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世紀の奇病、コッポルン――

「くしゅん、くしゅん……」
「月夜……大丈夫か?」
 どうやら彼女も花粉症に罹ってしまったらしい。
 くしゃみを繰り返す漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)樹月 刀真(きづき・とうま)が心配そうに覗き込む。
「うん大丈夫……でも……ちょっと暑い……かな……」
「こういう時は水分を摂った方が良いな……」
 自販機でもないかと周囲を見回す刀真……と同時に月夜は服のリボンを解いていた。
(うん……刀真しかいない……大丈夫……)
 他の人間同様に暑さから服を脱ぎ始めているのだ……下着姿になると、今度はブラにまで手をかける。
「見当たらないな……月夜、もう少し我慢して……月夜?! お前、何脱いでんだよ?!」
 慌てて月夜に自分のコ−トを着せる刀真、だが月夜はすぐにコートを脱ごうとする。
「刀真……暑いよ……」
「我慢しろ」
「でも……」
 なおも抵抗を続ける月夜に、刀真は提案を持ちかける。
「じゃあこうしよう……このコートを症状が落ち着くまで着ていたら、お前にやる、だから今は耐えてくれ」
「これくれるの……ホントに?」
「ああ……でも途中で脱いだらアウトだ、いいな?」
「うん……がんばる」
「よし、花粉症の薬くらい、どこかにあるはずだ……一緒に探そう」
「……うん」
 月夜の手を引いて歩き出す刀真……その前方から、誰かのくしゃみが聞こえた。

「ふぁ……くしゅっ!」
 ミア・マハ(みあ・まは)レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)の二人は図書館に向かっていた。
「うぅ……鼻がムズムズする……レキ、ティッシュをもらっていい?」
「はい……」
 どこかおどおどした様子でレキがティッシュを差し出す……
「ありがと……」
 ちーんと鼻をかむミア。
「ふぅ……これは早くなんとかしないといけないわ……って、レキ?」
 ……なでなで。
(か、可愛い……)
 レキはミアの頭を撫でていた……
「ちょっと、何してるのよ?」
 レキから逃れるように距離を取るミア……まさかレキに別の症状が? と警戒する。
「あ、ごめん……女の子っぽい口調のミアがなんか可愛いくて……つい……」
「な、なによ……口調くらいで……」
 じと目で睨んでくるミア、しかしその顔は赤くなっている。
 普段と口調が違うというだけで、お互いになにか照れくさいものがあるようだ。
「くしゅん! ……とにかく、今はこの状況をなんとかするわよ!」
 そう言ってミアが踵を返した先……曲がり角の向こうから、月夜の手を引いた刀真が現れた。
「わわっ!」
 ぽふっと刀真にぶつかるミア。
「うぅ……メガネメガネ……」
 ぶつかった拍子に眼鏡を落としてしまったらしい。
「レキ、眼鏡探すの手伝いなさいよ」
「ああ、やっぱり可愛い……ひょっとして、これが萌え?」
 その場で微笑むレキ……落とした眼鏡を探す姿まで愛らしかった。

「はい、どうぞ」
 萌えているレキの代わりに、眼鏡を拾って手渡す刀真……その後ろで月夜がくしゃみをする。
「ありがとう……そっちの子もやられてしまっているのね?」
「ええ、どこかで薬が手に入ると良いのですが……お二人は?」
「薬? 確かに薬でもあれば良いのだけど……私達は図書館に行く途中よ、アーデルハイト様がいるらしいし……」
「なるほど、あの方なら色々と詳しそうです……薬についても知っているかも知れませんね」
 幸い、図書館はここから程近い……刀真と月夜はミア達に同行することにした。


 その頃、図書館では……

「コッポルン病……なんと恐ろしき病よ……」
 書物……〇△書房の本ばかりだ……を高く積み上げ、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)は、いつになく真剣な表情を浮かべていた。
 そこにジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が駆けつける。
 その手にはやはり〇△書房の本が握られていた。
「アーデルハイト師、ここの記述をご覧下され!」
「なんじゃ? ……!!」
 本の記述に目を通し、アーデルハイトは驚愕する。
「コッポルン病は空気感染する……じゃと……」
「あ、アーデルハイト様……ボク……その……くしゅん!」
 そこへ遅れてやってきたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)……彼女は目をこすりながら、くしゃみを繰り返していた。
 その症状は、まさしく……
「!!」
 既に感染者が……事態は一刻の猶予もない。
「アーデルハイト師!」
「わかっておる! これ以上の被害を出してはならぬ! ジュレール、まずはこの図書館を封鎖せよ! 校長室の明日香にも連絡を取るのじゃ」
 アーデルハイトの命を受け、駆け出していくジュレール、この状況では機晶姫の彼女が頼みだ。
「カレン、すまぬがお主とエリザベートは奥で隔離措置じゃ」
「はい……」
「すぐに治療法を見つけるゆえ、辛抱せよ」
 有効な治療法が見つからなければ、何名の命を落とすことになるか……アーデルハイトの頬を冷や汗が伝う。
 と、そこへ……
「アーデルハイト師、すぐそこで新たな感染者とおぼしき者を二名、発見……」
「なんということじゃ……」
 被害はどこまで広がっているのか……しかし捨て置くわけにはいかない。
「その感染者達……なにやら抵抗をしている様子、如何に致しましょう?」
「むぅ、感染者はここでおとなしくしてもらうしかあるまい、わしも手伝おう」

「月夜たちはただの花粉症なんだ、信じてくれ」
「ミアはどこも悪くないよ、むしろ可愛いじゃないか」
 ……新たな感染者として確保されたのは、ミアと月夜だった。
 刀真とレキ……抵抗した二人はアーデルハイトらに取り押さえられ、感染の疑いが強いということで一緒に隔離されることになった。

 そして、新たな感染者がここにも一人。
「くしゅん! く……くしゃみが止まらない……」
 ルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)は止まらなくなったくしゃみに悩まされていた。
「ルオシンさん……どうしたんですか?! まさかコッポルン病?!」
 そんなルオシンの様子にコトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)はその病気のことを思い出す。
 コッポルン病:致死率100%、確実に死をもたらす……
 だが彼女が持つ〇△書房の本には、その治療薬が書かれていたはずだ。
「大丈夫れす、ルオシンさんは私が必ず助けてみせましゅ!」
 ぐっと拳を握り締めるコトノハだった。


 パラミタ杉による花粉症に加え、謎の奇病コッポルン病。
 ……それらがまったく同じものと知らないまま……
 イルミンスールの人々は、双方の対策に追われることになったのである。