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竜喰らう者の棲家

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竜喰らう者の棲家

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 悲痛な叫びが、パートナーである魔鎧、ジャック・メイルホッパー(じやっく・めいるほっぱー)を身に纏い、ドラゴンイーターへのガス放射を続ける和泉 絵梨奈(いずみ・えりな)の耳にも届いていた。
 岩竜忌草のガスを浴びせ、悶え苦しむドラゴンイーターからの攻撃をかわし。また浴びせては、今度は反撃へと転じて。
 その繰り返しの中で、それらは強烈に残響をしていく。
 背後を気にする余裕なんてないのに。……いや。気にしているのだ。この、背後にいる者たちだけは守らねばならぬと、そういう想いにさせられる、悲痛で感情に満ち溢れた叫びがそこにはある。だったら──やるしか、ない。
 
「おい……なんで……っ。なんでだよ! おい! しっかりしろ! しっかりしろよ、アニス! 返事しろ、目、開けるんだよ!」
 
 絵梨奈たちに、守られる形で。彼ら、彼女らは石造りの床に敷かれた毛布の上に横たわる少女へと呼びかけ続けている。
 苦しげに眉を寄せ、倒れる少女の名前はアニス・パラス(あにす・ぱらす)。その彼女へと呼びかける少年は、パートナーの佐野 和輝(さの・かずき)である。
 もう、出口まではすぐそこだというのに。アニスの身を預かる毛布が、彼女の身体、右肩より流れ出る出血に赤く染まっていく。
「どうして……どうして、なにも言わなかったんだっ!? 無理なら無理だって……お前背負って歩くくらいは……!」
「落ち着いて! 和輝! まずは手当てをしないと……!」
 アニスと同じく彼をパートナーとするスノー・クライム(すのー・くらいむ)が諌めつつ、傷口を露出させるべくアニスの着衣を引き裂いていく。
 あと、少しというところまで自力で歩き、脱出を試みた。その無理によって、応急処置をした傷口が開いたのだろう──そこはもう、真紅にじっとりと濡れている。
 救助隊と、出くわして。その直後糸が切れるようにアニスは気を失った。
 悪いこととは重なるものだ。倒れたアニスを和輝が抱きとめたそのとき、ドラゴンイーターたちの奇襲を彼らは受け、手近な部屋へと避難をすることになったのである。
「手伝う! 止血だけでもして──はやく遺跡の外へ運ばないと!」
「お願い!」
 スノーがアニスへと向けた掌に、もうひとつ掌が重ねられる。
 赤毛の吸血鬼、ルビー・フェルニアス(るびー・ふぇるにあす)がスノーと同時に、重傷の少女へとヒールの淡い光を降り注がせていく。
 治療が済めば、すぐに運び出せるように。ルビーとともに合流した第七式・シュバルツヴァルド(まーくずぃーべん・しゅばるつう゛ぁるど)がその巨体で彼女らの背後に控えていた。
「やっぱり! 岩竜忌草の効きにくいやつが混じっている!」
 そして、アニスを守るルビーたちを、その銀髪を振り乱し闘う東 朱鷺(あずま・とき)が守る。ルビーやシュヴァルツヴァルドと同じく彼女にとってパートナーである、ブランガーネ・ダゴン(ぶらんがーね・だごん)と背中を預け合いながら。
「間違いないね。こんだけガス浴びせてるのに、明らかに硬いままの元気な奴と、そうでない奴がいる」
 舌打ちと、歯噛み。パートナー同士、同じくドラゴンイーターに対しての苛立ちを露わにする。
「とりあえず、もう少し排除しないことには──……っ?」
 と。一番大型の一体が「内側から」破裂し、爆散する。
 たった今、そこにドラゴンイーターの姿があった場所に降り立つのは少年だ。忍装束の上から魔鎧を身に纏い。その両の手には光条兵器を光輝かせたフル装備で、ドラゴンイーターの体液に塗れながら彼は膝をつく。
「……はぁっ!」
 パートナー、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)を身に着けた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は大きく、息を吐いた。そんな彼に、残る二人のパートナーが駆け寄っていく。
「唯斗っ」
「兄さん! 大丈夫ですかっ!?」
「ああ……なんとかな……しかし、生きた心地がしなかった……っ」
 彼へと光条兵器を託したエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)と、妹分の紫月 睡蓮(しづき・すいれん)とに肩で息をしながら応じる。
 硬い外殻を持つドラゴンイーター、その中に更に若干とはいえ弱点に耐性を持つものがいる。そのことに気付いた時から、試してみようと思いついた、……思い出した戦法だった。

 敢えて、飲み込まれて。脆い内部からドラゴンイーターを破壊する。シンプルかつ、わかりやすい戦法だと、思った。
 
 たしかにそれは可能であったが、しかし。
「リスクが高すぎる上に、度胸が必要すぎる……これは」
 あまり多用できる戦術ではないと、実感した。
「二人とも、下がって」
 そしてまだ、ドラゴンイーターたちは無数に残っている。ならばもう、正攻法で行くしかない。
 岩竜忌草が効きにくい個体──それは今こうしていても、唯斗の目にも明らかにそうであるものとそうでないもの、判別が容易なほどであり。
「だが効いてないわけじゃない! 多少装甲も脆くなっているし、どこか一箇所に集めてたっぷり浴びせれば!」
 一網打尽にできる! 気合とともに立ち上がろうとした彼の懐で、通信端末が連絡の着信を告げた。
「……なんだっ?」
 腰を折られた感に、思わず引っ張り出して見下ろす唯斗。そしてその画面に浮かび上がった、通信の発信源である相手は。
「加能、シズルだって?」
 救助隊は──彼女たちの一団と合流、できたのか?