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リアクション
=第7章= 急展開
綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は、両手を胸の前でクロスして、どこかのヒーローやヒロインがとるような独特のポーズを園児たちの前で
披露していた。
この頃ちまたで流行っているアニメの話題を園児たちに持ち出したのだが、話題への喰いつきの良すぎて、危うく「ごっこ遊び」を
満喫してしまいそうだったのを、なんとか堪えてのそのポーズだった。
それもこれも、園児たちの心を開かせるためのものだったのだが、いまはそんなにハイテンションにはなっていられない。
どことなくさゆみの動きがぎこちないのも、目の前の光景のせいだ。
「(よく見たら、尖った耳に布の衣装、水色に見えるのは、あの子のオーラかしら)」
「(まわりの子供たちは、気付いていないというか、ちょっと変わった子・・・・・・くらいにしか感じていないのですわね)」
さゆみの囁き声に、パートナーのアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が同調して囁き返す。
ほんの数十分前の出来事だ。
お昼が過ぎ、やや落ち着いた雰囲気の園児たちに囲まれている中で、さゆみはさりげなく「虹色のかたつむりって、見たことある?」と
言葉を投げかけていた。
ひとりの園児が「何もしょってないかたつむりなら見たよー」と言い、さゆみ以上にさりげなく手に握っていたナメクジを見せてくれたことも、
「つのだせ、やりだせ〜」と言って、さゆみの髪の毛をむんずと掴んで手のひらで結いあげたことも、いい思い出だ。
さゆみ自身、自分が我慢強いというのをここにきて初めて知ったのだが、アデリーヌは自我を御しきれず、
自分のはいていたスカートをめくった男児を鬼の形相で追いかけていたようだ。
そんな騒がしい教室内に、えも言えぬ雰囲気が混じったのは、園児たちがより一層の高い声でキャーキャーと遊び始めた頃だった。
最初に変化に気付いたのはアデリーヌで、男児を追いかけていた足を緩め、唐突に止まった。
それを見てさゆみも改めて教室内を観察し、そして子供たちに混ざって遊んでいる“その子”に気が付いてしまったのだ。
キュッ、ダダダッ、キュキュッ、ダダダ。
教室の外から床と足がこすれる音がし、それから乱暴にドアが開いて、さつきが入ってきた。
整っていた髪の毛が四方に飛んでおり、どれだけ急いできたかが伺える。
教室内の全ての者が・・・・・・さゆみとアデリーヌだけではない、遊びに夢中だった園児たちさえ、目を丸くして見慣れたはずの
友達を見つめている。
さつきは、迷いのない足取りで、水色の気配をまとう子供の元へ歩いて行った。
遠慮のない足取りに、事情を知っているさゆみとアデリーヌも声をなくした。
止めるべきか、黙って見ているべきか。
答えは後者だった。
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