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リアクション
=第3章= 停滞と曇天
かたつむりは湿ったところを好むというのは、誰もが考え付く当然の結論だ。
だから聞き込み以外の生徒は、幼稚園の庭かその周囲、もしくは門を出て活動している者がほとんどだ。
しかし、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、虹色のかたつむりを探す名目があるにも関わらず教室内をうろうろしていた。
さつきが虹色のかたつむりを見たという教室をドア越しにうかがい、異常な警戒心を放っている。
「いないか・・・・・・いないな・・・・・・?」
エヴァルトは虫嫌いだった。
更に、子供と遊ぶのもちょっぴり苦手だった。
だから探索と称し、遠目に状況を眺めているのだ。
内心では、普通のかたつむりにさえ出会いたくないと嘆願している。
エヴァルトが逃げ腰の一方、パートナーのファニ・カレンベルク(ふぁに・かれんべるく)はひとりもくもくと、
かたつむりが虹色に輝くに至るまでを理論的に説明しようと、頭の中で奮闘している。
「虹と言えば、光が屈折したときに分解された色が帯みたいに見えるもの・・・・・・それには“水”が関わっていて・・・・・・
それが、かたつむりっていう生き物個体にあらわれるとなると、何か生体が反応するような成分が・・・・・・」
エヴァルトが実行動で探索、ファニが論理的思考で解明する、というパターンで問題ないはずなのだが、
ファニの表情はむくむくと困り顔に変わって行く。
「う〜〜〜・・・・・・こ、こんな時は気分転換に限るね!!」
きちんと整理して考えればファニはパッと答えが出せるの賢い子なのだが、誰かのためだと一生懸命になることで思考の限界値が
低くなってしまったようで、悶々と考え込むのをやめてしまった。
組んでいた腕をほどいて、遊んでいる園児たちの群れに突進していった。
(ファニは勉強ができる子、きっと答えを導き出してくれるはずだ)
希望的観測で、エヴァルトはひたすらドアの外からパートナーを応援するのだった。
*
「素敵かたつむりはどこかしら〜?」
舞台上でもないのにルンルンなステップで幼稚園の周りを徘徊・・・・・・もとい、走り回っているのは、
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だ。
園内で少し情報収集した後に幼稚園の外に出てきたのだが、なにせ園児たちからは「カラに入ってると、面白くないよね」とか、
「七色なんて素敵!」とか、 そういった“感想”しかもらえなかったものだから、実際は己の考え一つで探し回っている
現状だった。
しかしながら、セレンフィリティの格好は、子供たちに見せるには些かあでやかすぎて、そのあでやかな女性が夢中になって
探し物をしている姿は、この幼稚園と言う敷地内において言えば、おそろしい光景だ。
自重の“じ”の字もないセレンフィリティの行動を始終見つめながら、パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)も苦笑いだ。
「あんまり騒がないでね。あなた、一応あの子たちから見たら“お姉ちゃん”なんだから!」
聞こえているのかいないのか、あの浮かれようでは、かたつむりが普通であろうと虹色であろうと踏みつぶしてしまいそうだ。
そんな事態にハラハラしながら一声だったのだが、そういうセレアナも、格好がレオタードでは言葉にまるで説得力がないのだった。
格好が異彩を放つ少女がもう一人、幼稚園の教室のテラスに座っている。
横に水を張ったバケツと様々な色のビー玉を置いて、何やら作業している。
「ビー玉に水をかけたら、もしかして虹色に光るかも・・・・・・ですわ」
神皇 魅華星(しんおう・みかほ)は、黒を基調としたゴスロリファッションで明らかに園児たちより浮いた存在になっているが、
そんなちょっとした周りの目があっても、この少女の探索意欲は抑えられない。
魅華星は指先を水にひたし、その指をビー玉にこすりつけ、はじいてみる。
水でビー玉の色が膨張して見えはするが、天候も相まってキラキラ光るような現象は起こらない。
ましてや、希望した通りの“再現”にはまったく至っていない。
「くっ・・・・・・この方法も、違うようでございますわね」
こうして自己完結して実験すること数十回、しかし彼女に「誰かと協力した方が早いよ」とアドバイスする者は誰もいなかった。
幼稚園の建物を囲む壁の隙間を覗き込みながら、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)はスキルを活用して
かたつむりを収集しているといった様相だ。
【スキル:ダークビジョン】と【スキル:サイコキネシス】を併用してみると、暗闇からわんさとかたつむりが発見できた。
「大量だ」
「ええ、大漁ですね」
“たいりょう”違いで返答するのは、トマスのパートナー魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)で、彼は軒下に屈みこんで見ながら、
【スキル:光術】を使い、暴かれた闇からかたつむりの姿を探す。
しかし残念ながら、出てきたのはどれもごく一般的な色のかたつむりだ。
「よし、次の場所だ」
「わかりました。ですが、このかたつむり達はいかがしましょうか?」
そもそも、かたつむりを収集して眺める趣味は彼らにはない。
捕まえたかたつむりは、もちろんリリースする。
「これは・・・・・・またとない面白い光景ですね」
かたつむり探索メンバーの中では年長の子敬は、涼しい顔でリリースした後のかたつむりの群れを見ながら和んでいた。
天気予報では曇りだと言われていたが、空は今にも泣き出しそうな色をにじませていた。
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