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偽ロリ教師と盗賊とさらわれた子供達

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偽ロリ教師と盗賊とさらわれた子供達

リアクション

「ごにゃ〜ぽ☆ ”かよわい”ボクの女子力(武力)☆ で華麗に事件を解決♪ 強者と闘えれば言うことなし☆」
 響くのは、最近流行りのポップなメロディ。
 洞窟の中を軽い足取りで歩くのは六歳程度の子供……に見える。
 だが、これは鳴神 裁(なるかみ・さい)である。油断させる為にちぎのたくらみで変化した裁だったが、ひとさらい達が引っ掛かるかどうかまでは確信がもてなかった。
 ちなみに女子力(武力)とは女子が持つ、困った時は武力で解決する能力のこと。この能力を持つものは自らを”かよわい”と称することが多い……というのは裁の談だ。
 パラミタでは”かよわい”=武闘派というのはもはや常識です、と語る裁だが、事実かどうかはこの場では判断する術はない。
 ポップな歌を口ずさむ子供の姿。
 それがまさか、レゾナント・アームズの能力を発揮するべく歌いながら待ち構えている罠だとは、ひとさらいも思わないだろう。
 パラミタで子供と油断したらどうなるか、身をもって思い知らせるつもりの裁としては、いつひとさらい達がやってきても応対する準備は万全だったのだが……。
「おい、あんな所にガキがいやがるぜ……歌ってやがる」
「逃げたガキか?」
 それを、陰から見張るように見ているひとさらい達が二人。
「いや、見覚えがねえな」
「つーか、他のガキの顔も覚えてねえよ」
 どうやら、相当のバカのようだが……それが幸いしたようだ。
 もっとも覚えていたとしても、裁が罠だと気づいたかどうかは怪しいものだが。
「まあ、問題ねえだろ。捕まえちまえば儲けになるんだ」
「だな」
 どうやら、ひとさらい達の間では話がまとまったようだが……その気配に、裁が気づいていないはずはない。
 当然、裁の戦闘準備は万全だ。
「おらぁクソガキ、そのくっだらねえ歌をやめて俺等……に?」
 それはひとさらいにとって、愚かな選択だ。
 今の裁は、素手で対イコン性能を誇る人間兵器なのだ。
「大丈夫、死なない程度には手加減する、でも3日ぐらい胃が飯を受け付けなくなるのは覚悟しておけ?」

 ひとさらい達の悲鳴を遠くに聞きながら、猿渡 剛利(さわたり・たけとし)佐倉 薫(さくら・かおる)は洞窟の中を歩いていた。
「ふむ、盗賊とゴブリンを倒す簡単なお仕事か」
「盗賊達にゴブリンも少々か、まぁ、剛利の実力であれば苦戦するレベルではあろうが、立ち回りしだいでは勝てないこともないであろうよ」
 剛利と薫の目の前にいるのは、やけに筋肉モリモリで濃い顔をしたゴブリンだった。
 ゴブリンは色々な場所で見かける生き物だが、こんな世紀末な顔をしていただろうか?
「まあ、この程度なら楽勝……ごふうっ!?」
 最初は、右ストレートだった。
 ボディにえぐり込むように入った一撃から、ゴブリンはすぐさま拳を引き戻して次弾の態勢に入る。
 その間、一秒すらかからない。
「ちょ、ま」
 続く左の一撃が、脇腹へと吸い込まれるように叩き込まれる。
「なに、ぐはーーーー!」
 そして更に態勢を立て直すゴブリンからの、凶悪なワンツー攻撃。
 基本に完璧に準じた攻撃は、極めれば最強の武器になりうるとも言う。
「な、なんでケンセイレベルのゴブリンがこんなところに?」
 剛利がそう思ってしまうのも、仕方のないことだ。
 もちろん、本物と相対すれば軍配がどちらに上がるかは言うまでもない。
 だが、このコンビネーション攻撃に限っていえば、その実力は本物級。
 倒れる剛利に溜息をつきながらも、薫も驚きを隠せない。
「な、なんじゃあのゴブリンは!?」
 続けて薫へ向けてステップを踏むゴブリン……いや、ゴブリン・パンチャーを薫は正面から見据える。
「こいつは少しばかり甘く見すぎたようじゃの、まさか格闘技の達人レベルのゴブリンがおるとはの」
 言いながらも、薫の手は自在刀へとのびていく。
「まぁ、よい、これはこれで面白い、どれ、我が相手をするとしよう」
 倒れた剛利をそのままに、薫はゴブリン・パンチャーと相対する。
 久々の高揚感。倒れた剛利の事は、薫の頭からすっぽりと抜け落ちるのだった。

「上手く場所が見つけられないみたいだな……うーん」
 ナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)はアーシアの携帯の位置をGPSで探ろうとしていたが、上手くいかないようだった。
 衛星の影響か電波の影響か……この場では、上手くいかないことだけは確かだった。
「と、とにかくアーシア先生や攫われた子達が安全に逃げられるようにしないと……」
 悪戦苦闘するナディムの横では、作業を覗いていたリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)が心配そうにつぶやく。
 ともかく、これで足で子供達を探すしかなくなったわけだ。
 子供達を襲う精神的な不安を思えば、一刻の猶予もないと言っていいだろう。
 いや、それだけではない。
 この洞窟内から響く戦闘音は、当然ひとさらい達にも聞こえているだろう。
 子供たちの救出か、それに類する何かが来ていると気づかれていてもおかしくはない。
「と、盗賊さんが攫われた子を探しにきた人達を待ち伏せして、た、倒そうとしてるかもしれないですよね」
「そう、だな。でもまあ、盗賊探すより子供の方を探した方が盗賊を早く見つけられそうだよな」
 リースの当然の言葉に、ナディムもそう答える。
 先に侵入者を倒してから……と考えるひとさらいだって、当然いるだろう。
 元々、そういう荒事に躊躇なく移行できるからこそ、ひとさらいなどをやっているのだから。
「合法ロ…女子供を攫って売り飛ばそうとはなんたる悪! 必ずや我輩が成敗してくれよう!」
 そんな中、目に見えてやる気を出しているのはアガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)だった。
 合法……何と言いかけたのかは不明だが、実に燃えているようだ。
「と、とにかく行きましょう!」
 リースの提案に、アガレスは大きく頷く。
「うむ、我輩に任せるがよい」
「え? 爺さんに?」
 ナディムの言葉に、アガレスは絶対の自信を持って答える。
「我輩は我輩の戦いでの実力に絶対の自信を持っておるゆえ、不届き者の盗賊は見つけ次第、我輩の白銀に輝く美しい翼(『バードマンアヴァターラ・ウィング』)にて即刻斬り伏せてくれよう!」
 バードマンアヴァターラ・ウィング。
 それが如何なる戦いを生むのか。
 だが、それにアガレスは絶対の自信を持っている。
 その絶対の自信が、様子をうかがっていたひとさらい達にも動揺を与えていた。
「おい……よくわかんねえけど、すげえ必殺技なんじゃないのか?」
「どうするよ、おい……」
 リースの危惧通りに待ち伏せしていたひとさらい達ではあったが、動揺もあってリースにそれを悟られてしまっている。
 ならば、まずは出鼻を挫く。
「そ、そこにいるのは誰なんですかっ!」
 リースの精一杯の大声と、即座に態勢を整えるナディムとアガレス。
「ちいっ……やるしかねえ。いくぞ!」
「くるのである!」
 そして始まる戦い。
 その最中、音にひかれてやってきた子供一人をリースが保護するが……それでもまだまだ、洞窟内を逃げている子供達はたくさんいる。
 その全てを救い出すのは……中々、困難なようだった。