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【2019体育祭】チャリオット騎馬戦

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【2019体育祭】チャリオット騎馬戦

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 この男のことを忘れてはいけない。そう、スポーツ番長だ。事の発端である彼を狙おうと考える者も当然いた。
「さて、武成王。この状況をどう見ますかな?」
 セバスチャン・クロイツェフ(せばすちゃん・くろいつぇふ)黄 飛虎(こう・ひこ)に尋ねる。
「うん?」
「競技の参加者が均一でない以上、これはスポーツではなく古代の合戦も同然。パラ実は単独能力が高くとも烏合の衆。相手が優勢なら強敵だが劣勢であればその真逆。印象が戦況を左右する。と考えれば――どうすれば良いかは瞭然ですな?」
「どうもこうもねえだろう。要するにこいつあ競技なんかじゃねえ。どっちが強く『見えるか』っつー情報戦だ」
 セバスチャンの意図をくみ取った飛虎は、仕方ねえなあといった風に頭を掻く。そして、スポーツ番長に向かって大声で叫んだ。
「スポーツ番長とやら、俺は大陸は殷にその人在りと詠われた鎮国武成王、黄飛虎ってもんだ。てめえに一騎打ちを申し入れる!」

「さあデゼル、いよいよスポーツ番長の近くまでやってきたよ。車の点検や馬のチェックは競技前にバッチリ済ませてあるし、心置きなく戦おう!」
 ルケト・ツーレ(るけと・つーれ)デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)に言う。
「真正面からのぶつかり合い……いいねえ、燃えるぜこういうの。いっちょ派手にやるとするか!」
 テゼルはスポーツ番長をまっすぐ見据える。
「スポーツ番長っつったか! この教導団のデゼルと勝負しやがれ!」
 
 【機甲騎兵】の夏野 夢見(なつの・ゆめみ)には、打倒スポーツ番長の秘策が二つあった。一つはバーストダッシュでチャリオットを加速させ、一気に距離を詰めること。もう一つは同乗者の大岡 永谷(おおおか・とと)熊猫 福(くまねこ・はっぴー)に光学迷彩で姿を隠してもらい、御者の自分と囮役のファイディアス・パレオロゴス(ふぁいでぃあす・ぱれおろごす)の二人乗りに偽装することだ。
「それじゃあ行くよ!」
 永谷と福はすでに光学迷彩を使用している。スポーツ番長の姿を確認すると、夢見は左手を挙げた。これがバーストダッシュの合図だ。他の三人がチャリオットにしがみつく。「シャンバラ教導団万歳」と言えるほどの忠誠心を持ち合わせない夢見は、魂の叫びをシャウトして加速した。
「正月くらい実家に帰らせろぉぉぉぉぉ!!!」

 ほぼ同時に現れた三つのチャリオットは、スポーツ番長の前で鉢合わせする。
「ほっほっ、二人の決着を邪魔するような方は馬に蹴られて死んでしましますぞ」
「んだとあんた。そっちこそ、邪魔するとぶっ潰すぜ!」
「休みをくれぇぇぇぇぇ!!!」
 三組とも譲る様子はない。それを見てスポーツ番長が言った。
「そう焦るな。俺の子分から一番早くハチマキを取ったチームの相手を、俺自身がしようじゃないか」
「ほう?」
「何?」
「子分?」
 三チームの前に、それぞれスポーツ番長の子分を乗せたチャリオットが現れる。
「言っておくが、こいつらのハチマキを取っても教導団の得点にはならないぞ。勿論こいつらにハチマキを取られてもパラ実の得点にはならない。ただし、脱落はする。――さあお前たち、遠慮なくやれ!」
「「「おう!」」」
 スポーツ番長の言葉を合図に、子分たちは問答無用で攻撃をしかける。三組はそれぞれ散らばって戦いを始めた。

「ここは私に任せてもらいたい。飛虎殿はスポーツ番長との戦いに備えて体力を温存しておいてくだされ」
 飛虎チームではバルバロッサ・タルタロス(ばるばろっさ・たるたろす)が前線に出る。
「私は戦場を翔ける矛にして盾。飛虎殿には指一本触れさせぬ。我が防衛区域を抜けられると思うな!」
「ああ、なんだってえ?」
「だから私は矛にして……こら、矛盾してるとか言うなー!?」
「バルバロッサのやつ、はりきってますな。私も負けてはおれません。久々に燃えてまいりましたぞ」
 セバスチャンは上着を脱ぎ捨てる。
「ぬうん!」
「うわ、このおっさんめが!」
 セバスチャンが車輪目がけて放ったドラゴンアーツで、敵のチャリオットの動きが止まる。
「さあバルバロッサ、今だ!」
「兄者! かたじけない!」
 バルバロッサは、バーストダッシュで相手のチャリオットに乗り込んだ。

「女が相手かあ。やりにきぃな。ま、だからといって手加減はしねえけどよ」
 子分がデゼルをじろじろ見ながら言う。デゼルは子分を怒鳴りつけた。
「俺は男だ!」
 子分は驚いた顔をする。
「え、男? マジで? いやあ、それはすまんすまん。まあそんなに怒るなよ。しかたねえじゃねえか。紛らわしい外見してんだからよ。な、坊やもそう思うだろ?」
 子分がルケトに同意を求める。今度はルケトが体を震わせて言った。
「オレは……女だぁぁぁぁっっ!!」
「ったく、失礼な野郎だ。まあいい、さっさと始めようぜ。メンドクセェが、あんたを倒さねえとスポーツ番長さんが戦ってくれないようなんでね。悪いがさっさと終わらせてもらうぜ!」
 デゼルが子分に仕掛ける。デゼルは相手の体勢を崩すよう、槍型の武器で肩や手を狙う。スポーツなので顔面は攻撃しようとしなかった。正義や大義という言葉が大嫌いなくせに、不正行為や悪事は好まないというひねくれ者なのだ。
「そんなやつ、五秒でやっつけちゃえ!」
 ルケトはデゼルが戦いやすいような位置取りを心がけてチャリオットを操縦する。いつ他の敵に襲われてもおかしくないので、周囲の状況にも気を配っていた。
「おらおらおらあ!」
「く!」
 デゼルは子分をガンガン追い詰める。そして一気に敵の体勢を崩すと、ハチマキを手にした。
「よおし、取ったぞお! さあルケト急げ! 先に倒してるやつはいないだろうな!」

「夢見さん、こいつとはどうやって戦う? 予定通りにやったんじゃ、仮にスポーツ番長と戦えることになったとしても作戦がバレちゃうぜ」
 永谷は、姿を隠したまま小声で夢見に話しかける。
「手の内は見せたくないけど、ここで負けちゃったら意味がないよ。作戦どおりいったほうがいいんじゃないかな」
「そうだな、二人はどう思う?」
「あたいもドリちゃんの案が一番だと思うな。トト、うまくいったら後でおいしいものを食べさせてね」
 福が言う。
「わたくしもそれでよろしいです」
 ファイディアスも賛同した。
「よし、決まりね。それじゃあ改めて行くよ!」
 夢見はバーストダッシュで一気に子分に接近する。こうなった後はファイディアスの出番だ。
「わたくしの舞をごらんになってください」
 ファイディアスは優雅に剣の舞を踊り、子分に見せつける。子分の視線は思わずファイディアスに奪われた。
「ええい、わけの分からん踊りを踊りやがって! 剣はこうやって使うんだぁ!」
 子分がファイディアスに剣を振り下ろす。
((今だ!))
 永谷と福が光術を放つ。
「ぐお!?」
 子分は目をくらませる。夢見たちはぴったりのタイミングで目をつむり、後述に対応していた。
(やれる!)
 永谷が子分のハチマキ目がけて一直線に攻撃を仕掛ける。しかしそのとき、背後から声が聞こえた。永谷は反射的に攻撃の手を止める。
「ひゃっはー! カモを見つけたぜえーっ!」
 それはスタジアムに紛れ込んだパラ実の生徒たちだった。ハチマキなどつけていない。彼らはためらいなくファイディアスに斬りかかった。
「何をするんですか!」
 ファイディアスはなんとか攻撃を受け止める。
「貴様らやめろ! 邪魔をするな!」
 子分もパラ実生たちを怒鳴りつける。
「俺たちはとにかく教導団が気に入らねえんだよお! とことん邪魔してやるぜえ!」
(くそ、こんなときに……! 俺の存在がバレちまうが、仕方ないか!)
 永谷がファイディアスの援護に入ろうとする。その瞬間、パラ実生の一人が突然崩れ落ちた。
「大丈夫でありますか!」
 その後ろから顔を出したのは比島 真紀(ひしま・まき)だった。サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)もいる。
「私たちは味方を後ろから狙う敵を、更に後ろから狙おうと待機していたのだよ。あなたたちはゆっくりと私が相手するとしよう」
 クレアが敵に武器を突きつける。
「いっくよー、それ!」
 サイモンはドラゴンアーツで自身の攻撃力を上げると、真紀とクレアにパワーブレスをかけた。
(恩に着るぜ! 後でしっかり礼を言うからな)
 永谷は心の中で三人に感謝した。
「ふん、上等じゃねえか。俺たちはボコボコにできれば相手は誰でもいいんだ。後悔しても知らねえぞ!」
「自分は正式な相手と手合わせ願いたかったでありますが、教導団の仲間のためには文句など言っていられません。全力で戦うであります!」
 こうしてパラ実生と真紀たちの戦いが始まる。
「これくらいしても文句はないだろうな。私もやらせてもらうぞ」
 クレアが光術を使う。
「相手が相手だと躊躇なく戦えるであります!」
 続いて真紀が敵チャリオットに破壊工作を行う。手作りのオンボロチャリオットは無残にも砕け散った。
「貴様らあ!」
 パラ実生たちはチャリオットの残骸から降りると、カモフラージュに持っていた空気入りの武器を捨てて、本物の武器を取り出す。
「どこまで卑劣なのかしら」
 クレアが相手を睨みつける。するとその背後、特別席で競技を見届ける梅琳と目があった。梅琳が頷く。
「どうやら、こちらにも本気で戦う許可が出たみたいだ」
「もう容赦しないであります!」
「後悔するのはそっちだからね!」
 三人は競技用の武器を捨てて構えた。
「文字通り雷が落ちるぞ」
「あたたたたた!」
 クレアが雷術を浴びせる。
「これで反省するであります!」
「あぢぢぢぢ!」
 次いで真紀が火術を見舞う。
「さあ、仕上げをお願い」
「サイモン、お仕置きであります!」
「向こうで大人しく見てろー!」
 とどめにサイモンが遠距離からドラゴンアーツを叩き込む。
「典型的なザコ敵扱いじゃねえかー!」
 パラ実生たちは観客席まで吹っ飛んだ。
「ふう、終わったな。歯ごたえのないやつらだった」
「あちらよりも先に終わってしまったでありますね」
 永谷たちは依然子分と戦っていた。
「本当なら手伝ってあげたいんところなんだけどなー」
 戦う仲間の姿を見て、サイモンがもどかしそうに言う。
「仕方ない。私たちが手出しをしようものなら、彼らはスポーツ番長と戦う資格がなくなってしまうだろうからな」
「大丈夫、きっと勝つでありますよ。それより、三チームのうちどこを応援するか迷ってしまうであります。みんな頑張ってほしいでありますが、スポーツ番長と戦えるのは一人だけでありますからね」
 真紀はあっちを見たりこっちを見たりと忙しい。
「ま、どこか一チームでも勝てば、少なくとも教導団員体スポーツ番長は見られるね」
「戦うべき者が戦うだろう。滅多に見られない戦いだ。私たちはとくと拝見しようじゃないか」
 クレアの言葉に真紀とサイモンも頷いた。

「私は踊るだけではないのですよ」
「やるな……!」
 ファイディアスと子分との剣さばきに徐々に差が見え始める。次々と繰り出される攻撃に、ついに子分が体勢を崩した。
(今度こそ!)
(今回は邪魔されないよね)
 永谷と福が子分の頭目がけて同時に攻撃する。子分はチャリオットから突き落とされた。
「やったー! 勝ったー! アタイお腹一杯ご飯食べたいな。トト、何かおいしいもの――」
 光学迷彩用の布から出てきた福を、永谷は慌てて押さえ込む。
(こら福、静かにしろ! まだスポーツ番長が俺たちの存在に気付いていないかもしれないじゃないか!)
(そ、そうだった。まだ終わりじゃないんだったね、ゴメン)
 福はそそくさと布の中に戻る。
(他のチームはどうなってるの? 余計な邪魔が入ったせいであたいたち結構時間かかっちゃったけど、一番最初に倒せたのかな)
(まだ分からない。夢見さん、急いでチャリオットを出してくれ!)
 永谷は祈るような気持ちで夢見に言った。

 三組とも決着がついた。果たして最初にスポーツ番長の前に姿を現したのは――
 飛虎だった。
「待たせたな、さあさっきの続きだぜ!」
「武成王、しっかりやるのですぞ」
「ここからは見ているだけか。少々残念だが、勿論応援するぞ、飛虎殿」
 スポーツ番長は待ちきれないと言った様子で飛虎を迎え撃つ。
「おまえが相手か。いざ尋常に勝負!」
 いよいよ両者がぶつかり合う。
「どうした、攻撃してこないのか? 先ほどまでの勢いはどこにいった」
 攻めなくては勝てない。飛虎はそんなこと百も承知だった。しかしスポーツのでは相手の方が勝っているだろう。ここは我慢のしどころだ。飛虎は防御に専念する。
「ふん、期待はずれだったな。そろそろ終わりにするぞ」
 スポーツ番長の攻撃が一層激しくなる。飛虎のガードが一瞬崩れた。
「もらった!」
 スポーツ番長が飛虎の防御をかいくぐって攻撃を滑り込ませる。
「そこだあ!」
 その瞬間、飛虎も返しの一撃を放った。
「……なるほど、一瞬の油断を突かれたか。攻撃に目を慣れさせないのも作戦だったわけだ。大したやつだな」
「おまえこそ。まさかここまで攻撃が速いとは思わなかったぜ」
 二人のハチマキがちぎれ、同時に落ちた。