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星影さやかな夜に 第一回

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星影さやかな夜に 第一回
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リアクション

 歌菜と羽純が金髪の男を連れて、人目の少ない安全な場所に移動した頃。
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は二体のクリスタルゴーレムと共に捜索を続けていた。

(ふぅ、捜索も楽ではありませんね。全く見つかりませんわ。
 他の隊員から送られてきた情報では、彦星明人とリュカはこちらに向かったようですけど……)

 エリシアは《籠手型HC弐式》に取り込んだ二人の情報に目をやる。
 観光名所のここには他の場所と同様に人が多い。外見的に特に目立った特徴のない二人を探し出すことは困難だ。
 それにエリシアは一人。パートナーの御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は仕事のためここにはいない。
 特別警備部隊のメンバー募集にたまたま気が向いて、単独でやってきのだった。

(陽太がいれば、もっと捗るものですのに――)

 エリシアは脳裏をよぎった考えを追い払うために、首を横に振る。

(……何を弱気になっているのですか、わたくしは。らしくないにもほどがありますわ)

 エリシアはそう思うと、<召喚者の知識>をフル活用して辺りをくまなく探す。
 情報が少ない手前、しらみ潰しに探すしかない。目を更にして鈴蘭畑の遊歩道を見回していると――。

「……っ!」

 一人の男を見つけ、言葉を失った。
 そいつは服装や外見は普通で、ただの身長の高い一般人のようだが、違う。

(……なんですの、あの男は!?)

 エリシアには分かる。
 <ディテクトエビル>で。<殺気看破>で。<イナンナの加護>で。
 人間の許容量を超えたかのような殺意、邪念。エリシアの全ての感覚が本能に危険を警鐘する。

「すぐに、他の皆さんに連絡をしなくては……!」

 エリシアは《籠手型HC弐式》のボタンを操作する。
 しかし、その男はエリシアが他の隊員に連絡するよりも先に――。

「……っくは」

 やっと見つけた、という笑みを浮かべる。
 そして、弾丸のような速度で音もなく駆け出した。

 ――――――――――

 遊歩道から少し離れた場所。
 人気の少ないその場所で、金髪の男の尋問が行われていた。

「……いい? 話さなければ、どうなるか分かっているよね?」
「ひっ」

 歌菜の<威圧>による尋問は、金髪の男に効果覿面だった。
 それに加えて、武器を持った大勢の者達に囲まれていることで、彼は怯えた表情を浮かべる。

「まず、一つ。おぬしはこの場所であの二人を見たか?」

 甚五郎のドスの利いた声の質問に、男は顔を歪めて答える。

「み、見てねぇ! 俺たちも探してる途中だったんだ!」
「……本当か?」
「ほ、本当だよ!」

 金髪の男の焦った声から察するに本音だろう。
 次に、歌菜が問いかける。

「彦星明人さんについての情報はどこまで知ってるの?」
「あ、あの獣人と共に行動しているガキ程度しか知らねぇ!
 ボスには殺してもいいって命令を受けてる!」
「……じゃあ次の質問。
 コルッテロの現在の活動状況を教えてくれる?」
「お、俺が知ってる限りでは、あの二人の捜索にほとんどの奴が当たってる!
 出来るだけカーニバルに影響を与えたくないから、戦闘は目立たないようにやれって言われた! 指揮をとってんのはコルニクスって幹部だ!」

 歌菜は金髪の男の答えを聞いて、逐一《銃型HC》で他の隊員に報告する。

「じゃあ、最後。
 特別警備部隊について、どんな情報を持っているの?」
「こ、構成するメンバーの名前と顔以外はなにも知らねぇ!
 あとはカーニバルの警備を任された奴らって程度だ!」

 歌菜はそこまで質問すると、アルマに目をやった。

「他に質問ある? アルマさん」
「いいや、なにも」
「そう。
 それじゃあ、この人を警備部隊の本部へ連行しようか。まだ聞き出せる情報があるかもしれないし」
「うん、意義はない」

 歌菜の提案に、アルマは頷く。
 そして、歌菜は怯える金髪の男に一歩近づいて。

「――べらべら喋ンなよ」

 その瞬間。
 男の背後に、人影が現れた。

「これだから弱い奴は嫌なんだよ」

 人影は、男の胸を貫く。
 その<黒縄地獄>の一撃は、心臓を掴み取り、外へと抜き出した。

「……え?」

 歌菜の目の前で、鷲掴みにされた心臓がとくんとくんと鼓動する。
 突然の光景に、全員の思考が止まり――。

「皆さん。なにぼけっとしているんですの――!」

 遅れてやってきたエリシアの恫喝が響きわたった。
 と、共に全員の停止した思考が動き出す。

「歌菜、こっちに来い!」

 羽純は歌菜の腕を思い切り引き、抱きしめるように庇う。
 すかさず、開けたスペースにエリシアが<真空波>を放つ。

「いい攻撃だ。けどな」

 突然現れた男――ベリタス・ディメントは貫いた男の死体で迫り来る<真空波>を防御。
 切り刻まれた金髪の男の血と肉片と内臓が飛び散り、ベリタスの顔を汚す。

「俺には届かねぇ」

 ベリタスは邪悪に笑いつつ、体勢を整えるためにバックステップ。

「させるか!」

 しかし、アルマはそれを見越して、マスケット銃の狙いを顔に定め、発砲。
 ベリタスは強襲してくる銃弾を視認して、大口を開け――。
 ぎちんっ。

「なっ!?」

 アルマが驚愕で声をあげた。
 ベリタスは銃弾を前歯と犬歯で噛んで止めたのだ。
 彼は銃弾を噛み砕き、残骸を吐き出して、舌を出して笑う。

「危ねぇあぶねぇ。もうちょっとで口内を蹂躙されるとこだったじゃねぇか」

 その舌には業火の紋章。それはゲヘナフレイムの証。
 ベリタスは切り刻まれた男を見下ろしながら、呟いた。

「いやいや、よかったぜ。
 念のために<禁猟区>で造ったピアスを渡しておいて。でなきゃ、おまえらを見つけることは出来なかったかんなぁ」

 ベリタスは服についた血と汚物を払う。
 アルマはマスケット銃を構えながら、問いかけた。

「……あんたは、殺した仲間に対してなにか言うことはないの?」
「はぁ? 仲間? おまえは何言ってんだ?」
「……ないのか?」

 ベリタスはゲラゲラと笑う。

「こいつらは仲間なんかじゃねぇよ。
 ただ目的が一緒なだけだ。俺の仲間はゲヘナフレイムの奴らだけだ。頭が大丈、」
「――ぐちゃぐちゃ言ってねぇでないのかっつってんだよ、このクソ外道が!!」

 アルマの怒号に、ベリタスの笑いが止まった。
 そして、冷たい瞳でアルマをただ見つめ、殺意のこもった声で言った。

「おまえ、誰に向かって口聞いてんだ?」
「目の前のあわれな男によ」
「……名乗れよ、女。そのうるせぇ声を潰して、手足も削いで、両目も壊してやるからよ」
「お断りよ。あんたみたいな外道に語る名前は持ち合わせてないわ」
「ハッ、そうかい――」

 ベリタスの瞳に、赤い狂熱が宿る。
 そして、地を蹴り、獣のような荒々しさで契約者達に向かっていた。

「雑魚共がァ!
 叫べ、祈れ、請え、泣け――俺と出会った不幸を恨めッ!」