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リアクション
【葦原明倫館・1】
「ようこそ、葦原明倫館へ!」
校門で一行を出迎えたのは紫月 唯斗(しづき・ゆいと)、紫月 睡蓮(しづき・すいれん)だった。ミリツァとも親交のある唯斗が、今回の案内役を買って出てくれたらしい。シェリーや後ろでぼんやりしている破名にまでパンフレットを渡して自己紹介する。
「今日は陰陽科所属、紫月唯斗が案内させてもらうよ」
「あら。あなたNINJYAではなかったの?」
どうやら忍者の存在に――恐らく間違った――夢を抱いているミリツァは、少し落胆しているらしい。
「あ? アレクは知ってたよな。ミリツァには言ってなかったっけか?
俺、今は隠密科じゃねーのよ」
『陰陽』や『隠密』と言った聞き慣れない言葉の連続でシェリーが難しい顔をしているのに気付くと、唯斗は「先に説明しとくけど」と前置きして、もう少し突っ込んだ話を続けた。
「『鬼鎧』、要するにイコンに関する事は『陰陽科』で学べる。
これでも明倫館の鬼鎧乗り筆頭でな、その都合で陰陽科にいる訳よ」
「えっと、あの? えと、その、にんじゃ? じゃないの、ね?」
此処に来る前や元々交流の合った契約者達のことがあり、やはり何かを抱いていたらしいシェリーが残念そうに首を傾げる。いよいようんざりしてきたのは、唯斗ではなくアレクだった。
「忍者だよ忍者お前等が大好きな忍者。
中は入れば山ほど見られるから、むしろ見えてる壁とか天井とか大体忍者だから、珍しく真面目ぶってる唯斗にさっさと話し進めさせてやれ」
「――あんがとさんアレク。つーわけで詳しい話はこの後な。
さて、そんじゃ入ろうか、トゥリンやターニャも待ってる」
*
校内で待ち構えていたのはトゥリン・ユンサル(とぅりん・ゆんさる)、スヴェトラーナ・ミロシェヴィッチ(すゔぇとらーな・みろしぇゔぃっち)、仁科 耀助(にしな・ようすけ)の三人だった。
「アレクの娘と娘。それから葦原が誇るナンパ師だ」
アレクが後見人を務めるトゥリン、別次元のアレクの娘スヴェトラーナを紹介する唯斗に、シェリーは弾けるようにアレクを振り仰ぐ。ミリツァやナオも当たり前に彼女達を知っているようだった。シェリーが続けて破名に視線を移すと、彼はトゥリンとスヴェトラーナと挨拶を交わしていた。
「年末年始以来か」という言葉を拾った事で、破名の方では既に面識があったようだ分かったシェリーは破名を呼ぶ。
「あの、クロフォード?」
「遺伝子が似ているだろう?」
「え?」
「ここまで色濃く残るのも珍しい」
スヴェトラーナがアレクにそっくりなことにシェリーが驚いているようだ、と破名は勘違いに趣旨違いの答えを返してくる。
しかし『こういう時の破名は、とんちんかんな返答しかしない』事を知っているシェリーは、気を取り直して耀助に向き直った。
「はじめまして、シェリーよ。今日はよろしくおねがいします」
「やあ、初めまして可愛いお嬢さん。
俺が唯斗よりも分かり易く、校内をくまなく、隅から隅まで案内して差し上げます」
握手からの流れでシェリーの手を取ろうとした耀助は、少女の後ろからジッと自分を見つめてくる紫色の視線に気づいた。その紫雷の色が一瞬にして白銀に変わった事に軽く目を見開いた。
破名は地味な容姿だが、色相だけは見るからに悪魔然としている。人ならざる生き物が外見的特徴をあからさまに変えたことを牽制と受け取って、耀助は保護者付きのナンパは成功した試しが無いのだと思い出しつつ、ターゲットをシェリーの隣へシフトした。
しかし唯斗は既に首を横に振っている。今回のナンパが絶対に成功しないことを、彼は知っているからだ。
「こちらの美しいお嬢さんは?
宜しければ俺と一緒に食堂で――」
耀助が差し出した手を、ミリツァは受け取る――と、見えただけで、実際は次の瞬間撥ね付けていた。
「エスコートの仕方がなっていないわ。初対面の挨拶としても最悪ね。
見た目はまずまずだからアウストラロピテクス辺りから出直してらっしゃい。無事ホモサピエンスまで辿り着けたら相手をしてあげても良くてよ」
「『こちらの美しいお嬢さん』は、俺の妹だ」
アレクに改めて紹介され、丸くなった目でミリツァの顔をまじまじと見つめた耀助は、そこにアレクやスヴェトラーナと同じ特徴を幾つも見つけて肩をがくりと落とす。耀助はこの一族が『独特』で有る事を過去に何度も体験していたからだ。
「……なんなのミロシェヴィッチ家……なんなの?」
「良し、先ずは士道科からだな」
一人影を背負った耀助を「良し」で置き去りにして、唯斗はさくさくと校内の案内を進めて行った。
*
「改めまして、皆さんこんにちは。紫月睡蓮といいます。
『士道科』の説明は私がさせて貰いますね」
睡蓮のこんな言葉から、『士道科』の案内はスタートした。
「――士道科は、主に侍やモンクの方が所属しています」
硬い表情で頷いているシェリーに、スヴェトラーナは「私! 私の事ですよ!」とウィンクしてサムズアップしている。落ち着きの無い彼女をミリツァが嗜めるが、余り効いていないらしい。
睡蓮は注目を集めるために、軽く咳払いをした。
「基本的には通常の座学に、各クラスに合わせた訓練を合わせて行われます。
士道科の名にあるように、礼節を重視する部分もあって皆さん礼儀正しい方が多いです。ね、スヴェトラーナさん!」
「はい!」
何故突然ふられたのか、その理由を全く察していない笑顔と元気一杯の返事に、睡蓮は諦めをて話しをそのまま続ける方向に切り替えた。
「ここから卒業すると、マホロバ幕府に仕官する方が多いですね」
「幕府はよくわからないのだが、仕官ということは、組織の下に付く、という解釈でいいのか? それだけの技術を学べるということか?
それと質問ばかりで申し訳ないが――」
最初の学校という理由だけではないのだろう、破名の問いかけは多い。内容も基本的な、誰もが知っていそうな単純なものばかりだ。
保護者が学校見学についてくるという意味が、その質問の多さを如実に語るが、睡蓮は嫌な顔をせず唯斗と一緒に丁寧に答えていく。最後に残されたのは『睡蓮は何を学んでいるのか』だった。
「――あ、私は弓をやっています。それなりに、上手いんですよ。
少し固いイメージかもしれませんが、意外と気楽にやって行けると思います」
にこりと微笑んだ睡蓮に、シェリーとミリツァとナオは素直な尊敬の眼差しで彼女を見つめている。ただ睡蓮の射撃を目の前で見た事のあるアレク、そして身を以て体験した事のある唯斗は、睡蓮の『にこり』から目を反らした。
「『それなり』って何だろうな唯斗。日本語って本当難しいよ。
それなり、それなり――。俺の受けた印象だとあー……『Awesome』(*凄い)、だったんだけどな」
「あれは半端ねぇって言うんだ」
「唯斗兄さん、何か?」
「いいえ。
えーっとサクサク行こうな、次は『陰陽科』だ」
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