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リアクション
大小の飛行艇が、ケセアレの城を目ざし、浮遊し始め、風が起こり始めた。
それを環菜は見つめている。
「さて…セルバトイラの赫夜。戻ってこれるかしら。いえ、戻ってきて貰わないとこまるわね。あの腕、戦力として確保しておきたいわ。でも…それも神のみぞ知る、と言った処ね」
タシガン空峡へ向かって、大小の飛行艇が連なって飛んで行く。
天 黒龍(てぃえん・へいろん)は、風を読んでいた。
「東の風が吹くのは、西からの大きな雨雲かそれらしい雲が通過していく時…飛空挺の進行方向からして、雲の通過の際に南風から南東の風、そして東からの風へと変化するはず…空中戦に限って言えば、風向きとしてはこちらが有利かも知れないな…」
残念ながら、今のところ、東の風は吹いておらず、赫夜が胸にしている清符が指し示す方向へ飛んで行くしかない。
大型飛行艇に乗り込んでいた道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が殺気看破で、ある異変に気がつく。
「…どうやらお出ましになったようですね」
そうつぶやくと、赫夜や他の生徒達に敵の出現を知らせる。
雲とその切れ間を行く生徒達の前に、小さな影が現れたかと思うと、近づいてくると、一気に一度、大型飛行艇の横をすり抜けていく。
「シャムシェル・ザビク!!」
大型飛行艇の中から、生徒達のざわめきと声が上がる。
ザビクは体勢を低く保ち、風の抵抗をできるだけ受けないようにして、素早く大型飛行艇の側を通り過ぎると、くるっと自分の小型飛行艇を回転させる。
「…こんにちは、勇者のみなさん。ご挨拶代わりだ」
と言って、ケセアレにつけて貰った数人の部下たちに大型飛行艇の横っ腹にハンドガンを撃たせて回る。ガガガガガッと装甲版に銃弾が当たる音が響き渡った。
「くっ! シャムシェル、何しやがる!」
強固な甲板で覆われた大型飛行艇にとって、それはただの衝撃でしかなかったが、嬉しそうなザビクの顔が、窓を通して生徒達の目に入る。
「ああ、爽快だな。怯える目、怒りに燃える目、人って色んな目を持ってるんだあ!」
シャムシェルはくすくす笑った。
「シャムシェル、撤退なさい」
玲は甲板に出ると、そう、シャムシェルに促す。びゅうびゅうと風が吹き荒れている中、それでもシャムシェルには玲の声は伝わったようだ。
「どうして?」
子供のように小首をかしげ、シャムシェルは笑っている。自分に相手をしてくれる相手を見つけて喜ぶ、いたずらっ子のようだった。
「今回の話は主役は貴女ではないでしょう。それに、『王座の間』でどういう話が展開するかの方が気になるところではないのですか?」
シャムシェルに向かってナラカの蜘蛛糸を発するが、それを上手く飛行艇を操って、次々にシャムシェルは避けてまわり、玲に鞭状の還襲斬星刀を振るおうとする。
そこをレオポルディナ・フラウィウス(れおぽるでぃな・ふらうぃうす)が玲を後衛から守る為、パワーブレスとヒールを使い、フォローしながら、銃型HCで援護射撃をする。
「蛇遣い座のシャムシェルと戦うことについてはクイーン・ヴァンガードとしては望むところ…ですが、ちょっと怖いです…でも、玲さんのため、ミルザム様のため、頑張ります!」
シャムシェルをバックアップし、攻撃してこようとするケセアレに玲が傷つけられないよう、禁猟区を展開する、レオポルディナ。
「『王座の間』ね。気にならないわけ、ないじゃん。でも、今、ボクはこっちの方が、だんっぜん、楽しい!」
シャムシェルはそのまま、還襲斬星刀を振るい、甲板に傷をつけていく。
そこに武装した燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)が小型飛行艇を操り、シャムシェルに
ミサイルポッドを連射しつつ突撃する。しかし、それを間一髪で交わすシャムシェル。その代わり、シャムシェルの背後にいたケセアレの部下の小型飛行艇が爆破され、そのまま、くるくると周りながら墜落していった。
「…間抜けな奴」
シャムシェルは犠牲者であるはずの仲間にも冷たい言葉をつぶやく。するとすぐそこにザイエンデが目の前に現れ、シャムシェルに突っ込んでくる。
「自爆か!?」
大型飛行艇から事の成り行き見守っていた生徒達からは悲鳴が上がった。しかし、ザイエンデは飛行艇をシャムシェルに激突させるだけで、機晶姫は単独飛行が可能なため、その寸前で脱出したのだ。
また、加速ブースタ二基を全開にし再突撃をするが、シャムシェルはそのまま、体をひねり、逆に空中でザイエンデの肩を蹴ると、その力を利用して、飛行艇無しに空中で風に上手く乗り、還襲斬星刀でザイエンデを斬りつけようとする。
ザイエンデのパートナーの神野 永太(じんの・えいた)は、その瞬間、氷術をザビクの手元に放つ。還襲斬星刀を握ったザビクの手が永太の氷術で、固まる。そのスキを狙って、巨大甲虫で突進を掛けようとするが、間一髪、ザビクは氷術を力業で解き、還襲斬星刀をすらっと
剣の形に抜き直すと、巨大甲虫を退けた。
「くそう、シャムシェルの奴…!!」
永太はそのまま、巨大甲虫と共にザイエンデのピックアップへと向かった。
シャムシェルはそれでもザイエンデに爆破させられた自分の小型飛行艇から、身軽に飛び降り、大型飛行艇の屋根の部分に降り立ったかと思った次の瞬間、鬼崎 朔(きざき・さく)の光条兵器「月光蝶」が襲いかかってくる。しかし、それと還襲斬星刀でガシリと、刃を合わせ、防ぐシャムシェル。
「…蛇遣い座のシャムシェル!!」
朔が怒気を含んだ低い声でその名を呼ぶ。
それにも関わらず、シャムシェルは飄々とした振る舞いで、何度も朔と剣がぶつけ合う。
「あれ? キミ、この間、学園にいた子だよね? …名前は忘れちゃったけど、その瞳、良く覚えているよ」
クスクスとシャムシェルは朔の神経を逆なでするように笑う。それがまた、無意識の言動だから、朔にとってはたまらない屈辱だった。
「貴様は『私』の『復讐』を馬鹿にした。…何が『人を憎むのは辛くてたまらないんだ』…何が『輝いてる』だ…そんな風に捉えてたなら、それは間違いだ。教えといてやる…『私』はな、常に心の片隅でも誰かを憎んでいないともう生きていけないんだよ。だから『憎しみ』は呼吸するのと同じ。辛いとかはないんだよ。…そんな壊れてる『私』が『輝いてる』? …『汚く濁ってる』の間違いだろ?」
「ふうん、そうなんだ。ボクは今のキミの言ってること、半分も理解できないや。でも、ボクからすると、キミはその『憎しみ』とやらでイキイキとしているように見えるよ、ああ、ボクは今、凄くゾクゾクしてる。キミのそのボクへの憎しみ、怨み? 向けられる感情全てにウットリする。人間ってこんな感覚も持つんだね」
「ふん、…まあ、何せよ。貴様が『私』の『憎しみ』を理解したいなら、二回は地獄を見て来い。まずは一回目だ。一緒に堕ちてやるから、遠慮するな!」
斬りかかってくる朔。猪突猛進かと思われたが、そこにアンドラス・アルス・ゴエティア(あんどらす・あるすごえてぃあ)が朔が特攻する時にシャムシェルに煙幕ファンデーションを投げつけ、氷術や火術も使用し、気を逸らす。
(…くくく、私としては朔の復讐を見れるなら、幾らでも力を貸そう。…だから、とっておきの表情を見せておくれよ? くくく…)
アンドラスが心の中でつぶやく。
そして、朔はシャムシェルに禁じられた言葉で強化した光術で目つぶし、しびれ粉で痺れさせて、逃げられないようにし、シャムシェルを羽交い締めにし、アンドラスはダイブする時も奈落の鉄鎖の重力干渉でシャムシェルが逃げないよう、朔もろとも負荷をかけた。
だが、シャムシェルは何故か、そのまま、大型飛行艇から朔と一緒に空中を落下しようとするのに、冷静だった。
何かを感じ取ろうとすら、しているように見える。それが朔にはシャクに触る。しかもシャムシェルはくくっと笑いはじめた。
「何がおかしい!」
「ボクはキミ達によって、色んな知識を得てる。ドキドキする。空中に心中ダイブなんて、素敵じゃないか…でもね、キミ、ボクはここで死ぬようなタマじゃないんだ、じゃあね」
還襲斬星刀を鞭状にしたかと思うと、朔の体に激しくぶち当て、そのまま肘鉄を食らわせ、朔の顔に拳を叩き込む。
「う!」
顔面にヒットした激痛で朔は一瞬、意識を失う。
「あのさ、これでもボクは、十二星華のひとり、しかも純エリュシオン産、生粋の十二星華だ。キミみたいな小娘にやられると思う?」
そう言うと、シャムシェルは最後に人体の急所であるのど元に一発、蹴りを入れて朔を自分から離すと朔の腹を踏み台にしてガッと、助けに来たケセアレの部下の飛行艇に飛び乗った。
「バイバイ、復讐とやらにとりつかれたお嬢さん。またどこかで会えるといいね」
シャムシェルの言葉と同時に、アンドラスが空飛ぶ箒で朔を救助するのが空の下のほうに見えた。
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