクトール』より砲撃、来ます。3、2、1……着弾、今!』
 ヴェルリアの声の後、確認された四条の砲線。それはマグマフィーチャーの大多数を活動不能へと追い込み、ただの岩となった彼らは続々と溶岩の池へと落下していく。暫くすれば彼らはまた溶岩から飛び出て契約者に立ちはだかるだろうが、その機会はこの場ではもう与えられなかった。
「この隙に、飛び込む!」
 端末を操作すれば、『ゼノガイスト』の周囲にバリアが展開され、元々高い機動力がさらに強化される。その勢いのままに、水晶体へ近付いた『ゼノガイスト』が一点へ体当たりを敢行する。凄まじい衝撃音が響き、水晶体の一箇所にヒビが入った。
「その開いた穴へ、最大出力、撃ち込む!」
 抜き放ったビームサーベルに限界までのエネルギーが注ぎ込まれると、機体ほどの大きさにまで膨れ上がる。ともすれば制御を失ってしまいかねないアンバランスな状態を制御しきり、真司は巨大サーベルを水晶体へぶつける。激しい火花が散り、何かが削れるような音がしばらく響いたかと思うと、やがて水晶体の中で燃え盛っていた炎がフッ、と消え、直後水晶体が盛大な音と共に砕け散る。
『周囲のマグマフィーチャー、活動を停止。落下していきます』
 ヴェルリアの報告通り、周囲で契約者と対峙していたマグマフィーチャーはそのすべてが活動を停止、溶岩の池も熱量の供給を絶たれたか、落ちてくる岩に埋め立てられる形になる。
「とりあえず、この場の安全は確保出来たか……。ん、あれは……」
 ふぅ、と一息ついた真司は、上空から降ってくる新たな燃え盛る球体に再び警戒の姿勢を取る。しかしそれ以上の異変はなく、ちょうど人の頭くらいの大きさのそれはこの場で戦っていたイコンを照らすように、煌々と燃え盛っていた。

 こうして、【下層A】では中層部で見つかったよりも強力な反応を示す『サークル炎塊』を手に入れたのであった。