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リアクション
――ルイ・フリード家にて――
「我輩は〜♪ 一人で〜♪ お留守番〜♪
……ハッ! まさか我輩……忘れられてる!?」
驚愕の事実に気付いたノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)。頭を抱えたくてもオーバーホール中で手足がないので抱えられない。
「桜華殿〜いつになったら我輩の手足を繋げてくれるのであるか〜……」
整備を担当していた深澄 桜華(みすみ・おうか)に訴えかけるも、彼女はルイ・フリード(るい・ふりーど)とシュリュズベリィ著 セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)と共に、『煉獄の牢』の調査に向かっている。
「それにしても暇なのである。そろそろ動きたいのであるよ」
緊縛プレイ妄想も飽きてきたので、ノールは退屈で仕方なかった。ゴロゴロゴロゴロ、と部屋の中を三周ほど回った所で、ピコーン! と閃くものがあった。
「こ、これはもしかして……放置プレイ!?
あぁ……なんだか我輩、興奮してきたっ」
頬を紅く染め、ふるふる、と身悶えするノール。どうやら放置プレイ妄想という新たな暇つぶしのネタを手に入れたようである。
「とりあえず、今の気分を電波にしてルイ殿等に送るのである。
〜〜〜【放置プレイに興奮なう】〜〜〜」
「ああっ、何でしょうこの寒気……! 冷気効かせ過ぎ? いやいやそんなものではない、もっとおぞましい何かが……!」
「むむ、同感じゃセラ。わしは暑い所が苦手じゃが、このような形で冷えとうないぞ」
【中層C】を調査していたセラと桜華が、謎のナニカの影響を受けて身体を震わせる。これほど離れた相手を気味悪がらせるノールは、流石という他ない。
「? セラ、桜華、どうしましたか?」
一人、ノールの電波の影響を受けていないルイが、全身から噴き出す汗を煌めかせて二人を気遣う。
「……あー、暑くなってきました。感謝するか迷惑がるか、微妙な所ですね」
「うぅ、早く帰ってひんやりとした美味い酒が飲みたい……。
しかしこの異変を放っておくわけにもいかんしのぅ。万が一家に異変が及べば安心して酔えん」
「そんな理由でですか……実に桜華ちゃんらしいですね。
セラとしても、暑すぎるのは食料の痛みが早くなりますし、それを見かねたルイがまた一人で買い物に行きかねませんから、なんとかしないといけません。聞いた話では『炎龍』が原因のようですし、話をして熱波の影響範囲をこの『煉獄の牢』周囲に限定してもらえるようにしませんと」
「……あぁ、何故でしょう、目からしょっぱい汗が流れてきます」
ルイが腕で目を拭う、実はそれはノールの『電波まで飛ばしたのに自分の存在に気付いてもらえなくて、放置プレイ感極まって我輩もう嬉し涙』の影響を受けたから……とかなんとか。
「そうです、炎龍さんです。まずは彼に会って話、が第一ですね。
……おや、あちらに見えるは結和さんとエメリヤンさん。彼らもここを調査していたのですね」
見知った顔を見つけ、ルイ一行が高峰 結和(たかみね・ゆうわ)とエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)の下へ近付いていく。
「あっ、ルイさん、皆さん、お疲れさまです。
私ですか? えっと、ここに文字が書かれていたので、それの解読を試みていたのですけど……。
ダメですね、私まだまだ勉強不足です」
気落ちしたように呟く結和の示す先には、確かに文字のようなものが刻まれていた。古代文字のように見えなくもないが、所々掠れていて全貌を掴むのは難しかった。
「うーむ、わしも見覚えがないのぅ。セラはどうじゃ?」
「私も記憶にありませんが……ちょっと、気になるんですよね。こう、魔力の流れが滞っているような感じがして」
セラが進み出、文字の刻まれた壁に手を触れる。ぼんやりと文字の周りが光ったかと思うと、生き物がうごめくように文字が形を変え、それまでとは別の文字を形成していく。滞っていた魔力の流れを解いてやったことで、新たな文字が浮かび上がった。
「わ、凄い……! あれ、この文字、どこかで見たことが……」
素直に驚いていた結和の脳裏に、先程端末で調べていた時に見た文字が過ぎる。あの文字と今浮かび上がった文字は同じではないか……そう思いながら端末を開き、再検索を試みれば、ビンゴとばかりに解読が為されていった。
「やりました、解読成功です! えっと……『この先に進みたくば、力を見せよ』だそうです」
結和の言葉を聞いて、一行がしばし考えた後、ルイ以外の皆がルイに視線を向ける。
「えっと……何故皆さん、私を見てるんです?」
「いやー、どう考えても、適任はおぬしだと思うてな。ほれ見てみぃ、仕掛けの方もいかにもではないか」
桜華が指差す、文字の刻まれた部分の横、壁の一部が盛り上がっていた。どうやら殴れ、ということらしい。
「なるほど、これは確かに……。分かりました、私の成果をお見せしましょう」
皆に離れているように告げ、ルイが壁の前で構えを取る。大きな音で結和を怖がらせない様にと、エメリヤンが自分のマフラーを結和に巻く。
「あ、暑いんだけどっ」
そう口にしつつも、エメリヤンが何を思っているのかは分かっていたので、解くことはしなかった。
「チェストォォォ!!」
直後、ルイが正拳突きを壁に見舞い、一行が震動に見舞われる中、押し込まれた壁は奥へ滑り、何かが開くような音を残して消えた。
「奥に空間が見えますね。誰が向かいますか?」
セラの言葉の後、罠のことを考えて桜華とセラが先に入り、調べ物が必要な時のために結和が続くことに決定する。エメリヤンも付いて行きたがったが、彼の体型では出来た道を進むのは厳しそうであった。もちろんルイはお留守番だ。
「…………」
「大丈夫です、セラさん達がいますし、何かあったら一目散に逃げてきますから」
心配するエメリヤンにそう告げて、先行したセラと桜華を追い、結和は道へ入る。頭をぶつけないように進んだ先、人数人が入れそうなくらいの広さの空間に出た結和を、セラと桜華が出迎える。
「見るのじゃ、あの燃え盛る球体、あれは重要なアイテムと見るぞ」
「……そうですね、魔力の流れ的にどこかへ繋がっている感覚がします。おそらくは『炎龍』……でしょうか」
その後は三人で協力し、そして燃え盛る球体、『サークル炎塊』を手に入れることに成功する。
【中層C】でも、契約者たちは『サークル炎塊』を2つ手に入れることが出来たのであった。
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