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リアクション
間幕 sideC 伝承
バルタ・バイ族の村に残った、一人の契約者がいた。
名は、玖純 飛都(くすみ・ひさと)といった。彼の目的は、村の人々からさらなる伝承の話を聞き出すことだった。
信仰や伝承は――重要な研究対象である。特にこれだけの原始的な土地の場合、それはさらに貴重さを増す。
そこには……なんらかの真実が隠れているものだった。
「騎士?」
「はるか昔――天上人を守る騎士様方がおらっしゃったという話じゃ」
バルタ・バイ族の老人が住むテントの中で、飛都は片眉をあげた。
騎士というと、あの地球でも中世に存在したような王に忠誠を誓った者たちのことだろうか?
老人はさらに話を続けた。
「騎士様は七色に輝く剣を使っていたという。それは騎士たちに伝わる志の剣じゃ。鍛え上げられた機晶石の剣は、所有者の意思に従って七色に輝く。――今では、そのような機晶石は見ることはかなわんがの。果たして本当にあるのかどうかも、定かではない……」
老人は厳かに言うと、静かに飛都へ目を向けた。
「その場所も、機晶石の魂が導いてくれるとも……」
「機晶石に、魂があると思われているのですか?」
「さて、どうかね? わしは前の前の祖父さんからこんな話を聞いたことがあるだけじゃ。機晶石は従えるものではない。機晶石と一つになったとき、はじめてその石の心は応えてくれる――と。……まあ、もっとも、祖父さんは石だけではなく、どんなものにも魂があると言っておったがの」
老人は軽口めいたことを叩き、呵々と笑うと、話は終わったかのようにパイプをくゆらせた。
飛都は考えていた。機晶姫に魂というものはあるか――ということを。
その答えはいまだに出されていない。地球のテクノロジーがどれだけ発達しても、それを解明することにはまだ至っていないのだった。
機晶姫は、そのボディ自体は地球のロボットなんら差はない。にも拘わらず、機晶姫は心のような存在を当然のように持っている。
核となる機晶石に心を作る情報があるのか、元からあるものを呼び起こすのか、あるいは、機晶石とは結晶化した知的生命が長い年月の中で更に石化したものではないのか?
飛都は沈思したまま思考の渦を巡らせる。
やがて、彼は――
「ありがとうございました。参考にさせていただきます」
と言って、老人のもとを去った。
テントを出てから、広場を遊ぶ子どもたちの姿に目をやり、その首にかかっている機晶石のネックレスに目を凝らす。
バルタ・バイの民たちは、赤ん坊が生まれるとまずその子と同じ日に見つかった機晶石を探すのだという。お守りのようなものだ。機晶石が、我が子を見守り、守ってくれると。そんな願いを込めている。
機晶石は――子どもらと共に成長していくのかもしれない。
「…………まさかな」
飛都はそう呟いて、広場を後にした。
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