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リアクション
「作戦を実行するのじゃ!」
エルフォレスティ・スカーレン(えるふぉれすてぃ・すかーれん)の合図で競技場のサイドへと騎馬が走り抜けていく。
「ドキドキするねぇ」
高まる興奮と緊張を含んだ永井 託(ながい・たく)の呟きが聞こえる。エルフォレスティの肩を掴む手から、汗が滲んでくる。
「エル姉! タイミングは?」
サイドから全体の様子を見守り、神楽 祝詞(かぐら・のりと)は周囲に気を配る。ここで逆に奇襲をされては意味がなくなってしまう。
「待つのじゃ。もう少し、もう少し――」
ジッとエルフォレスティはタイミングを窺がう。自身を落ち着かせるように、呼吸をタイミングに合わせるように息を吐く。
「撹乱作戦開始じゃ!」
合図でエルフォレスティ、神楽は脚に瞬間的に力を込める。
「「『バーストダッシュ』」」
地を弾く高速の移動。靴と地面の極端な反発から、生まれる速度を持ってイルンスミールの陣中央へと突き刺さる。
「な、何――」
瞬間的に現れては消える。加速や急制動を繰り返し騎馬のの意識を徐々に此方に向けさせていく。イルンスミールの騎馬が此方を振り返る頃には、次へと加速する。
「タイミング次第では、背後も取れるねぇ」
「だけど、鉢巻は狙わない」
鉢巻を狙った時に、脚が止まり直ぐに動けなくなる。敵に背後の気配を感じさせる事で、撹乱の意味合いを大きくさせる。
「何処にいる?」
「分からない。背後を取られても振り返る頃には居なくなっている」
作戦通り、イルンスミール側の騎馬達は現れて消えていく騎馬の存在に撹乱されていた。
「何かスカートが偶にヒラヒラしているのが見えるしな」
「ああ、それも気になる」
時折はためくエルフォレスティのスカートが、男子生徒の目を惹き付けている。
「ふふん、われのスカートも中々役に立っておるようじゃの」
「それでスカートに惹き付けられて騎馬が3つとねぇ……」
ひらひらのスカートの効果かどうか定かでは無いが、3つの騎馬に挟まれて良い具合にピンチだった。
「やってしまうかの」
エルフォレスティの言葉にビクッと2人が震えたが、もう遅い。
「託さん悪いね、エル姉のこんな思いつきに付き合わせて」
「気にしないで、僕もやってみたくなっただけだから。成功したらかなり面白いしね」
作戦前よりも重たい緊張が2人に圧し掛かる。
「激突上等じゃ!振り落とされるで無いぞ! !」
「とぉぉぉつげぇぇぇきじゃーーー! ! !」
捨て身の自爆攻撃!前方のエヴァルト・マルトリッツに『バーストダッシュ』で突撃を仕掛けた。
「な、俺かぁああ!」
観客曰く、ボーリングのピンみたいだった。
「俺は何をやってるんだ?」
十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は改めて、この状況を思う。何で騎馬戦に出る羽目に――。
事の始まりは、朝にあった。下駄箱を開けると何やら手紙が入っている。
「こ、これがラブレター!」
嬉し恥かしのドキドキと宵一が手紙を開ける。
「絶対騎馬戦で勝て」
下駄箱に入っていたのは宵一の期待を裏切る宛先不明の謎の手紙。
「怖っ!」
仕方なく宵一はヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)を連れ、騎馬戦に参加するはめに。何だかんだ言って、手紙を無視するのもちょっと怖い。
「まあまあ、折角ですから楽しみませんと」
宵一の背中でヨルディアはユラユラと楽しそうに揺れている。手紙の事を話したら、じゃあ参加しましょう♪ という感じだ。
「それで作戦は如何されるおつもりですか?」
後ろを担当してくれているのは、セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)。3人で参加という事で、会場で途方に暮れていると偶然にも1人という事でチームになって貰った。
「作戦は基本に忠実に。ヒット・アンド・アウェイだ」
「正に忠実ですね。作戦の方は了解しました」
「馬鹿にしてるな。直ぐに結果を見せてやるからな!」
作戦の素晴らしさをヨルディアに見せようと宵一は意気込む。
「おっし、行くぞ」
「「おー」」
(はあ、締まらない……な)
宵一とは次元の違う2人の掛け声に嘆息が思わず出てしまう。試合が始まり、イルンスミール側の騎馬が祝詞達に撹乱された。
(祝詞達が仕掛けた撹乱は勿論、利用させてもらう)
定石通り、宵一達の騎馬は距離を取り背後を狙う。イルンスミールは掻き乱されたままだ、宵一達の騎馬の動きに対して必ず遅れる。
「敵か!」
「向こうは反応出来ません」
宵一、セシルは素早く背後からイルンスミールの騎馬に肉薄する。
「身体が反応出来ない!」
「鉢巻は貰いました!」
鉢巻をタイミング良くヨルディアが奪う。騎馬は回避運動を取りつつ、速攻で戦場を離脱する。
「どうだ?俺の作戦は!」
鉢巻を奪い、確実に離脱する。見事な連携の結果に宵一が満足そうにセシルに聞いた。
「我が校の品位と景観が著しく損なわれるのが、1%は減りましたね」
「そうだろ、そうだろ」
宵一もウンウンと頷いた。
「ヨルディアさんの素晴らしい動きのお陰ですね」
「あれ、そっち?」
「はい、ヨルディアさんの素晴らしい見切りで見事に相手から鉢巻を奪っていました」
蒼空学園の会場。
「ねぇ、一緒にチーム組まない?」
芹 なずな(せり・なずな)は会場で1人佇んでいた高円寺 海(こうえんじ・かい)に声を掛けていた。
「何だ?」
なずなからの誘いに海は反応が悪い。
「俺たちと一緒にチーム組まないか?」
なずなをフォローする為に青山 悠十朗(あおやま・ゆうじゅうろう)がもう一度声を掛ける。
「……わかった」
少し考えた後、海は了承をした。
「ボクもバスケ部なんだ。よろしくね!」
「一緒に楽しもうねっ」
「……ああ」
あまり話を自らしない海。なずなは積極的に海に話を振っていた。
「さあ、俺達も動こうぜ」
永井 託等が起こした撹乱作戦を継続させるべく青山達の騎馬も動きだした。サイドから敵陣へと高速で攻めこむ算段だ。
「『バーストダッシュ』」
「な、待て――」
止める海を置いて、青山は地を弾く。青山の身体だけが高速の弾丸へと変化する。
「わっあぁーー!」
「……馬鹿が」
なずなが砲弾の様に空へと放り出される。開始早々、人間大砲を海は見送る形となった。
「チーム・SAKがパフォーマンスに出たぞ。人間大砲をここで見せるか!」
「な!」
「おい、空を飛んでるのがいるぞ」
撹乱では無かったが、意識を向けさせるという点では功を奏した。
「でっ!」
前のめりになる形でなずなは着弾する。盛大にヘッドスライディングして、服が泥だらけになっていた。
「ぴー。落馬をしたら、直ぐに組み直してくださいね」
駆けて来たミントが青山となずなを注意した。
「く、すまん」
「うぅ、ごめんなさい」
速攻で2人が海に謝るはめになってしまった。騎馬を組み直すと海が呟いた。
「オレ達の役目は囮か――良いだろう」
海は視線を敵陣へと落とす。思考を廻らせる。
「試合は勝つべくして勝つ」
「貰ったわ」
刹那・アシュノッド(せつな・あしゅのっど)が隙を見て、鉢巻を奪う。
「な、くっ」
「来た来た来たー!刹那・アシュノッド!これで4つ目の鉢巻をゲットだ」
大吾の声が大きく叫ばれた。
「ふん。次を狙うわよ」
淡々とした声でアシュノッドが移動を指示する。騎馬は瞬く間に戦場から離脱する。
「っ、逃がした!」
追尾する騎馬があっても、逃げの一手。ヒットアンドアウェイの原則。相手のマークをかわすまで、逃げて逃げて逃げ続ける。確実に反撃できるタイミングまでは迂闊に攻める必要は無い。
「段々とイルンスミールの騎馬の追尾が厳しくなっていますね」
溜め息混じりにセファー・ラジエール(せふぁー・らじえーる)が状況を見る。
「流石にあれだけ目立つと向こうも無視も出来ないですからね」
アレット・レオミュール(あれっと・れおみゅーる)は補足する。
「関係無いわ。奪って逃げてまた奪う。勝ち星を重ねるだけよ」
アシュノッドは疲れ、動きが鈍くなってきている騎馬を見逃さない。勝利へと導くために、確実な一手を使う。
「次はあの端の騎馬よ」
「了解ですよ」
転進し、背後へ回るように遠くから攻める。気取られないように近づき、鉢巻を奪う。
「これで――」
「どうかな?」
「!」
狙っていた騎馬がアシュノッド達へと向き直る。向こうは既に臨戦態勢にあった。
「騙されていたなんて」
アレットが驚いた顔をしていた。敵の騎馬は動き、こちらへと接近する。アシュノッド達は戦うタイミングに、まだなっていない。
「邪魔するぜ」
不意に騎馬が割込みをかけて来る。青山 悠十朗とその騎馬だ。
「……沈め」
『封印解凍』により、肉体のリミッターを外した海が高速で騎馬の膝を蹴り騎馬を潰す。
「へへ、鉢巻は貰うよ」
丁寧な動作でなずなは鉢巻を奪った。
「あなた達はどうして?」
「ボク達は囮役。あと、サポートかな」
「……なずな」
「あ、ごめん。それじゃあ、アシュノッドさんも後で!」
ペコリと慌てて、お辞儀をするとなずな達は次へと走っていった。
「三月ちゃん、海くん、頑張ってね!」
杜守 柚(ともり・ゆず)は高円寺海と杜守 三月の応援をする為に競技場へと脚を運んでいた。
「やったー!」
三月が八重子から鉢巻を奪っていた。遠くから見ているとかなりかっこいい!三月も調子は良い様で騎馬の橘、カイと良い連携が出来ているようだ。
「わっあぁーー!」
声がした方を見ると、人間大砲ととなったなずなが空を飛んでいくのを海は見送っていた。
「な、何してるんだろう?海くん達」
三月とは別に、海の居るチーム・SAKを柚は応援していた。
「刹那〜。がんば〜」
陽光が優しく降り注ぐ暖かい日中。刹那・アシュノッド達を遊馬 澪(あすま・みお)は応援に来ていた。
「う、うん――」
丁度良い温度とあって、観戦が始まって澪はうとうとしだした。気付くと頭がギーコギーコと舟を漕いでいる。
「刹那・アシュノッド!これで4つ目の鉢巻をゲットだ」
「はっ!」
刹那の活躍を時折伝える大吾の声で澪は我に返り、その度に刹那を探す。幸いにも、中々派手に活躍しているのか直ぐに場所は分かる。
「がんば〜」
一言、二言。刹那へと応援を送ると、睡魔に負け舟を漕ぐ方へと向かってしまう。見事に刹那が居る場所とは違う方向を顔が向いたままだ。
「がんば〜」
眠りながらもその言葉だけは澪は忘れない。
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