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賢者の贈り物

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賢者の贈り物

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Part,Present for you
 
「メリークリスマスですよー! ハルカさん!」
「メリークリスマスなのです、ののさん!」
 高務 野々(たかつかさ・のの)は手編みのマフラーをクリスマスプレゼントした。
「わ――! 素敵なのです!」
 ハルカは瞳を輝かせ、野々が首に巻いたマフラーを嬉しそうに見る。
「……もうひとつあるのです?」
「あ、これは……」
 色違いの、もう一つのマフラー。
「……一緒に……じゃなかった、新しいパートナーさんと使ってくださいね」
 いずれ近い内に、見つかるはずのパートナーと。
 そう言うと、ハルカはじっと野々を見つめた。
「どうしました?」
 マフラーと野々を見比べ、小さく首を横に振ると、ハルカは宣言した。
「ののさんにも、ハルカがマフラーを編むのです!」
「えっ?」
「お揃いのマフラーなのです」
「え、でも、今からじゃ、もうクリスマスは終わってしまいますよ?」
「……それじゃ、ののさんの誕生日に贈るのです」
 張り切るハルカに、野々は、自分は春生まれなのでマフラーは必要ないのですとも言えない。
「ハルカちゃん、それより先に、タカツカサさんに、クリスマスプレゼントを用意していたんじゃないですか?」
 苦笑しながら、ヨシュアが口を挟む。
「え、私にですか?」
「あ、そうなのです」
 思い出したように、ハルカは小箱を野々に渡した。
 開けてみると、中に入っていたのは、フェルト玉で作った、小さなマスコットだ。
 小さいながら、茶色の髪にメイド服を着ているそのマスコットは、誰かを強く連想させる。
「これ、私ですか?」
「そうなのです」
「嬉しい……大事にしますね」
 両手で抱きしめるようにすると、ハルカも嬉しそうに笑う。

「博士へのクリスマスプレゼントは、何にしたんですか?」
 訊ねると、ハルカは表情を曇らせた。
「……何かお困りですか?」
「プレゼントは、決まらなかったのです」
「そうでしたか……」
 野々もオリヴィエ博士のことはよくは知らない。
 スキルを行使すれば、欲しいものくらいは察することはできそうだが、心を込めたプレゼントとは、そういうものではないだろう。
「そうですね、ハルカさんが、普段の博士を見ていて、渡したいな、って思ったものを、心を込めて渡すのが良いのです。
 どれだったら嬉しい、っていうのは、ないんですよ」
 私だってハルカさんが心を込めてくれたものなら何でも嬉しいし、ハルカさんだって、そうでしょう?
 そう言うと、はいなのです、と頷く。
「ハルカは」
 小さく笑って、ハルカは呟いた。
「はかせが、幸せになるものが、あげたかったのです」
「……ハルカさん……」
 ハルカはすぐに、気を取り直すように笑った。
「もうちょっと考えてみるのです。ののさん、ありがとうなのです」
「どういたしまして」
 野々も笑顔を浮かべて言った。


「ハルカさんっ。私からのプレゼントも受け取ってもらえますか?」
 ソアが渡したものは、携帯ストラップだった。
「くまさんなのです!」
 ハルカは目を輝かせた。
 パートナーのゆる族、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)のフィギュアがついた、ハルカのネーム入りの携帯ストラップだ。
「これでいつでも俺様が側についてるぜ!」
 ストラップのフィギュアと同じ表情でニヤリと笑って、ベアが親指を上げる。
「ハルカも、プレゼントがあるのです」
 早速ストラップを携帯に付けた後で、ハルカは小さな箱を、一つずつ、2人に渡す。
 中に入っていたのは、フェルト玉で作ったマスコットだ。
 ベアに渡されたものは、多少いびつだったが。
「くまさんは、ちょっと難しかったのです」
「気にすんな。手作り感溢れてて、これはこれでアリだ!」
 サンキュー! と言うと、ハルカはほっとした。
「嬉しいです。ありがとう、ハルカさん」
 ソアも笑顔で礼を言った。
「……時にハルカ、博士へのプレゼントに迷ってるんだって?」
「そうなのです……」
 ベアとソアは顔を見合わせる。
 よし、ここは相談に乗ってやろう、とあれこれ考えた。

「一緒にお茶するのに、ティーカップなんてどうだ?」
「ティーカップ」
「あとは、本を読む時に、ひざ掛けとかな」
「ひざ掛け……」
 ハルカはふむふむと熱心に聞き入る。
 そして、その後では、イルミンスールのことなどで話の花を咲かせた。
 ソアが語って聞かせるイルミンスールの近況を、ハルカは嬉しそうに聞き入る。


 葉月 ショウ(はづき・しょう)の小人の鞄から、サンタ衣装の小人達がわらわらと走り回り、ルカルカ・ルーからのクリスマスプレゼント、わたげうさぎと追いかけっこをして、ハルカを喜ばせている。
「それにしても、もう1年以上もここに住んでるんだよな……引っ越すあてはないのか?」
「まあ、以前と同じような家を建てるには、それなりの建築費が掛かるんでしょうが……。
 それ以前に、博士のあの呑気すぎる性格を何とかしないといけないのかも」
 ヨシュアは溜め息を吐く。
 以前住んでいたのは、屋敷と呼んでもいいくらいの規模だったから、それと同等、となると、先立つものが必要になるのだろう。
 だがヨシュアによると、どうもオリヴィエ博士は、家を建てることに、それほど意欲が無いようなのだ。
「必要無いと思っているのかも」
「必要なくはないだろ……」
 ショウは、ヨシュアの苦笑に呆れる。
「そういや、まだ、運命の出会いってやつは無いのか?」
 仕方が無いので、話を変えた。
 ヨシュアは再び苦笑する。
 ハルカがオリヴィエ博士と同居するようになってから、2人を放って出掛けるのは不安で、自分もここに居付くようになっている。
 パートナー探しは保留になっていた。
「ハルカと契約するのが一番手っ取り早いと思うけど……」
 それを聞いたショウは首を傾げる。
「やっぱり、お互いピンと来るものが無いのか?」
「そうですね」
 ハルカの方にも、ヨシュアと契約するという考えはないようだ。
「博士にも、『君はつい人の面倒を見てしまうから、パートナーは対等な立場で、相棒と思える人を選ぶといいよ』と言われて、なるほど自分でも、そういうのがいいなと……」
「そんなの、パートナーじゃなくても、仲間を探せばいいじゃんか」
 それ以前に、博士あんたがそれを言うかとショウは呆れたが。
 あれこれと心配するショウと、苦笑しつつも応じるヨシュア。
 何だかんだで会話が弾んでいた。


「そういやあ、気になっとったんじゃが、博士の師匠ちうのはどういう人じゃったん?」
 光臣翔一朗は、酒の肴に話題を振った。
 旧シャンバラ王国で宮廷魔導師をしていたと聞いた。
「ミスリル製の財布持っちょるとか……前にも色々あったんは、みな師匠の遺産じゃあなぁじゃろか」
 現代のシャンバラには存在しないようなものを、彼は持っていた。
 女王器などというものまで。探せば他にも色々あるのではないだろうか。
「……まあ確かに、何処かの遺跡もかくやという感じだったかもしれないね。過去形だけど。
 今は殆どさっぱりしたものだよ」
 何しろ、家ごとまとめて潰されてしまったのだ。
 どんちゃん騒ぎを逃れた隅の方の席で、ひっそりワインを飲んでいるオリヴィエ博士を捕まえて訊ねた翔一朗に、彼は肩を竦める。
「師匠は……ちょっと偏屈だったかな。いい人だったけれど」
「……」
 人となりを聴きたいわけではなかった。
 実を言えば師匠のことよりは、博士本人の過去を訊きたかったのだ。
「……博士って、よく考えたら、何や、凄い人なんかのう?」
「凄くなんかないよ」
 ぷっ、と博士は笑う。
「……その辺の、よくあるつまらない過去しか、持ってはいない」
 その後は、どこか曖昧な会話にしかならなかった。


 酔いつぶれてしまった面々に高務野々が毛布をかけて回り、まだ意識のある者は寝台客室へと追いやって、ちらりとまだ続いている面々を見やってから、彼女もあてがわれていた部屋に引き上げて行く。

「以前、月夜を通じて言ってくれた言葉があったでしょう。
 そのお礼を言おうと思ってました」
 樹月刀真の言葉に、オリヴィエ博士は、ああ、伝えたんだね、と、横に座る月夜を見やる。
 闇の反対側には、光。
 そうオリヴィエは伝えたのだ。
 濃い闇に捕らわれていると思ったなら、振り向いてみればいい、と。
 だが、刀真が、幸せを得る為にその光に手を伸ばした時、その手は血に塗れているのだった。
 それ迄奪った命とそれに付随するはずだった未来、己の罪が、光に手を伸ばすことを許さない。
「……けれどこの生き方を変えることはできない。
 贖罪の時まで、その罰が己の死だとしても、俺は敵を屠り続けます」
 月夜は、じっとその言葉を聞いていた。
 同じように黙って刀真の話を聞いていたオリヴィエが、自分を見ているのに気付く。
「君はどう思う?」
「……刀真は色々難しく考えすぎよ」
 月夜の答えに、博士はくすりと笑った。
「大丈夫みたいだね」
 そして、半ば眠そうに、どこへもメールも電話もしないのに、ずっと携帯電話を、というよりはそのストラップをいじっているハルカを見た。
「君はどう思う?」
 声を掛けられて、ハルカは顔を上げる。
 刀真と博士を見比べて、にこ、と笑った。
「とーまさんは、ハルカと、おじいちゃんを助けてくれたのです」
 きっとこれからも、色んな人が、とーまさんに助けてもらえるのです。
 ハルカの答えに、博士はくすりと笑う。
 ほら、と、月夜は思った。
 ほら、罪だけじゃないでしょう。
「……私はね」
 博士が呟く。
「君が、私のようにならなければいいと思うよ」
「……?」
 刀真は眉を寄せる。
「……どういう?」
 訊き返されて、肩を竦めた。
「今日はよく口を滑らす日だなあ」
 何度も過去を訊ねられたりしたからかな。
 苦笑しながらそう言って、それ以上は何も言わなかった。



 そして、クリスマス当日の朝。
 いつの間に誰に運ばれたのか、ハルカはベッドで目が覚める。
 枕元にピンク色の箱が置いてあった。
「むにゃ?」
 箱を開けてみて、ぱちりと目が覚める。
 中にあったのは、サーモンピンクのリボンをつけたツインテールの女の子の編みぐるみマスコットだ。
 ブルーズ・アッシュワーズからのクリスマスプレゼントだった。
 ふにゃ、とハルカは微笑む。
「……メリークリスマスなのです」