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リアクション
「きゃーっ!」
「うわあああっ!」
突如悲鳴が響き渡る。
「獣が来ます! 落ち着いて、皆さん固まっていて下さい! 戦える者は外へ!」
少年の声が響き、裏口から村の人々がなだれ込んでくる。
逆に入り口からは契約者達が飛び出していく。
……サジタリウスは戸惑いの目を入り口に向けていた。
「自分自身の想いを大切に」
サジタリウスにそう言葉を残して、ナナは村人達の誘導に向かっていく。
「悔いのない答えを」
続いて声をかけたのは、ステラ・宗像(すてら・むなかた)だった。
白百合団の団員として、副団長神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)の指揮下で戦い、友として行動を共にしたことのあるステラには、茶色の髪に、眼鏡をかけたサジタリウスという少女が、いつも優子と一緒にいる優子のパートナーアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)の変装した姿であることが見て取れた。
ステラは偶然居合わせただけなので、彼女が何を悩んでいるのかは分からない。
ただ、クイーン・ヴァンガードと共に訪れた彼女が、戦うことに躊躇していることは理解できていた。
「反省することもあるかもしれませんが、後々も同じ事を選ぶ。そう言い切れる決断を」
「どう、動いても……後悔すると思うんです。何かを守ったら、何かが守れない、そんな状況、みたい、で……。どう、動けばいいのか、何をすればいいのか……パートナーがいないと、自分では決められない決められない、んです」
「なんだか分からないけど、あんたも契約者なんだよな? だったら戦うべきだ」
それは、グレイスの救助を手伝った後、怪我人を運んで訪れた温和の言葉だった。
「怪我人を癒すことも大事だが、怪我人を作らずにすむのならそれに越したことはない。死人も出ているこの状況で、力の出し惜しみをしている場合か!?」
次第に荒くなる言葉に、凄く困った顔をして。
だけれどサジタリウスは弓の形をした光条兵器を自分の体から取り出して、温和や契約者達に続いて外へと走る。
ステラと、ステラのパートナーのイルマ・ヴィンジ(いるま・う゛ぃんじ)、陳 到(ちん・とう)も外へと飛び出した。
「炎を吐く合成獣か。厄介だな」
カルスノウトを抜き、イルマは眉を顰めて前衛に出る。
口から炎を吐く合成獣がクイーン・ヴァンガードと交戦している。
既に何人かの隊員が炎に焼かれて倒れている。
「打ち倒すよりも、打ち払うこと。身を守ることが第一」
到は、サジタリウスと並ぶステラの後ろに立つ。
「空からも! いやああっ」
村人達が悲鳴を上げる。
翼を生やした合成獣が飛来する。
サジタリウスが弓を構えて光の矢を放つ。
矢は命中するが、それだけでは打ち落とせない。力が、足りない――。
「ティセラが来る、サジタリウス加勢を!」
血だらけのクイーン・ヴァンガード分隊長が駆けてくる。
サジタリウスは呼吸を荒げて、首にかけているペンダントを握り締めた。
そのペンダントには神秘的な輝きを放つ石が嵌められている。
「ティ、セラ……さん。わ、私……」
「私にはこの百合園の先輩がティセラとかを撃退できる力を持ってるなんて、全く思えないんだけど。つーか、何であんた達の十二星華や女王候補に頼まずに先輩に頼むの。おかしいから」
揺れるサジタリウスの前に出たのは、八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)だった。
サジタリウスというこの女性が、同じ学校――百合園の先輩であることは理解できていた。
「力を持っていようといまいと、先輩は先輩。力があるからって何かする必要はない」
死亡した人々、傷ついた人々を見て、優子も何も感じないわけではない。
だけれど、ここにいる百合園の先輩や学友達にもしものことがあったら、目覚めが悪い。
ましてこのサジタリウスという女性には戦いは凄く似合わない。戦いの場に駆り出されたのなら、誰も気づかないうちに、一人ひっそり命を落としそうなタイプに見えた。
「危険なことになりそうだし。出来ることやって、気がすんだら、怪我する前に帰るよ」
「わ、私……最後まで、戦います。……このままで」
「狐の獣人いないから、とっとと帰りたいんだけど」
ぶつぶつ言いながらも優子はサジタリウスの隣で空の敵に向けてアサルトカービンを撃っていく。
サジタリウスも弓を引いて、浮かび上がった光の矢を放ち、合成獣を傷つけていく。
「私には詳しいことは分かりませんが」
九十九が、サジタリウスの傍にそっと寄り添う。
「あなたがなんらかの力を所持していることは、周りの方々にはもう分かっているでしょう。勇気をもって、ご自身の道をお進み下さい……」
九十九はサジタリウスの額にキスをすると、天使の救急箱を手に、震える村人達の治療に走っていく。
「キャーッ」
村人から次々に悲鳴があがる。
クイーン・ヴァンガードの分隊長が倒れ、四足の合成獣が炎を吐きつつ飛び掛ってくる。
「この盾では自分を守るだけで精一杯だ。ステラは後ろに」
イルマはラウンドシールドで防ぎながら、前に出て合成獣にカルスノウトを叩き付ける。
ステラはサジタリウスと共にイルマの後ろに立ち、炎の攻撃の直撃を避ける。
「倒すだけなら、可能でしょう。多少の被害はやむを得ませぬが。ただ、十二星華が本当に来るのなら、村人を守りながら自分達の身をも守るのは無理ですな」
到がそうステラに言う。
ステラはただ頷いただけで、サジタリウスの傍から動かず決断を待っていた。
サジタリウスと優子は火のついた服を叩いて消して、再び武器を敵へと向けた。
上空に迫っていた合成獣は、村人達の方へと下降する。
サジタリウスと優子が攻撃するも、合成獣は足で村人を蹴り倒していく。
「やめて……っ」
サジタリウスの放った光の矢が、合成獣の足に命中すると合成獣は奇声を上げて再び空へと舞い上がっていく。
「誘導するから、落ち着いて!」
ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が、弾幕ファンデーションで弾幕を張り、空へ光術を放って、合成獣の目を眩ませる。
しかし一部の人々は制止も聞かず、ばらばらに森の中へ駆け込んでいく。
木に登らなければ、上空からの攻撃は防ぎやすくなるかもしれない。だが、火を放たれれば行き場を無くしてしまう。
多くの人々を守る難しさを契約者達は痛感していく。
「落ち着いてください。治療いたします!」
彩蓮が飛び出して、負傷し倒れている村人達に近づいて応急手当を施していく。
その間にも四足の合成獣が暴れ続け、炎を撒き散らしていく。
「……」
光学迷彩で姿を隠したパートナーの デュランダル・ウォルボルフ(でゅらんだる・うぉるぼるふ)がアサルトカービンで木陰から合成獣の足を狙うが、大した傷を負わせることは出来ない。至近距離から攻撃を加えるために、デュランダルは暴れる合成獣に接近する。
「こんなところに集まっていましたのね。……像はどこですの?」
遠くから声が響く。
ティセラだ。
ティセラを引き止めていたメンバーは、彼女の攻撃を受けて負傷した体で、呼び寄せられた合成獣、ティセラについた少女と応戦、それから重体状態の村長一家の治療に追われている。
他の契約者も村に残っている合成獣との戦闘、残された村人の誘導に追われており、援軍のクイーン・ヴァンガード達はバラバラに行動をしたため、隊として残ってはいない。
「時間は稼ぐから、逃げて欲しい」
緋山 政敏(ひやま・まさとし)が、ティセラを見据えたまま、サジタリウスにそう言う。
パートナーのカチェアから、サジタリウスという少女を頼むとだけ言われていた。
理由は知らないけれど、カチュアを支えてやりたいと思って彼女の言葉に従い、今、ここにいる。
多くを殺し、殺された過去を持っている政敏は、これ以上死ぬのも殺すのも見たくは無かった。
「ティセラさ……私、私、どうし、たら……っ、あ……」
途端、サジタリウスが持つ弓が僅かな音を立てた。
空気を震わす響き。
ティセラの方も立ち止まり、目を見開いている。
「い、いや……あ……っ」
サジタリウスが弓を抱える。
星剣が共鳴していた。
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