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リアクション
=第5章= 遊んで、探して
虹色のかたつむり探索は2日目に入った。
昨日と同じ時間、もしくは一部の生徒は少し早めに幼稚園にやってきて、意見交換などを行ったりした。
昨日は、園児たちに満遍なく聞き込みなどをして回ったが、今日は趣向を変え、さつきにスポットをあてて集中的に情報を詰めることにした。
「う〜んとね、かたつむりさんの周りにも、虹が浮かんでいた気がするの」
「かたつむりも虹色で、その周りも虹色?」
師王 アスカ(しおう・あすか)は、さつきから聞いた言葉を、頭の中で繰り返す。
それから、アスカはさつきと共に床の上に画用紙を広げてクレヨンを走らせ、改めて虹色のかたつむりを絵に描こうと試みる。
けれど時間が経っているため、さつきも虹色のかたつむりがどんな風に虹色であったのか、思いだすのに苦労しているようだ。
しかも最初言っていた話と相違があらわれていることに、アスカは困惑する。
「にじいろ・・・・・・にじいろって、んぅ、にじって、なに?」
アスカの頭の上にちょこんと乗っかったラルム・リースフラワー(らるむ・りーすふらわー)が、顔を上げながらたどたどしくさつきに聞く。
今まで、アスカの頭に花の飾りではと勘違いするほどジッとして動かなかったので、ラルムの存在はその空間内でとても薄かった。
ところが、その愛らしい顔をひとたび上げた瞬間、教室で勝手気ままに遊んでいた園児たちがワッと色めきたった。
あっという間に、ラルムは園児たちに囲まれてしまう。
「なにそれ!お人形?」
「動くの!?」
「ほっぺたぷにぷに〜」
「かみの毛、くりんくりん〜」
「ちょっとみんな、さつきのお絵かき、ふまないでよー!」
一番最後にさつきが金切り声で他の園児たちに叫んだ。
ラルムいじりで忙しそうにしていた園児たちも、驚いて動きを止める。
幼稚園ではよく見かける光景だ。
そこで端の折れかけた画用紙と、画用紙に描かれた摩訶不思議な色のかたつむりを見つけて、男の子がさつきに話しかける。
「そんなかたつむり、いたっけ?」
「いるよ! 見たんだもん!虹色に光るかたつむりなんだよ!」
「虹色のかたつむり! わたしもかくー!」
さつきの絵を園児たちみんなが目にとめると、ぼくもわたしもとそこかしこで一斉にお絵かき大会が始まった。
ひとつ火がつくと小さい子供の好奇心と言うものには際限がなく、紙と言わず床にまでクレヨンが伸びて行く。
気付けば、この場所に大半の園児が集まったかと思うくらいの人数がお絵描きに必死になっている。
そこで、ラルムが一声、アスカに声をかける。
「アスカ、あの子、ここの生徒じゃないんですぅ」
「どうしたの、ラルム?」
ラルムがパタパタと指差した方向を見ると、まるでお遊戯の途中で飛び出てきてしまったような、メルヘンチックな格好をした子供が、
園児たちに混ざっている。
その子供は、暗闇でもないのにわずかに体が水色に発光している・・・・・・ように見えた。
ところが、一回視線を外しまた戻すと、その姿はすっかり消えていた。
*
一方、幼稚園の外で花の植わった花壇のブロックをしげしげと眺めながら、志方 綾乃(しかた・あやの)は「ここにもいないですね」と呟いた。
カッパに長靴というお決まりのスタイルで、童心に帰って子供のようにかたつむりを探していた綾乃だったが、
ここだと思った場所に虹色のかたつむりの姿はない。
「いくらかたつむりがカルシウム好きでも、土までは一緒に食べませんよね・・・・・・」
はりきって昆虫用のプラスチックのカゴも持ってきたが、このままでは木の枝だけが入っている寂しい入れ物になってしまいそうだ。
プラスチックも角度によっては虹色に見えないかなと綾乃はカゴを動かすが、中に入っている木の枝がカランと音をたてるだけで、
特に光ることはない。
綾乃は、屈伸して体を伸ばすように立ち上がり、再び探索に歩き始めた。
少し歩くと、敷地の狭い幼稚園内のこと、他に探索している生徒にもすぐ出くわす。
純白のメイド服に泥が跳ねないようにうまくホウキでガードしながら、セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)も綾乃と同様屈みこんでいた。
なにを見ているのかと思えば、幼稚園内で所有している菜園で見事に実っているキュウリを凝視している。
「あなた、なにを見ているの?」
「あっ、綾乃様。かたつむりは食べたものによって色が変わると聞きましたので、私たちと同じものを食べているかたつむりなら、
不思議な色かもしれないと思って、こうやって食べ物にかたつむりがついていないか見ていたのですわ」
菜園には、確かにキュウリの他にトマト・ナスなど、様々な色の野菜が栽培されている。
「でも、一度に食べるならいざ知らず、時間をかけて色々な野菜を食べていたら・・・・・・色がまだら模様になるより先に混ざって
灰色になってしまう気がするけれど」
「えぇ!? そ、それは予想外ですわ・・・・・・」
「そんなっ、灰色になる可能性もあるか分からないし、だだ、大丈夫ですよ! 本当に!」
しゅんと肩を落とすセシルに、綾乃は責任を感じて励ましの言葉をかける。
―ピリリリリッ
空気を読んだように、セシルの懐に入っていた携帯電話から着信音が鳴った。
もっとメロディアスな音楽が流れるかと思いきや、きちんと学園規則に従って、授業の邪魔にならない無機質な音に設定しているらしい。
着信に出ると、なんと相手は、蒼空学園で虹色のかたつむりを調べているはずの弁天屋 菊だった。
うしろからは同じく、文献を一緒にひも解いているはずの赤嶺 霜月とアイリス・零式の声も聞こえる。
「お疲れ様です、菊さま。あの、どのようなご用件でしょうか?」
<学園の電話からごめんよ。虹色のかたつむりについて、無視できない情報が入ったから伝える>
緊急の通達だったが、虹色のかたつむり探索組との連絡方法が個人の携帯電話への通話でしか叶わなかったため、
このような会話に至ったのだという。
菊の言葉を聞いた綾乃とセシルの表情が、どんどん驚愕に染まって行く。
<虹色のかたつむりをさつきが見た背景には、精霊――しかも子供の――が関わっているかもしれないんだよ>
――他の連中に、このことを伝えてくれ。
菊に頼まれ、セシルは携帯を握ったまま、猛然と体制を変えて走りだした。
そのあとにワンテンポ遅れて走りだ綾乃は、何が何だかわからぬまま、久しぶりの猛ダッシュに息を切らせるのだった。
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