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リアクション
第一章 よみがえれ、飛空艇
「スタナード技師、この船の状態確認及び装甲の修復、強化を行いたいのですが、必要なものは何でしょうか?」
飛空艇の中、アーティフィサーのメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)がスタナードに尋ねた。
「ううん? そうだなあ、古代の技術で作られてるようだから、大それたことはできねえだろう。だがアーティフィサーなら、これといって特別なものを用意しなくとも、普通に飛んだり攻撃したりするくらいにはできると思うぜ。あとは強いて言えば……熱い心が必要かもな!」
スタナードは、ガッハッハと笑い声をあげる。今度は、リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)が彼に話しかけた。リーンもやはりアーティフィサーだ。
「あの、飛空艇の整備に必要な器具をお借りできませんか? 商売道具を人に貸すのは嫌だと思いますけど、そこをなんとか!」
リーンが頭を下げる。
「分かった。洞窟じゃ使わねえだろうし、お前さんに預けよう。俺の大切な相棒だ。丁寧に扱ってくれよ」
スタナードは愛用の器具一式を、リーンに渡した。
「ありがとうございます!」
「おう。さて、洞窟に行くやつらの準備が整ったようだ。俺もそろそろ行くか」
飛空艇から降りようとするスタナードを、カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)が呼び止めた。
「待ってください。私の携帯をお渡ししておきます。何かあったら連絡しますね」
「俺の番号は渡してありますよね。携帯の使い方は……同行する生徒に聞いて下さい」
緋山 政敏(ひやま・まさとし)が付け加える。
「分かった」
スタナードはカチェアの携帯電話を受け取ると、飛空艇を後にした。
「じゃあ、カチェアは外から飛空艇の状況を確認してくれ。俺の携帯を渡しておこう」
「オッケーよ」
「リーンは俺と操舵室へ」
「了解」
政敏はカチェアとリーンに指示を出し、操舵室を目指す。
「操縦系統を確認しておきたい。俺も操舵室へ向かおう。おまえは他部分の確認や修復を頼む」
メティスにそう言い、レン・オズワルド(れん・おずわるど)も政敏たちについていった。
操舵室には、既に大勢の生徒たちがいた。
御凪 真人(みなぎ・まこと)は数多く設置された画面や計器、ボタン、レバー等々とにらめっこしている。
「制御機能を掌握できればベストなのですが……データベースのようなものはありませんかね」
「お疲れさまです。どうぞ」
難しい顔をする真人に、アイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)がお茶を差し出した。
「ありがとうございます」
お茶に口をつけて、真人は気がついた。
「そうだ、アイシスさんは守護天使ですよね。古代文字を読むことは?」
「ええ、できますけれども」
「よかった。これを見てください」
真人は、メインと思われる画面を指し示す。そこには飛空艇のグラフィックが表示されていた。
「この船の全体像……ですよね」
「ええ。この飛空艇についてもう少し詳細な情報が知りたいのですが、何か分かりませんか」
「ちょっと待ってくださいね」
真人に言われて、アイシスはボタンをいじっていく。
「これは違いますね……こっちだと戻ってしまいますし……」
表示に従って何度か画面を切り替えているうちに、とうとう船内の見取り図が映し出された。
「おお。ありがとうございます」
真人が礼を述べる。
「えーと……簡単に言うと、赤くなっているのが破損部分ですね。そしてこちらがエネルギー残量。あまり残っていないみたいです」
「なるほど」
「操縦に関するマニュアルなんかも出せるか?」
レンは、アイシスにそう尋ねた。
「操縦関係につきましては――」
真人やレンがアイシスの説明を聞いていると、ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が話に入ってきた。
「主砲の操作マニュアルも当然あるよな!」
「そんなもの見て、どうするつもりです」
真人は警戒の目で彼女を見る。
「ビーム砲が撃てるんだぜ? こりゃ砲手に立候補するしかないだろ! いざというときのために、マニュアルがあれば読んでおこうと思ってさ。できれば狙撃の練習もしておきたいな」
「駄目ですよ、そんな危険なこと。残りのエネルギーにも余裕がありませんし」
「ミュー、やっぱり怒られたにゃ」
ミューレリアの肩の上で、猫又ゆる族のカカオ・カフェイン(かかお・かふぇいん)が言った。
「撃つのは駄目としても、ビーム砲のメンテニャンスはさせてほしいにゃ。これは必要なことだと思うにゃ」
「……分かりました。くれぐれも、危ないことはしないでくださいよ」
カカオの言葉に、真人は渋々頷いた。
「よーし、そうと決まれば、私が超パワーアップさせてやるぜ!」
「機械の扱いはカカオに任せるにゃ」
ミューレリアとカカオは、尻尾をふりふり操舵室を後にした。
「心配ですが……俺はアーティフィサーとして、全力で船の修理に当たるとしましょう」
真人も操舵室を出ようとする。と、シルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)
が彼に声をかけた。
「俺も行くよ。専門家には負けるが、一応コンピューターには親しんでる蒼学生なんでね。手伝えることもあるだろう。あとは、レーダー以外の機能がないかも調べたいところだ」
「ではご一緒に。恐らく防衛システムは切れたと思います」
「よろしく頼むぜ。アイシス、キミは予定通り、掃除やお茶出しなんかをしてて構わないから」
「ええ、そうするわ」
パートナーであるアイシスに見送られ、シルヴィオは真人と共に扉へと向かった。
画面に表示された見取り図を見て、生徒たちは一人、また一人と操舵室から目的の場所に消えていく。その様子を見ながら、相田 なぶら(あいだ・なぶら)はそわそわしていた。
(どうもなぶらの様子がおかしいですね……何か変なことを企んでなければいいのですが)
フィアナ・コルト(ふぃあな・こると)は、パートナーの行動を見張る。
やがて操舵室には、なぶらたちの他にベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)とレンしかいなくなった。ベアトリクスは羅針盤に、レンは操作マニュアルに見入っている。
なぶらはとうとう我慢しきれず、舵のもとへと駆け寄った。早速舵を握ってみる。
「おお……!」
興奮した表情を浮かべるなぶら。しかし、フィアナがすぐに彼を注意した。
「なぶら、いけません!」
「ちょっとくらいいいじゃないか。ようやく人がいなくなったんだからさあ」
予想外に多くの人が操舵室にいたので、なぶらは、舵に触れる機会を虎視眈々とうかがっていたのだ。
「そういう問題ではありません。何かあったらどうするのですか」
「何かって?」
「船体がひっくり返るとか」
「んな大げさな」
「舵を壊してしまうかもしれません」
「ちょっと触ったくらいで壊れるようじゃ、元から役に立たないよ」
なぶらは諦めようとしない。フィアナは、彼の手を引っ張った。
「もう、屁理屈はいりません。さ、行きますよ」
その勢いで、フィアナの肘がベアトリクスにぶつかる。
「あ、ごめんなさい」
「いや……この点がリフルだという話だったよな?」
「ええ」
「移動してはいるが、まだそう遠くには行っていない。追いつくことも不可能ではないであろうな」
ベアトリクスは、羅針盤を指さしてフィアナにリフル・シルヴェリア(りふる・しるう゛ぇりあ)の位置を確認すると、携帯電話をかけ始めた。
「――もしもし、私だ。リフルの現在地だが――」
なぶらはその横を通り過ぎて、通路に出た。
「しょうがない。飛空艇の中を冒険……いや、探索するか。きっと戦闘に役立つ(カッコイイ)機能があるだろうからな」
「しかし、なんだって、あんなレーダーを搭載した飛空艇が作られたんだろうな? 女王器の守り手だった十二星華を管理するためなのか……」
船内を歩きながら、シルヴィオが言う。全くだという風に頷きながら、真人が答えた。
「俺も同じことを考えていたところです。この飛空艇は十二星華に関わるものなのでしょうか。データベースを見たところ、主砲以外にもいくつか砲台があるようなので、戦闘用の飛空艇なのではないかと思いますが」
「いずれにせよ、シャムシエルにとって邪魔なものだということは確かなわけだ。わざわざ動力部を破壊しに来たんだからな」
「そう言えば、レーダーに彼女の表示はありませんでしたね」
「ああ。やはり、シャンバラ古王国の生み出した存在ではないのかもしれないな」
二人が推理をはたらかせていると、前方で政敏が首を捻っているのが見えた。
「予想は外れ、か」
「……どうしたの?」
同じく飛空艇内を探索していたリネン・エルフト(りねん・えるふと)が通りかかり、政敏に尋ねる。
「いや、過去この船に十二星華が乗っていた可能性は十分にあると思ってな。居住ブロックを見て見たんだが、そういった痕跡はなかった」
「そう……。私も、直接ではなくとも、女王器破壊につながるようなヒントがないかと思って……トレジャーセンスとかを使ってみたけど……それらしい反応はなかったわ。あとは……隠し部屋なんかも見つからなかったわね」
リネンは、自作の船内見取り図を広げて言った。
「ふむ」
「……リフルを認証し、十二星華のレーダーも搭載している……この船が十二星華に関連するものであることは間違いないわよね。……それなのに、彼女たちのいた痕跡すらないというのは、どういうことかしら……」
考え込むリネンに、ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が声をかけた。
「分からないことを考えてもしょうがないよ。大昔のことだしね。それより、調査を進めよう。あたしは念のため、破壊された機晶石をチェックしておくわ」
ヘイリーが階段を下り始める。リネンと政敏も後に続いた。
「……火山の方は大丈夫みたいだな」
床に手を当て、政敏はほっと胸をなで下ろす。活発だった火山活動が最近減ったと聞いた彼は、もしや機晶石が火山活動を抑えていたのではないかと思っていた。しかし、機晶石が破壊された今でも、飛空艇の底部は熱くなっていなかった。
「この機晶石、エネルギー源以外に何か使い道はないかしら」
「機晶石をエネルギー源以外に? それは分からないなあ」
真っ二つになった巨大機晶石を見つめてつぶやくヘイリーに、リーンが答えた。リーンはメティスと共に、動力関係の確認をしていた。
「どう?」
「エネルギー供給は行えているようです」
機晶姫であるメティスは、自らの機晶石を機械につないでいる。
「よし。それなら、予備動力が生きているみたいだから、バイパスして……」
リーンはスタナードから借りた機材を使い、手際よく作業をこなしていく。しかし、彼女は迫り来る災難にまだ気がついていなかった。
『これッテ、ろーぐノアタシ達ニ向イテナインジャ……』
「気づいちゃったのね、福ちゃん……」
橘 カナ(たちばな・かな)が足を止め、市松人形風の操り人形、福ちゃんと会話する。
カナは、隆やリニカの手伝いをして爆発の被害状況を見て回る、という建前で二人の仲を進展させてしまおうと考えていた。しかし、ちょっと目を離した隙に、彼らに逃げられてしまったのだ。
「とりあえず初期対応はもうオッケーよね。となると次に調べるべきは、爆発したあの飛空艇……」
『早速行ッテミルワヨ!』
カナは飛空艇へと駆けだした。
『モシカシタラ、コノ中ニ大量ノ爆弾ガマダ残ッテルカモシレナイワ』
「そうよね、あたしたちの行動が、みんなの運命を左右するかもしれないわ」
カナは飛空艇に乗り込むと、手元のパラミタがくしゅうちょうを取り出した。
「大きくて広そうだし、地図を作らないとね。清書してカラフルに仕上げたら目立つところに貼るとして、まずは下書きっと」
『ヤッパリ、コウイウノハ足デ捜査シナキャだめヨネ』
「そうよね、体張ってナンボよね」
と、探検マップ作成に気を取られていたカナが、急にバランスを崩した。
「きゃっ」
「かな!?」
「こんなところにトラップが……!」
違う、工具につまづいただけだ。
「とっとっと」
カナは片足でなんとか体勢を保っていたが、何かのコードに引っかかって派手に転んだ。
「ああっ!」
火花を上げる機械を見て、リーンが叫び声を上げる。
『ダ、誰カノ陰謀ヨ!』
「修理からやり直し、ですね」
メティスが冷静に言った。
「うーん、やっぱり結構傷んでいるわね」
カチェアは、外から飛空艇の状態を確認していた。
「修理はアーティフィサーの人に頼むか……難しそうなら、あとでスタナードさんにお願いしましょう」
カチェアは政敏に借りた携帯で写真を撮ると、HC経由でリーンや政敏にそれを送った。
「おいおい、デカいね、どーも」
カチェとは反対側で、エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)は、飛空艇を見て驚きの声を漏らしていた。彼女はパートナーのクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)に呼ばれ、闇市摘発からこちらにやってきていたのだ。
「おっきな機晶石で動いてたんですよねぇ〜。私の機晶石、何個分でしょうかぁ?」
同じくクレアに呼ばれたパティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)がのんびりとした口調で言う。
「よし」
何を思ったか、エイミーはいきなり飛空艇を殴りつけた。
「わわ、エイミーちゃん、何をするんですかぁ」
「いって〜……。いや、こんだけデカいと、敵も攻撃し放題じゃん? とりあえずぶん殴って、強度を確認しようと思ってよ」
エイミーはニッと笑ってみせる。
「もう、駄目ですよぉ。クレアさんがお仕事している間飛空艇を守るのが、私たちの役目なんですからぁ」
「でもよ、本当に敵なんてくるのか?」
「来たら困るじゃないですかぁ」
「まあな。んじゃ、一応作戦立てとくか」
エイミーは木の枝で地面に図を描いてゆく。
「敵は来ても少数だろうから、パティはレールガンやらミサイルポッドやらで弾幕張ってくれ。オレはカモフラージュしながらとどめの一撃+スナイプ+シャープシューターで一撃必殺! これで完璧だぜ」
「うん、頑張ろうねぇ」
「おう、売られた喧嘩は借金してでも買うぜ!」
「エイミーちゃん、借金はよくないよぉ〜」
ブライトマシンガンを高々と突き上げるエイミーを、パティがたしなめた。
さて、エイミーたちを呼んだクレア本人は、他の学生たちとは少々異なった行動をとっていた。彼女は、教導団に電話をかけている。
「――では、とりあえず各校とも合意してくれると。分かった、ありがとう。失礼する」
クレアは電話を切ると、影野 陽太(かげの・ようた)が近くに立っているのに気がついた。
「あ、すみません。立ち聞きをするつもりはなかったんですが」
「別に気にしなくていい」
「政治的なお話ですか……?」
クレアの返事に、陽太は思いきって尋ねてみた。
「この飛空艇についてだ。本来ならば所有権や運用権を巡って問題が起こることは必至だろう。だが、今のシャンバラの状況を考えれば、内輪もめをしている場合ではない」
「確かに。飛空艇はすぐにでも使用したい貴重な戦力ですもんね」
「そこで根回しをしてみたところ、当面は所有権、運用権共に発見者であるリフルたち、つまりは蒼空学園にあるということで各校が合意してくれたようだ」
「本当ですか! それは助かります。実は、俺にもやりたいことがあったんですよ」
陽太は携帯電話を取り出すと、慌ててある番号をコールする。
「そうか、そちらもうまくいくといいな。では、私はパートナーたちと合流するので」
クレアはそう言い残すと、陽太のもとから去っていった。
『もしもし、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)よ』
「ももも、もしもひっ!」
『――何? 誰? 落ち着いて話しなさい。じゃないと切るわよ』
「ああ、待ってください!」
陽太がコールしたのは、蒼空学園校長室の番号だった。彼は名を名乗ると、クレアから聞いた話を環菜に伝えた。
『その件については連絡がきているわ。それで?』
「えっとですね、飛空艇のメンテナンスに参加することで、その技術について可能な限りデータを取得しました。これを蒼空学園のコンピューターに転送することで、学園の役に立てたらと」
『ふうん、悪くないんじゃない』
「飛空艇に使われている技術に地球産テクノロジーを融合し、将来的に新たなタイプの飛空艇量産化プロジェクトを立ち上げられないでしょうか」
興奮気味の陽太に、環菜はやや考えてから答えた。
『さすがにそこまでするのは難しいと思うけど……今回のデータは貴重ね。あなたにしてはやるじゃない。じゃあ、転送待ってるわ』
環菜は通話を切る。
「か、会長に褒められた……」
環菜にぞっこんLOVEな陽太は、恍惚状態に陥っていた。
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