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【2019体育祭】チャリオット騎馬戦

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【2019体育祭】チャリオット騎馬戦

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「素晴らしい! なんと素晴らしい胸でしょう!」
 特等席に陣取り双眼鏡で騎馬戦を観戦していた朱 黎明(しゅ・れいめい)が、奮闘するレベッカの胸を見て感嘆の声を上げる。
「この機会に教導団女性のバストサイズを調べようと思っていましたが、まさか同じパラ実にこれほどの逸材が存在するとは……」
 黎明のパートナーである朱 全忠(しゅ・ぜんちゅう)は、いぶかしげな顔で尋ねた。
「おぬし一体何をしているのだ」
「え? そ、それは普段じっくり観察することのできない教導団のバス――実力を見定めているのですよ。おおっと、その揺れは反則です!」
 黎明はシャープシューターの技術を応用してレベッカの胸を細かく観察すると、そのバストサイズとゼッケンから知った名前をメモ帳に記入する。
「レベッカ・ウォレス、と。サイズはF、いやGか? もう少し調べる必要がありそうですね。……やや、あれは本命の梅琳少尉! くう、ここからではよく胸が見えない!」
「やれやれ」
 全忠が呆れた態度を見せる。と、不意に黎明が彼に顔を向けた。
「そう言えば全忠、『なんとしてもパラ実に勝ってほしい。何か良い案はないか』と言っていましたね」
「うむ。例え模擬戦であろうと負けたら悔しいからな。勝負をするからには勝ってもらいたい」
「それならこれです」
 黎明がそう言って差し出したのはチアガールの衣装とボンボンだった。
「な、なんなのだこれは」
「それを着て応援するのですよ。それが一番効果的です。では私は調査に戻りますので。頑張って応援してください」
「英霊、しかも男の我が輩がこんな格好を……?」
 全忠は何かがおかしいと思いながらも、チアガールの衣装を身にまとう。
「フ、フレーフレー、パラ実! うう、恥ずかしい……」
「あー、黎明先輩!」
 全忠が顔を赤らめていると、同じくチアガールの衣装を着た川村 まりあ(かわむら・ )が近くにやってくる。
「あれー、黎明先輩、競技には参加しないんですか? 応援しようと思ってたのに残念ですう。あ、そうだ。せっかくだし、一緒に写真とりましょうよぅ」
 いそいそと携帯電話を取り出すまりあに、全忠が言う。
「今は何を言っても無駄なのだよ。黎明は夢中なのだから」
「あんなに一生懸命、何してるんですかあ?」
「なんでも教導団の実力を見定めているのだと。本人が言うにはな」
「さすが黎明先輩です! どんなときも勉強を欠かさないんですね」
 まりあはうっとりとした目で黎明を見つめる。
「それじゃあ邪魔しちゃいけませんね。全忠先輩、一緒にパラ実を応援しましょう!」
 まりあがスタジアムに目を向けると、ラルクとイリーナの決着がつき、レオンハルトがルカルカとともにレベッカのチャリオットを狙おうとしているところだった。
「イリーナがやられたか。しかし早々にラルクを潰せたのは大きいな。ルカルカ、俺たちでこいつらもさっさと片付けるぞ」
「うん!」
「ありゃー、あのお兄さんやられちゃった。でも相手も減らしたし頑張ったネ。よし、本来の作戦でいくヨ」
「分かったわ。戦闘は任せたわよ」
 レベッカの指示で、ミツ子は車体が壁にぶつからず且つ壁と自車の間に他車が入れぬよう位置取り、スタジアムの外周に沿ってチャリオットを走らせる。今回の騎馬戦においてチームの作戦を立案したのもこのミツ子だった。
「あー、二騎に狙われてます! 先輩、横と後ろですよ、気をつけて!」
 まりあの大きな声が届いたのか、レベッカたちは素早く迎撃の態勢を整える。
「いいですよー。先輩、その調子です! 頑張れパラ実! 負けるなパラ実! さあ、全忠先輩ももっと大きく足を上げて」
 まりあは一層はりきって応援を続ける。このとき、アンスコを履き忘れたまりあのスカート内には魅惑のドリームフィールドが広がっていたのだが、皆競技に夢中で誰も気付かなかったのは不幸中の幸いだった。
 舞台は再びスタジアムに戻る。
「ルカルカのハチマキは取らせないぜ!」
 レベッカたちに並走する淵とルカルカは、レベッカを集中攻撃する。淵が相手の視界を遮るように長槍を動かし、その合間をぬってルカルカが剣で牽制するという戦法だ。
 対するレベッカは長槍を振り回して応戦、その隙をアリシアがフォローする。
「レベッカ様、防御はわたくしがお引き受けいたしますわ。思う存分暴れてくださいませ」
「オーケー。食らえ、レベッカアルティメットスマーッシュッ!」
 レベッカの攻撃は大振りなものの、全力を込めている分威力は抜群だ。今のところルカルカたちにはかわされているが、当たれば一撃でチャリオットの外に吹き飛ばすだろう。
「オーコさん、そちらはどうですか?」
 アリシアはオーコに様子を尋ねる。オーコは味方にディフェンスシフトをかけたあと、背後のレオンハルトたちを警戒していたのだ。
「大丈夫です。間に馬がいますので、敵の攻撃は届きません」
それを聞いてシルヴァがにやりと笑う。
「それはどうですかね」
 シルヴァは武器を前方に構えると、精密射撃の要領で狙いを定め、勢いよく打ち出した。
「なっ」
 シルヴァの武器は思わずしゃがみ込んだオーコの頭上を越え、レベッカの胸へとめり込む。
「む? こんな攻撃ワタシには効かないネ。そおれ」
 ぼいん。
 レベッカが力を込めると、武器は胸の弾力ではじき返される。そしてそれは、オーコの後頭部へとモロにヒットした。うめき声を上げてチャリオットから転げ落ちるオーコ。
「オーコ!」
「ああ、オーコさん!」
 レベッカとアリシアがオーコに注目する。ルカルカたちはこの機を逃さなかった。
「どこ見てるんだ!」
「勝負あったかな」
 二人の攻撃がレベッカに襲いかかる!
「まあ、本命はこっちだったりするんだけど」
「へ?」
 必死でレベッカのカバーに入ろうとしたアリシアのハチマキを、ルカルカがいとも簡単に手に取る。
「ああ、油断してしまいましたわ」
「ずっとあなたを狙ってなかったからね」
 ルカルカはウインクをして見せる。
「おのれー、オーコとアリシアの仇イ!」
 レベッカが長槍をフルスイング。ルカルカと淵はこれをスウェーして回避する。が――長槍がレベッカの手からすっぽ抜け、これまた淵の顔面にクリーンヒットした。
「ぶっ! ……おまえ……武器は……ちゃんと……持……て……」
 淵の姿がチャリオットの外へと消える。
「淵!」
「おいおい、どいつもこいつも地面に落っこちてばかりだな。馬に踏まれなければいいが……ルカルカ、そろそろ決着をつけるぞ」
 ダリルは一気にチャリオットを壁側に寄せる。ミツ子も必死で抵抗したが、レベッカたちのチャリオットは壁に押しつけられてしまった。
 激しく揺れるチャリオットに、レベッカは倒れないようにするので精一杯だ。一方、ルカルカは持ち前の身のこなしで相手のチャリオットに飛び移る。武器をもたないレベッカからハチマキを奪うのは、彼女にとってわけのないことだった。
「やられたー。でも楽しかったネ」
 こうしてレベッカチームの戦いは幕を下ろすこととなった。

「うーむ残念、あの揺れが見られるのもここまでですね。――おや、まりあさんではありませんか」
 双眼鏡を顔から離した黎明が、ようやくまりあの存在に気がつく。
「先輩、お疲れ様です!」
「今日も元気ですね。その衣装も全忠に負けず劣らず似合っていますよ」
「きゃー、ありがとうございますぅ」
 まりあは身をよじらせて喜ぶ。そんな彼女に黎明が提案をした。
「どうでしょう。私の調査は一段落したのですが、一緒にパラ実生のために飲み物でも買いにいきませんか?」
「行きます行きます」
「では早速」
 黎明がスタジアムの出口を目指して歩き出す。すると、彼のポケットからメモ帳が落ちた。
「先輩、何か落ちましたよ」
 メモ帳を拾おうとするまりあ。黎明は慌ててまりあを制し、自分でそれを拾い上げた。
「おっと! ありがとうございます」
「い、いえ」
 まりあは少し不思議そうな顔をして黎明の後についていく。
「黎明のやつ……ふふ、さすがは我が輩の弟子ということであろうか」
 全忠は最後尾を歩きながら、勝手にそんなことを思っていた。黎明の落としたメモ帳には、教導団の統率、指揮系統、個々の戦力や指揮官の実力などもしっかりと記されていたからだ。
 
 【レグルスの檻】のメンバーは一堂に会し、互いをねぎらう。そして皆、口々にレオンハルトの指揮を称えた。
「皆が頑張った成果であろう」
 レオンハルトも満足そうな表情を浮かべる。
「シルヴァ様とーってもかっこよかったよ! 武器をびゅーんて」
「予想外の展開になってしまいましたけどね。まあ結果オーライです。さあこの調子でもう一暴れ――」
 じゃれついてくるルインの頭を撫でながらシルヴァがそう言いかけたとき、彼のハチマキがはらりと落ちた。
「シルヴァ様のハチマキが! ど、どうして?」
「……やはりそうですか。ルインが光条兵器で助けてくれたとき、相手の攻撃が僕のハチマキをかすめました。その時点で既に亀裂が入っていたんですよ。敵も然る者だったというわけです」
「そうなんだ……ちぇー」
 ルインは残念そうに肩を落とした。