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リアクション
鏡の国の戦争 12
戦場の巨大兵器の数は、時間の経過と共に数を減らしていっていた。
レッドラインにより、多くのイコンが破壊されていったからだ。
「状況は悪くなるばかりね」
ストーク強行偵察型のメインパイロットコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は、自分に喰らい付いてくるレッドラインの攻撃をたくみに回避する。
緩急のある動きで攻撃を避け、ここだというところでバーニアを吹かせ、距離を取り、機晶ブレード搭載型ライフルの銃口をレッドラインに向けた。
「全機、攻撃開始!!」
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が無線で部下のコームラントに指示を出す。瓦礫の影に隠れていたコームラントがさっそうと姿を現し、ストーク強行偵察型に盾を向けている二体のレッドラインを蜂の巣にした。
「次!」
ストーク強行偵察型は止まらず、そのままこちらに向かってくるレッドラインに向かう。
「コームラント隊は、反時計回りで配置に」
「しまっ」
吹雪の指示が、コルセアの声で止まる。モニターに映っていたレッドラインは三機いたはずだが、一体消えている。隠れられるような大きさではないはずだ。
「上ぞ」
イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)の声が、敵の位置を知らせた。レッドラインはこちらに向かって走りながら、自身の身長の三倍ぐらいを跳躍し、ストーク強行偵察型を飛び越えたのだ。
狙いは言わずもがな、後方のストーク隊だ。
「こっちに任せとき!」
無線に威勢のいい声がして、次にかなり激しい衝突音が無線から聞こえた。
ストーク強行偵察型を飛び越えたレッドラインの着地点に、ジェファルコン特務仕様が飛び込んだのだ。先ほどの威勢のいい声の主は、シーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)だ。
装甲を強化されているジェファルコン特務仕様には、この衝撃はさほどのダメージにはならなかったようで、着地に失敗し仰向けに倒れたレッドラインが盾を向ける前にデュランダルを突き立てた。
「これでよし、一機は任せて」
笠置 生駒(かさぎ・いこま)はコルセアが相手にしている二体のレッドラインに割り込んでいき、一機を引きがはした。だが、超接近戦ではレッドラインの動きの方が上だ。
「多少の損害は、覚悟の上で」
レッドラインの突きが繰り出される。それを確認してから、デュランダルを思いっきり振り下ろした。槍の切っ先がジェファルコン特務仕様の胸部装甲を幾ばくか削り、振り下ろしたデュランダルで引っかき傷を残すが、地面に槍を押さえつけた。
「今やで」
シーニーの通信を受け取るのは、アナザーで借り受けた部下達だ。彼らは、空中から一直線に武器を構えて飛来した。近接戦に特化したレッドラインと戦わせるには酷だが、動かない的に武器を構えての突撃ならば危険も少ない。
レッドラインは逃げようともがくが、決して獲物からは手を放そうとはしなかった。そのまま、二機のコームラントのビームサーベルで串刺しになった。
「よっしゃ」
「敵機沈黙……吹雪さんは?」
生駒がモニターを確認する。
ストーク強行偵察型が相手にしていたのは一体のはずだったが、この僅かな間に四体に増えていた。よくよく観察すると、近くに一体倒れているのがいた。
「うわ、まだ来るで」
さらにさらに、こちらに向かってくる敵影を確認した。
「仕方ない、既に許可を取ってあるアレを使う」
イングラハムが言うアレとは、ビッグバンブラストの事だ。もしもの時に備えて、使用許可を取ってあったのである。
そして今は恐らく、もしもの時だった。目の前の敵で精一杯の彼らではあったが、ここまで敵が溢れている状況は想定外だ。恐らく、他所に配置された部隊がいくつか壊滅し、その分の敵がこちらに押し寄せているのだろう。レッドラインの動きは、敵陣地の制圧ではなく、危険なイコンを排除する事を優先しているように見える。
「一時、部下を任せるであります」
教導団の学生が乗っているコームラントに、そうでない機体よりも能力が高い。吹雪の言葉は、部下を預けるというよりは、部下と一緒にここを維持してくれ、という意味だろう。
「わかったよ」
そう返事をすると、ストーク強行偵察型は自分を追う敵を引きつれ、さらに向かってくる敵の方へと向かっていった。
さらにさらに距離を取る。
派手に動いたからだろうか、十数体のレッドラインがストーク強行偵察型に向かっているのが確認できた。
「これ以上は無理ね」
そのうちいくつかが、回り込んでこちらの頭を抑えようとしている。機動力で稼げる時間はもう僅かだ。
「わらわら集まっくれたようだな」
「これなら、外す心配は無いであります」
リニアカタパルトにエネルギーが充填される。
「ビッグバンブラスト発射準備―――撃てぇぇぇぇぇっ!」
「うわ、なんだこりゃ」
シーニーは検知した強大なエネルギーに思わず声をあげた。
原因はわかっている。ビックバンブラストを使ったのだ、当初は示威行為に効果があるかと考えていたが、ダエーヴァにとってはちょっとごっついミサイルにしか見えないようで、あまり効果は無かったがこれで今後は相手の出方も変わるだろう。
「無茶、しやがって……」
「死んでないわよ」
返信は即座にきた。回線は開きっぱなしだが、今の爆発は通信に影響はでなかったようだ。
「知ってるよ。反応は追ってるから大丈夫……けど、その距離だと機体のダメージは無視できないから下がって。壁役はワタシが引き受けるから」
「お願いするわ」
兵化人間が乗るクゥエイルが歩いていると、足元から逃げるように去っていくゴブリンを発見した。ライフルを向ける動きはぎこちない。
ゴブリンの足は速く、狙いを定めるのにパイロットは集中しているようで、その背後、半壊したビルに逃げるゴブリンよりも多数のゴブリンが潜んでいるのに気付く様子は無かった。
「くそっ」
3―D―Eのワイヤーを射出して、国頭 武尊(くにがみ・たける)がビルの隙間を飛ぶ。
半壊したビルのゴブリン達と、それを率いるミノタウロスはカウボーイのようにロープを回すと、クェイルに向かって投擲した。クェイルの首や肩などにうまく撒きついたロープは少ない。
この時になって、ようやくクェイルのパイロットが異変に気付くが、もう遅い。ゴブリン達はうまく撒きついたロープに群がると、それを握ってビルから飛び降りた。
パイロットに腕があれば、耐える事もできただろう。だが、このクェイルのパイロットはそのまま見事に地面に引き倒された。倒れるクェイルに潰されるゴブリンもいたが、その損害を気にせず倒れたコックピットに群がる。
「させるかぁっ!」
コックピットに斧を振り下ろそうとするミノタウロスに、武尊は慣性の乗った蹴りをお見舞いした。巨体のミノタウロスは、周囲のゴブリンを巻き添えにして吹っ飛ぶ。
反動で来た方に飛んだ武尊は、茨の羽の茨で軌道を変えた。武尊の軌道をなぞるように、ゴブリンのアサルトライフルの弾丸が通過していく。
そのまま近くの窓の無いビルに飛び込み、テレパシーで猫井 又吉(ねこい・またきち)に呼びかける。
(今から言う地点に支援砲撃できるか?)
(あぁん? できねぇよ、こっちがどれだけ大変かわかってんのか!)
(知るか、けどできないのはわかったよ、クソったれ)
短い会話の間に、このビルの階段を敵が駆け上がってきている殺気を感じ取る。
見回しても武器になりそうなものはないし、身を隠せそうなところもない。考える時間は無い、自分が入ってきた窓に向かって走った。窓枠を飛び越えたところで、ゴブリンが飛び込んでくる。そして銃声、間に合った。
ゴブリン達は何か相談するような時間を持ってから、窓ガラスの無くなった空洞に慎重に歩み寄った。外の様子を伺う、武尊の姿は無い、さらに窓に近づき、地上の様子を見ようと僅かに顔を出した。
「四名様ご案内、だ!」
茨の羽がゴブリンをまとめて巻き取る。亀裂にいれていた手を放し、さらに地面に向かって3―D―Eを射出、巻き取ってその力でゴブリンをまとめて引きずり出した。
空中に引きずり出せば、ゴブリンに抵抗などできない。茨を振って地面に向かって投げつけつつ、茨は近くのビルを掴ませ地面の衝突を回避する。ワイヤーを回収し、地上に降りると、先ほど蹴飛ばしたミノタウロスと目があった。
「頑丈だな、おい」
武尊は背中を見せて逃げる。さすがは牛だ、素直に追ってくる。
走りながら、サングラス型通信機を起動する。通信相手は、倒れているイコンのパイロットだ。
「動けるか?」
声は帰ってこないが、荒い呼吸が聞こえる。男なので全然嬉しくない。
「今から移動地点を送信する、そっちに向かって移動しろ」
ちゃんと理解してくれただろうか。だが、モニターに地点を出せば理解してくれるだろう。手早く位置情報を送信し、通信を終わらせる。それから一度振り返った、ミノタウロスだけだと思ったが、ゴブリンも何体が一緒だ。
「やーいやーい、鬼さんこちら」
言葉はわからないが、彼らが顔を真っ赤にしているのはなんとなくわかった。
「さぁて、適当な場所で撒くか。相手にしてる余裕はこっちにゃないんでね」
3―D―Eのワイヤーを射出し、武尊の体が浮き上がった。
「くっそ、こっちはスゲー大変なんだぞ」
又吉はぶつくさいいながらも、ダイノザウラーの尻尾で近づいてきたレッドラインをなぎ払った。
彼らの盾は、ビームサーベルの刃や、銃弾を防ぐ堅固さを持つが、衝撃が完全に消えるわけではない。レッドラインの重量を吹き飛ばせる単純な打撃であれば、十分通用するのだ。
「せっかく後方にいるってのに、何でこんな目に合わなきゃなんねーんだよ!」
苛立つ又吉、唸るダイノザウラー。ロケットアンカーパンチがレッドラインを吹き飛ばす。
「今だ、一斉攻撃をかける」
ダイノザウラーの攻撃は強力だったが、大味でもあった。盾の上から打撃を与える事はできていたが、盾ごと叩き潰すには足りない。
地面に倒れたり、動きの鈍くなったレッドラインを猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)と彼の指揮するイーグリッド隊が確実に倒していく。
「やはり、この機体いつもと違うから違和感がありますわ」
セイファー・コントラクト(こんとらくと・せいふぁー)はプラヴァーの動きの違和感が中々抜けないでいた。何らかの手違いがあったらしく、勇平の愛機はアナザーに到着していなかったため、数少ない第二世代機であるプラヴァーを借りて戦場に立っているのである。
普段の機体と操作感が違うとはいえ、アナザーの兵化人間と比べればその動きのキレは別物だ。
ダイノザウラーという敵の目を引く機体も近くに居るため、勇平の指揮する部隊は活き活きと動き、活躍していた。
「倒れた奴は任せる。確実に、倒せ」
「新たな敵が来ますわ」
「またかよ。敵機を撃破したら、少し下がれ。まずはこっちで相手をする」
銃剣付きビームアサルトライフルで敵を牽制し、敵を自由に動かさないように配慮する。こういう戦い方にも、だんだんと慣れてきていた。
この地点は、最初に彼らの部隊が立っていた場所よりも後方である。最初の激突で、いくつかの部隊が壊滅し隊列をかき乱されたためだ。敵の巨大怪物が一体でも千代田基地に乗り込まれるわけにはいかないため、イコン部隊はじりじりと下がりながら、なんとか防衛線を形勢して今に至っている。
当初この地点は、ダイノザウラーを含む砲撃部隊が、前線の援護をする場所だったのだ。
「機影? 味方のイコンが近くにいますわ。恐らく、部隊とはぐれたものかと」
セイファーが発見した味方は、先ほど武尊が助けたものだ。
「通信を、いけそうなら指揮下に入るように言ってくれ」
慣れない機体でレッドラインを相手にしながら、勇平は素早くそう答えた。
すぐにセイファーはやってきたクェイルに通信回線を開き、二言三言会話を行う。かなり消耗しているようだったが、挫けてはいないようだ。
「指揮下に入るそうですわ」
「わかった。猪川機より各機へ、盛大に攻撃して敵の目を引き付けるぞ。セイファー、あの機体に回り込んでこっちの後ろに来るように」
「了解ですわ」
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