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リアクション
第二章 試合
「それでは、選手は各陣営へ」
葛葉 翔(くずのは・しょう)の審判の笛が高く吹かれる。翔の合図で蒼空学園、イルミンスール魔法学校の生徒達がきびきびと騎馬を組み始める。
「やぁ、みんな!こんにちは!ここから実況を担当させてもらう無限大吾だ!さあ、ここで騎馬が組まれ始めたぞ」
ステージに隣接するように建てられた実況席から無限 大吾(むげん・だいご)の声が。競技場からはその拡声された声が広がる。大吾は蒼空学園の青い鉢巻を頭に巻いている。
「解説の千結だよ〜。よろしくなんだよ〜」
大吾の隣にチョコンと座っているのは廿日 千結(はつか・ちゆ)だ。彼女はイルミンスール魔法学校の緑の鉢巻を巻いていた。
「さて、千結さん。どちらが勝つと思われますか?」
「ん?どっちの学校が勝つかって?それはあたいにもわからないんだよ〜。使用出来るスキルは一個だけだから、新入生も上級生とほぼ互角と言っても過言じゃないんだよ〜」
「なるほど」
「となると勝負を決めるのは作戦と熱意、あとは時の運…どっちが勝ってもおかしくないんだよ〜。だからこそ、白熱したいい試合を期待するんだよ〜」
「そうですね、両校の活躍に期待しましょう」
「正々堂々勝負をするように」
列を成していく騎馬の群れを眺めながら、笛を口にした。翔は肺に吸い込んだ空気を笛へと流し込む。
「ピーーー」
騎馬がそれぞれ向かい合い、新入生達のちょっとピリピリした緊張感の混じった視線が行き交う。両校の校長の視線も然り。涼司とエリザベートは陣営の後ろに用意された台に立ち、新入生達の背中を見る。緯線を合わせると一斉に叫んだ。
「「迎え撃て! !」」
両校の校長の合図で騎馬戦は始まった。
「先ずは魔法の射ち合いか!」
イルンスミール、蒼空の騎馬が敵陣に向けて魔法を放つ。各々の魔法が飛び交い、騎馬を目指して飛来する。
「鉢巻を取らなければ意味は無いんだけど、隊の足並みを乱すことは出来るんだよ〜」
「だが、蒼空学園。ここで一組の騎馬が飛び出して来たぞ!騎馬チーム・超絶スルーだ!」
セルマ・アリス(せるま・ありす)が『オートバリア』を展開し、飛来する魔法を弾く。
「うわ、流石に激しいなぁ」
愚痴にも聞こえる言葉を発する斎、セルマはそんな仄倉 斎(ほのぐら・いつき)を背中に背負い前方へ走る。
「一気に抜けるよ」
頼りがいのある言葉を斎に聞かせながら、オートバリアの密度を上げていく。
「ほら、次が来たわよ!気を引き締めて」
後ろを担当する師王 アスカ(しおう・あすか)が2人を鼓舞する。
「右、前方!」
「了解」
騎馬が左斜め前へと滑るように動く。『行動予測』で魔法の着弾地点を予測し、3人は魔法を避けていく。
「あの前方の騎馬から潰しましょう」
魔法で釘付けにされている騎馬へと斎は目標を決める。
「任せなさい」
アスカの行動予測は的確だ。見えている。そういう感じだった。
「後ろに飛んで!」
「任せて」
息を合わせるかの様に騎馬は後ろへ後退する。
「な、くそっ」
待ち構えて放った蹴りを避けられ、イルンスミールの騎馬のバランスが崩れる。
「鉢巻貰い受けます」
斎がバランスを崩した騎手から鉢巻をするりと奪う。騎手が防ごうとしたが、行動予測で動いていたアスカに手を払われてしまった。
「イルミンは母校なんだけど、ごめんね〜」
「ピッ!」
翔の笛が吹かれる。
「鉢巻を取られたチームは危険ですので、直ぐに退場してください」
「良い感じだね」
「はい、セルマさん」
「みんな、頑張って下さい」
優しげな藤野 夜舞(ふじの・やまい)の声が3人に掛けられる。
「あ、あの、私蒼空学園の藤野夜舞と言います。ど、どなたか一緒に騎馬を組んでもらえないですか……」
騎馬の組合せを決める為に集められた会場で、夜舞は耳を澄ませば聞こえる声で一生懸命叫んでいた。
「あ、あの……誰も……気づいてくれない……!」
夜舞の一つの隠れたスキル『天然スルー』の効果で、その叫んだ声ですらスルーされてしまっていた。
(シクシク、誰も気付いてくれない)
「いや、あの夜舞……。とりあえず落ち着いたら?」
取り乱している夜舞を斎は宥める。
「全く、校長の女子制服はない。あんな腹筋に女子の制服着せたらかわいそうだよ。制服が」
しみじみとした顔でウンウンとセルマは頷く。
「っと、それより誰か騎馬を組めていない子はいるかな?」
セルマは会場をぐるりと見渡すと一人立っている子を見つけた。まだ相手が見つかっていない様子だ。
「よかったら一緒に騎馬組む?」
パアッと夜舞の顔が明るくなった。
「あ、あの……先輩方組んでくれるんですか! ?ありがとうございますっ!」
嬉しそうにアスカの手を夜舞は掴んだ。
「ご、ごめん。そっちの子なんだ。騎馬をやって欲しいんだけど」
申し訳ない様な顔をして、セルマは斎を指差した。夜舞は後ろに居た斎の顔を見る。
「い、斎ですか……?」
「ダメかな?」
御願いするようにアスカは手を合わせた。
「騎馬?いや、僕は良いけど……」
隣で拗ねて、体育座りしながら地面にのの字を書いている夜舞をチラッと見た。
「まぁ、いいや。頑張ってくるよ、夜舞」
「夜舞ちゃんが応援しててくれてるね」
「もっと頑張らないと、斎」
楽しそうに手を振ってくれる夜舞の声援に応えるように騎馬も歩みを止めない。
「そうですね」
「イルンスミールの陣形が乱れてきた所で、更に蒼空学園からまたも単騎で攻める騎馬があるぞ!閃崎チームだ」
「ちょっと早いが、活躍するには十分だろ」
閃崎 静麻(せんざき・しずま)は前方を見据えて呟く。何か策があるのか、閃崎の顔には余裕が見えた。イルンスミール側の魔法による牽制が弱くなった所を見越して、先崎達は戦場へ飛びだした。
「いいぞ、行け行けー!」
獅子神 刹那(ししがみ・せつな)の声が前の服部 保長(はっとり・やすなが)を後押しする。刹那はヤル気満々の様で、閃崎の上で拳を振り回している。
「おいおい、あんまり上で暴れるなよ」
担いだ刹那を落とさない様にしながら、上の刹那を見上げる。
「全くでござる」
前を担当する保長も溜め息を吐く様に上の刹那を見やった。
「どんどん攻めろー」
刹那には聞こえている様子は無い。保長の肩に手を置いて、楽しそうに手を振り回す。
「まあ、刹那らしいな」
閃崎はスッとイルンスミールの騎馬を見る。
「保長、隠形の術だ」
「任せるでござる」
刹那を乗せた2人の騎馬がすっと消えた。
「は?騎手が丸見えじゃない」
確かにその通りだった。騎馬だけが消え、その上にいる刹那は消えていない。傍から見れば、何とも間抜けに見える。
「行くぞ、囲んで潰せ」
丸見えの刹那目掛けて、3つの騎馬が取り囲む。
「うぉっ!」
「キャッ!」
「ぐっ!」
3つの騎馬それぞれがいきなり体勢を崩した。閃崎の仕掛けに気付けなかった。
「おっと如何した事だ、騎馬が一瞬で崩れたぞ」
大吾がマイクを手に机から身を乗り出す。
「へへ、鉢巻はいただきだ!」
刹那は崩れた騎馬の騎手から鉢巻を分捕った。
「な、どうなってる?いきなり足元が……」
「分かんないわよ」
「悪いな。攻撃の距離が見えなかっただろ」
イルンスミールの騎手が顔を上げると姿を現した閃崎達が立っていた。
「見えない所から足払いをさせて貰っただけだ」
「不可視の足払いだよ〜。騎手の刹那ちゃんしかみんな意識してなかったから、足元が疎かになってたんだよ〜」
千結が空かさず閃崎の解説を補う。
「な、なるほど。流石の一言ですね」
「くっそ、これならどうだ!」
新たな騎馬が閃崎達を狙う。閃崎の背後からの奇襲。
「それがしに任せるでござる」
保長を敵正面に向けるように回転させると、保長の胸がたゆんと揺れた。
「お」
イルンスミールの騎馬が少し嬉しそうに見えたのはきっと気のせいだ。
「そこでござる!」
空かさず保長は足払いをかけ、イルンスミールの騎馬は崩れた。先程までの騎馬の顔はやられたという顔に変化していた。
「っしゃ、こいつも頂きだぜ」
そうして刹那に鉢巻を奪われてしまった。
「もう4つだぜ。これであたいが一番だ」
奪い取った鉢巻を空中でヒラヒラさせて眺める。
「おいおい、油断するなよ」
「ピッ」
「ピー」
ミント・ノアール(みんと・のあーる)と加夜が競技場の側面で笛を吹く。
「鉢巻を取られた騎馬は外に出てね」
腕に巻いた副審判と書かれた腕章を見せて、ミントは外へと選手達を誘導する。
向こうの足並みが乱れているのは遠くから見ていた涼司にも分かった。直ぐに、全体に指揮を出す。
「牽制止め!突撃!」
蒼空学園側の騎馬が混乱を突いて、攻め上がる。
「さてと、私達も出ようか」
緊張した面持ちの乙川 七ッ音(おとかわ・なつね)と笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)に小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は笑って声を掛けた。
「は、ひゃい」
七ッ音の上擦った返事に美羽はにっこりと笑った。
「ねえ、一人足りないの?」
もう一人の騎馬を探していた笹奈達に声を掛けたのは、美羽だった。
「……あなたは?」
「蒼空学園生徒会副会長の小鳥遊 美羽だよ。よろしくね!」
「え、副会長?」
「そうだよ」
可愛い顔を見せると美羽は笹奈達と本題に入った。
「で、どっちが足りないの?」
「えっと、騎馬をやってくれる方を探してます」
「じゃ、私に任せなさい」
唐突に美羽は承諾をした。
「え、良いんですか?」
「だって、みんなで楽しみたいでしょ!私がやってあげるよ」
「あの時はびっくりしましたよ。まさか副会長が騎馬をやってくれるなんて」
笹奈は遠慮気味に話した。
「まあまあ、そこは置いておいて。ちょっとステップの確認しよう。せーの……」
苦笑しながら体操服を着た美羽は笹奈に合わせる様にステップした。爽やかに動く美羽の脚線美が眩しい。スタンドからチラチラと美羽の美脚に惹かれる生徒も見える。
「これならイルンスミールの騎馬が来ても避けられそうですよ。上はどうです?」
「だ、大丈夫です。いけます!」
美羽の背中にしっかりと掴まり、七ッ音も準備万端の様だ。
「よっし、いっくよー」
美羽達は競技場の隅から戦線の中心へと駆ける。
「七ッ音ん。やっちゃって!」
「は、はい」
七ッ音は息を大きく吸い込むと突然歌いだした。
「♪〜♪〜♪ ♪――」
突如歌い出す騎馬に自然と蒼空とイルンスミールの両方の騎馬からの視線が美羽達に集まる。
「さあ、かき乱すわよ」
歌う七ッ音を背負い美羽達は競技場中を動き回る。どの騎馬も歌う騎馬が近づいて来ては、さすがに気になってしまう。
「蒼空学園が攻めているようにも見えたが、いつの間にか大混戦だ。各校の騎馬が入り乱れた状態で、優劣の判断は難しいぞ」
「て、敵が来ました」
慌てる七ッ音を諭すように美羽が直ぐに詠唱する。
「大丈夫よ、七ッ音ん。氷術!」
イルンスミールの騎馬の地面が氷結し、ツルツルの氷が張られる。
「わ、何だ?」
氷の中に足を入れてしまい、騎馬の前側が激しく尻餅をついた。
「は、鉢巻貰います!」
身動きの取れない騎手から鉢巻を七ッ音が奪い取る。
「や、やりました」
「やったね。それ、逃げるわよ」
喜ぶ七ッ音にウインクすると戦線から離れるように美羽達は離脱を試みる。
「逃がさないわ」
足払いを放たれるが、ヒョイッとジャンプをして避ける。笹奈も慣れたものだ。七ッ音を運びながらも、悠々と美羽の後ろを走る。
「ま、また来ます」
背に感じる視線に押し出されるように美羽達は戦場から離れた。
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