First Previous |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
Next Last
リアクション
間幕 sideB 買い出し
賑やかな街のある浮遊島に降り立った柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)は、さっそく買い出しを済ませることにした。
飛空艇のパーツや細かい部品類を集めるのである。ここはバルタ・バイ族がいた浮遊島からほど近く、文化的にそれほど栄えているわけではないが、町の人々が持ち寄ったものが市場で売られていた。
その中の一つの店に身を乗り出すような姿勢で顔を出して、桂輔は部品を眺めやった。
「うーん……これと、これと、これと……あと、これ。……おっちゃん! まけてくれ!」
「おいおい、兄ちゃん。そりゃあ、ちょっと図々しすぎってもんじゃないか? せめて、ほれ、このぐらいだな」
露天商の男はパチパチとそろばんらしき木製道具をいじると、その額面を桂輔に見せつけた。
桂輔の顔がぎょっとなる。気づけば、罵声に似た怒号の声が口をついて出ていた。
「そりゃあ、ぼったくり過ぎだろ!」
「これ以上はまけられないね。文句があるなら、他(よそ)へいってくれ」
「ちぇっ…………じゃあ、これもつけてよ。おまけでいいからさ」
何を思ったか? 童顔の若者が手に取ったのは一冊の本だった。
これといった理由があるわけではなかった。ただこのまま額面通りの値段で買うわけにもいかず、せめてもの抵抗で一冊の本分ぐらいは得しようと考えたに過ぎなかった。なにせボロボロの本だ。価値があるとも思えない。
男もどうやらそう思ったようで――
「……よし、わかった。じゃあ、持っていきな」
了承の意を示し、桂輔のポケットからじゃらじゃらと出てきた小銭を受け取った。
桂輔は仕方なしに支払いを終えると、商品の部品と本を袋に入れて、市場の出口に向かった。
ふと、途中で気になって――本の表紙を眺める。そこには、『石の少女』という題名が書かれていた。
「……なんだ、こりゃ」
内容も確かめずに買ってしまったことを軽く後悔する。
それは石から生まれた少女と、その石を拾った少年との物語で、最後には少女は人間となるのだった。
「アルマの手土産になるかな……?」
そう呟いて、桂輔はまた本を袋の中に戻した。
結論から言えば――アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)には怒られた。
「またこんなにたくさんしょうもないものを買ってきて……なにがしたいのですか」
じゃきっ。
目の前に、唐突に黒い物体が突きつけられた。
「いやいや、いきなり銃を向けるんじゃないよ! 改修に必要なものを買ってきただけだって!」
「…………そうですか」
桂輔が必死に釈明すると、アルマは半ば怪しみながらもライフルを離す。
ほっと一息ついた桂輔は、さっそく飛空艇の改修プランの実行に移った。それはすなわち、アルマを基本とした操作系ユニットの設置だ。現状、飛空艇は通常の人間タイプを基本として設定されている。しかし、機晶姫であるアルマに直接コード系統を接続することで、彼女の演算能力を十二分に発揮出来るようにしたいというわけだった。
座席を用意し、アルマをそこに座らせると、桂輔は各種コネクタとユニットを接続していく。
アルマの脳内スペースに数々の船内情報が表示されていき、彼女は低い唸りをこぼした。
「これなら、従来の20%増しのスピードで処理が出来ますね」
「それでもないよりはマシさ。……まあつっても……ベルネッサさんの機晶石がないと、どうにもならないんだけど」
今のところは、シミュレーションで試すぐらいしか方法がない。
かすかに落胆をこぼしながらも、桂輔はユニット以外に予備のジェネレータを設置したり、改修に精を出した。アルマは専用の座席に座りながらその背中を見て――
(こうしているときは、男らしいのですが……)
汗をぬぐう桂輔の姿に、そんなことを思うのだった。
First Previous |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
Next Last