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リアクション
夕方になり、勉強も一段落つき始めた頃。
「模擬試験してみようよ」
そう言い出したのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)だった。
教員免許を持つ彼女は涼司とは親友で、今回の騒動に協力してくれていた。
「効率的な暗記法で要点を抑えて集中すれば、学力は必ず付いてくる。皆なら出来るよ」
スキル【士気高揚】の効果もあり、頑張っていた皆に仕上げとして提案したのだ。
「そうだな、一度やってみるのも悪くない」
涼司も同意を示す。
「山葉は校長でもあるが生徒でもあるだろ。当然テストは受けるよな?」
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が涼司にも模擬試験参加を薦める。知的な風貌の彼もまた、ルカルカに付き添って手助けにきていた。彼が担当したのは理系、ルカルカは文系、適材適所というやつだ。
「そうだな、俺も受けるか」
「でも、不正はダメ絶対だからね」
こうして始まった模擬試験は早くも制限時間を迎えた。
「はーい、それまで」
手を上げて宣言するとルカルカの豊満な胸が揺れる。
一斉にペンを置く音。自己採点を終え、一喜一憂を内包する図書室。
「で、涼司はどうだったの? 平均点より低い……なんて事は、まさか、ないわよね?」
可愛らしく尋ねるルカルカ。ダリルは涼司の答案用紙を覗き込み、公表する。
「全教科八十点オーバーか。これなら大丈夫だろう。でも、答案用紙がかなり汚れているな」
「ああ、途中で解答欄がずれていたのに気付かなかったらやばかった」
ホッと息を付く涼司。
「ううー、ダメだったよー」
「ほえ? 点数悪かったの?」
その横で唸る芦原 郁乃(あはら・いくの)。模擬試験の点数が芳しくなかったのかと、ルカルカは心配して答案用紙を見る。
「クラスのみんなを巻き込むわけにはいかないし、もっと頑張らないと!」
気合を入れる郁乃。
「もし頑張る気がおありでしたら、一晩で全てを克服する方法もありますよ」
秋月 桃花(あきづき・とうか)が主を思い、真剣な顔つきで声を掛けてくる。
「ほんとに? それじゃ泊りがけの勉強会だね! ドキドキするなぁ」
「桃花は買い物がありますので、少し待っていてください」
そう言って図書室を出て行く。
「今の時点で全教科六十点なら、そんなに心配する点数じゃないと思うけど?」
「でも決して安心してられないことも事実だわ」
負けず嫌いに立ち向かう姿にルカルカは応援したくなった。
「頑張るのもいいけど、休憩も必要だよ? チョコバーあげるから、ちゃんと糖分補給もしてあげてね」
「わあ、ありがとうございます!」
「チョコレートは正義♪ 待っている間に少しおさらいしましょ」
笑顔で受け取り、二人で要点の復習を行う。
「あら? 桃花さんは?」
「桃花なら買い物があるからって待っているとこなんだ。今日は泊まりで勉強会なの」
質問する蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)に答える郁乃。マビノギオンもまた、郁乃と契約した魔道書である。
「おまたせしました」
タイミングよく帰ってくる桃花。その両手には幾つかの買い物袋。郁乃たちに向かって歩くたび、カチンッとビンの当たる音がする。
「それは何かな?」
好奇心旺盛に尋ねるルカルカ。
「もしかして、カフェインドリンク?」
なぜか顔を青ざめだすマビノギオン。
「荷物の山、勉強会、カフェインドリンク……まさか」
「修羅場モード」
悪い予想は当たってしまった。
「修羅場モードって何?」
まったく把握できていない郁乃にマビノギオンは説明する。
「作家が全精力を引き出し、作業速度を2倍に高める最終手段です。ただし、体力と精神力を激しく消耗するため、素人にはお勧めできません」
要約すると泊りがけでの詰め込み。それはかなりの代償を伴う。
「ま、まさか……ね」
郁乃の頬に一筋の汗が垂れ、桃花を見やる。当の本人は真剣そのもの、笑顔の後ろに鬼神のごときオーラを立ち昇らせ、気圧される郁乃。
助けを求めマビノギオンに視線を移しても、助けてあげられないと首を横に振るだけ。
「それでは行きましょう」
「え? もう!?」
手を取り、桃花は郁乃を引き連れ颯爽と図書室を出て行く。
「トラウマにならなきゃいいですね……」
心配しながら付いていくマビノギオン。
「助けなくて良かったのか?」
「そんな暇もなかったもん」
「あれじゃ体を壊しかねないだろ……」
三人を見送るダリル・ルカルカ・涼司もまた、郁乃の安否を気遣う。
「ぐわあぁぁぁぁぁ!!!」
視線とは別方向から早くも悲鳴が上がった。
そこには室内にもかかわらず、雷に打たれた黒野 奨護(くろの・しょうご)がいた。
「あなたはいったい何度間違えれば気が済むの?」
「これでも真面目にやっているんだ」
「どれだけ勉強すれば成績がよくなるのか心配だわ……」
嘆くティア・ルシフェンデル(てぃあ・るしふぇんでる)。
「せっかく伝説の教師二人にも講師を頼み、文系理系と教える側は完璧ですのに」
その先には二人の美女、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。何故かビキニとホルターネックのメタリックレオタードという水着姿。目のやり場に困る。それにティアも負けず劣らずの美形で、美女三人に囲まれた奨護なのだが、少し鼻の下を伸ばすと、
「ほら、そこのエロガキ! 余所見してないでこの方程式解いてご覧?」
と銃で殴られ、
「変なところをジロジロ見るんじゃない!」
とチョークを投げられ、
「私というものがありながら」
と雷術を撃たれる始末。健全な男子にこれは酷ではなかろうか。
あまつさえ、解答が間違っていると、
『そこ、間違っているわ』
「ぐ、ぐふうぅ……」
三人からの一斉攻撃。これでは体がいくつあっても足りない。
「ちょっとやり過ぎじゃないかな?」
さすがに助け舟を出すルカルカ。
「年末年始は家族旅行が控えているのよ。ここは無理やりにでも勉強させて受からせるしかないわ」
「あたしたちに気を取られるのも、集中力の無い証拠よ」
「今を頑張れない人が明日頑張るとか言っても、信じる人はいないわ」
三者三様の発言だが、要はスパルタ嗜好。できない人には鉄槌を、の構えだ。
「でも、たまには息抜きも必要だよ?」
「息抜き、ですか」
「わからなくもないわね」
その格好故に【伝説のビ神(ビキニ神)教師】とうたわれるセレンフィリティ。セレアナも同様に【伝説の美人教師】の称号を持つ。
「確か、ルカルカも称号を持っていたわよね?」
「【伝説の体育系国語教師】だよ」
「教えてくださる方々は本当に優れていますわね。それに比べ……」
ティアは睨みを窓へと向ける。
「よし、誰も見てないな。今のうちに窓から……」
「逃げることは許しませんよ」
「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「これで何度目ですか? まったく隙もないわね」
性懲りも無くコソコソと窓からの逃亡を図る奨護に雷術を喰らわせるティア。逃げたくなる気持ちも分からなくはない。
「セレンフィリティさん、セレアナさん、寝させなくてもよろしいので、勉強を続けてください」
プスプスと焼け焦げている奨護を椅子に座らせる。
「そういう要望なら仕方ないわね。わかったわ」
頷くセレンフィリティ。セレアナも助言を加える。
「次の問題よ。プロペンを臭素水中に通した際の変化の化学反応式は?」
「ここでしっかり得点取らないと今年の冬は補習三昧で終わっちゃうのよ?」
持ち前のかっこよさが台無し状態の奨護に出される難問。
「わ、わからねぇぜ……」
『また喰らわせられたい?』
ティア・セレンフィリティ・セレアナの尖った視線が奨護に突き刺さる。
「や、やればいいんだろ!」
頭をガシガシかきながら頭を悩ませる。
「凄いスパルタだね……」
苦笑を滲ませ、涼司に話しかけるルカルカ。
「ああ……」
涼司はその光景に発する言葉が見つからなかった。
「ねえ涼司……、ちゃんと休暇あげられそう?」
「うげらばああぁぁぁぁぁ!!!!」
問いかけに被さる悲鳴。
今回の決定にやり過ぎた感があると、涼司は頬をかいた。
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