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【四州島記 完結編 三】妄執の果て

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【四州島記 完結編 三】妄執の果て

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第十三章  妄執の果て


「――どうやら、晴明の御札は効き目があったようですね」

 《テレパシー》で、景継と戦う唯斗達の様子を知った鉄心は、安堵のため息を吐いた。
 その途端、その場にガックリと膝を突く。

「鉄心殿!」

 幻獣の姿で、鉄心に纏わりついていたスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)が、慌ててその身体を支える。

「鉄心!」
「鉄心殿!」

 ティー・ティー(てぃー・てぃー)や、彼と行動を共にしていた騎兵隊の隊員たちも、一斉に駆け寄る。

「大丈夫。ちょっと、疲れただけだから……」

 鉄心の疲労は、《アクセルギア》を使って、一気に力を消耗したせいだ。
 しかしそのお陰で、三田村 掌玄(みたむら・しょうげん)から解理の鏡を奪い取り、封印まで施す事が出来た。
 鉄心の手にある解理の鏡には、一枚の札が貼られていた。
 以前、安倍 晴明(あべの・せいめい)から渡されたものである。

「円華は、『鏡を壊していい』って言ってたけど、本当は、壊したくないのが正直な気持ちだと思う。それに、貴重な女王器を壊してしまうのは勿体無いからね。効果があるかどうか保証は出来ないけど、一応、試してみてよ」

 そう言って、晴明は鉄心にこの札を渡した。
『この札が貼られている間は、景継と鏡とのつながりが一時的に絶たれる』という話だったが、どうやら効果があったようだ。

「やめろ!その封印を、早く解け!クソッ!離せ!離せぇ!!」

 騎兵達に取り押さえられた掌玄が、狂ったように暴れ、叫ぶ。
 
「黙れ!この景継の犬め!!」

 隊員の一人が、憎しみの籠もった目で掌玄を睨みつけると、その腹を思い切り蹴りあげた。

「ぐはぁっ!」

 反吐を吐き、その場に崩れ落ちる掌玄。

「貴様さえ、貴様等さえいなければ!!」
「そうだ!東野が、四州がこんな事になったのも、みんな貴様のせいだ!!」

 尚を掌玄をなぶり続ける隊員達。

「もう……、もうやめて下さい!」

 あまりの惨状に耐え切れなくなった、ティーが叫ぶ。
 その声に、我に返る隊員達。 

「……その辺で、止めておけ」

 放っておけば、そのまま掌玄なぶり殺しにしてしまいそうな隊員達を、鉄心が止めた。

「その男を殺した所で、死んだ人が生き返る訳でも、全てが元通りになる訳でもない。憎しみは、新たな憎しみを生むだけだ。それじゃ、景継と変わらない」
「も、申し訳ありません……」

 鉄心にたしなめられ、頭を垂れる隊員達。

「もう、憎しみで人が死ぬのは沢山だ。例え、それが敵であっても」
「景継様……かげつぐさまぁ……」

 鉄心は、何度も景継の名を呼びながら、一人嗚咽する掌玄を、静かに見つめていた。



「今だよ!美羽!!」

 コハクの手にした、《武器の聖化》を施された【蒼炎槍】から放たれた《爆炎波》が、景継の身体を浄化していく。

「ぐあああ……!やめろ、やめろぉ!」

 苦悶の声を上げながら、必死にもがく景継。

「やれっ!美羽!」

 だが、唯斗の【不可視の封斬糸】に絡め取られ、景継は全く身動きが取れない。
 《歴戦の飛翔術》で天高く跳び上がった美羽は、両の手で構えた【イレイザーキャノン】の銃口を、景継に向けた。

「これで終わりよ、由比景継!!」

 照準を合わせ、引き金を引いた。
 《武器の聖化》で威力を増した光条が、景継の身体を刺し貫く。

「ば、バカな……。儂が……この儂が、こんなトコロで……」

 景継の身体を構成していた闇の霊質が、次々とバラバラになっては、まるで宙に吸い込まれるように、輝きを放ちながら消えていく。

「滅べ、景継」

 唯斗が、静かに呟く。

「おおおお……ヲヲヲォォォッ――……!!」

 景継は、声にならない声を残して、消えた。 


 シャリーン。

 東遊舞の終わりを告げる、鈴の音が、木立の間に静かに木霊する。
 舞手である御上を中心に発せられた光が、放射状にひろがって行く。

「おお……!」
「ああ……!」

 温かな光に包まれ、穏やかな祖霊となって天に還っていく怨霊達。
 鬼と化していた人達に憑いていた、荒ぶる祖霊達も、同じ様に穏やかな表情で、天に昇っていく。
 幾多の魂が、光の珠となって、天に昇っていく。
 その荘厳な光景に心打たれ、御上達は、静かに彼等の為に祈りを捧げた。
 そして、東野の各地でも――。

 この光景を目の当たりにした全ての人々が、彼等の為に、祈っていた。

(御上先生――。御上先生――!)

 鉄心のテレパシーが、御上に届く。

「みんな、鉄心君から連絡があった。美羽君たちが、景継の撃滅に成功したそうだ」
「そ、それじゃあ……」
「ああ。終わったんだよ、全て――」

「やったぁ!」
「やったでオリバー!」

 抱き合って喜ぶ、社と終夏。
 その隣では、未来が跳び上がって歓声を上げている

「秋日子くん!」
「キルティス!!」

 手を取り合って喜ぶ二人。

「先生!!」
「つ、椿くん!?」

 嬉し涙を流しながら、御上の胸に跳び込む椿。

「やったね、討魔!!」
「ああ。お嬢様も、お喜びになるだろう……。お前も、よくやったな。なずな」
「討魔……!」

 討魔の肩にもたれかかるなずなと、そのなずなを、静かに見つめる討魔。


 互いに抱き合い、涙を流し合って喜ぶ騎兵達。
 その横で、『心静かだったころの夢を見て、静かに眠れますように』との想いを込めて、静かに《天使のレクイエム》を歌うティー。
 それは、星を数え、星の数だけの贈り物を歌い上げる、子守唄だ。
 鉄心とストーンは、その心地よい歌に、静かに耳を傾けながら、昇天していく霊達の安寧を願う。
 そしてそれは、鉄心達と離れ、一人怪我人の治療に従事するイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)も同じだった。
 鉄心からテレパシーで、景継が倒された事という連絡を受けたイコナは、一番最後に一つだけ、自分だけのお願いを付け加えた。

(鉄心達が、早く帰ってきますように――)

 
 こうして、たった一人の男の妄執により引き起こされた災厄は、ようやくその終わりを告げたのだった。