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五精霊と守護龍~溶岩荒れ狂う『煉獄の牢』~

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五精霊と守護龍~溶岩荒れ狂う『煉獄の牢』~

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●『煉獄の牢』中層部:中層B

 中層部にて確認された3つの穴、その内の1つの穴(今は便宜上、『中層B』と呼ばれている)の奥を、及川 翠(おいかわ・みどり)とパートナー達が進む。
「れんごくのろうとか、えんりゅうとかよく分からないけど、あっちこっち探検すればいいんだよね?
 ……でもでも、なぁんかいっぱい、動物さんの気配がするの!」
 感覚を研ぎ澄ませることによって生じた頭の耳が、ぴこぴこ、と反応する。同じく感覚を鋭敏に働かせていた徳永 瑠璃(とくなが・るり)も、多数の動物の気配を察知していた。
「出来れば、傷付けずに済ませたいですね。眠らせるなどして無力化を図れないでしょうか」
「やってみる価値はぁ〜、あると思いますよぉ〜。歌を歌って落ち着かせるのはどうでしょう〜」
 スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)がのんびりとした口調で提案をした矢先、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)が何かを感じ取ったのか立ち止まり、後ろの一行に告げる。
「感じるわ……この道の向こうに、『もふもふ』がいるっ!」
 ピッ、と、何も居ないように見える通路の先を指差すミリア。これがミリア以外なら疑ったかもしれないが、ミリアの『もふもふ』を見つけ出す能力は他の誰にも劣らない。そのミリアがもふもふの存在を感知したのだから、必ず居るのだ。
「でもぉ、あまり穏やかではないみたいですねぇ」
「そうですね。警戒しているようにも感じます。多分、私たちのことをなわばりを荒らしに来たとでも思っているのでしょうか」
 スノゥと瑠璃が相次いで発言した矢先、道の向こうに獣のただならぬ気配を感じて一行は立ち止まる。外見上はもふもふした毛並みを持ちながら、表情や全身から殺気をみなぎらせる獣達が複数、目の前に現れた。
「戦いに来たわけでも、なわばりを荒らしに来たわけでもないの!
 ちょっとここを探検させてほしいだけなの!」
 まずは翠が呼びかけてみるも、獣達は聞く耳持たず、一行の行先を阻んでいる。このままでは翠達のみならず、他の契約者の調査にも支障をきたしかねない。
「歌いましょう〜。歌えばきっと、お話を聞いてくれますぅ」
「そうね、みんなで歌いましょう!」
「えっと、上手く歌えるか分からないけど、やってみます」
 スノゥとミリア、瑠璃が翠に並んで立ち、心に幸福を呼び起こす歌を歌い始める。その歌の力に、殺気をたぎらせていた獣達は前から順に大人しくなっていき、中には近付いた翠達に身を寄せて甘えるものも居た。
「もふもふだわ〜♪」
 ミリアがもふもふな獣を愛で、他の者達もスリスリ、と甘えてくる獣達を撫でてやったりする。
「この子たちはぁ、ここに居て平気なんでしょうかぁ?」
「……動物さんから、ほんのちょっとですけど、力を感じます。多分、炎龍さんが動物さんを守っているんじゃないでしょうか」
 何者かの加護の力を感じ取ったらしい瑠璃が、想像を口にする。魔法薬を飲まないでこうして平然としていられるということが、想像を確からしくさせていた。
「あはは、くすぐったいの! よかったらみんなも一緒に探検するの!」
 ぺろ、と顔を舐められて笑いながら、翠は動物たちを従え、穴の奥へと進もうとする。
「あっ、こら! 翠、一人で行かないの!」
「ま、待ってください翠さん、ミリアさん」
「待ってくださいですぅ」
 パートナーが後に続き、そして一行は出会った獣達をなだめ、時には連れて行きながら調査を続ける――。


「そう言えば……私が覚えている限りでは『ヴァズデル』『メイルーン』の時には『指輪』が鍵を握っていて、それぞれレライアやサティナが抑えているような状態で復活した訳だけど、今回はその指輪を所持しているサラがここに居るって事は、現時点で炎龍に対してその役目をする存在が居ないってことじゃない?」
 道中、十六夜 泡(いざよい・うたかた)が投げかけた質問に、サラ・ヴォルテール(さら・う゛ぉるてーる)は複雑な表情を浮かべて答える。
「そういうことになってしまうな。私の持つリングも、この『煉獄の牢』が出現した時点で多少の反応はあったが、それ以降はだんまりだ。ヴァズデルやメイルーンの時とは反応が異なる……何かが違っている、そのことが気がかりなのだ」
 自分の言葉を認められた泡は、では、今炎龍は実質野放しで放置されている状態なのかとさらに問う。
「今は、自由に動き回れる状態ではないように思う。だがいずれは動けるようになり、その時には一切の制御が利いていないことになってしまう。だからこそ私達が赴き、復活を促しつつも意思疎通を図り、制御を行えるようにする必要があると判断したのだ」
「なるほどね、事情は理解したわ。サラ、実際に炎龍を見たことはあるの?」
「私が記憶している限りの炎龍は、そうだな……火山のようにどっしりと構えつつも滾る力を持ち、言葉少なながらも一言一言に重さを持っていた。……だがそれも、今この地に眠っている炎龍と一致するかどうかは定かで無い。ここ最近になって、我々の共有する記憶と現実とが、一致しない事態がしばしば確認されているからな。我々の記憶違い、で済んでしまえばまだいいのだが……」
「それって……本当はこうだったはずのものが、別のもので出てくることがある、ってこと?」
 泡の推測に、サラがそう取ってもらって構わない、と答える。

「ったく、何が「気合いで頑張れ」よ。そんなんでどうにかなったら苦労しないわ」
 ぷんぷん、と頬を膨らませながら、カヤノ・アシュリング(かやの・あしゅりんぐ)レライア・クリスタリア(れらいあ・くりすたりあ)と共に穴の奥を進む。
「それでもどうにかしようとするのがカヤノですよね。そんなに薬飲んで大丈夫なの?」
 アーデルハイトからありったけの魔力増強薬を貰い、ヤケ酒とばかりに飲み干したことでカヤノはアダルトヴァージョンに変身しても十分な魔力を手に入れていた。
「ええ、大丈夫よ。この格好でいないと魔力が暴走して大変なことになるけど」
「それって大丈夫って言うのかしら……。
 あっ、そうそう。カヤノに聞きたいことがあったの。ねえ、わたしも十分な魔力を得たら、カヤノのように大きくなれると思う?」
 レライアの質問に、カヤノは目を丸くして驚きつつ、腕を組んでうーん、と考える。
「出来ると思うわよ。でもレラ、ここでやったらすぐにバテるからやめた方がいいんじゃない?」
「ええ、分かってる。でも出来るって分かったら、ちょっとだけでも試してみたいって思わない?」
 ふふ、と微笑むレライアに、カヤノも呆れつつも同意の頷きを漏らす。
「じゃあ、これをあげるから、試してみなさい」
「って、まだ持ってたの?」
 差し出された魔力増強薬を、レライアは苦笑しながら受け取り、こくこく、と飲み干す。
「最初はあたしがフォローしてあげるわ。成長した姿を思い浮かべながら、ばばーん! ってやっちゃいなさい!」
 なんとも抽象的な説明に苦笑して、レライアは自分が成長した姿を思い浮かべ、魔力を解放する。
「……ふぅ。どう、かしら?」
 閉じていた目を開け、尋ねる。纏っていたヴェールが腰のやや上辺りまで伸び、目の前に立っていたカヤノの顔が、先程は見上げていたのが今ではそのままの位置でも見ることが出来た。
「まだ最初だから、8割くらいって所かしらね。あたしより背が低いもの。
 ……あ、でも10割発揮したらあたしより背が高くなるのよね……! レラ、そのままでいなさい」
「あら、じゃあ頑張らないといけませんね♪」
 くー、と地団駄を踏むカヤノと、ふふ、と微笑むレライア。かつての『姉妹』は今でも、その面影を残しているようだった。


 ――『煉獄の牢』突入前、ベースキャンプにて――

「ほー、ここが『煉獄の牢』か! いいぜ、この熱気! 自然と気合いが入るってもんだぜ!」
 決して冷えることのない溶岩の奥に見える『煉獄の牢』の入口を前に、サラマンディア・ヴォルテール(さらまんでぃあ・う゛ぉるてーる)が背中の炎の羽を一際大きく羽ばたかせ、上機嫌といった様子で土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)へ向き直る。
「その……なんだ。ごめんな、サラマンディア。
 もう一度、精霊の人達やイナテミスに関わる事があったら……ずっと、謝りたいって思ってた。サラマンディアはあたしがザナドゥにいた間もずっと、イナテミスの事、心配だったよな」
 振り返ってすぐにかけられた謝罪の言葉に、サラマンディアは目を開いて驚いた様子を見せたかと思うと、ハッ、と一息吐いて話し出す。
「まあそりゃな? 気にならねえわきゃ無えよ? 俺だってヴォルテールの精霊だしな。
 だけどよ、そこまでぐだぐだしょぼくれてまで謝って欲しいとも思わねえ。らしくねえ真似すんな! 俺のパートナーなら謝る時も堂々としてろってんだ!」
「なっ……なんだよそれ、堂々と謝れっておかしいだろ」
 反論を口にしつつも、雲雀はあぁ、いかにもサラマンディアが言いそうなことだと思っていた。それに謝られる側に立って考えてみれば、自分の謝り方はモヤっとさせるものだったかもしれない。過去に自分がしたことは謝った所で無くならないのだから、せめて次に続くような態度を取ることも、一つの方法としてはアリかもしれない。
「……分かったよ。サラさん達にも謝ってくるつもりだけど、その時は堂々としてる」
「別に謝る必要なんてねぇと思うけどな。ま、おまえがそうしたいならしてこい。
 引きずったまま中に入って、ヘマでもされたら俺が大変だからな!」
「迷惑かけるほど腐ってるつもりもねぇよ!」
 冗談を飛ばすサラマンディアへ返して、雲雀は今回の調査に同行している精霊長達の元へ向かう。
「……ごめんなさい! 自分が行動を共にする権利なんてないのかもしれないけど、でも、もう一度協力させてほしいんだ」
 そうして放たれた謝罪の言葉を受けたサラとカヤノ、セリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)は互いに顔を見合わせ、三者三様の笑顔で迎える。
「あなたにはあなたなりの事情があったのだろう。私はあなたがここに来て、力を貸してくれることを嬉しく思うぞ」
「そうね。何やらかしたか知らないけど、失敗したなら取り返せばいいんじゃない? あたいだってそうしてきたつもりだし」
「雲雀さん、私達と一緒に頑張りましょう」
 優しい言葉をかけられ、雲雀は込み上げてくるものを感じながら、力強く頷いた――。