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第11章 校長室


 意外にも見学希望の多かった校長室……というか、ハイナ総奉行。
 皆いろいろと、訊ねたいことがあるようで。

「ふぅ、今回だけ特別じゃよ。
 そっちの者からほれ、申すでありんす……!?」
「そなた、何を!?」

 上座に着席したハイナと房姫……の頭上を飛び越え、背後からハイナの両胸に手をかざす葛葉 明(くずのは・めい)
 当たっていない、かざしているだけだ……まだ。

「貴方何やってるのよ、あやうく人前で胸をさらけ出してしまうところだったわよ」
(【おっぱいハンター】としては片乳出しているのは許せない、なんとかしないといけないわね!)
「日本人以上に詳しかろうが何だろうがいいですがね……せめてちゃんと服を着てくれーッ!
 そんな破廉恥な着こなしされたら、こっちが困るッ!」

 明とエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が、必死の形相で訴える。
 葦原明倫館において、ハイナと房姫は絶対の存在。
 こんな大それたことをしたり、言ったり、することができる者はいないのだ。

「よいではないか、あっちの勝手でありんす!」
「まぁ……この方々の言うことにも、一理あります」
「ちょっと誰かー、洋服かさらしでいいから持ってきてー」

 抵抗するハイナだが、房姫までも明とエヴァルトの味方に転じてしまい。
 明の要請に応えた房姫が、黒子に命じて羽織を持たせた。

「ふぅ、これで一安心よね……さて揉まないと」
 両手を外して、ハイナの前方へと回る明。
 もろもろの非礼を詫びるため……かと思いきや、ハイナの胸を思いっ切りつかんだ!
 今度こそハイナから鉄拳を喰らい、校長室の隅に寝かせられる明であった。

(家柄が家柄なだけに、話術や二枚舌、権謀術数には長けているはず……腹の内を探れればいいのだが……)
「気を取り直して……訊きたいことはいろいろあるが、まずは、これだ。
 打倒鏖殺寺院のために協力するのはもっともだが、現在、各学校……特に蒼空学園とイルミンスール・教導団の間には大きな溝がある。
 それについてはどう考える?」
「打倒鏖殺寺院のためには、わっちら全八校の協力が必要でありんす!
 いずれ他の学校の校長達も解ってくれると信じておる」
「学校の方針は、神子による託宣のようなもので決まるらしいが、それは絶対なのか?」
「御筆先は絶対でありんす、重要なときにしか起こらぬゆえのう。
 別にいつもあるわけではないのじゃ」
「その御筆先に、総奉行の実家の思惑は介在しているのか?」
「どうかのう……あるかも知れぬのう?
 おぬしはそんなところか、では次の者」

 まずはエヴァルトの質問に、1つ1つ答えていくハイナ。
 瞬時に選んだ言葉を、慎重に返していく。

「貴方がハイナ総奉行か、俺は蒼空学園の虎鶫涼だ。
 なにとぞよろしく……ところで、葦原明倫館の校風や方針が知りたいんだが」
「これをやろう、しっかり読むでありんす……転校も喜んで受け付けておるゆえのう」

 エヴァルトの隣に座っていたため、続いて指された虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)
 1つめの質問には、葦原明倫館のパンフレットを差し出された。

「日本文化について、ハイナ総奉行はどう思ってるんだ?」
「現代日本文化は日本らしさを失っているので好きではない、マホロバにこそ本物の日本文化があるのでありんす」
(ハイナ個人のことについても、どんな人なのか少しでも分かればなぁ……)

 こちらも、現代日本への評価はなかなか厳しい……眼がマジだ。
 他にもいろいろと世間話でも……と考える涼だが、話題が思い付かないため、残る生徒達に任せることにした。

「次は拙者でござる〜隠密の部活あるでござるか?」
「特に設けてはおらぬが、隠密科の人間が集まってつくればよいでありんす」

「途中編入でも授業にすぐついていけるでござるか?」
「忍者や侍、陰陽に憧れていればついてこられるであろうて」

 涼の質問が終わったのを確認して、椿 薫(つばき・かおる)が元気に手を上げる。
 忍者へ憧憬の念を抱いている薫は、転校も視野に入れている状況。
 ハイナとの会話にて疑問を解決して、自身の進路を見極めようと考えていた。
 のだが。

「いつもおっぱい丸出しのその格好なのでござるか?」
「そうじゃ」
「素敵な刺青でござるな、何の花でござるか?」
「日本といえば、桜でありんす」
「スシ、テンプーラ、ゲイシャ、オタク好きでござるか?」
「日本文化はすべて好きじゃが、オタクは現代文化なので興味ないのう……嫌いでもないが」
「スリーサイズはいくつでござるか?」
「秘密でありんす!」

 完全なる趣味の方向へ、質問がシフトしていく薫……最初の思惑はどこへやら〜?

「はじめまして、薔薇学の明智珠輝と申します。
 お招きいただきまして大変感謝しております……ふふ」

 続いての質問者、明智 珠輝(あけち・たまき)はハイナと房姫へ丁寧に挨拶をする。
 端正な顔立ちから放たれる爽やかな笑顔が、ひときわ煌いて見えた。

「葦原明倫館の雰囲気、ものすごく好きですね、ふふ。
 さまざまな施設、趣向に驚くばかりです……しかし一番気になるものがあります」

 静かに落ち着いて、前置きをする珠輝。
 いったん眼をつむり、開いたときには人が変わっていた!

「ハイナさんの右乳は生乳ですかッ!?
 ボディスーツ説などさまざま出ているなか、真相を解明したく願います。
 綺麗な桜はタトゥーなのでしょうかっ。
 てぃくびを晒さなければ割とOKなのでしょうかっ。
 教えて、ハイナさんッッ!」
「ふぅむ、その説は聞き捨てならぬのう。
 これはの……タトゥーとニップレスでありんす」

 珠輝の発言があまりにも予想外で、ハイナは驚くとともに少しむっとする。
 きちんと真実を伝えて否定しなければならないと……思いつつも、小さくなる声。
 あまり、大声で言うような内容でもない気がして。

「ふっふっふっ……貴様達の武士道とやらは解った、ならば私の騎士道と勝負!
 武士道とは脱ぐことと見付けたり!」

 天井から響く声……突然の登場は、変熊 仮面(へんくま・かめん)
 すたっと降り立った仮面は、今日も相変わらずな格好だ。

「1つ、覗き穴の目を潰し。
 2つ、スケベなのぞき三昧。
 3つ、退治してくれよう、あつい部!」

 ハイナと房姫を護るように、変身後の武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が立ちはだかる。
 【(むだに)あつい部!!!】の部長として、そして【ケンリュウガー】として、トラブルは放っておけないのだ。

「ファイファー!!」

 叫んで、武器を振り上げる牙竜。
 がつんと、金属の音が鳴る。

「ぐわっ……や、やられたぁぁっ!」

 武器を落とし、仮面が倒れこんだ。
 牙竜によって拘束された仮面が、ハイナの御前へと放り出される。

「お奉行様、とんと記憶にございませんな……犯人は赤い仮面の男なんでございましょ?
 チガイマ〜ス、ワタシ、ヘンリー熊田、二ホンゴワカリマセ〜ン!」

 『仮面』を外した仮面、口笛を吹きながらうそぶいた。
 しかしハイナは、その行動を許さない。

「何をしに来たんじゃ、吐け!」
「総奉行の桜吹雪を生で見たいのだよ!」

 あ、ハイナは羽織を着ているのだ……脱いだ。

「これでよいか、満足かえ?」

 目的を達成して、一気におとなしくなる仮面であった。

「ハイナさん、勘ぐったり疑ったりして済みませんでした。
 ……だからって『土下座』とか『切腹』とか『市中引き回しの上、打ち首獄門』とかは勘弁してくれよ!?」
「では……首を吊るかえ?」
「そうきたか、こいつぁ一本とられたねぃ!」

 先を折ったはずのエヴァルトは、ハイナの返答に逆に戸惑う。
 とりあえずごまかして……御前から、ちょこちょこ後ずさっていったのだった。