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リアクション
同時刻。
自由都市プレッシオ、どこかの建物の見晴らしの良い屋上。
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は《機晶スナイパーライフル》で倍率スコープ越しにマイトを見ていた。
「……ヴィータ」
吹雪はスコープから目を離し、隣に座るヴィータを見る。
彼女は屋上の縁に腰掛けて、両足をパタパタと中空で動かしていた。
「ん? どしたの、吹雪ちゃん」
「あなたをのことを調べる人達が現れましたね、面白いことになりそうです」
「えー、マジ? めんどくさいなぁ。……あっ、ちょっと、コルセアちゃん」
ヴィータはコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)を手招きした。
それは彼女が《双眼鏡『NOZOKI』》で、吹雪のサポートとして街を観察していたからだ。
「……はい。なんですか?」
「んー、その双眼鏡貸してちょうだい」
ヴィータにそう頼まれ、コルセアは双眼鏡を渡す。
ヴィータはお礼を言ってから受け取り、「おー、見える見える」と楽しそうに感想を洩らし、自分を調べているという者を探す。
「おっ、いたいた――げっ、あいつあの時の黒髪ショート! しかもあっちにはあの時の刑事がいるじゃない!」
ヴィータはそう感想を洩らし、双眼鏡を目から離す。
「わー、ここまで追いかけてきたんだ。わたしって罪なお・ん・なー♪」
ヴィータは嬉しそうにそう言うと、コルセアに双眼鏡を返した。
吹雪がヴィータに提案する。
「狙撃しましょうか? ここからなら、外さずに狙撃できますが」
「んー? 別にしなくてもいいわよ。
あの構成員は尋問したところで、わたしに関する情報はなんにももっていないし。それに」
ヴィータはふんふーんと鼻歌を歌いながら続ける。
「わたしは別に見つかってもいいのよねー。ただ、今日は忙しいからお相手は出来ないけど」
彼女はそう言うと、腰を上げ立ち上がる。
そして、吹雪をじーと見つめると、問いかけた。
「そういえば、なんで吹雪ちゃんはわたしに協力してくれるの?
いきなり、あなたに協力します! なんていわれてびっくりしちゃったけど」
吹雪は言葉が詰まる。それは答えてもいいのか、どうか迷っているという様子だ。
「どんな理由でも怒んないからお姉さんに言ってみ? 裏切るようだったらここで殺すけど」
ヴィータはにっこりと笑うが、その目は笑っていない。まるで、相手を見透かすような目をしていた。
嘘をついてもバレる。そう直感で感じた吹雪は、おずおずと自分の協力している理由を正直に話し始めた。
「それは、その……ヴィータの禁忌魔法に憧れまして」
「禁忌魔法? ……ああ、『世界の異物』のことね」
「はい。あの禁忌魔法が使えれば、自分の夢もきっと……」
吹雪はそこまで言うと、押し黙った。夢が何なのかは誰にも教えたくないのだろう。
ただ、ヴィータは目を細め満面の笑顔を浮かべ、
「うん♪ 嘘はついていないみたいだね。
でも、あの魔法がどうやれば使えるようになるかは、わたしには分からないよ?」
「……それでもいいです。見て、学ぶであります」
「おっ、やる気マンマンね。そういう子は好きよ、わたし」
ヴィータは唇に手を当て、クスクスと笑う。
と、その時。いきなり屋上の扉が開き、ゼブル・ナウレィージ(ぜぶる・なうれぃーじ)が大声と共に現れた。
「ヴィーータァァ!」
「きゃっ! 驚かさないでよ、もう」
ヴィータはわざとらしく頬を可愛く膨らまし、ゼブルを見る。
しかし、ゼブルは謝らず、構わず同じ調子で言い放つ。
「また会えて光栄至極! 今回もレッツブラッドパーリィィィ!」
「……いつ会っても変わらないわねぇ。で、ゼブルがいるということは」
ヴィータはゼブルが現れた扉の奥に目を凝らす。
そこには彼女の予想通り、肉食獣のような凶暴な笑みを称えた白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)がいた。
「よぉ、久しぶりだな。ヴィータ」
「きゃは♪ やっぱり。久しぶりね、竜造」
竜造達とヴィータが出会ったのは先日の暴君召喚未遂事件のときのこと。
シスターという女性から依頼を受け、同じ勢力として共に動いたのがきっかけだ。
「ねえねえ、もしかしてわたしが恋しかった?」
「寝言は寝て言え」
「そんなこと言って実は嬉しいんじゃないの? 遅れてきた反抗期?」
「反吐が出る」
「うわー、サイテー」
会話を訳すと、これは「こんにちは」「お元気はどうですか?」なのだろう。恐らく。
そんな悪態を突きあう二人に、松岡 徹雄(まつおか・てつお)が近づき、声をかける。
「やぁ、久しぶりだね。ヴィータ」
「あら、徹雄。相変わらずダンディね。で、この三人が居るということは……」
ヴィータは扉をもう一度見る。
その扉の裏に隠れるように立っていたアユナ・レッケス(あゆな・れっけす)は、彼女と目が合うとびくっと身体を震わせた。
「アユナちゃんも来ているわよね。前と同じメンバーなんだ」
ヴィータの言葉に、徹雄が頷く。
「ああ。この仕事にヴィータが参加していると聞いて一応、挨拶に来たんだ。……今回、君がまた何かするのは明白だしね」
「あら、分かるんだ。で、なに? 止めに来たの? だったらここで死んでもらうけど」
「いやいや、そんなつもりはないさ。仕事をしっかりやるようなら文句はないよ」
「あら、そう? ならいいや」
ヴィータはきゃは♪ と笑いを零す。
その様子を遠目に見て、アユナは思った。
(ヴィータさんとは以前、お知り合いになったけど。
……皆さんどうしてあの人と普通に話せるんだろう)
アユナはヴィータを注視する。
彼女は一言で言い表すのなら、とにかく不安定だ。
穏やかに話していると思うと、時たま身がすくむほどの殺気を放つ。外見上の歳相応の笑い顔かと思いきや、悪意に満ちた嗤い顔にもなる。
(私には、怖くてとてもじゃないけど無理……)
だから、アユナは彼女と距離をとるのだった。
「ところで、ヴィータ。君は連絡手段を持っているのかい?」
「ん? 持ってないけど」
「そうか。じゃあ、これを貸しておくよ」
徹雄はヴィータに自分の《腕時計型携帯電話》を手渡す。
「うわっ、ほんとに!? ありがと!」
「使い方が分からないなら教えるよ?」
「むー、わたしをアナログ人間だと思ってバカにしてる? そのぐらい分かるわよ!」
ヴィータは頬を膨らまし、怒ったようにプイッと明後日の方向に顔を振った。
徹雄は苦笑いを浮かべ謝り、「ついでに」と言って言葉を発する。
「何か探し物があるなら普段の俺に擬態させた《影武者》を<密偵>として送るけど?」
「探し物? ……そうねぇ」
ヴィータは少し悩んでから、言った。
「多分、どっかに生前のハイ・シェンの武器があると思うんだけど、良かったらそれをとってきてくれない?」
「分かった」
徹雄は頷くと、自分の《影武者》と連絡を取り始める。
二人の会話が終わったのを察して、竜造が彼女に声をかけた。
「ところでよぉ、ヴィータ」
「ん、どしたの?」
「今回も裏で策弄してるみたいだが、前みてぇに召喚の儀式とやらをやるつもりか?」
「ああ、あの『盲目白痴の暴君』をってこと?」
「そうだ。お祭り騒ぎのおかげで生贄要員の有象無象はいくらでもいるからな。
……それとも獲物はもう決まっていて今は機が熟すのを待ってる感じか?」
「さあ、どうでしょう?」
ヴィータはふふんと笑い、曖昧に濁す。
竜造は「まぁ、いいさ」と言ってから、自分の憶測を話し始めた。
「例えば渦中にいる一般人と裏切り者の雑魚二匹……どっちかといえば裏切り者の方が今回の目的に重要な駒。
で、居場所も突き止めているが奴らを探す警備部隊とコルッテオが目障り。だから互いに潰しあってる隙に目的遂行……状況だけで見た素人の憶測はこんなところだ」
ヴィータは竜造の予想を聞いて、顎に手を当て「うーん」と唸る。
「……んー、遠からずも近からずってとこかな?」
「当たり外れはどっちでもいいさ。大雑把過ぎてどうとでも解釈が取れるし、なにより――」
「なにより?」
「ただの暇つぶしだからな」
竜造のその言葉を聞いて、ヴィータはクスッと嗤う。
「きゃは♪ わたし、竜造のそういうところ好きよ」
「きめぇ」
「うわー、サイアクー」
ヴィータはおどけたように言うと、踵を返し、ここから離れるために歩き出した。
「あ? どこ行くんだ?」
「ご飯よ、ご飯。お腹空いちゃったから、今のうちにね。
ま、終わったら戻ってくるから、皆はここに居てよ」
ヴィータはそう言うと「あっ、忘れてた」と言葉を洩らし、片手を伸ばしてパチンと指を鳴らす。
瞬間、<降霊>した醜悪な《嵐のフラワシ》であるモルスが、降霊者にしか聞こえない咆哮をあげた。
「ヴぉぉぉォォォぉおおおオオオオ!!」
「ゼブラ。うちのモルスとあなたのフラワシを交流させたがってたわよね。
ここに置いていくから、いくらでも交流させてもいいわよ」
ヴィータはそう言って、その場を後にした。
ゼブラは狂喜乱舞して喜びながら、<降霊>を発動。
「ビバ僥・倖! カモォォォン! 《ラブ・デス・ドクトル》!!」
その外見は手術着姿の巨大な老いた赤子。
下半身はなく、千切れた手術着と赤黒いナニカをぶら下げながら浮遊する姿は嫌悪感を抱かないものは少ない。
二つの醜悪なフラワシは互いを視認すると、大きく吼えた。
「「ヴぉぉぉォォォぉおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオ!!」」
そのフラワシに負けないぐらいゼブラも吼えた。
「フワラシ同士の交流によって起こるケミストリィィ!
フワラシが交流できるのか? なんて質問はナァァンセンス!!」
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