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【十二の星の華】日陰に咲く華

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【十二の星の華】日陰に咲く華

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○    ○    ○    ○


 合成獣に襲われていたのはグレイスだけではない。
 森の中にある村を、狼と合成獣が駆け回っている。
 逃げ惑う人々を追いかけ、爪で、牙で体を引き裂いて、動かなくなるまで攻撃を加える。
「みーんな倒して食べちゃうから覚悟してね?」
 凄惨な状況下で、にっこり笑みを浮かべたのは小林 翔太(こばやし・しょうた)だった。
 美味しい食べ物を求めてこの村を訪れたらこの有様だった。
「村人たちを襲っている変な獣が今回の獲物……僕が食べるはずだった美味しい食料の代わりってことだよね」
 翔太は光学迷彩を発動すると、村人に襲い掛かる合成獣の背後に回りこみ、機関銃を構えてスプレーショットを行う。
「今日の晩御飯になってくれるよね? でもちょっと硬そうだなあ」
 銃撃を受けても、合成獣は倒れなかった。
 翔太の匂いを嗅ぎつけたのだろう、口を開いて牙を見せながら襲いかかってくる。
「許さないんだからッ!!」
 翔太のパートナーカッツェ・オージェ(かっつぇ・おーじぇ)は、襲われた村人達を目に叫び声を上げていた。獣人である彼女は、同じ獣人を同士と思っていた。
「狼さん、お願い。翔太様と協力して村を襲う獣をやっつけてほしいのッ!」
 合成獣に立ち向かっている狼にそう願う。
 光学迷彩で姿を隠している翔太に飛び掛ってくることはないが、狼達は助けに訪れた人間達をも警戒している。
 獣人といっても、スキルなしで獣を操れるわけではないから、この村の人々のように仲間として一緒に生きてきたわけじゃなければ、従わせることはできないけれど。
 思いは伝わるかもしれないから。
「村と仲間達を守ってね」
 言葉をかけながら、カッツェは後方で、トラッパーの技能で罠を仕掛けていく。
 人間にはわかるような目印を立て、狼が間違えてかからないように、大型の生物のみ捕らえられるよう、工夫をしていく。
 途端、合成獣がカッツェの方へと迫る。カッツェは即座に後方に避難する。
「あっ……捕らえるのは難しそうね。でも少しはダメージを与えられるッ!」
 カッツェの仕掛けた罠は、合成獣に踏み越えられてしまう。しかし発動した罠による傷が合成獣の体を僅かながらも傷つけていく。
「お腹の辺りは柔らかそうだね!」
 合成獣の猛攻を受けて傷を追うも、翔太は身をかがめて腹の下から合成獣の腹に弾丸を撃ち込んで重傷を負わせる。
 それでも、合成獣は倒れず、がむしゃらに襲い掛かってくる。
 翔太は殺気看破で、他の敵の気配を避けながらその1匹に集中する。
「これだけ苦労したんだから、きっと美味しいよね!」
 そんな言葉を発しながら、翔太は跳んだ合成獣の腹に機関銃を乱射し今度こそ仕留める。
 合成獣からは普通に赤い血が流れ出ていた。

「せ〜ちゃん、おなか空いたのだよ」
 オフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)が、くいくいと八神 誠一(やがみ・せいいち)の服を引っ張った。
 二人はこの森の近くに狩に来ていたのだ。
「誰のせいでこんなところに来ることになったと思ってるんです?」
 困ったような顔でそう言った途端、獣が走る音が響き渡り、同時に何かが破壊される音も響いた。
 もしやと思い向かってみれば……。
「ああ! せっかく仕掛けた罠が」
 野生動物を捕らえようと思って設置した罠が、完全に踏み壊されている。
「人の食料奪っておいて、自分達は食事ですか? 許せませんね!」
 オフィーリアが刀を抜いた。とはいえ、まだ何も捕らえてはいなかったが。
 半ば八つ当たり状態で、狼を襲っている合成獣に向かっていく。
「アハハ、なるほど、パワーはあるようだね。でも隙が多いよ? 図体ばかりで脳みそ無いのかな?」
 斬っても斬っても倒れない相手に、次第に高揚していき、誠一は笑みを浮かべながら合成獣に刀を振り下ろしていく。
「その調子で殺し続けろ、我が剣よ」
 合成獣の攻撃で傷つくパートナーの姿を見ても、オフィーリアは一切動揺せず、静かにそう言葉を漏らす。彼女の心の中に『斬れ、殺せ』という感情が浮かび上がってくる。
 ――しかし。数十分後激しい戦闘が終結すると。
「……で、ソレ食べれるかな?」
 血みどろになり、荒い呼吸を繰り返す誠一と倒れた合成獣を前にオフィーリアはいつもの調子で尋ねるのだった。
「……不味そうなのでやめましょう」
 汗をぬぐい、血を拭う誠一も普段の調子に戻る。この場に長居は無用なようだ。

 遠くから聞こえてくる悲鳴、破壊音、獣の鳴き声。
 異変に気づいた大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)はパートナーのソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)と共に、村に駆けつけた。
「許せん!」
 惨状を目にし、剛太郎は持っていたレーションを投げ捨てる。
 すぐさまアーミーショットガンに弾薬を装填し、柵を飛び越えて村に入り込む。
「剛太郎さん。敵の数が多すぎるようです」
 状況に不安を感じるも、ソフィアも剛太郎の後を追い、村へ入る。
 狼は敵ではないと素早く判断し剛太郎は合成獣にのみ、銃を撃っていく。
「避難して下さい」
 襲われていた村人を後方へと押しやり、剛太郎は銃を立て続けに撃つ。
 その体には弾を当てることも、傷をつけることも出来たが、かなりの体力を有しているようであり、簡単には倒れはしなかった。
 いくつもの顔を持った合成獣に剛太郎が狙いを定めて戦っているうちに、ソフィアにも別の合成獣が襲い掛かる。こちらは猪のような体格の合成獣だった。
 更にもう一匹、似た形の合成獣が現れる。
「あっ!」
 ブロードソードで真正面の合成獣に斬りつけていたソフィアだが、別の方向からの体当たり攻撃を受けて、吹っ飛ばされ柵をぶち破り木に叩きつけられてしまう。
「大丈夫ですか……っ」
 剛太郎が助けた村人が、ソフィアに駆け寄る。
「早くお逃げ下さい……」
 合成獣が再びソフィアに狙いを定める。
「ソフィア」
 建物の影に身を潜め敵の対処に当たって剛太郎だが、村人の悲鳴に事態に気づき、急ぎ銃を撃ちながら彼女達の元へ駆けつけた。
「大丈夫です。逃げてください」
 まず、ソフィアは座ったまま村人を逃がした後、剛太郎に非難の目を向けた。
「剛太郎さん。このままだとわたくし、故障してしまいますわ……」
「すまないソフィア。いくらマシンでも女の子だったな」
 そう言って、剛太郎はソフィアを背に、戦うことにした。
 言葉では何も言わなかったけれど、ソフィアは彼の背中を見ながら、自分のことを思いやってくれる彼の優しさを嬉しく思っていた。