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けうけげん?

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けうけげん?

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(1)学校の入り口で―何が起きたか―

 ここはイルミンスール魔法学校。
 世界樹の内部にできた学校は、降り注ぐ夏の光もどこか柔らかい。
 そんな学校の景観を撮影している者たちが一組。
「これなら、良い写真が撮れそうね」
 高潮 津波(たかしお・つなみ)ナトレア・アトレア(なとれあ・あとれあ)である。彼女たちは、タウン雑誌の手伝いで写真撮影に来たのである。
「ここから校舎の入り口をとればよさそうですね」
 津波がデジカメを校舎の方に向けて、ズームさせる。すると、妙な物が画面に映り込んできた。
「……何これ?」
 校舎の奥から、大きな影が近づいてくる。
 ゆっくりと入り口に現れたそれは、一言でいうと「毛の塊」。
「きゃああーっ!」
 津波とナトレアは、どんどん近づいてくる動く毛の怪物に驚いて、へたりと地面に腰をつけてしまう。
 怪物は二人の姿を見つけると、近寄ってきてしゅるしゅる…と毛を伸ばし、二人を拘束しようとした。津波たちは逃げたくとも完全に腰が抜けてしまい動けない。
 だが、その直前に火術の魔法が怪物の腕に命中し、怪物はあわてふためいて二人から離れる。
「大丈夫か!?」
 イルミンスールの風紀委員高月 芳樹(たかつき・よしき)アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)たちである。
 怪物は腕を黒こげにして苦しみながら、校舎の中へと引き返していった。
「クロード先生は再び校舎の中に戻った、各自警戒せよ!」
 すぐに芳樹は学生たちに携帯電話で連絡する。
「あの、助けていただいてありがとうございます……あの怪物は一体何なのでしょうか」
 津波がおそるおそる質問すると、アメリアは悲しそうな表情で答えた。
「今は怪物になってしまっているけど、あれはもともとこの学校の先生だったのよ」
「ええっ」

 校内は静まり返っていた。
 怪物出現のため、学生たちの大部分は寮に避難させられていた。
 そして学生たちの一部が校長のエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)とともに中央の広場に集まっている。
 津波、ナトレアたちは芳樹から今回の事件の説明を受けながら、ひとまず安全な場所へということでここまで案内されてきたのだった。
「では毛生え薬で先生が怪物になってしまったのですね……」
 津波が驚いたように言った。
「そうだ。しかも凶暴になって、生徒を襲ってくる。一刻も早く何とかしないと……」
 芳樹がそう言いながら、校長たちの方を見る。
「心配ありません、解毒剤を調合して先生に飲ませれば、すぐに元に戻りますぅ」
 古い魔法書を抱えたエリザベートが自信満々に答えた。
「とはいえ、材料が今は足りない。この中から誰かにとってきてもらわなければならぬのじゃ」
 アーデルハイトが難しそうな顔をして答えた。
 ここにいる生徒たちとはつまり、その材料を探しに行くために集まった者たちと、学校で暴れ続けているクロードを捕獲するために集まった者たちなのである。

「ところで、材料のキノコとはどんなものなのでしょうか?」
 「キノコ採取組」の一人、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)がアーデルハイトに質問する。
「『青い星のキノコ』という名前で、カサの部分が青い星のようになっているキノコじゃ。とても貴重なキノコで、イルミンスールの森の洞窟の奥にしか生えないというものじゃ」
 魔法書にも挿し絵が描かれていた。薬用の貴重なキノコには違いないが、絶対食べたくない見た目である。
「なるほど……」
「ところで、洞窟ですが、詳しい場所や特徴などはありますか? 内部の構造などがわかっていれば知りたいのですが……」
 つづいて十六夜 泡(いざよい・うたかた)が質問する。
「うむ、場所はこの辺で……内部はそうじゃの、中央からいくつかに枝分かれしていてそこにグリズリーが住んでおるそうじゃ」
「グリズリーさんたちのアパートみたいですぅ」
 アーデルハイトが地図に印を付けながら説明する。場所は学校からさほど離れてはいない。急いでいけば数時間で帰ってこられるだろう。
「では、すぐに行って参ります!」
 準備を終えたナナたちは即座に洞窟へ向かうことにした。
 キノコ採取にいく人たちが移動し始めると、広場の人数が半分くらいになった。
「私たちはどうすればいいでしょう?」
 心配そうに、津波が芳樹たちにたずねる。
「そうだな…安全になるまで校長先生たちとここにいればいいと思う。帰るにしても危険だし、まだ用事が終わってないだろ?」
 芳樹は津波の手にしているカメラを見ながらいった。
 さっきは怪物に驚いて、写真を撮る暇がなかったのだ。
「……はい」
 自分の目的を思い出した津波は、芳樹の言葉に頼もしさを感じていた。

「ところで、元凶の毛生え薬というのは、今どこにあるのです?」
 話を聞いていて、ふと気になったナトレアが校長たちにたずねる。
「ああ、クロードの部屋にそのままじゃ。一応見張りはついているが、教師の私物じゃから勝手に持ち出すのもどうかと思うしの」
 アーデルハイトが困ったように言う。こう言ってるが、実際には校内に危険な薬があるのを快く思ってないようだ。
 そんな会話を、広場の外から盗み聞いている存在がいた。
「……まだ薬があるのね、これはいいことを聞いたわ」
 メニエス・レイン(めにえす・れいん)が柱の影でそっとほくそ笑んだ。
「誰かに薬を飲ませれば、きっと面白いわ」
「メニエス様、すてきなお考えですが薬には見張りもついてますし、鍋から持ち出すのも難しいようですが」
 一緒に話を聞いていたミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が言う。
「そう。じゃあ誰かを部屋まで連れていって、飲ませられればいいんだけど……」
 広場を離れながら、長い廊下を二人は歩いていく。
 すると、曲がり角で何かに鉢合った。
「きゃっ……あらごめんなさい」
 怪物ではなく、この学校の生徒だ。しかし何だろう、この人を不安にさせる雰囲気は。
「気をつけてください、今急いでるんですから」
 生徒の名はいんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)である。
「どうして急いでいるんですか」
 気を取り直して、メニエスが話しかける。
「知らないのですか? 学校内に怪物が出たので避難命令が出ているのですよ。ああもし出会ってしまったらどうしよう……」
 不安げに語るぽに夫であるが、怪物が彼を見てどう反応するかも気になるところである。
「ねえそれより、さっき面白い薬の話を聞いたの。どんな人でもサラサラの髪になれる育毛剤なんだけど、興味ないかしら?」
 メニエスの言葉に、ぽに夫は興味がわいたようだ。
「誰でも? ほんとですか」
 そして何かぶつぶつと独り言をつぶやいている。メニエスはぽに夫を奇妙に思う一方で、彼に薬を飲ませたらどんな風になるのか、非常に興味がある様子だった。
「あの……その薬ってあたしたちの分もあるかな?」
 偶然通りかかって話を聞いていたクラーク 波音(くらーく・はのん)がメニエスにたずねた。
「ええ、大丈夫よ」
 メニエスが答えると、波音はうれしそうに笑った。
「じゃあ面白そうだし、飲んでみようかな」
 波音は金髪のロングヘアーで、特に髪に困っている様子ではない。単純に面白そうなので興味があるのだろう。
「ちょ、ちょっと波音、大丈夫……?」
 アンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)が心配そうに小声で話しかける。
「大丈夫って?」
 波音が不思議そうに首を傾げる。
「あの人の言う育毛剤って、たぶんクロード先生が怪物になっちゃった薬でしょう? 波音が怪物になっちゃったらどうするの」
「怪物ねえ……そうなったらそれはそれで面白いんじゃないかな」
 波音はあまり心配してない様子である。アンナはあきれたのか諦めたのか、それ以上何もいわなかった。
「では、先生の部屋までご案内します」
 ミストラルに案内され、メニエス、波音、アンナ、ぽに夫たちはクロードの研究室へと向かった。

 そのころ、広場では残った者たちが怪物と化したクロードを捕獲するための作戦を立てていた。
 イルミンスールの生徒が多かったが、いろいろな用事で学校を訪れていた他校生も多い。影野 陽太(かげの・ようた)エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)たちも蒼空学園の生徒であるが、イルミンスールに縁があるらしく、作戦に参加することになったのである。
「任せてください。薬ができるまで必ず皆さんをお守りします」
「ありがとうございますぅ。でも、先生をあんまりケガさせないで下さいねぇ」
 エリザベートが陽太のアサルトカービンを見て言った。
「ご心配なく。爆破で驚かせたり、威嚇射撃をするかもしれませんが、直接攻撃はなるべく避けるつもりです」
「私は火術で攻撃しますけどね。すぐに回復するようですし」
 エリシアが言った。
 怪物は未だ校舎の中をさまよっているようだ。まずは、皆で手分けして学校の中を探さなくてはならない。
 生徒たちはいそいで学校の中へと向かうのであった。