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軍人に恋愛など必要なーい!

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軍人に恋愛など必要なーい!

リアクション

 19:05

 アンデッドが校内を徘徊しているという知らせがあってすぐ。
「もうちょっと早く言って欲しかったね!」
 水着にロングコートという涼しげな格好にも関わらず吹き出る汗を拭って、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は吐き出した。
 背中合わせに、やっぱりレオタードにロングコートのパートナー、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、GIAT ファマスG2 SMGモデルを返事代わりに発射した。
 パラパラパラと豆が発射されるが、相手は何も応えない。当然だ、敵はレイス。幽霊なのだ。
「やはり意味はない、か」
 今度は銃身を握り、打ちかかる。避けようとするところを見ると、全く意味をなさないわけではなさそうだが、掠ってもやはりダメージはない。
「ちょっとセレアナ、これってもしかしてひょっとして、ピンチ?」
「もしかしなくても」
 モテない奴らの僻みって嫌よねー、サイテー、なら豆撒き組を殲滅させてやれ! とばかりに参加したセレンとセレアナの所属は歩兵科だ。人間相手ならいかようにでもドンとこい! なのだが、幽霊が相手では勝手が違う。
 彼女たちの持つスキルは、全て武器を介したものなのだ。物理攻撃が効かない相手にどうすればいいのか、二人は途方に暮れた。
 背中合わせのまま、敵でも味方でもいい、誰か通りがからないかとじりじり移動していく。やがて階段に出た。
「セレアナ」
 セレンが目配せする。ここで二手に別れれば、レイスはどちらかを追う。つまり一人は助かる。
「あたしが引き付けるから行って」
「馬鹿言わないでよ。引き付けるなら、私でしょ。攻撃は出来なくても、防御力を上げるなら、私のスキルの方が役立つんだから。時間稼ぎになるし」
「何を言ってるの! セレアナのスキルじゃ、守るだけでしょ! 逃げるならあたしのほうがいい!」
「駄目よ!」
「あーお二人さん、全員で逃げるのはなしか?」
 ハッと二人は階段を見上げた。踊り場で、亮司がこちらを見下ろしている。
「残念ながら、俺も魔法系のスキルは持たないんだが、逃げるなら力を貸すぜ」
 赤の腕章……味方だと分かり、ホッとする。この状況ならどちらでもいいが、それでも敵よりずっといい。
「お願い!」
「了解。あんたらもなんかやれよ?」
 亮司は【弾幕援護】を張った。使ったのは豆鉄砲だが、それでも足止めには十分だ。レイスは三人の姿を、一瞬見失う。
「無理かもしれないけど……食らえ!」
 セレンが【クロスファイア】を使った。炎に包まれた豆が勢いよく飛んでいく。オオォォォン……と泣き声のような、不気味な音がした。だが、レイスが消えたとは思えない。
 セレン、セレアナ、亮司の三人は階段を駆け上がった。追ってくる様子はない。下に行ってくれたのかもしれない。
「ありがとう、助かったわ」
 セレアナが手を差し出した。
「いやいや、あんな化け物相手じゃ、ひょっとして死ぬかもしれないからな。さすがにやりすぎだと思うし」
「豆撒き組の仕業かしら?」
「そんな力を持った奴ら、いないと思うけど」
「まったくもうっ、モテない奴の僻みってこれだから!」
「うん、俺もそう思う。でも」
「え――?」

 パシパシッ!

 大豆が二発、セレンとセレアナの額に当たった。
「ハイ死亡。ゲームはゲーム。退場してくれよな?」
 亮司はにっこり笑った。


 19:10

 アンデッド侵入の知らせを受け、クレーメックは仲間に探索の指示を出した。音楽室で待っていればいいと思っていたゴットリープは、泣きそうだ。何が嫌だって、敵である鬼組が所謂リア充であることだ。記憶にある限り、生まれてこの方モテたことのない身としては、そんな希望に満ち溢れた連中を見るのは、正直辛い。
「そんなウジウジしているから、モテないのよ」
 容赦のない言葉が、ゴットリープを突き刺した。水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)少尉だ。
「ひ、酷いですよぉ〜。僕だって、一度ぐらいチョコ欲しいし、彼女だって」
「何じゃフリンガー殿、ギリギリチョコも貰ったことないのかの?」
 更に傷口を抉ったのはゴットリープのパートナー、天津 幻舟(あまつ・げんしゅう)だ。ヴァルキリーだが、かなりの高齢である。
「失恋の十回や二十回で大袈裟な事じゃのう。若者は苦労を重ねて少しずつ大人になっていくものじゃ」
「……です」
 ぼそりとゴットリープが何か言った。
「何じゃ?」
「二十八回です……」
「あら、その年で三十回も」
「違います! 二回も足りない!」
 ゆかりの言葉にゴットリープはコンマ何秒で反応した。
「可哀想だからカーリー、義理チョコあげたら?」
と言ったのは、ゆかりのパートナー、マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)だ。
「嫌よ」
 即答した。ゴットリープはまた涙目になる。
「何がうざったいって、毎年毎年の意味のない義理チョコほどうざったいものはないのよ! モテないならモテないで、潔く諦めりゃいいのよ! モテないんだから!」
「フリンガー殿?」
 ゆかりの言葉にいたく傷ついたゴットリープは、壁に向かってぶつぶつ何か呟く。
「やれやれ。失恋の痛手から立ち直るのは骨じゃからのう。フリンガー殿、ストレス解消ならこの婆が付き合いますぞえ?」
 幻舟はゴットスリープの腰を押しながら、無理矢理歩かせた。
「まったく……どうしてモテない奴ってのは、ああなのかしら」
「まったくよね!」
 ゆかりの言葉に相槌を打ったのは、マリエッタではなかった。廊下の角からひょっこりと胸の大きな女性――ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が顔を出した。
 わっ、とその胸にゴットリープの目が釘付けになる。若いというのは、いいもんじゃのう、と玄舟は思った。
「モテないにはモテない理由があるの! だからってモテる人を恨みに思うのは間違いだと思う!」
「それ、フリンガーに直接言ってあげてくれます?」
「いいよっ。フリンガーさん、あのね、ルカは真一郎さんが大好きなの! でもね、あなたも頑張れば真一郎さんの次ぐらいにはカッコよくなれるかも! そうしたら彼女が出来るかも!」
 ゴットリープ、二十九回目の失恋。
 ――いや、それよりも。
「カーリー! そいつは敵よ!」
 マリエッタはほとんど条件反射的に、デザートイーグルとオートマグを持ち上げた。
「ルカルカ!」
 男が叫んだ。【バーストダッシュ】でルカルカの身体を掴み、その場から離れる。勢い余って壁に激突したが、つい今までルカルカがいた場所には、マリエッタの豆が撃ち込まれていた。
「真一郎さん!」
「ルカルカ……無事ですか」
 顔面を真っ赤に腫れ上がらせながら、鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)は恋人を見た。
「ルカは大丈夫。――よくも真一郎さんをこんな目に!」
 ルカルカの目が燃えた。
「……神様、僕の周りはどうしてこんなのばっかりなんでしょうか」
 ゴットリープは天を仰いだ。


(一体、あいつは何なんだ……?)
 ニーナとスタンリーを討ち取った剛太郎は、ゴーストを追っていた。
 ゆらゆら動くわけの分からないそれが、放送で注意されたアンデッドであろうことは剛太郎にも分かったが、一体誰が何の目的で放ったのか、興味を持った。
 そこで追跡を始めたのはいいが、こいつは目的もなしにフラフラしているだけだ。
 肉体のある相手なら倒すことも出来るが、相手は文字通りゴーストだ。それでも味方がいれば相談も出来たろうが、剛太郎は葦原明倫館の生徒だったため、それも無理だった。
 だが、予測不可能の事態は戦場ではままあること。実際の戦闘でアンデッドを相手にすることもあろう。とにかく追ってみることにしたわけである。
 何かいるな、と思ったのは生物室の前を通ったときだ。蝿か、それより大きな虫が飛んでいた。それが少しずつ増えてきた。何だこれは――と思ったときは遅かった。
 虫の大群は剛太郎の周囲を羽音を立てながら飛び回った。払っても払っても寄ってくる。即応予備自衛官の剛太郎は、虫には慣れているはずだが気味が悪かった。
「うわぁ……」
 遂に声を上げたとき、廊下に置かれた掃除用具ロッカーが開き、顎に一発食らった。
「ようやく一人か。場所が悪かったかな?」
 松平 岩造(まつだいら・がんぞう)が額に豆を撃ち込んでも、剛太郎は気絶したままだった。