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リアクション
第十三章 妄執の果て
「――どうやら、晴明の御札は効き目があったようですね」
《テレパシー》で、景継と戦う唯斗達の様子を知った鉄心は、安堵のため息を吐いた。
その途端、その場にガックリと膝を突く。
「鉄心殿!」
幻獣の姿で、鉄心に纏わりついていたスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)が、慌ててその身体を支える。
「鉄心!」
「鉄心殿!」
ティー・ティー(てぃー・てぃー)や、彼と行動を共にしていた騎兵隊の隊員たちも、一斉に駆け寄る。
「大丈夫。ちょっと、疲れただけだから……」
鉄心の疲労は、《アクセルギア》を使って、一気に力を消耗したせいだ。
しかしそのお陰で、三田村 掌玄(みたむら・しょうげん)から解理の鏡を奪い取り、封印まで施す事が出来た。
鉄心の手にある解理の鏡には、一枚の札が貼られていた。
以前、安倍 晴明(あべの・せいめい)から渡されたものである。
「円華は、『鏡を壊していい』って言ってたけど、本当は、壊したくないのが正直な気持ちだと思う。それに、貴重な女王器を壊してしまうのは勿体無いからね。効果があるかどうか保証は出来ないけど、一応、試してみてよ」
そう言って、晴明は鉄心にこの札を渡した。
『この札が貼られている間は、景継と鏡とのつながりが一時的に絶たれる』という話だったが、どうやら効果があったようだ。
「やめろ!その封印を、早く解け!クソッ!離せ!離せぇ!!」
騎兵達に取り押さえられた掌玄が、狂ったように暴れ、叫ぶ。
「黙れ!この景継の犬め!!」
隊員の一人が、憎しみの籠もった目で掌玄を睨みつけると、その腹を思い切り蹴りあげた。
「ぐはぁっ!」
反吐を吐き、その場に崩れ落ちる掌玄。
「貴様さえ、貴様等さえいなければ!!」
「そうだ!東野が、四州がこんな事になったのも、みんな貴様のせいだ!!」
尚を掌玄をなぶり続ける隊員達。
「もう……、もうやめて下さい!」
あまりの惨状に耐え切れなくなった、ティーが叫ぶ。
その声に、我に返る隊員達。
「……その辺で、止めておけ」
放っておけば、そのまま掌玄なぶり殺しにしてしまいそうな隊員達を、鉄心が止めた。
「その男を殺した所で、死んだ人が生き返る訳でも、全てが元通りになる訳でもない。憎しみは、新たな憎しみを生むだけだ。それじゃ、景継と変わらない」
「も、申し訳ありません……」
鉄心にたしなめられ、頭を垂れる隊員達。
「もう、憎しみで人が死ぬのは沢山だ。例え、それが敵であっても」
「景継様……かげつぐさまぁ……」
鉄心は、何度も景継の名を呼びながら、一人嗚咽する掌玄を、静かに見つめていた。
「今だよ!美羽!!」
コハクの手にした、《武器の聖化》を施された【蒼炎槍】から放たれた《爆炎波》が、景継の身体を浄化していく。
「ぐあああ……!やめろ、やめろぉ!」
苦悶の声を上げながら、必死にもがく景継。
「やれっ!美羽!」
だが、唯斗の【不可視の封斬糸】に絡め取られ、景継は全く身動きが取れない。
《歴戦の飛翔術》で天高く跳び上がった美羽は、両の手で構えた【イレイザーキャノン】の銃口を、景継に向けた。
「これで終わりよ、由比景継!!」
照準を合わせ、引き金を引いた。
《武器の聖化》で威力を増した光条が、景継の身体を刺し貫く。
「ば、バカな……。儂が……この儂が、こんなトコロで……」
景継の身体を構成していた闇の霊質が、次々とバラバラになっては、まるで宙に吸い込まれるように、輝きを放ちながら消えていく。
「滅べ、景継」
唯斗が、静かに呟く。
「おおおお……ヲヲヲォォォッ――……!!」
景継は、声にならない声を残して、消えた。
シャリーン。
東遊舞の終わりを告げる、鈴の音が、木立の間に静かに木霊する。
舞手である御上を中心に発せられた光が、放射状にひろがって行く。
「おお……!」
「ああ……!」
温かな光に包まれ、穏やかな祖霊となって天に還っていく怨霊達。
鬼と化していた人達に憑いていた、荒ぶる祖霊達も、同じ様に穏やかな表情で、天に昇っていく。
幾多の魂が、光の珠となって、天に昇っていく。
その荘厳な光景に心打たれ、御上達は、静かに彼等の為に祈りを捧げた。
そして、東野の各地でも――。
この光景を目の当たりにした全ての人々が、彼等の為に、祈っていた。
(御上先生――。御上先生――!)
鉄心のテレパシーが、御上に届く。
「みんな、鉄心君から連絡があった。美羽君たちが、景継の撃滅に成功したそうだ」
「そ、それじゃあ……」
「ああ。終わったんだよ、全て――」
「やったぁ!」
「やったでオリバー!」
抱き合って喜ぶ、社と終夏。
その隣では、未来が跳び上がって歓声を上げている
「秋日子くん!」
「キルティス!!」
手を取り合って喜ぶ二人。
「先生!!」
「つ、椿くん!?」
嬉し涙を流しながら、御上の胸に跳び込む椿。
「やったね、討魔!!」
「ああ。お嬢様も、お喜びになるだろう……。お前も、よくやったな。なずな」
「討魔……!」
討魔の肩にもたれかかるなずなと、そのなずなを、静かに見つめる討魔。
互いに抱き合い、涙を流し合って喜ぶ騎兵達。
その横で、『心静かだったころの夢を見て、静かに眠れますように』との想いを込めて、静かに《天使のレクイエム》を歌うティー。
それは、星を数え、星の数だけの贈り物を歌い上げる、子守唄だ。
鉄心とストーンは、その心地よい歌に、静かに耳を傾けながら、昇天していく霊達の安寧を願う。
そしてそれは、鉄心達と離れ、一人怪我人の治療に従事するイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)も同じだった。
鉄心からテレパシーで、景継が倒された事という連絡を受けたイコナは、一番最後に一つだけ、自分だけのお願いを付け加えた。
(鉄心達が、早く帰ってきますように――)
こうして、たった一人の男の妄執により引き起こされた災厄は、ようやくその終わりを告げたのだった。
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