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【2019体育祭】チャリオット騎馬戦

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【2019体育祭】チャリオット騎馬戦

リアクション

「スポーツ番長か。パラ実にもあんなやつがいたんだな」
 スポーツで正々堂々勝負するという今回のイベントに、朝霧 垂(あさぎり・しづり)は胸の高鳴りを感じていた。
「スポーツ番長さんのためにも、全力で戦わないとね!」
 パートナーのライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)もやる気まんまんである。
「そのとおりだ。ようし」
 垂は大きく息を吸うと、スタジアム中に届きそうな声で名乗りを上げた。
「俺の名は朝霧 垂。スポーツマンシップにのっとり、正々堂々戦うことを誓おう。我こそはと思う者はかかってこい!」
「垂は凄いよっ! 料理の味付け以外はね!」
 ライゼが垂を後押し? する。
「一言余計だ」
「いたっ。なにもゲンコツしなくても……」
 この宣言を聞き、同じく正々堂々戦いと思っていたパラ実の南 辰也(みなみ・たつや)が垂に興味をもつ。
「なかなか強そうなやつじゃねえか。ステファーノ、あいつのところに向かえ」
「わ、分かったよ」
 御者役のステファーノ・マウリシオ(すてふぁーの・まうりしお)が馬を垂の方に向かわせようとする。その馬の上ではジークベルト・レオーニ(じーくべると・れおーに)が仁王立ちしていた。
「ヒャッハー! どけどけー! ジークベルト様のお通りだぜぇぇぇ!!」
 かっこいいからという理由で二刀流スタイルのジークベルトは、両手の武器を振り回して近くの敵を牽制する。
「ジーク、そんな乗り方したら馬が可哀想だよ。うわぁぁぁ! ほら、馬が嫌がってる!」
「くおらぁぁ! ステフ! テメェしゃきっとしろや! どこ行ってやがる!敵はあっちだろうが!」
「ひゃぁぁ! ムリ! やっぱムリー!」
 生物的防衛本能でなんとか馬をコントロールしていたステファーノも、とう
とうベソをかいてしまう。馬はより一層激しく暴れ始めた。
「うお! ステフ、テメェなんとか――ぎゃぁぁぁ!!」 
 ジークベルトの横暴に耐えきれなくなった馬が、ついに彼を振り落とす。ジ
ークベルトは地面を勢いよく転がった。だが、ジークベルトはそれでもなお、
垂に向かって負け惜しみを言い放つ。
「こ、今回は手加減してやっただけだ!」
「やれやれ……いきなり勝手に自滅しやがって。まあ、どっちにせよもう少し
で俺がぶっ飛ばしてやるところだったがな」
 辰也は後頭部に蹄のあとをつけたジークベルトを尻目に言う。
「一人減っちまったが、これで二対二。ステファーノ、今度こそ行くぞ」
 辰也は再び垂に突進していく。
「貴様のような相手を待っていた! 俺と戦え!」
「望むところだ!」
 すれ違いざまに二人が斬り合う。初太刀は互角だった。
「負けるな垂!」
 ライゼはすぐさまチャリオットをUターンさせると、敵チャリオットに並走
させる。そして、そのまま体当たりを仕掛けた。
「なにっ!」
 不意を突かれて辰也がバランスを崩す。
「今だ!」
 垂が辰也のチャリオットに飛び移ろうとしたそのときだった。
「うわ、どうしたんだ!?」
 突然垂の馬が足を滑らせる。と同時に、無人のチャリオットが目の前を駆け
抜けた。
「なぁにが正々堂々だ! 笑わせるぜぇ!」
 ふてぶてしい声だけが響き渡る。
「ど、どういうことだ」
「誰だか知らねえが、俺たちの一騎打ちを邪魔するんじゃねえ!」
 垂が目を見張る。辰也は怒りを露わにした。
 このからくりにいち早く気がついたのは、こういった敵がいないか当初から
注意していたルインだった。
「きっと光学迷彩を使ってるんだよ!」
 彼女は味方に聞こえるよう、声を張り上げる。
「なるほどな、そういうことか。おい九十九、あの見えない敵をターゲットに
するぞ」
ルインの声を聞いて、味方と交戦中の敵を優先して狙おうと決めていた
霧島 玖朔(きりしま・くざく)は、パートナーの伊吹 九十九(いぶき・つくも)に指示を出す。
「分かったわ。お遊びに本気を出すのは性分じゃないけど、いい機会かもね」
「俺も助太刀しよう!」
 そこに甲賀 三郎(こうが・さぶろう)が現れた。
「つっても、俺は漁夫の利が得られればいいんだけどな。ま、目的は同じみた
いだし、どうだい? ここは一つ協力しないか」
 三郎は玖朔に共闘をもちかける。
「いいだろう。だが敵は姿を消していて、ハチマキの位置が分からないぞ。ど
うする?」
「なに、姿が見えなくたって、チャリオットに乗ってる以上大体の場所は分か
るだろ。とりあえず挟み撃ちにしてやろうぜ」
「こいつがうなりを上げるぜ!」
 三郎のパートナーロザリオ・パーシー(ろざりお・ぱーしー)は、大型のピコピコハンマーを
掲げて張り切りを見せる。
「分かった、それでいこう。だが油断するなよ」
「おう」
 玖朔が同意すると、三郎はチャリオットを操縦し、見えない敵を挟んで反対
側へと回り込んでいった。
「大丈夫なの? 安請け合いしちゃって。足引っ張られるのは嫌よ」
 九十九が言う。
「まあ、様子を見ながら作戦を考えるさ」 
 玖朔はそう答えた。

「クケケケ、オレのピコピコハンマーを喰らいやがれ!!」
 先に攻撃を仕掛けたのはロザリオだった。見えない敵の背後で大きくピコピコハンマーを振りかぶる。しかし――
「きゅ〜ん」
 不可視の一撃がロザリオの腹部を捉える。ロザリオはチャリオットの縁へと叩きつけられた。
「くそ、後ろも警戒してやがる。ロザリオ大丈夫か? って、うわあ! 中身出てる出てる!」
 ロザリオのお腹のチャックが開き、中から百合園も真っ青のかわいらしいちびっこがにゅるりと顔を出す。三郎は慌てて中身をサーベルタイガーの着ぐるみに戻し、チャックを閉めた。
「な、なんだあれは。今あのゆる族の中から何か出てきたような……。いや、そんなことはどうでもいい。先ほどの攻防を見る限り、敵のリーチは大分長いようだな。九十九、少し離れたところから攻撃するぞ」
 返り討ちにあったロザリオを見て、玖朔が作戦を伝える。
「了解したわ。それじゃあいくわよ。さあ、楽しませてくれるんでしょうね!」
 九十九は騎馬にディフェンスシフトをかけると、標的に向かって一気に騎馬のスピードを上げる。こんなこともあろうかと、手綱は丈夫な素材のものを、馬はできるだけ体格のよいものを選んでおいた。
「はああっ」
 まず敵の攻撃が届かず、かといって遠すぎない距離までやってきた玖朔は、ヒロイックアサルトを使って怪力を発揮する。そして渾身の力を込め、目標に向かって次々と槍を投げつけた。
 槍が何かにぶつかる音と誰かのうめき声が聞こえたかと思うと、無人チャリオットはコントロールを失ってスタジアムの壁に激突し、大破した。
「ちくしょう! やりやがったな!」
「いたたたた……」
 光学迷彩が解けて騒ぎの張本人たちが姿を現す。それは吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)アイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)だった。
「やるじゃねえか! ようロザリオ、あいつらがお前の仇をとってくれたぜ」
 三郎が歓喜の声を上げる。
「なんだ、案外あっけなかったのね。もうちょっと楽しめるかと思ったのに」
 九十九はつまらそうに言った。
 しかし竜司はおもむろに立ち上がると、なんとアインを肩車し始める。
「チャリオットが壊れたからって負けたわけじゃねぇ。ハチマキさえ取られなけりゃ何やってもいいんだ! オレの心はまだ折れちゃいねぇ! うおお、オレが騎馬になるぜぇ!」
「おぬし、まだやるつもりなのですかな」
 これにはパートナーのアインもたじたじだった。
「ったりめえだろ! このまま黙ってられるかってんだ!」
「なんだってこんな金にもならないことを……たまには竜司の遊びに付き合ってやろうと思ったのが間違いでしたな」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで働け! てめえからぶちのめすぞ!」
「分かった分かった。やれやれ、ここまできたら最後まで付き合いますかな」
「どらあああっ!」
 アインを担いだ竜司は、近くにいた三郎の方へやってくる。
「なんだあいつ、滅茶苦茶じゃねえか。こりゃ相手してらんねえな。三十六計逃げるにしかずってね。あばよ」
 三郎はさっさと逃げ始める。
「逃げるんじゃねぇ! おいアイン、なんとかしろ!」
「ほいっと」
 アインは懐から取り出したニンジンをそこら中にばらまく。途端に周りの馬たちがニンジンに群がり、辺りは大混乱になった。
「がっはっは。いいぞいいぞ。教導団の野郎どもなんざ叩きつぶしてくれるわ!」
 竜司は棍棒型の武器で男女馬問わず容赦なく攻撃しようとする。そこにアリーセが駆けつけた。
「そこまでです。あなたは失格です。速やかに退場してください」
「ああ? なんだてめえは。そう言われてオレが素直に引き下がると思うかぁ?」
 凄む竜司にも、アリーセはたじろがない。
「私は運営側の者です。話を聞いていなかったのですか? そもそも今回の競技はスポーツマン精神にのっとって――」
「スポーツマン精神? ンなもん、パラ実にあるわけねぇだろ、グヘヘ。スポーツ番長とかいうやつが正々堂々だなんだ言ってやがるが、オレはそんなに甘くないぜぇ」
「あなたという人は……!」
「アリーセさん、もういいわ」
 アリーセを制して前に出たのは、梅琳だった。
「これ以上言っても無駄よ。この人には強制退去してもらうわ。あなたたち、やってちょうだい」
 梅琳の合図で、教導団員たちが竜司を取り押さえにかかる。
「離せ! 何しやがる!」
「く、なんて力だ。大人しくしろ!」
 格闘すること数分。教導団員はやっとのことで竜司たちを拘束し、スタジアムの外へと引きずっていく。
「ちくしょう! 覚えてやがれよ!」
「罰金だけは勘弁なのですな」
 理不尽の塊のような男が去り、ようやく騎馬戦が続行できる状態に戻る。梅琳はニンジンを部下に片付けさせ終えると、「さ、競技を続けてちょうだい」と言って去っていった。

「やれやれ、とんだ邪魔が入ったな」
 竜司たちが姿を消すのを見送り、垂がため息を漏らす。
「全くだ。さて、気を取り取り直して続きといこうか」
 辰也は再び剣を構えた。
 竜司たちが介入してくる前と同様、二人はチャリオットを並走させて戦いを繰り広げる。
 辰也は武器を少し短めに持って垂に間合いを悟らせないようにしていた。更に、正面から打ち合ったかと思えば腕に巻き付けた武器で攻撃を受け流す、といった緩急をつけた戦い方で垂を翻弄する。
「このままじゃ垂が負けちゃう」
 分が悪いと判断したライゼは、再度チャリオットによる体当たりを見舞う。しかし、辰也は今度はしっかりとチャリオットに捕まり、体勢を崩さなかった。
「おっと、同じ手は食わないぜ」
「むむむ。垂、こうなったら奥義を使うよ!」
「奥義だって?」
 ライゼは一旦相手チャリオットから距離を取ると、思い切りスピードをつけ、今までになく強烈な体当たりを敢行した。
「いけ垂! カミカゼアタァーーーーーック!」
「どわっ」
 これには流石に辰也も尻餅をつく。
「ええいっ」
垂はチャリオットの勢いそのままに辰也目がけてダイブした。
 ところが、勢いのつきすぎた垂の体は倒れた辰也の真上に放り出される。辰也が咄嗟に剣全体で垂の足を跳ね上げると、垂はくるりと百八十度回転。背中から強く辰也のチャリオットに叩きつけられた。
「ふう、危ねえ。どうやら俺の勝ちだな」
 辰也は目を回している垂からハチマキを取って額の汗を拭う。垂の隣では、自らもチャリオットを飛び出したライゼが同じように目を回していた。