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リアクション
中層Bの調査も終盤に差し掛かり、残るはこの空間のみという所まで来た一行は、気を引き締めて入口から中へと入る。
「む、あれは……」
サラが示した先、柱のようになった岩の上、球体上の燃え盛る炎が据えられていた。
「……炎龍と近い魔力の波動を感じる。推測だが、あの球体は炎龍に通ずる『鍵』の可能性がある」
「そう。炎龍のことならあなたが最も知ってるでしょうから、概ね間違い無いわね。
さて、どうやってあそこまで行ったものかしらね」
サラの隣に立ったカヤノが呟く。今一行が立つ場所から球体までは、僅かな足場があるばかり。おまけに足場の多くには獣が見える。今は大半が眠っているようだが、近付けば起き出してくるかもしれない。
「……あたしが行く。行かせてください、サラさん」
進み出た雲雀が、決意を秘めた眼差しでサラを見つめる。その強い意志に動かされ、サラが首を縦に振る。
「分かった。だが決して無理はするな」
「俺も行く、危険な目には遭わせねぇから、ここで帰りを待っていてくれ」
サラマンディアを後ろに乗せ、雲雀はゆっくりと箒で球体へ近付く。
(落ち着け……殺気を出すな、平常心で行け)
心の中で強く念じながら、球体に少しずつ近付いていく。
「よし、ここまでくりゃ、後は俺が行く。雲雀、獣達が起き出す前に離脱しろ」
サラマンディアが羽を広げ、球体へ飛ぶ。雲雀が獣達から離れるルートで帰還する間に、サラマンディアは両手ほどの大きさの燃え盛る球体を包み込むようにして一行の元へ戻って来る。
「雲雀、サラマンディア、よくやった」
「ふー……よかった、気付かれなくて。ありがとう、サラさん。
サラマンディア、それ、どんな感じだ?」
尋ねる雲雀に、サラマンディアが感嘆の意を隠さない表情で答える。
「すげえ力だ……確かに、炎龍の力ってやつを感じるぜ」
ほれ、と差し出された球体へ、雲雀が手をかざす。それだけでも熱が感じられ、微かに命の脈動のようなものも感じられた。
その後球体は『サークル炎塊』と名が付けられ、炎龍に繋がる『鍵』として情報の共有が行われた――。
彼らが『サークル炎塊』に辿り着いた、それとは別の場所でも炎龍に繋がる『鍵』が発見されようとしていた。
「こうして調査を行なっていると、『雷龍』『氷龍』の時のことを思い出しますね」
「ええ、そうですわね、お姉さま。
……お姉さま、これはわたくしの推測ですけれど……精霊様の属性のうち氷結・雷電の龍が確認されて、次は炎熱……となりますと、必然的に光輝・闇黒の龍もいらっしゃるのではないかしら。セイラン様とケイオース様は特に言及されませんでしたけど、おそらくお二方も感づいていて、お気になされていると思いますわ」
ティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)の考えに、沢渡 真言(さわたり・まこと)も同意を示す。
「その可能性は十分に考えられますね。明らかにするためにも、まずは『炎龍』との遭遇を果たさなければ」
真言の言葉にティティナが頷いて、そして二人は【中層B】を進む。同じ区画にどうやら集団のグループが調査を行なっているようで、見る見る調査済みの区画が広がっていくのが分かった。
「ティー、あの細い道を進んでみましょう」
予め道の先に危険がないのを確認した上で、真言が先頭、ティティナがその後ろを付いて細い道へ入っていく。大規模グループが比較的広い場所を調査しているのなら、少人数である自分達は狭い場所を調査した方が、漏れが少なく済むはずとの判断からだった。
(炎龍が今現在どのような状態なのか確認し、必要であれば対策を講じないといけませんね。異常な自然災害を防ぐためにも。
……世界樹イルミンスールが不調という話も耳にしましたし、炎龍との接触でそれら原因が明らかになると良いのですが――)
思考していた真言の足が、ある場所でピタ、と止まる。
「どうされましたか、お姉さま?」
突然止まった真言を気遣うティティナへ振り返った後、漂わせていた光を放つ妖精を自分が“感じ取った”場所へ向ける。ただ歩いているだけでは気付かなかったかもしれない、照らされた箇所だけ他の壁と違い、うっすらと紅く明滅していた。
「ティー、何か感じませんか?」
「…………、微かですが、魔力の流れを感じます。魔力を送り込んでみましょうか」
「お願いします。周囲の警戒は私が」
襲撃に備え、懐に忍ばせた蜘蛛糸をいつでも展開出来るように準備した真言の前で、ティティナが淡く光る箇所へ魔力を送り込む。ぼんやりと光り、浮き上がった髪から光が消え、ティティナがふぅ、と息をつくと、突然震動が二人を襲う。
「ティー、こちらへ!」
「は、はいっ」
ティティナを引き寄せ、自らが盾となるように真言が立ち、震動の収まるのを待つ。
「……収まったようですわね。お姉さま、お怪我などございませんか?」
「ええ、大丈夫。……見て、ティー。新しい道が出来ています」
真言が示した先、確かにこれまで見たことのない道が出来ていた。おそらくこの先には何かがある、期待と不安とを一緒にしながら進んだ先には、燃え盛る球体が岩の上に据えられていた。
「っ……凄い熱。触れるのは危険ですね」
離れていても感じる熱量に、おそらく高熱を発しており触るのは難しいと判断する。
「同じ場所にサラ様がいらっしゃいます、そこまで持っていければよいのでしょう?
お姉さま、わたくしがやってみます」
ティティナが進み出、ハープのような楽器を取り出し奏でれば、球体から発される熱量が徐々に抑えられていく。
「…………、大丈夫、熱くない」
やがて球体を掴んだ真言は、手からほんのりと伝わる熱さにこれは、炎龍に繋がる『鍵』であろうと推測する。
そうして、【中層B】では『サークル炎塊』を2つ、手に入れることが出来たのだった。
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