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リアクション
=第2章= 個性的な探索者たち
「ねぇ、貴女たち。虹色のかたつむりって、見たことないかしら?」
「え〜、かたつむりって、で〜んで〜んむ〜しむ〜し、でしょ」
「そうね。でもそれは、私が考えているものとは違うみたいね。ごめんなさい」
レイシャ・パラドクス(れいしゃ・ぱらどくす)は、園児の女の子に次々と声をかけては「虹色のかたつむり」の言葉を繰り返し、
女の子から二言目に有力な情報が得られなければ、そそくさと近くにいる他の女の子に話しかけるという行動を続けていた。
「質より量」と考えるレイシャは、細かいところを考えるのは他人に任せようと心に誓っている。
そのため、虹色のかたつむりにつながりそうな発言も、ただの記憶としてストックするだけで、解析しようとはしない。
「ざっと20人ってところね・・・・・・かたつむりの名前だけなら、みんなよ〜く教えてくれるのだけど・・・・・・真相には遠いようだわ」
レイシャは疲れた顔をしつつ、けれど目はらんらんと輝いている。
小さい女の子が大好きなレイシャは、女の子たちと話しているだけで楽しくて仕方がないのだ。
「ちょっと君、捜査妨害はやめてくれ」
さきほど話した20人目の女の子が去って行った方向から、マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)が、
不審そうな表情でレイシャの元へ歩み寄ってきた。
右手になぜか生徒手帳をちらつかせ、刑事のつもりなのか、職務質問の前段階のような雰囲気だ。
生徒手帳の中には、男子特有の読みにくい文字で聞き込みした内容などがびっしりと書きこまれている。
「俺はこういう者だ。さきほどから見てたんだが、特に女の子である園児に話しかけ過ぎじゃないか?」
「妨害なんて、失礼ね。10人いれば10人のやり方があるのは当たり前じゃないの」
うぐっと言葉に詰まり、マイトは後ずさる。
マイトはただ、頻繁に話しかけることで園児たちが会話に飽き始めて重要な部分を話してくれなくなるのではと心配しているだけなのだが、
言われた側からすれば、確かに礼儀よろしいとは言えないだろう。
レイシャはマイトを無視して、スタスタと次の相手に決めた女児の元へ駆けて行った。
「待て! まだ話が途中だっ・・・・・・!」
レイシャの叫びが、尻つぼみになって消える。
なんという偶然か、レイシャが聞き込みを始めた子供と言うのが、マイトのパートナーであるターリア・ローザカニナ(たーりあ・ろーざかにな)
だったのだ。
ターリアは幼稚園児と相違ない年齢とはいえ、服装はまるっきり違うのだが、レイシャは気付かず話しかけてしまったようだ。
危機感を感じたマイトは、ものすごい速さでレイシャとターリアに向かって歩いて行こうとした。
だが、おかしな様子を感じ取り、歩いて半ばでピタリと止まる。
実際、ターリアの方からマイトに気付いて近寄って来たので、マイトが歩く必要がなくなっただけなのだが、
いつものようにマイトの影に隠れたターリアが、嬉々としてこう言ったのだ。
「マ、マイト! わ、私、レイシャと、い、一緒に、『特別任務』を遂行するよ!」
「えっ」
どうやら、積極的に会話するレイシャに尊敬の念を覚えてしまったようだ。
ターリアは、行動を共にするといって聞いてくれない。
(どうやら、とんだ“相棒”ができたようだ・・・・・・)
あり得ないタイミングで常にない珍しい行動をとったパートナーのターリアを、嬉しいかな悲しいかな、
マイトは羨ましげに見つめるのだった。
幼稚園の教室内では、真っ白な紙とクレヨンで縦横無尽に線の描かれた紙などが四方に散らばっていた。
決して散らかしているのではない、園児たちとの大事な会話の最中だ・・・・・・と目で訴えているのは
シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)だ。
「虹色のかたつむり」といきなり言っても子供の頭ではわかりにくいと思い、まずは園児たちには「かたつむり」「虹色に光るもの」というお題で
間接的に聞き込みしようとしているらしい。
予想通り、園児たちは可愛い手でクレヨンを操り、気ままに絵を描いていく。
「かたつむり、ビー玉、雲、折り紙・・・・・・と・・・・・・これは・・・・・・万華鏡??? さつきちゃんが見たのって、これなのか?」
主に“虹色”から連想する奇抜なアイテムが次々と絵に描かれ、それらを見て童子 華花(どうじ・はな)は首をかしげる。
「ああっ、多彩なるみんなの才能が、まぶしいわ!」
蒼空歌劇団で培った美声を使って、シルフィスティと華花の主であるリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は歌うように言う。
子供たちの注目集めに必死になるリカインだが、本人は楽をしている気はさらさらない。
得意不得意を見定め、自分よりもシルフィスティと華花の方が、聞き込み役に適していると判断したのだ。
「かたつむりは暗くて湿っぽい所にいる。でも、虹色になるには光がいるのよね・・・・・・この矛盾をどうすればいいのかしら」
一人の園児が描いた「かたつむり」と「懐中電灯」を真剣に見比べ、シルフィスティは真剣に悩むのだった。
*
幼稚園の外を、かたつむり探しに出かけたフィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)は、道路沿いを歩いていた。
かたつむりはカルシウム摂取のためにコンクリート壁やプレートの表面を這うことがあるらしいので、
あえて、家の周りや道路のガードレールを見て回っているのだ。
一瞬、予想が的中したかと思う場面もあったが、残念ながら見つかったのは普通の色をしたかたつむりだ。
「嫌な色の雲・・・・・・雨でも降らなきゃいいけど」
虹色のかたつむりとの遭遇確率より、降水確率の方が心配なフィーアだった。
覚悟はしていたが、実際にびしょぬれになる事態は、本当ならば避けたい。
そんな心配を予期したように、パートナーの立花 眞千代(たちばな・まちよ)と戸次 道雪(べつき・どうせつ)は、
ちゃっかりビニール傘を手に持って、
いつでも雨が降りだしていいように構えている。
主に対してはどこまでも尽くす性格なのだ。
とはいえ、もちろんかたつむり探しが本業であることは忘れていない。
「フィーア、もしかしてビニール傘に光が当たって虹色に見えたって可能性もあるんじゃ・・・・・・」
大真面目も大真面目、かなり真顔でその可能性を考えビニール傘を見る眞千代だが、
発想があまりに突飛過ぎて突っ込みたくても突っ込めない。
けれど、そんな発想もしてしまいたくなるほど、途方もない作業をしているという感覚があるのだろう。
1人よりも2人、2人よりも3人というように、探索する人数は申し分ないのだが、似通った考え方が集まっても新しい答えが出ないので、
フィーアも頭を抱える他ない。
すると、フィーア達を目指しておしとやかに女性が歩いてきた。
幼稚園の外で、念のために行動していた火村 加夜(ひむら・かや)だ。
さつきは、虹色のかたつむりを「部屋の中で見た」と言っていたが、のろまであれかたつむりも動いているし、
場所を移動していることも考慮して外に出て探索を行っていたのだ。
「まあ、フィーアさんも幼稚園の外を探しているんですね。調子はいかがですか?」
「さっぱりだね。普通のかたつむりなら見つけたけど。これじゃあ、先が思いやられる」
事前の自己紹介の時間もあったので、各々、誰がどの学校の出身で、どのような名前なのかはフィーアも把握していた。
同じ蒼空学園の生徒同士であるという気安さもあり、砕けた感じでフィーアは加夜に弱音を吐く。
「私は、人気のなさそうなところを探しているんですけれど、よろしければご一緒してもいいですか?」
「それは助かる」
人数が多い方が効率がいいということで、フィーアと眞千代と道雪、そして加夜の4人は共に行動をすることにした。
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