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リアクション
イルミンスール大図書館、深部――
「暑い……暑いのですぅ……」
暑さに苦しむエリザベートの姿がそこにあった。
「何か……何か方法はないの? このままじゃエリザベートちゃんが……」
「やかましい! 今それを探しておるのではないか!」
明日香に対してさえ怒鳴り散らすアーデルハイト、それだけ余裕がないのだ。
現場には悲壮感すら漂っていた。
「アーデルハイト様、至急お見せしたいものが……」
感染を防ぐ為か、防護服とマスクで物々しい姿の人間がやってくる。
ミリー・朱沈(みりー・ちゅーしぇん)とフラット・クライベル(ふらっと・くらいべる)の二人だ。
「おや、あれは……」
二人が持ってきた物体にクロセルが怪訝そうな表情をする……見覚えがある、と言うか、先程まで彼が持っていた物体だ。
「ん? なんじゃそれは……虫か?」
しかしアーデルハイトにとってそれは、はじめて見る物体だった。
芋虫を思わせる形をしたそれを、興味深そうに観察している。
「はい、これは……おっと……」
ミリーはそれをわざとらしく取り落とす……
アーデルハイトがとっさにキャッチすることを見越して軌道もバッチリだ……
予想通り、アーデルハイトは落下中のそれを掴み取った、その瞬間……
ぽふっ……
アーデルハイトががっちりと掴んだそれ……パラミタ杉の花から、黄色い煙が噴出した。
「けほっ、けほっ……なんじゃこれは……なにやら目がかゆ……くしゅん!」
……見事にコッポルン病の症状だった。
「大変、アーデルハイト様までコッポルン病に?!」
「いったいどうすればいいんだ!」
中心人物の感染に対策本部の一同に動揺が走る……すっかりパニックだ。
その最中……騒ぎになった隙に逃げ出すミリーとフラット。
マスクと防護服を脱げば、もう誰にもわからないはずだ。
「あのアーデルハイトでも、コッポルン病にかかるんだね」
「ひょっとしてぇ、このまま死んじゃったりして」
「まさか、ないない」
「だよねぇ……ふふっ」
無邪気に顔を見合わせて笑う二人……作戦は大成功だった。
一方、対策本部では……
「ええい、静まらんか! これくらいたいしたこ……べぅくしっ! うぅ……」
「アーデルハイト様、ティッシュをどうぞ」
「おお、すまんな……」
すかさずティッシュを差し出す風森 望(かぜもり・のぞみ)……その口元が歪んだように見えた。
(ふふ……これはチャーンス!)
「アーデルハイト様、ご安心ください、必ずや有効な治療法を見つけて見せますわ」
たしか〇▽書房の本にはいかがわしい治療法が掲載されていたはず。
そのことごとくを利用すれば……望の心が踊った。
ちょうど良くそこへ、妖しいジェル薬を持ったコトノハが駆けつけてくる。
「出来ました! このジェル薬を全身にくまなく塗れば、コッポルン病を治せるはずでしゅっ!」
さっそく半裸で寝かされているルオシンに跨るコトノハ。
「うぅ……コトノハ?」
「すぐに良くなるでしゅよ、ルオシンしゃん」
自らの身体を使ってジェルを塗りつけるコトノハ。
「いや、なにもそんな塗り方……はふぅ……」
「この本の指示に従ってるだけでしゅ、この塗り方じゃないとダメなんでしゅ」
彼女が持ってきた〇▽書房の本……その薬の使用方法が書かれたページには図解入りでこの塗り方が書いてあった。
「……素晴らしいわ! ささ、アーデルハイト様も早く治療しなくては……」
そんなコトノハに賞賛の声を送る望……もちろんアーデルハイト相手に実践するのが目的だ。
一瞬で脱衣を済ませ、アーデルハイトを押し倒す。
「な、なにをする……わ、わしならもっと後でも……」
「いけません、アーデルハイト様はこの事態を収める為に欠かせぬお方……優先的に治療を受ける義務があります」
「じゃ、じゃが、この方法は……はうぁっ!」
「ふふっ、残念ですがこうする他に手段は……ああ……こんなのもありましたね……ん……」
「!!」
アーデルハイトの唇に吸い付く望……かなりディープな口付けだ。
その手には〇▽書房の本……ご丁寧に付箋が張られたそのページには「病原体を口から吸引する方法」が、やはり図解入りで書かれていた。
「!! エリザベートちゃんには、わ、私が……」
その光景を見た明日香はエリザベートの治療に名乗り出る。
……間違っても他の人間にこんなことをさせるわけにはいかない。
ぎこちない動きでエリザベートに跨る明日香。
「明日香? 大丈夫なのですぅ?」
「はいっ! エリザベートちゃんのく唇は私が守るですぅ!」
「さすがにあれはやらなくていいと思うですぅ……」
ディープなのを見せられた直後なだけあって、つい唇を意識してしまう明日香だった。
「あの……ボクの治療は? ……はくしゅっ!」
おずおずと尋ねるカレンだったが、各々治療に夢中でそれどころではないらしい。
治療という名目で繰り広げられる狂行に、むしろターゲットとして狙われなかった事を喜ぶべきなのか……
複雑な心境のカレンだった。
と、そこへやってきたのは……
「アーデルハイト様、パラミタ杉による花粉症の被害が……な……何をやってるのですか?!」
蔓延する花粉被害の相談にやって来たトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)と本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は目の前に広がる妖しい光景に絶句してしまうのだった。
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