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リアクション
第3章 資格無き者
「十二星華のティセラ、女王たる資格無し!」
藍澤 黎(あいざわ・れい)が大声を上げた。
村の傍を通りかかった黎は、逃げてきた村人から事情を聞き、十二星華のティセラと名乗る者が村を襲撃し、村長を脅していると知った。
村に入ってみれば、なんと……合成獣が、村人と共に暮らしていたと思われる狼や、村人達、家屋を襲い回っていた。ティセラ自身の星剣の力により、崩されたと思われる家や田畑もあるようだった。
そのティセラ本人が、崩れかけた村長宅から星剣ビックディッパーを手に姿を現す。
「ここにいるのは地球人ではなく、純粋なパラミタに生きる者たち。女王候補ならば、何故いずれ自らが治める国の民を傷つける」
黎がそう厳しい口調で問うと、ティセラは軽く笑みを浮かべる。
ただ、何も答えることはなく、周囲に目を向けている。
黎はとにかく時間が必要だと考えていた。
気を引かなければならないが、怒らせるべきでもない。
とにかく今は、避難にしろ、救援にしろ、決断にしろ、時間が必要なのだ。
「女王器にばかり執着し、其処に生きる命を蔑ろにするのが女王の勤めに相応しい者の在り方か! 断じて否!!」
更に厳しく黎が言い放つと、ティセラは吐息をついてこう言葉を発した。
「わたくしではない者の命に従っている者を、わたくしの民と言えますかしら」
そして、周囲を見回し、一方に向かおうとする。
「よぉお嬢さん、こんな辺鄙な所までかわいいペットちゃん連れてお散歩ですかぁ?」
目つきの悪い男が、合成獣を潜り抜け、ティセラの前に歩み出る。
「まぁったく、女王と聞けばあっちゃこっちゃ首突っ込んでとんだ尻軽女だなああんた。しかもさあ、こーんなちっけえ村をそんな大軍団で襲っちゃったりしてえ、大人げないっつかガキだ、ガキ。ケッツの青いしょんべんくせえガキ女!」
その男、東條 カガチ(とうじょう・かがち)が一気にまくし立てると、ティセラは怪訝そうに軽く眉を寄せた。
「つーか、女王なんてさっさとジャンケンやアミダクジか何かでとっとと決めちまえや。のどかな村をこんなにしやがって……何様なの乳女B。馬鹿なの? 死ぬの?」
もう一人、七枷 陣(ななかせ・じん)も多少距離をとった状態で、嘲りの言葉をティセラに投げつける。
「……地球人の俗語ですわね。参考になりますわ。女王になりましたら、地球の方々とどのような関係を築いていくのかも考えなければなりませんわね」
にっこりとティセラは微笑んで――途端、星剣を振るう!
激しい波動が迸り、カガチが吹っ飛んで民家の壁に衝突する。
「あ、ちなみにAはミルザムね。Aの方は一緒に戦った皆の断り無しに女王器を私物化して候補宣言。Bは何の罪もない村をボッコ。目くそ鼻くそを笑うじゃ、ボケ」
言って、陣は怯まず火術を連打する。
カガチも倒れた姿勢のままアーミーショットガンで、ティセラを攻撃する。
「うふふ、なるほど、ミルザムは意外と人望がありませんのね。その話、誇張してもっと広めたら面白いことになりそうですわ」
ティセラは星剣を振るい発生させた風圧で火術と弾を防ぎ、陣に向かって剣を振り下ろす。
波動が陣を襲うが、陣は火術の連打を終えると同時にバーストダッシュで建物の後ろへと飛んでいた。
ティセラの攻撃が民家の半分を倒壊させる。
陣は建物の裏でチャンスを窺い、カガチはふらりと立ち上がる。
「確かに、あの女王候補とか言う乳女もアレだがあんたも大概だなクソビッチ!」
そして再び罵声を浴びせると、ティセラは微笑みをカガチに向けてくる。
動揺はしていない、余裕の笑みを浮かべてはいる。
ただし、興味を引くことには成功していた。
「まって、怪我してる……」
立ち上がったカガチにパートナーの柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)が近づいて、ヒールをかけた。
微笑を浮かべながら、カガチに近づくティセラに、なぎこは少し悲しげな目を向ける。
「……ティセラおねえちゃんは、なんで一人なんですか? 剣の花嫁さんなのに、だんなさんいないんです?」
もう一度、ヒールをかけて、なぎこはカガチの腕をぎゅっと握り締めた。
「なぎさんは、カガチがいます。なぎさんはカガチのおよめさんなんだよ。なぎさん、まえのだんなさましんじゃって、おねえちゃんもいなくなっちゃって、一人だったんです。すっごくすごくさみしかったよ」
そう言った後、なぎこは目を細めて微笑みを浮かべた。
「でも今は、カガチもいるし、おねえちゃんにも会えたよ。なぎさん、もうさみしくないよ」
それからまっ直ぐに純粋な目をティセラに向けて問う。
「ティセラおねえちゃんは、さみしくないですか?」
「寂しくありませんわ。仲間は沢山いますもの。わたくしが女王になりましたら、あなたはわたくしの国の、いわばわたくしの剣の花嫁になりますのよ?」
微笑ながら、ティセラは剣を振り下ろす。
瞬時にカガチがなぎこを抱えて横に飛ぶ。
カガチの背に衝撃が走り、そのまま一緒に大地に叩きつけられた。
「AもBも、その行為も、女王を立候補する人間のする事か? あぁ?」
ティセラとカガチの間に多少の距離が出来た途端、建物の陰からファイアーストームが放たれる。陣だ。
ティセラはその場を離れ、微笑みを消さずに剣を振り上げる。
「ご理解いただけないのだから仕方がありませんでしょ? わたくしだって不本意ですのよ、こんなやり方はッ」
剣を振るい、炎を吹き飛ばし大地が捲れる。
大地の震え、溢れ出る力の波動に、恐怖の感情が湧き上がるも誰もその場を離れはしない。
「やめて下さい。降参します、村長さんが何といっても、降参です。皆さんの命がかかってますから! 攻撃をやめて下さい」
白旗代わりに白いハンカチを振りながら、少女、レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)が木陰から顔を出す。
「あなたの探している聖像はこれです!」
レロシャンは人形をかざしたかと思うと、そのまま空に放り投げる。
一瞬、ティセラがその人形に目を向けたその瞬間。
別方向からティセラに近づいていたエル・ウィンド(える・うぃんど)が光術を発動する。
まぶしい光を直視したティセラが目を閉じた。
「私の超絶レロシャン砲を喰らって生きていた人はいません……。これで終わりです!」
レロシャンが遠当てを発動する。
「信念に反するけど、仕方ない!」
エルはティセラの動きを封じるべく、氷術を放つ。
「その程度の攻撃、避ける必要もありませんわ」
ティセラは眩しげに目を開けながら、星剣で攻撃を防ぐ。
「……!」
途端。素早く、別の方向から極力音も立てず近づいたクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)が、身の丈程もある野太刀型の光条兵器でティセラを斬り付ける。
反応が遅れたティセラの肩から鮮血が飛び散った。
ティセラは光条兵器を手に、斜め後ろへと跳ぶ。
斬られた左腕を下ろし、右腕で柄を握り締め自分を庇うように星剣を構える。
クルードはクイーン・ヴァンガードとして、環菜の命令は聞いてはいたが、サジタリウスを無理に覚醒させて戦わせることに賛成できず、命令違反であることを承知で、救助は仲間に任せパートナーのユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)と共に、真っ先に現場に駆けつけた。
「……これ以上、犠牲者を増やすわけには……」
クルードが無茶を承知で光条兵器でティセラに斬り込んでいく。
目を眩ましと一斉攻撃の協力者を募っていたエルの案に乗って、一撃を加えることには成功した。が、一撃では退かせるには不十分だったようだ。
「ただの武力としてしか私達剣の花嫁を見られない。そんな人に、付いて行くつもりはありません」
ユニもまた、環菜の命令に抗う言葉を口にしながら、サンダーブラストを放つ。
村も守りたい、それからあの……自分と同じ作られた存在の剣の花嫁であるサジタリウスの想いもどうしても守りたくて。
「無駄なことを」
「……無駄では、ない……」
星剣を上げたティセラを、クルードが下方から斬り上げる。
ティセラが星剣を振り下ろす。ユニの魔法の力が全て弾かれる。
「そっちの腕の動きも止めさせてもらうよ!」
エルが星剣を振るうティセラの腕に氷術を連続して放っていく。
「……邪魔ですわ」
ティセラが星剣を振り上げ、波動が飛ぶ。
吹き飛ばされてクルードは窓をぶち破り、村長宅の中に転がり込む。
「……くっ……」
家の中には、血溜まりの中に伏している村長の姿があった。
「クルードさん」
ユニは大地に叩き付けられ、擦り切れた服、傷だらけの体になろうとも直ぐに立ち上がり、大切な人の名を呼ぶ。
「ボクの名はエル・ウィンド。女性とは戦いたくない。互いに怪我しているし、一旦退かないか?」
吹き飛ばされたエルも、傷を押さえながら立ち上がり痛みに耐え笑みをティセラに向ける。
「像を拝見しましたらね。この村に祭られている聖像の行方、ご存知ではありませんか?」
微笑ながら、ティセラが星剣を構える。逃げ惑う村人達の方向に。
「……すみませんが知りません。殺してしまったら情報が得られなくなりますよ」
エルは慎重にそう答える。
「聖像を拝見したいだけですのに。村長宅にあるとお聞きしていましたが、どなたかが裏口から持ち出したようですの。素直に見せてくだされば、犠牲を出さずにすみましたのに」
背後に力の接近を感じティセラは瞬時に剣を背の方向に振る。
毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)による遠当だった。
「其処のお嬢さん、暇なら我と踊らないかね?」
余裕が感じられる口調で言い、大佐は離れた位置からティセラに手を向ける。
「ガキ女のペットの襲撃で、聖像もろとも破壊されたようだなあ」
「また破片にしちまったのかぁ? ソレ馬鹿だし。マジで」
嘲りの口調で、カガチと陣は言いながら村人とティセラの間に立つ。
「さて、ダンスパーティのお相手をお願いしようか」
大佐が轟雷閃を放つ。
「そう。そうしてわたくしを足止めしてますのね」
にっこり微笑んでティセラは地を蹴って走り、剣を高く振り上げた。
「お待ち下さいティセラ様!」
大きな声が響き、怪我人の治療に当たっていた少女が一人飛び出してくる。
「お力、存分に拝見いたしました」
その少女、ナナリー・プレアデス(ななりー・ぷれあです)は手を組んで、陶酔しているような目でティセラを見る。
「わたくしはナナリー・プレアデスと申します。ご威光を放たれる剣の花嫁……。貴女様のお名前は?」
「あら、わたくしの名前を知りませんの? わたくしは十二星華のティセラ。覚えておきなさい」
「ティセラ様! わたくしに助力をさせて下さい」
ナナリーの突然の申し出に、ティセラは剣を振るうのを止めて、わずかに怪訝そうに彼女を見る。
「わたくしと似た容姿と口調。パートナーの剣の花嫁を遥かに超えるそのお力に強く惹かれました」
「ふふ……っ。勝手に手伝ってくださる分には構いませんわ。懐に入り込んで寝首を掻こうなどと、考える者がいるかもしれませんから、単純に仲間になりたいと申し出られても信用はできませんけれど」
余裕の笑みを漏らした後、ティセラは再び剣を振るった。
「ティセラ様から離れなさい!」
ナナリーは、ティセラに攻撃をしかけようとする者を星のメイスで狙っていく――。
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