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第2回ジェイダス杯

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第2回ジェイダス杯

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第一章 正門前の悲喜交々


 参加希望者が殺到し、予選会から大波乱だった第二回ジェイダス杯。
 風光明媚な水上都市ヴァイシャリーで、今回はどんな熱い戦いが繰り広げられるのか。騎士の誇りをかけた水上の決戦を征し、優勝の栄冠を手にするのはどの選手か。


 まずはコースの説明をしよう。ヴァイシャリー家の屋敷からスタートした選手達は、一路第一のチェックポイントである麗しき姫君達が待つ百合園女学院へ。正門でパートナーとなる百合園生が決まったら別荘地帯をを抜け大運河へ。毎日何十、何百ものゴンドラが行き交うヴァイシャリーの大動脈だが、本日はジェイダス杯開催のため船の運航が禁止になっている。そのためいつもは賑やかな大運河も、嵐の前の静けさの如く、閑散と静まりかえっている。
 しかし、第二のチェックポイントである倉庫街に向かうためには、大運河を渡る必要がある。騎士の橋まで回っても良いが、それではかなりの時間を労してしまう。
 今回に限りゴンドラでの出場も認めているが、選手達の多くが自前の乗り物で参加を希望しているようだ。小型飛空挺を有する蒼空生、空飛ぶ箒にまたがったイルミンスール生は問題がないが、空を飛び大運河を渡る手段を持たない他校生達は、何か秘策があるのだろうか?
 華やかなヴァイシャリーの隠れた一面である無骨な建物が並ぶ倉庫街を抜けた後は、第三のチェックポイントはばたき広場へ。白い石畳が敷き詰められた広場の中心には、巨大なネジ巻き式の時計塔が立っている。時計塔を囲むように、軽食や土産物などを扱う数多くの露店が並び、いつも観光客で賑わっているエリアだ。
 はばたき広場を通過した後は、景観を意識し、煉瓦造りの建物で統一された住宅街へ。水上都市という場所柄、庭を持てない家が多い代わりに、住民たちは水路に面したバルコニーを季節の花々で飾る。花々が彩る落ちついた住宅街から繁華街に向かった後は、再び大運河へ。大運河にかかった騎士の橋をくぐり抜ければゴールとなる。


 そして、高らかなファンファーレとともに、戦いの火蓋が切られた。
 各車一斉にスタートだ!!
 チェックポイントにいち早く飛び込んだのは、小型飛空挺に乗った葉月 ショウ(はづき・しょう)選手。スピードを優先したのだろう。待ちかまえる乙女達の一団には目もくれず、等身大ジェイダス様フィギアをつかむと疾風の如く走り去る。
 葉月選手に続くのは、ピエロの衣装に身を包んだ波羅実生ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)選手。見た目は相変わらずのお巫山戯仕様だが、どうやら今回は本気モードでの出場だそうだ。バイクの機動力を活かして、迷わず百合園生ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)の元へ走り込んでいく。
 正門前で待ちかまえるジュリエット嬢もまた、ナガン選手とおそろいのピエロメイクだ。百合園の制服にピエロメイクとは、斬新とも異様とも言えるファッションだが、「約束の相手が見つけやすい」という意味では大変賢い作戦だ。
 素早く後部座席に飛び乗ったジュリエット嬢に声をかけるナガン選手。
「いくぜ、お嬢さん。たおやかな姫君にはちと荒っぽい走りになるが、勘弁してくれよ」
「お嬢さん扱いは止めてくださいと言っているでしょっ!」
「怒るお嬢さんも可愛らしいぜ」
 ジュリエット嬢の抗議も鼻で笑い飛ばすと、ナガン選手はバイクのスピードを上げた。
「振り落とされんじゃねぇぞ、お嬢さん」
「もうっ、ナガン様ったら!」
 そして、ラブラブムードたっぷりに走り去っていく二人を寂しく見送る人物が…。ナガンと双子のようにそっくりなパートナークラウン ファストナハト(くらうん・ふぁすとなはと)だ。彼女の目論見では、ナガン選手とともにジェイダス様フィギアを担いで出生するつもりだったようだ。しかし、ナガン選手は事前にジュリエット嬢とともに出走を約束していた様子。その上、おそろいのピエロメイクというお家芸さえもジュリエット嬢に奪われるとは、見るも無惨。憐れクラウン選手は、ジェイダス様フィギアを抱きしめ、空へと吠える。
「ハーレムじゃ〜ん、じゃ〜ん!うわぁぁぁんっ」


 スムーズな待ち合わせのために、目立つ服装をしていたのは、先のジュリエット嬢だけではないようだ。彼女以外にも妖しげな女生徒(?)の姿がチラホラ見受けられる。中でも周囲の視線を一身に集めたのは、花嫁衣装を身にまとった女性(?)だ。本人は目立つつもりはないらしく、身体をかがめているが、その巨体は隠せない。明らかに大男の女装姿は、否応なく人目をひいた。
 案の定、速攻で見つけた約束の相手が声をかける。薔薇学生麻野 樹(まの・いつき)だ。
「光司〜。俺の花嫁〜!」
 恥ずかしげもなく、両手をブンブンと振りながら走り寄ってきた麻野選手。
 女装の剣の花嫁雷堂 光司(らいどう・こうじ)は、「恥ずかしい呼び方をするなよっ」と抗議をしつつも、素早く麻野選手の愛馬に飛び乗る。自らの身体から鞭のようにしなる光条兵器を抜き放つと、百合園生めがけて殺到する生徒達に向かって、光の茨を放った。まさに魂から深く結びついたパートナーならではの連携プレーだ。
 足下をすくわれ、もんどりを打つように転ぶ選手達に向かって、光司嬢(?)は言い放つ。
「女子は狙わね〜けど。野郎に遠慮なんかしてやらねぇよ」
 優勝のためにはまさに手段を選ばない麻野選手&光司嬢(?)ペア。その執念で見事薔薇学生悲願のゴールテープを切れるのか?!
 しかし、同じ薔薇学生でも、全員が優勝を狙っているわけではないようだ。ここぞとばかりにラテン系王子の本領発揮。女の子をナンパしまくっているのは、第一回ジェイダス杯にも出場していたミゲル・アルバレス(みげる・あるばれす)だ。
「なんやこんなところにおったのか。俺のお姫様」
 誰彼かまわず声をかけているミゲル選手に振り向いたのは、妖艶な笑みを浮かべたティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)嬢だ。
「あら、アナタ。確か前回の大会にも出ていた方ね?」
「覚えていてくれはったんか。うっれしぃな〜」
 想わぬ出逢いに上機嫌で応えたミゲル選手。しかし、ティア嬢のぼそりと呟いた言葉で、奈落の底へと落とされることとなる。
「優勝どころか、ほとんど最下位じゃないですか。ださっ」
「参加することに意義があるって、偉い人も言ってはるやんか」
 必死で言い訳をするミゲル選手だが、ティア嬢の刺すような冷たい視線は一向に変わらない。
「負け犬の遠吠えですわね」
 冷たく言い放つティア嬢。ミゲル選手の中で何かのスイッチが入ったようだ。
 突然、餌をねだる犬のようなポーズをとると、ティア嬢に向かって宣言する。
「ワンワンッ、ワワン! 女王様と一緒なら、俺は地の果てまでも走るで。ワワン!」