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リアクション
黒龍が目ぼしい雲を見つけ、飛空挺の操縦者に風の旨を伝え、南東の風が変化する前に浮遊島近くまで近付けるか打診してみようとしたときだった。
「黒龍くん!」
月詠 司(つくよみ・つかさ)とウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)が声を掛けてくる。
「なんだ? 何か用かな」
「私たち、これから、東の風を作り出してきます。だから、サポートして欲しいのです」
「『作り、だす?』」
驚いた顔をする黒龍に、司はうん、とうなずく。既に資料探索でこのあたりの地域の地形を調べていた司は事の次第を黒龍に伝えた。
しばらく司の話を聞いていた黒龍だが
「解った。私がバックアップをする」
「ありがとう! 物事は待ってるだけじゃダメですっ!! …ってね♪ それにしても、黒龍くんの髪って素敵ですね。昔の言葉でいうなら、『緑の黒髪』ってやつですね」
「…あ、ありがとう」
男の司に褒められ、一瞬、腰が引ける黒龍。
その姿をクスクス、と笑って聞いている高 漸麗(がお・じえんり)がいた。
「一夕緑髪成秋霜(一夕に緑髪は秋霜と成る)…だね」
司は空飛ぶ箒でタシガン空峡へと降り立っていく。
(ん…一帯の気圧が低いですね。よし、東方へ向って火術を応用して周囲の気圧を上げましょう)
シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)は双眼鏡で、風の流れを司達が上手く作り出せているか、チェックを怠らない。双眼鏡では見えないところでは、使い魔「フギン」と「ムニン」に偵察を行わせ情報を得ていた。
「どうやら、敵さんたちはシャムシェルが撤退しているから、問題ないとは思うけれど、気をつけてよ」
司たちを上手く誘導するシオン。
ウォーデンが司のサポートをしながら、話しかける。
「時にツカサよ、シオンのヤツを監視役にして本当に良かったのか? アヤツの事じゃ途中で飽きて、適当な事を言って遊びかねんぞ?」
「あっははは・・・ま、まぁ、否定は出来ません…シオンくんはアレで案外、気まぐれですからねぇ〜…いや、だからこそ監視役なら少しサボられた所で此方で何とか出来るかと。さあ、頑張りましょう。風が生まれつつありますよ!」
黒龍は甲板に戻り、雲行きを見守っていると、はっと声を上げた。
「風の流れが変わりつつある…!!」
「そのようね」
「ただ、あまりハッキリ見せないほうがいいだろう。相手からも我々の姿が見えてしまう…伝えてくれるか、シオン」
「了解よ。…でもなんか、あのふたりに馬鹿にされてる気がする…」
シオンも東の風が徐々に吹いて、空峡の中に浮かぶ浮遊島が徐々に姿を現してくるのを、目撃した。
黒龍は、浮遊島の近くに大型飛行艇を寄せるよう、操縦者に連絡する。
また、赫夜たち小型飛行艇に乗った面々へも連絡を取る。
『解った、ありがとう』
赫夜の声が携帯を通して聞こえてくるのを確認すると、黒龍は甲板へ出た。他の生徒たちも、おのおの、浮遊島が近づいているということで、戦闘の身支度に入っている。
「高漸麗…赫夜がおまえと話しがあるそうだ。今からここへやってくると言う」
「…僕に?」
赫夜は大型飛行艇の甲板へと飛行艇を寄せて着地した。
「漸麗殿、真珠のこと、あれほどまでに心配してくれてありがとう。それに目の見えない身なのに、このようなところまで来て貰って…」
「ううん、お礼を言うのは、僕の方だよ、赫夜さん…。守るべきものの為に命を惜しまない僕の昔の友人も、君とよく似た人だった…顔や性別なんかじゃなくて、とても綺麗なものを、本当は持っている。そのせいでたくさん、傷付いてしまう。そして自分を犠牲にした、僕の大事な友達を思い出させたんだ。僕は真珠ちゃんを救いたい。強く、強く、そう思わせてくれた。それが僕の親友への為のような気もするんだ…でも、君は絶対に命を捨てちゃいけないよ。僕は「君達」の幸せを、心から願ってる。」
「…」
黒龍、赫夜は黙ったまま、甲板に立っていた。風向きはどんどんと変化していく。
「風が、そろそろ東風がやってくるね…赫夜さん…絶対に死なないで。自分を犠牲になんかしないで。そして真珠ちゃんとみんなで戻ってきて…」
「ああ、解った」
赫夜は見えないはずの瞳の漸麗としっかりと目が合ったような気がした。漸麗は筑で曲を奏でる。
初めは穏やかに、風向きが変わる度に曲調を激しく、そして東風になった時には高音を中心にした激しい調べを。風向きで音が伝わる。
「楽師は唯、壮士の背を見送り、かの物語を奏でるのみ…行って、黒龍くん…真珠ちゃんと赫夜さんをお願い」
「任せておけ」
黒龍はそう、頷いた。
大型飛行艇は、浮遊島の側に接岸する。
赫夜が飛行艇に乗り込むと、一気に上空へと上昇していった。
それと同時に生徒達も一斉に飛び出していく。
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