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第6章 購買


 こちらは葦原明倫館の購買を訪ねた生徒達。
 他校では見られないような独特の商品が、ところ狭しと並んでいた。

「やっぱお土産の定番といえば木刀……いやいや、もらってどうすんねん!?」

 日本は関西出身、日下部 社(くさかべ・やしろ)の口からは、本日も華麗なるノリツッコミがあふれ出す。
 同じ空間にいた葦原明倫館の生徒達も、思わず笑顔になってしまった。

(自分の学校の雰囲気も面白くて好きやけど、やっぱ日本人やから葦原の和風な雰囲気も落ち着けて好きやなぁ〜)

 商店に、というより資料館にでもありそうな、日本刀や戦装束。
 色鮮やかな和菓子や、いろいろなバリエーションのおせんべい。
 まるで帰郷したかのような光景に、社はとっても心地よいものを感じていた。

「ちー、あんま遠くに行くなや〜んでこのお菓子なんやけどな?」

 てててっ……と駆けていく妹の背に、優しく呼びかける社。
 けれども購買の商品が気になって気になって、その場にいた生徒や販売員にいろいろと訊ねてみる。


 あらかた商品の説明を受けた社は、イルミンスール魔法学園の友人達へのお土産を購入。
 お会計も終わり、ふと廊下へ視線を向けたとき……妹をかまってくれていたのは。

「ちょい、そこの綺麗な姉ちゃん♪ 食堂にはどう行くんかな?」

 なんと、ハイナ総奉行と房姫だった。
 のだが社には、2人が『総奉行』と『姫』だという認識がない。
 開会式でも姿を見たはずなのだが、こんな派手な格好をしている女性は他にいないのだが。
 大切なところで発揮されてしまった……『物忘れが激しい』という、社の弱点。

「食堂は廊下の突き当たりでありんす、仲良くランチを楽しんでくるがよいよ」

 だがハイナは怒ることもなく、道案内をしてくれた。
 お礼を告げて、社は妹と一緒に購買をあとにする。

「ってえぇ、総奉行!?
 葦原特有の防具や服装について、いろいろ聞いてみたかったんだよ!」

 感動とともに、羽高 魅世瑠(はだか・みせる)がハイナの両手を握り締めた。
 ジャタ族の正装で決めてきた魅世瑠は、まさかの本人登場に感銘を受けている。

「特にハイナ総奉行の乳の谷間強調の衣装、これって葦原固有の習俗なのか?」
 なんか特殊な地位にある奴だけの特権なのか?」
 桜吹雪にイミシンな意味合いがあんのか?」
 単に趣味でやってるだけなのか?」
「あっちの趣味でありんす」
「そういうもんか」
(だったら気が合いそうだぜ、転校してやってもいいかな〜ってこりゃジョークだけどさ)

 一気にまくし立てる魅世瑠へ、ハイナは一言を放つと立ち去ってしまった。
 笑顔での返答は決して、いい加減なものではなさそう。
 魅世瑠には他人の趣味や伝統文化に対して文句を言う気などなく、疑問が解決して納得できた気分。

「わたくしもハイナさんの装束が気になってしかたありませんことよ」
(顔に似合わぬ巨乳がわたくしのチャームポイントですのにあれは侵害……いえ、心外ですわ)

 逆にアルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)は、返答によってハイナをライバルと見たよう。
 心中で、悔しさを吐露した。

「わたくし達はハイナさんをファッションリーダー……いえ、習俗の先達、粋人の極みとして仰ぎますわ。
 さて、気を取り直して……ここにある伝統衣装のフィッティングなどして楽しみましょうか」

 しかし言っても仕方のないことだし、ハイナの着こなしには有無を言わさぬ力も感じる。
 ここにアルダトはハイナを尊敬の対象として認め、心の整理をつけた。
 そして再び、魅世瑠とともに商品の品定めへと戻るのであった。