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これで夏ともおさらば? 『イルミンスール魔法学校~大納涼大会~』

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これで夏ともおさらば? 『イルミンスール魔法学校~大納涼大会~』

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第一章 あの手この手の納涼大会!


「さてと、誰がやって来るでしょうかぁ? 楽しみですぅ♪」
 放送室から校長室へと戻ったエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)は、とても上機嫌でニコニコしていた。
 これから生徒たちが、この茹だるような猛暑を吹き飛ばしてくれると考えると、自然にウキウキした気分になってきたのだ。
「まったく……こんな下らんことに生徒たちを巻き込むとはのぉ」
 パートナーのアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)は、深いため息を吐く。自分の子孫ながら、ここまでワガママで良いのか? と、呆れ返ってしまっていた。
 だが、エリザベートは見抜いていた。
「フンッ! 大ババ様こそ、本当は涼しくなりたいはずですぅ! 自分の力を使わず、快適に涼しくなりたいと思っているんですぅ!」
「ななななななななななな、何を言うのじゃいきなり!! 何を根拠にそんなことを――」
「根拠? そんなの、普段の大ババ様なら『納涼大会なんて中止じゃ!』とか言っているはずなのに、それを言わないのが何よりの証拠ですぅ!」
「ぐぬぬぬ……」
 エリザベートとアーデルハイトの間に火花が散ろうとした瞬間――
 コンコン。
「校長! 入るぜ!!」
 ドアのノックと共に、勢い良く校長室の扉が開く。
「校長! 聞いてくれ、俺はこの暑さにも耐える最強の防御魔法を発見したんだ!」
 転がり込むように校長室へ現れたのは、この猛暑日に何故かマジックローブとトレンチコートを一緒に羽織った春夏秋冬 真都里(ひととせ・まつり)だった。
「な、何なんですかソノ格好はぁ!? それに……なんだか、顔が真っ赤で汗だくですぅ。見てるこっちが暑苦しいですぅ!」
「じ……実は、さっきの放送を聞いてから全力でここまで走って来たんだ……ちょ、ちょっとだけ、息を整えさせてくれ」
 どうやら、真都里はエリザベートの放送を聞いた直後、急いでトレンチコートを羽織ってここまで走ってきたようだ。運動神経が死滅してる彼にとっては、自殺行為だった。
 それでも、真都里にはエリザベートに伝えたいことがあるらしい。息を整えた彼は、ゆっくりと口を開く。
「校長……はぁはぁ」
「全然、息が整ってないじゃないですかぁ! 変質者みたいですぅ」
「さっき言った、最強の防御魔法を教えるんだぜ……はぁはぁ。それは……『恋』なんだぜ……」
「はぁっ!? 何を言ってるですか、暑さで頭がやられましたかぁ?」
「俺は……アイツのためなら痛くないし……寒くもないし……もちろん、はぁはぁ……暑くもないんだぜ! だから、校長も恋をすれば――あ、ダメだ……暑さでだんだん意識が遠のいてき――ガハッ……」
 とうとう限界を迎えた真都里は、ついに倒れ伏してしまった。
 そして彼の顔は、暑さのせいなのか――それとも誰かを思ったせいなのか。茹ダコよりも真っ赤になっていた。
「もう、なんなんですかぁ! 勝手に恋だの何だの語っておいてぇ!! 倒れるなら、ソファの上で倒れとくですぅ!」
「わ……悪いな、校長……ガクッ」
 応接用のソファに乗った瞬間、真都里は力尽きてしまった。
 しかし、その顔は自分の想いに誇りを持つ漢の顔だったとかなんとか。

「まったく……涼しくなるどころか、余計に暑くなったですぅ!」
 実際、真都里の暑苦しさで校長室の温度はさっきよりも上がっていた。
「次こそは、誰か涼しくしに来て欲しいものですぅ!!」
 エリザベートが天にも祈る気持ちになった、まさにその時――
 コンコン。
「エリザベート、入るよ?」
 再びノックされたドアから入ってきたのは、榊 朝斗(さかき・あさと)と、パートナーのルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)だった。
「な、何しに来たんですかぁ? もう暑いのはこりごりですよぉ!?」
「ん? 何の話しかはよくわかんないけど、ホラ、これ食べてみて」
 警戒するエリザベートの前に、朝斗は小さなガラスの器を差し出した。
「な、何ですかこれぇ?」
 涼しげな見た目の器には、エリザベートがはじめて見る食べ物が入っていた。
「プリン……ってわけじゃなさそうですねぇ」
「これはね、水羊羹だよ。涼しくなりたいって言ってたから、急いで作ってみたんだ」
 朝斗は優しい笑みを浮かべ、エリザベートにスプーンを渡す。当のエリザベートはというと、生まれてはじめて見る水羊羹に興味津々なようだ。
「い、いただきますですぅ……」
 怯えながらも期待に満ちた様子で水羊羹を口に運んだエリザベートは――
「ん? あ、お……美味しいですぅ!! 甘くて冷たくて、初めての食感ですぅ! こんな不思議な料理、どうやって作ったんですかぁ!?」
 大満足だったみたいだ。
 その様子を見て、朝斗とルシェンもホッと胸を撫で下ろす。
「これはね、日本の伝統的なお菓子だよ。溶かした寒天に水飴とか砂糖を混ぜて作るんだ。本当は時間をかけてじっくり作るんだけど、急いで涼しくなりたいみたいだったからルシェンの火術で調理して、氷術で急速に冷やしてみたんだ」
「私は本当に手伝いだけで、ほとんど朝斗が作ったんだけどね」
 朝斗とルシェンが調理の説明をしてくれていたが、エリザベートは食べるのに夢中でほとんど聞いていないみたいだ。
 それでも、冷たくて美味しいというエリザベートの言葉に、二人も大満足だった。
「まだおかわりもあるから、どんどん食べていいよ」
「はいですぅ♪」
 
「ふぅ……美味しかったですぅ! この調子で、ジャンジャン美味しく涼しくなりたいですぅ!」
 朝斗たちが用意した水羊羹を全て平らげたエリザベートは、ご機嫌な笑顔となっていた。
 そして――
 コンコン。
「エリザベート、久しぶり〜。元気にしてた?」
 ノックの音と一緒に現れたのは、蒼空学園の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と、パートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)だった。
「美羽! 久しぶりですぅ。今日は何しに来たんですかぁ?」
「えっとね、イルミンの知り合いからクーラーが壊れてエリザベートが暑そうにしるって聞いたから、涼しくしてあげようと思って来たんだよね。ホラ、これどう?」
 美羽は持っていた紙袋の中から、Tシャツとミニスカートを取り出した。
「やっぱり、エアコンを使わずに涼しく過ごす方法といったら……クールビズが基本だよ」
「で、でもその服……何だかサイズが小さくないですかぁ?」
「ん? 大丈夫だよ。きっと、気のせいだから。ホラ、私と一緒に着替えよ?」
「わっ!? じ、自分で脱ぐから大丈夫ですぅ!」
 エリザベートは、何の疑いも無く美羽の用意した服に袖を通す。
 だがしかし――
「な、何ですかこの服はぁ!? やっぱり、サイズが小さいですぅ!?」
 完全に服を着終わってから、エリザベートは驚愕した。
「違う違う。サイズが小さいんじゃなくて、元々そういうデザインなんだよ♪」
「は、恥ずかしいですぅ!」
 美羽の用意した服は、白い太ももと、幼さの残る可愛らしいウェストが見える、超ミニのスカートと丈の短いヘソ出しTシャツだった。まさに、普段のエリザベートとは対象的な服だ。
「どう? 涼しくなった?」
「た、確かに涼しくなりましたけどぉ……!」 
 お揃いの服に着替えた美羽はどこか嬉しそうだが、当のエリザベートは、慣れない服のせいか普段より弱気になっている。
 と、そこへ、今まで事を静観していたベアトリーチェがやってきた。
「校長、私から一つ提案があるのですが」
「な、何ですかぁ!? もう、新しい衣装に着替えるのはナシですよぉ!? これが限界ですぅ!!」
「いえ、そうではありません。やっぱり、私はエアコンの風よりも、自然の風が一番涼しくて健康的だと思います」
「たしかにそのとおりですけどぉ?」
「そこで、提案なんですけど、校長室を一日だけ屋上に移動しませんか?  屋上は、枝葉が日陰になって、風通しがいいいですし。気持ちのいい自然の風を浴びながら、涼しくなれますよ?」
 ベアトリーチェの案はもっともだった。
 そしてそれに納得したエリザベートは、快く承諾する。
「わかりましたぁ、屋上に仮設校長室を建てましょう。ただ、今すぐにとはいかないでしょうから、設計は美羽たちに任せるですぅ。完成したら呼びに来て下さいですぅ」
 こうして、美羽たちの校長室一日移転計画がスタートしたのだった。