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リアクション
=第4章= かたつむり、調べます
虹色のかたつむりを探索には出ず蒼空学園に残留しているのは、かたつむりの生態からまず調べようと思い立った者たちだ。
ほとんどのメンバーが「調べる」より「探す」を選び表へ出て行ってしまったものだから、虹色のかたつむり探求組は、
少数精鋭で調べを進めることを余儀なくされた。
「あぁ・・・・・・とうとう降ってきたよ」
座りっぱなし、黙りっぱなしで精神的に疲れていた弁天屋 菊(べんてんや・きく)は、気晴らしに外の景色でも眺めようとしたが、
あいにくのタイミングで雨が降ってきてしまい、目の保養すらされることなく視線を手元の文献に戻すことになった。
同じテーブルに座っている探求仲間、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)とそのパートナーアイリス・零式(あいりす・ぜろしき)が、菊を励ます。
希望として選んだ役目ではあるが、人数が人数であるから作業がはかどらないという状況を、霜月とアイリスも難しいと感じているのだ。
「そう腐らずに、頑張りましょう。資料は全て、自分かアイリスが持ってきますから」
「協力は惜しまないであります! 遠慮せず申しつけて下さいっ、であります!」
さっそく、追加の文献をドカンとテーブルの上にのせて、アイリスが菊にアピールする。
アイリスの可愛さもあって、その仕草には癒しの効果が少なからずあったが、さすがに気力が最大値には戻ることはない。
それでも調べ続けるほかないと、菊も踏ん切りをつけ改めて資料に没頭する。
「では、さらなる資料を集めてくるであります」
霜月と菊の邪魔にならないよう、アイリスは小声で言って席を立った。
「生物」のコーナーで、アイリスは引き続き参考になる書物を取っては手元に重ねていた。
菊が、かたつむりの消化器官について知りたがっていたから、そういった構造も載った資料を中心に探す。
「うわっと・・・・・・いけない、探していないものを取ってしまった、で、あります・・・・・・?」
かたつむりに関係のないごく薄い本が取り出したかたつむりの文献にくっついてきてしまい、アイリスは焦りながらその薄い本をひきはがした。
興味本位でその本を開いてみると、本の厚さと表紙のイラスト、文字の大きさからいって、子供に向けて描かれた絵本のようだ。
『雨の日の精霊』というタイトルの本には、ざっと見ただけでも中々ためになる内容が盛りだくさんに書いてあった。
『――精霊は、未成熟の子供である場合、ちょっとして気候の変化で空間内で迷子になることがあります――』
『――気持ちが不安定になった精霊は、波長の合う子供の元へ寄り添うこともあります――』
(子供・・・・・・気候の変化・・・・・・精霊・・・・・・不安定・・・・・・)
アイリスはハッとした表情になり、右手にかたつむりの資料、左手にその薄手の方を掴んだまま、霜月と菊のいる部屋までダッシュした。
*
数分前から小雨がぱらつきはじめ、傘を持たずかたつむり探索に出ていたミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)は、
あわてて屋根の下に退避した。
屋根と言うよりは、天井がある建物――住宅街に建っていたマンションの駐車場の中だ。
かたつむりを探すというのに、アリ1匹すらいないかもしれないこんな街なかにミーナがいるというのは、おかしな話だ。
「ここなら、コンクリートがいっぱいあるのに・・・・・・おかしいなぁ」
仕方なく、建物内で雨をよけながら、少しずつ幼稚園に戻ることにする。
ふと、ミーナは視界に水色の光を捉えた気がして、周囲を見渡した。
(あれ? 誰だろう? ん?)
ピーターパンのような格好をした子供が、窓から家の中を覗き込んでいるように見えたのだ。
しかし、パチパチと瞬きをした瞬間に、風景からそんな子供は消えていて、ミーナは首をかしげる。
(気のせいだよね・・・・・・)
雨のしずくが、水たまりにピチャンとはねた。
ミーナはちょっとびっくりしながら、仲間の元に急いだ。
ふたりの少女が相合傘で雨の中を歩いている。
ゆっくりではあるが、歩いている途中に発見した公園で、アジサイの花や木の影などを見て回っている。
傘をさしているのは御影 美雪(みかげ・よしゆき)、その傘の中で雨から守られているのはパートナーの風見 愛羅(かざみ・あいら)だ。
「ほら、また見つけたよ」
「普通のかたつむりですね・・・・・・」
「そんな簡単には見つからないよ。きっと、見つかれって願いながら探せば、見つかるはずだから」
「・・・・・・こんなことに付き合うのは、今回だけですよ」
茶色の瞳を伏せて、そこからは愛羅も率先して葉っぱの裏などを探し始めた。
探索メンバーは、なかなか虹色のかたつむり発見には至らない。
夕方に近づくにつれ雨は本降りになり、その日の虹色のかたつむり探索は中断し、次の日に持ち越されることになった。
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