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リアクション
「な、どうなってる?」
「痛い!」
「ちょっと待って。直ぐに動けない」
混戦の最中にルクセン・レアム(るくせん・れあむ)が『トラッパー』によって仕掛けた罠によって、イルンスミールの3組の騎馬が知らず知らずの内に誘導されていく。彼らは罠に掛からない様に、ただ動いている筈なのに。
「良いぞ、良いぞ。もっと来い来い」
トラップで3組の騎馬の進行を操るレアム達は、遠巻きに彼らを見ていた。此方に近づいてくるのをのんびりと待てば良い。
「もう少しトラップを仕掛けておけば、こっちに来るのが早まったのにね」
自らが仕掛けたトラップの出来を見ながら、レアムは今回の誘導を少し心躍らせながら見つめる。悪戯をした子供の様な、ワクワク感がレアムから感じられた。
「はい、落とし穴♪」
3組の騎馬が揃いも揃って、深さ30センチ程度の穴に足を取られた。
「今です、鬼龍さん」
レアムの合図から鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)は『しびれ粉』を風に乗せて撒き散らす。
「っくしゅ!」
「あれれれ――」
鼻のムズムズを感じたと思いきや、身体が言う事を聴かない。完全に身体がそのままの状態で硬直してしまう。
「ふう、上手くいきましたね」
ほっと鬼龍は胸を撫で下ろした。
「さっさと鉢巻を貰いましょう。房内」
「まさぐるのはわらわに任せるのじゃ」
イルンスミール側には何とも不安な言葉を残して、鬼龍達は3組の騎馬の前に来た。
「では、どれどれ」
医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)はイルンスミールの生徒の体操服の内側をもぞもぞとやっている。無抵抗な男子生徒、いや無抵抗にされた男子生徒は何とも言えない微妙な顔をしていた。
「こらこら、鉢巻のほうだから」
「主様、何を言っているのじゃ。どう見てもハプニングではないか」
何をどう見てもハプニングに見えない房内の行動に鬼龍は溜め息しか出ない。
「はあ、取り敢えずレアムも居るから先に鉢巻を取ってくれ」
「しょうがないのぅ」
しぶしぶと言った顔で3つの鉢巻を房内は頭から抜き取る。所々で御触りをしていたが、鬼龍は見ない事にした。
「さ、次に行こうか」
「ええ」
「な、まだ先のお楽しみが終わってないのじゃ!」
「さあ、次だ次」
背中で暴れる房内を無視して、2人は先へと進んでいく。
「先ずは山葉涼司の元へ向かうのだよ」
開始早々、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)がそんな事を言い出した。まあ、それならと3人は競技場の端を大きく回って山葉の元へやって来ていた。大分遠回りして、着く頃には両校が入り乱れる大混戦に様変わりしていた。当然、スタート地点に留まっている騎馬など居ない。
「また会ったな、山葉!このピ――、OOXX、ピ――、OXOX」
山葉を見つけるなり、トンでも口撃に毒島が出た。
「こらこら」
顔を引き攣らせながら、山葉は毒島を大将席から見下ろす。
「ピー!ピー!」
副審判の加夜が笛を吹きながら、やって来た。
「観客への口撃は禁止ですよ!イエローカードです!次はダメですからね」
「「す、すいません」」
南部 豊和(なんぶ・とよかず)、レミリア・スウェッソン(れみりあ・すうぇっそん)が何故か代わりに謝る羽目になってしまった。
「すまぬの、元メガネに借りがあってな」
「つ、次は頼みますよ」
少し疲れた豊和達の返事が返ってきた。
「任せるのだよ、ところで戦いたい奴はいるのか?」
「雅羅のチームと新入生として戦いたいですね」
「ふむ、あれだの。では行くか」
「僕達と勝負願おうか」
奇襲のつもりだったが、豊和達が信長達の前に出てしまいそのまま名乗りを上げることとなった。
「ふん、いいじゃろう。相手をしてやろう」
「『アシッドミスト』」
騎馬同士が近くで対峙した時に、雅羅に引き寄せられた濃霧が不意に豊和と信長達を包み込んだ。
「わ、何も見えない」
「く、何だ?」
不意に豊和の騎馬が崩れた。
「すまん、豊和。何かに躓いたようだ」
「わ、ブフ――」
レミリアが崩れ、豊和は何かにしがみ付いた。
「キャ……」
雅羅の声が上から聞こえた。
「あわ……ご、ごめんなさいっ……!」
「いや、気にするな」
「え?」
霧が晴れると豊和は忍の足にしがみ付いていた。隣のレミリアが雅羅の方に倒れこんでいた。
「ぁー……」
「鉢巻は頂きじゃ!」
忍の足にしがみ付いていた豊和の頭から信長が鉢巻をむんずと掴み取った。
「す、すまない」
レミリアが雅羅から離れるとゆっくりと立ち上がる。
「しかし、私達が巻き込まれるとは」
「あの、すいません」
雅羅が申し訳なさそうにペコリと頭を下げる。
「雅羅様とんでもないです。こちらも童心に戻った気分だ。今日はありがとう」
「はい!脱落者一組!ただちに救護に向かいますっ!」
ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)の明るい声が救護室に木霊する。
「手当てに行くよ、真奈」
傍に控えている和泉 真奈(いずみ・まな)を呼び、2サムで行動する。今回のケガ人は転倒して、擦り傷を負った様だった。自力で外に出ていた3人を座らせて手当てを行う。
「『リカバリ』」
回復詠唱をするミルディア。手から淡い光が洩れ、傷を癒していく。
「ほら、これで大丈夫!ちょっとだけなら、負けるのもいい経験だよ♪」
豊和が寂しそうに競技を見ているのを見て、ミルディアが優しく笑う。
「あ、うん。ありがとう、頑張って応援に行くよ」
ニッと笑うと応援席の方へ走っていった。
「ほら、これで怪我の方は大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
『ヒール』で選手の傷口を癒すと真奈が話しかける。
「豊和を勝たせてあげたかったのですが」
レミリアが傷口を摩りながら、真奈に話を始めた。
「雅羅様の体質を理解した上での戦術だったのですが、私達も巻き込まれてしまうとは」
空を眺めながら、残念そうに喋り続ける。
「人には得手不得手がありますし、もし今は負けたとしても、今後追い越すことはできますよ」
「真奈様、ありがとうございます。今のは豊和に聞かせてやりたいですね」
真奈に顔を合わせると嬉しそうに答える。
「ええ、違う勝負もありますから。諦めなければ勝てると思いますよ」
「結和さん、ロッソーさん。チーム・シンデレラの怪我の手当てに行って頂けますか?」
「分かりましたー」
救護室から高峰 結和(たかみね・ゆうわ)が出ようとすると、丁度向こうから3人がやって来た所だった。こちらに来れるところを見ると、あまり激しい怪我は無さそうに見える。
「エメリヤン、準備して!」
「……(こく)」
分かったのか、エメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)は無言で頷くと救急セットを拾い上げる。
結和はベンチに八重子とアッシュ・トゥー・アッシュを座らせた。
「傷口見せてね。化膿しちゃいけないからねー」
『天使の救急箱』を開けると2人の傷口を消毒する。
「っ、痛ったー」
「お、沁みるかー。頑張れー」
傷に沁みるのか、八重子が痛そうな顔をした。慣れていても痛いものは痛い。
「そっちは?」
「問題ありません」
痛がる様子も見せず、アッシュは平然としていた。メットの下から、八重子の様に苦悶の声が聞こえてくる事はない。
「次は傷口を塞ぐからね。 『グレーターヒール』 」
傷口に翳す結和の手から優しい光が零れる。
「凄いね」
「ええ」
瞬く間に傷口が塞がれる。その様子に八重子とアッシュから感嘆の声が聞こえた。
「私は癒しや守護の魔法とルーンを主に学んでいますが、魔法っていろんなことが出来るんです。あなたも、自分らしい魔法を見つけてくださいねー、一緒に頑張りましょうっ」
「はい!」
「また、宜しく御願いします」
「……こっちへ」
アッシュ・グロックを空いているベンチへ座らせる。消毒スプレー等の備品を準備しながら、エメリヤンはまじまじとグロッグを見た。
「…… (あのアッシュって人、イルミンスール武術部の部長になんか似てるかも)」
「…… (うーん……でも、やっぱり違うね)」
エメリヤンはグロッグの顔を見ながら、コロコロと表情を変える。エメリヤンが何を思ってるかは、グロッグには分からないのだが。
「あ、あの?」
グロッグが気になるのか、声を出すが取り敢えず放置しておく。
「…… (だって部長の方が熱いし、格好いいし、機転が利くし度胸もあるし)」
「…… (それに……そうだ)」
ふと思い立つとエメリヤンはグロッグの頭をぽふぽふ撫でる。
「…… (うん、身長だって部長の方が高いね)」
エメリヤンは一人納得した顔を見せる。
「…… (やっぱり後輩は後輩だー、部長二号って言っても部長には適わないよ)」
何か満足をしたのか、得意げな顔を見せた。もう一度言うが、グロッグには分かっていない。分かっていないが、頭を撫でられた事で分かった事がある。
「俺様はチビじゃないからな!」
開始そうそうだった。競技が始まると占卜大全 風水から珈琲占いまで(せんぼくたいぜん・ふうすいからこーひーうらないまで)は駆け出し、わざわざ蒼空学園側の大将席にいる涼司に絡みだした。
「よ、楽しんでいるか?」
軽い挨拶を涼司がするが、占卜大全の耳には入っていなかった。
「オイコラ山葉テメェふざけた条件出してんじゃねーよ!」
「? 何の事だ?」
占卜大全の抗議の意味が涼司には分からない。
「いいか、テメェの女装が女の子の水着と吊り合うってのがそもそも大間違いなんだよ!大体男の女装なんて誰が見たがるってんだ、ええ?イルミンの生徒だってんなもんお断りだろが。それにエリザベートちゃんの水着が見たいってイルミン生が蒼学についたらバランス崩れんじゃねえか。そのへんわかってんのかよテメェはよー」
「俺の女装が見たくないってのか?」
椅子から立ち上がり涼司が抗議する。
「当たり前だ!つーわけで罰ゲーム変えろ!公平にするためには花音ちゃんだ、イルミン勝ったら花音ちゃんの水着姿見せやがれー!」
「な、花音はダメに決まってるだろうが!(俺が殺される)」
「んだと、てめ――。ウゴっ!」
「はは……。じゃ!」
騒いでる占卜大全を後ろから殴り、気絶させる。爽やかにピッと手を挙げて挨拶すると、結和は占卜大全を引きずって脱兎の如く救護室へ戻っていった。
「……」
静かな闘志を剥き出しにし、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は決意を胸にしていた。
(俺は蒼学生だが、イルミン側で参戦する。何故なら…… っ)
「……ワルプルギス校長に、一週間スクール水着など要求する変態校長め」
ギリリと拳が自然と固く握り締められる。
「まあ、オレは面白そうだから異議はないぜ!」
ケラケラと楽しそうにベルトラム・アイゼン(べるとらむ・あいぜん)は戦場を見る。
「いっそ、『女子制服に女物の下着まで付けた上で、腹筋丸出し姿になる』という噂でも流してやろうか。そう、あんな変態的な要求、少なくとも女性側で成ってはならないからだ」
「まあ、自分は命令に従うだけであります」
合身戦車 ローランダー(がっしんせんしゃ・ろーらんだー)が連れない返事をエヴァルトに返す。
「突撃だ!」
エヴァルトの合図でローランダーの車輪が砂埃を巻き上げて、動き出す。
「お、おい。オレを轢き殺すなよ」
アイゼンが走りながら、不安な事を口にする。
「来たぞ、アイゼン。真っ直ぐ進め!」
「おっしゃー」
無策にも程があるが、蒼空学園の騎馬の前に騎馬は悠々と躍り出る。
「ふん」
近づく騎馬上の騎手の頭をアイアンクローであろうことか掴み挙げた。
「い、いててて!」
ミシミシ言う騎手の頭から鉢巻を引き千切るように奪った。騎手はミシミシというアイアンクローのお陰で、防御どころではない。
「熱血男、エヴァルト・マルトリッツ。ここで漸く戦場に現れたぞ」
「アイアンクローだなんて、久しぶりに見たんだよー。あれだと掴まれたら、如何しようもないんだよー」
「手当たり次第に突っ込め、アイゼン」
「方向を決めるのは任せとけ!直ぐに戦わせてやるぜ」
ボーリングの玉なのか、無理矢理にアイゼンは蒼空学園の騎馬の間へと突っ込んでいく。
「自分は加速するであります」
ローランダーの後輪が唸りをあげて、回転数を上げる。
「突撃ー」
「さすが、エヴァルトだ。獅子奮迅の活躍を見せているぞ」
「だけどエリザベート校長の為に、こんなに頑張るなんてやっぱりロリコンなんだよー」
「いやー、流石に千結さんもそう思われますか」
観客のウンウンという無言の頷きが聞こえてくる様な感想だ。
「誰がロリコンか!」
騎手の頭をミシミシさせながら、放送席へエヴァルトは大きく叫んだ。
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