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リアクション
「ひやっ」
突如、サジタリウスが震えた。
「な、な、なに……ち、痴漢ーっ」
何がなんだか分からなく、酷く混乱しはじめて、サジタリウスは真っ赤になって涙を浮かべる。
緊迫した空気の中、彼女の尻を思い切りなでた男がいたのだ。
「戦いたくないならとっとと逃げようぜ? どうせお前がやらなくても村が1つ滅ぶくらいだ」
その男、ロア・ワイルドマン(ろあ・わいるどまん)がサジタリウスの腕をぐいっと掴んだ。
「やめ……放して……っ」
首を左右に振って、サジタリウスは抵抗して後ろへ後ろへ下がろうとする。
「お前のパートナーもお前の無事だけを祈ってるだろう。何せパートナーが傷ついちまったら自分がやべえからな。お前もパートナーも我が身が一番可愛い。他人なんざどうでもいい、そうなんだろう?」
「どうしたらいいのか、ゆ……パートナーに聞かなきゃ分からない。私のせいで、パートナーが傷ついたらダメなんです。だから逃げ、たい」
「……そうか、逃げんのか」
戦う道を選ぶだろうと、ロアは思っていた。
だけれど、彼女は頑として力の解放を望まないようだ。
「お前の相手は俺だ!」
政敏が、星剣の反応に動揺し周囲を見回しているティセラの方へと駆けて、雅刀を振り下ろす。
「アイツの夢が儚そうで。でも惹かれる。奪った命から逃げ回って、誰かの為と嘯いている日陰者でもよ。手前勝手だが、アイツの願いは守ってみせたいんだ!」
ティセラは剣で政敏の攻撃を受けた。政敏は繰り返し、繰り返し刀を打ち込んでいく。
ティセラは戦いに集中していないようで、周囲を気にしながら政敏の攻撃を受けていた。
「避難します。動ける方は怪我をしている方に肩を貸してあげてください」
彩蓮が残っている村人に声をかけて、誘導をする。
デュランダルも銃を収めて彩蓮を手伝い、動けない村人を運ぶ。
サジタリウスは光条兵器を抱きしめながら、泣き出しそうな目でどう動くか悩んでいる。
「逃げたい。……誰が死のうとも、パートナーと幸せでいられればいい……それがお前の信念か。ならば誇れ、決して揺らぐな」
強い言葉に、サジタリウスは涙の浮かんだ戸惑いの目で、その人物、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)を見上げた。
「お前が思いを曲げないでいいように、俺たちは戦おう。行け」
そう言葉を残し、イーオンはパートナーのアルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)、セルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)と共に、ティセラの元に向かう。
政敏が、ティセラの重い一撃で弾かれた途端、イーオンが火術で炎をティセラに放つ。
剣で炎を防ごうとしたティセラの右側に、アルゲオがバーストダッシュで回り込んだ。
「はっ!」
声を発し、アルゲオはティセラにライトブレードを振り下ろす。
ティセラがアルゲオの攻撃を防ぐために剣を上げた途端、イーオンがバーストダッシュで近づき、ドラゴンアーツによる強烈な一撃をティセラに浴びせる。
「あなたを倒す」
セルウィーは静かに言い、背後からバスタードソードをティセラの首を狙って打ち下ろす。
「く……っ」
ティセラは体を回転させて星剣を振るい、3人を打ち払う。
アルゲオの攻撃は命中せず、セルウィーの攻撃は軽くティセラの頬を裂き、イーオンの一撃でティセラはふらりとよろめいた。
「面倒ですわね、ほんと」
ティセラが笑みを浮かべて剣を振りかぶった。
攻撃に備えて、皆身構える。
背後には重傷者のいる小屋がある。
「多くの人々を救える力があるのに、使わずに見殺しにしたのが知れたら……きっと副団長はア……サジタリウスさんではなく自分自身を責めると思うよ……多分」
そう言ったのは葵だった。
サジタリウスの声、仕草を見ているうちに、ようやく葵も彼女が誰であるのか理解した。
サジタリウスは大きく目を見開いて、葵を見ている。
「せめ、る……」
自分自身を責めるという言葉が、印象的だったらしい。
「先輩が副団長が大切だという気持ちはよく分かります。もしも私が先輩の同じ立場なら、能力の解放はしたくないです……葵ちゃんを危ない戦いに巻き込むことになりますし……」
エレンディラは葵に心配げな目を向けた。
「副団長はきっと分かってくれるはず……厳しいけど優しい人だもん。私ならパートナーに嘘をつかれる方が嫌だもん」
葵もエレンディラに目を向けて、僅かに微笑んだ後、頷き合った。
「私はパートナーの葵ちゃんの望むことをさせてあげたいのです」
最後にエレンディラがそう言った。
2人の言葉は若干食い違っているようだったけれど、それは2人それぞれの言葉で、盲目的に頑なになっているサジタリウスに、自分視点ではなくパートナーの本当の気持ちを考えさせる言葉だった。
「先に合成獣だけでも!」
ズィーベンがサジタリウスを気にしながら、イルマにパワーブレスをかける。
「すまない。これで……!」
イルマが炎を吐く合成獣に盾を捨てて突進し、その喉に剣を突き立てて止めを刺す。
翼を生やした合成獣が再び、村人達に攻撃を加える。
「落とすよ」
ズィーベンが氷術を合成獣に放つ。
「あーもう、ウザイ!」
優子が、氷術により動きの鈍った合成獣に銃を連射し、片方の翼をようやく撃ち抜いた。
負傷しているクイーン・ヴァンガード達が体を引きずって歩み寄り、合成獣に止めを刺していく。
「先輩、どうす……」
その様子に吐息をついたあと、優子はサジタリウスに目を向けたが……そこに、彼女はいなかった。
「共鳴が消えましたわ。他の十二星華に、この村の聖像は持って逃げられてしまったようですわね」
ティセラが星剣を一閃した――。
○ ○ ○ ○
「は、放して下さい。……どう、して……っ」
サジタリウスは強引に手を引かれて、森の奥へと連れ込まれていた。
「戻らないと、犠牲者が増えてしまいます!」
「うちのパートナーの口癖だ。『顔も見えない他人のことなんて気にしてても始まらないよ』」
手を引きながらそう言ったのは
沙希だ。
サジタリウスが救護活動のみしているのなら、こんな方法を取るつもりはなかった。
だけれど、彼女が説得され、力を解放することには……納得が出来なかった。
自分もクイーン・ヴァンガードだが、沙希には『見知らぬたくさんの人よりも、たった一人の大事な人のほうが重要』であり、同じように大切なたった1人の人がいるサジタリウスの深層心理も同じであると感じていた。
「逆に考えるといい。君はパートナーが『大勢の人を救うために犠牲になる』言ってうれしいか?僕ならうれしくもない。全体のために個人が犠牲になれなんて間違ってる。そんな形で犠牲を強いるヴァンガードは間違ってる。間違ったもののために大事なものを捨てるな」
「わか、らない……。皆さんの言っていること、みんな正しいんだと思います。では、私が従うべきは何なのですか?」
サジタリウスが、沙希の手を振りほどいた。
「私はパートナーが大切です。今はパートナーが一番です。でも、昔の、捨てたはずの私は、女王様が大好きでした。ティセラさんは私達のリーダーでした。過去を受け入れて、力を解放したのなら、私は誰の意思に従うべきですか? 過去を捨てているから、今の私でいられるの、に……っ」
泣き出したサジタリウスに、沙希は「それでいい」と言う。
「過去は忘れていい。今の君として生きればいい。それを認めてくれる人も沢山いる。あの場にも」
サジタリウスは涙をぬぐって、頭を縦に振った。
「力は解放しません。私は今の私として出来ることをします。行かせて下さい」
頭を下げたサジタリウスの強い意思を信じて、沙希は手を放した。全て終わるまで、拘束しておくつもりだったけれど……。
「分かった。自分を犠牲にするなよ?」
「はい」
返事をしてサジタリウスは走っていく。
だけれど、ティセラの方には向かわない。
回り道をして村の中へと。人々を助けるために……。
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