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【裂空の弾丸】Ark of legend

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【裂空の弾丸】Ark of legend

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第二章 灼熱の浮遊島 1

 全てが、熱というものに支配された浮遊島があった。
 その島のほとんどは火山帯であったが、果たして浮遊島がなぜそのような環境を有してしまったのかは誰も知らない。
 ただ、その浮遊島――ヒュードでは、年中、火山の噴火が絶えず、地表には危険な生物も闊歩しているため、民たちは地下での暮らしを余儀なくされていた。大型のシェルターのような構造になっているそこは、唯一この島で安全が確保されている場所だった。
 その、村の広場――いま二人の少女と少年が、ヒュードの屈強な男たちに囲まれていた。
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)、そしてそのパートナーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)であった。
 辺り一面赤褐色の熱気を帯びた大地。見えるのは点在する幕屋のような家々。ヒュードの民の村。
 訪れたはいいが――
「歓迎は……されてないみたい」
 美羽が苦笑をこぼしながら言うと、コハクも同様に引きつった笑みを浮かべた。
「そうみたいだね」
 言って、周りをよく見る。槍や剣といった武器を手にした男たちに囲まれてる。
 ヒュードの民は、強き者にしか心を開かない。そう聞き及んではいたものの、まさかいきなりこんな事態になるとは。覚悟していなかったわけではないが、さすがにその容赦の無い様(さま)に、二人は驚きを隠せない。
 さてどうしたものか。
 と、コハクは槍を手に身構えながらも考えるが――
「美羽?」
 見れば、美羽の顔が不敵な笑みへと変わっているのに気づいた。
 強い者がいる。自分に立ち向かってくる。格闘家にとって、これほど嬉しいことはない。それが、美羽の心を浮き足立たせているのだった。
(あちゃー…………)
 まずいクセが出たと、コハクが額を押さえたときにはもう遅い。
「汝らの実力、見せてもらうぞ!」
 ヒュードの戦士たちが、一斉に美羽へと襲いかかってきた。
「よーし……っ! 美羽ちゃん、気合い十分! かかってきなさい!」
 美羽は自分に気合いを入れ込むと、瞬時に武闘の構えを取った。
 まるで獣のように、雄々しく猛りながら迫るヒュードの戦士。槍が、まず一陣、美羽の身体を貫こうとした。
 が――穂先に飛び乗った美羽が、それを足場に跳躍。戦士を飛び越え、後ろに回ると、強烈な回し蹴りを叩きこんだ。
 その間、わずか数秒――
 驚きいななく戦士たちにかまわず、さらに美羽は彼らの懐へと次々迫った。接近戦の妙は、どれだけ早く相手の打撃圏内に入るかだ。都会で遊び歩く娘っ子みたいにのほほんと笑う美羽だが、誰よりもそれを熟知している。懐に入られたヒュードの戦士は、なす術(すべ)を持たない。
 どぅっ!
 一瞬のうちに――頭上高く振り上げられた右脚で、かかと落としを食らった。
 さらに、ローキック、ハイキック、空中回し蹴りなど、まるで跳びはねるように次々と戦士を倒していく美羽。コハクが、自分の出番はないか、と思い始めたそのとき。彼にも迫るヒュードの戦士がいた。
 あるいはこの少年なら――と、そう思ったのかもしれない。
 しかし、そうはいかなかった。
「甘い……よっ!」
 コハクも気弱そうな少年に見えて、槍の名手だ。
 それまで大人しそうになりをひそめていた眼光が鋭く光るや、一瞬で槍の穂先が戦士の喉元に突きつけられていた。動くことすら出来なかった戦士は、震える手で剣を取り落とす。その時には、すでに美羽のほうも決着がついていたようで……。
「はあっ!」
 最後の気合いの声が轟いたとき、後ろ回し蹴りが戦士の腹部を狙い、蹴り飛ばしていた。
 ふわり――翻るミニスカートと、垣間見えたスパッツ。圧倒的なその力の差に、ヒュードの民たちは呆然とする。所詮は余所者の小娘だと思っていた相手に、これほどまでこてんぱんにやられるとは思っていなかったのだろう。彼らは、まるで放心したような目で、美羽たちを見つめていた。
 しかし、真剣な眼差しで戦いに興じていた美羽の顔が次の瞬間、笑みに変わり、
「うーん…………! 楽しかったぁ! やっぱり、ヒュードの人たちは、さすがに強いね!」
 と言った時には、さすがに彼らも拍子抜けしたらしい。
 呆気に取られるヒュードの民と、彼らの反応がよくわからずに小首を傾げる美羽を見て、コハクは、
「まったく……美羽らしいよ……」
 と、呆れるような笑みを浮かべるしかなかった。

● ● ●


 どおぅっ――ッ!
 その瞬間、岩に巨大な穴が穿たれた。ヒュードの戦士。その顔の真横にあった岩だった。
 彼の周りには他にも数名の戦士の姿があったが、それらはすべて気を失い倒れていた。
 目の前の――少女に、戦いを挑んだが、すべて返り討ちにあってしまったのだ。
 それから少女が放った魔闘撃の一撃は、覚醒光条兵器の輝かしい光とともに、最後に残った指折りの戦士の傍の岩に大穴を作りあげたのだった。
 アーツのパワーさえも乗せた、気合いの一撃であった。
 少女は――
「これで、わかってもらえたでしょ?」
 そう言って、大胆不敵な笑みを戦士に浮かべて見せた。
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)であった。小鳥遊美羽と共に、戦士たちと手合わせをした余所者の契約者。近くには、パートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が黙って彼女を見守ってくれている。ダリルは、もしもルカに何かあれば、すぐにでも手を出す準備をしていたが、どうやらそれを無用のようだった。ルカと美羽は役目を果たした。コハクもすでに、槍を収めていた。
 ヒュードの戦士たちは、たかが地上人。まして女だ――と、油断していたが、それが間違いであると教えられた。
 地面を転がり、苦しげな声と一緒に呻いている戦士たちの姿を姿を見れば、一目瞭然だった。
「……お前たちが、素晴らしき戦士だということは、十分にわかった。しかし、なぜそうまでして知りたがる? ――“沈んだ槍”のことを」
 残された戦士は剣を収め、そうたずねた。
 理解に苦しむといった様子であった。ヒュードの戦士にとって、あれは触れてはならぬものであり、神聖なる場所の遺物である。わざわざ余所者が来てまで知りたがる理由を、怪訝に思っているのだった。
「それがたぶん、地球を……この世界を救うことになると思うからよ」
「この、世界を……?」
「無転砲と呼ばれるものを、知ってる?」
 ルカはそう言って、戦士に事の経緯を話した。
 戦士は黙って聞き入っていたが、その話になにか引っかかるものが、あるいは覚えでもあったのだろう。
 やがて戦士は、立ち上がり――
「……長のところに案内しよう。俺よりも、詳しいことを知っている」
 そう言って、ルカたちを案内してくれることになった。
「よくやったな、ルカ。さすがだ」
「ダリル? ……そんなことないわよ。あの人たち、手加減してくれてたもの。たぶん、本気で倒すつもりじゃなくて、威嚇して立ち退かせるだけのつもりだったんだわ」
 だから、自分たちはあの多勢に無勢の状況でも勝てたのだ。
 そう、ルカは思う。美羽も同じだったようで、それにうなずいていた。
 と、ふいにルカは、戦士の背を追う前に、美羽に耳打ちした。
「美羽」
「なーに、ルカちゃん?」
「実は、あなたに頼みがあるんだけど――」
 それは、ホーティ盗賊団を追ったフリューネたちを追いかけ、水の浮遊島ブルニスについて調べておくことだった。ルカの従える無数の空賊たちは、こうしてる今もダリルの銃型HC・Sに各地の浮遊島の様子や状況を伝えてきてくれている。
 フリューネのところでは、どうやら盗賊団のバルクとかいう男が正気を失ってしまい、混乱しているようだ。
「あなたなら、きっと戦力になると思うわ。お願い、できる?」
「――了解っ。任せといて!」
 美羽はどんっと胸を叩いて、了解の意を示した。
 一緒にいたコハク・ソーロッドと共に、さっそく浮遊島を出る準備を始める。
 ルカはそれを見送りながら、盗賊団を追いかけていったフリューネたちのほうも、なにか一筋縄ではいかないことが起こりそうな――そんな気がしていた。