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リアクション
2/
「二手に別れるというの?」
加能 シズル(かのう・しずる)は、差し出されたその提案に、眉を顰め否定的な色を表情へと窺わせる。
彼女が、そういう反応を見せる理由は簡単だ、
「危険やリスクは承知の上だ。だが」
その提案をしたコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)自身、そのことはわかっている。
「だが、このまま手をこまねいているわけにもいかないだろう。そのためにも、まずは人手と情報。それらはどちらも欠くべからざるもののはずだ」
この場にいるのは、ほんの十数人。ドラゴンイーターの襲撃を受けて、他の皆は散り散りになってしまった。
こうも分断されてしまっては戦力的に大いに不安だし、脱出もままならない。
「でも、これ以上少ない人数で彼らに襲われたら」
それゆえの、策。危険を知った上での、戦力の分配。
それぞれに散った仲間たちの捜索と合流と。そして、ドラゴンイーターを撃退し、脱出するための必要情報を探索するチームの二手に別れる。
コアがこの場にいる皆へと行った提案は、そういうものだった。
「たしかに真正面からやつらとやりあうには、こちらにあまりに不利だ。人員を分ければなおさらだろう。しかし、だからといって」
コアは言葉を切り、シズルの傍らに控えている少女、火村 加夜(ひむら・かや)のほうへ視線を注ぐ。
「彼女の提案した策を実行しようにも結局、情報と人員とが必要不可欠になる。ゆえに私はこれが最善であると考える」
多少のリスクは覚悟したうえで、チームを二つに分けることが。
それが、ドラゴンイーターを一網打尽にするための、加夜の作戦にも繋がると。
つい先刻聞かされて、色めき立っていた一同の雰囲気に冷や水を浴びせることになろうとも、コアもここは譲れなかった。
ドラゴンイーターたちを一箇所に誘い出し、閉じ込めてしまう。──要約すると、加夜の作戦とはつまりそういうこと。
しかしそれを行うには自分たちには今、戦力も情報も圧倒的に不足しているのだから。
「なるほど、ね」
見つめるコアと、シズルの影に後ずさる加夜。そんな二人を遮るように、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が声を発する。
「別に、加夜の作戦が間違ってるって言ってるわけでもないんだしさ。そのために情報集めていくっていうのはあながち、ずれてるわけでもないと思う。ボクは賛成だな」
「レキ」
二手に別れるのは、賛成。言いながら小さく挙手をして、彼女は立ち上がる。
「ボクは情報収集にまわるよ。いい?」
「じゃあ、僕も」
彼女に続くようにして、パートナーのカムイ・マギ(かむい・まぎ)もおもむろに腰を上げる。これで、ふたり。
「ピッキングは得意ですし。……あまり自慢になることでもないけれど、鍵のかかっている部屋も実際少なからずあるだろうし──有用な情報を探すとなるとなおさら、そういうところにむしろ隠れているだろうし、レキと僕はそっちに」
「だね。皆はどうする?」
レキとカムイが、一同の顔をぐるりと見回す。
「……そうだな。じゃあ、俺たちもそっちを手伝おう」
目を軽く伏せつつ、源 鉄心(みなもと・てっしん)がそう応じ、表明する。
彼と、そのパートナー、二人。
「それでいいか? ティーも、イコナも」
「「はいっ」」
イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)に、ティー・ティー(てぃー・てぃー)。鉄心のパートナーである少女たちの返事が、きれいにユニゾンして周囲に響く。
「なんとか、極力命まではとりたくはないですけど……ね」
「そういう手段が見つかれば、だな。その点も」
ティーの言うそんな理想論も、実行できるかどうかは結局、手に入った情報次第としかいえないのだから。
徹底的に排除するにせよ、生態系に任せて放置するにせよ。後者を選ぶことが可能な生態であったとして、更にその上で自分たちが無事にこの遺跡から脱出できねば意味がない。
あくまで、探検隊の無事が第一。それを確保するための、チームの分散。
「うう、パソコンがネットに繋がればもっと役に立てるのに……」
「無茶言うなって。繋がるわけないだろ?」
「そりゃあ、そうですけど……」
そう言って、肩を落とすイコナ。……尤も繋がっていたとして、一般には殆どまったく知られていないこの遺跡に関する情報がそこから何か、有用なものが得られるとも思えないのだけれど。
彼女の見せるややオーバーな仕草が、一同の間に流れる空気をほんの僅か和ませ、弛緩させる。
「ならば、わしは合流チームに回ろうかの」
やがてそう言ったのは、大上 夕希(おおかみ・ゆうき)。
「はぐれた皆を、集めねばな」
じゃあ、俺も。僕も、わたしも。僕は情報収集に。彼女の声に触発されたように、次々と一同の中から手が挙がる。
実際のところ、ここでじっとして考えこんでいるよりも動いていたい。危機に瀕しているがゆえに、皆その思いはおそらく強いはず。また、行動が迅速であればあるほどいいということも、皆がわかっている。
「動くなら、急いだほうがいい。こうしている間にも各個撃破されているかもしれないし、救助隊も近づいているはずじゃからのう」
レキが、鉄心が、コアが頷く。
「加夜は、どうする?」
「シズルちゃん」
大勢は、そのように決した。シズルと加夜も、どちらのチームとして動くかを決めなくては。
「わたし、は」
そう。じっとしているわけにはいかないのだ。どうするか、決める。そしてそれに、全力を尽くす。
決めねば、はじまらない。それゆえに、加夜の出した回答は──……。
「探そう。みんなを」
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