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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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 12、後に残るものには気をつけましょう
 
 
「緋桜 遙遠選手、特別ペナルティです。むきプリ部屋へ行ってください」
 地上に降りた遙遠に、クリスと瀬織が近付いてくる。気のせいか、何かを期待しているような。
「分かっています。それにしても、むきプリ部屋ですか……。案内がつくんですよね?」
 そうして、遙遠はスタッフと共にグランドから姿を消した。
(ガントレットをつけてなかったら、もっとひどかったかもしれねぇな……)
 腕を抑えながら、陣が内野を出る。外野にいたリーズが、スポーツドリンクを差し出してきた。笑顔であっても、心配してくれていることがわかる。
「陣くん、お疲れさまっ! 腕、痛い?」
「たいしたことないから大丈夫や。救護所行ってくるな。……逆に悪くならなきゃええけど」
 そんな彼を迎えたのは、エルシー・フロウ(えるしー・ふろう)だった。ほんわかとした笑みを浮かべている。
「はい、じゃあこちらに来てください。ヒールかけますねー」
(ま、まともで良かった……!)

「だ、だだだ、大地さんっ! 大地さんっ! 目を覚ましてくださいーっ!」
 ティエリーティアは、堕天使リタ達に運ばれてきた大地へとすがりつく。しかしすぐに起き上がると、傍にある救急箱から包帯やら消毒薬やらを出して一生懸命治療を始めた。
「待っててください、僕が今、楽にしてあげますから!」
 だが、元々不器用な上に如何せんパニクっているのでうまくいかない。
「あっ、ティエル、そこ違うんじゃね?」
「えっ! なにがですか?」
「いやー、そうするとますます傷口が開いちゃうんじゃないかなー、と。ほれ」
「…………」
 しばし呆然として、慌てて対処しようとまた手を動かす。
「だからってきつく巻きすぎだって。あーあ……」
「なんか……すごい既視感を感じるんだけど……」
 何となく自分の胸を押さえてファーシーが呟く。彼女が復活する際、最後のパーツをはめ込んだのはティエリーティアなのだ。
「ん……?」
 うっすらと目を覚ました大地は、至近距離にティエリーティアの顔を認めて驚いて飛び上がった。
「てぃてぃてぃ、ティエルさんどうしました? 何を……」
「あ、動かないでくださいー!」
「いたたたたたたっ! ……あ、いえ、いたくないですよいたくない……あの、もうすこしやさしく……」
「しょーがねーなあ。じゃあ俺がヒールで治してやるよ。親友のためだかんな!」
「僕だってヒールくらい持ってますー!」

 ほんのりとした地獄絵図の外では、真菜華が椅子に座ってひざにピノを乗っけていた。彼女を抱っこして試合を観戦しつつ、のんびりと言う。
「試合すごいねー、ピノちゃんのおにーちゃんは出ないんだね?」
「うん! そっこーで否定されたよ!」
「運動音痴なのかなー? それともチキンなだけなのかなー?」
 とても良い笑顔である。見えない音符を飛ばしまくっている。後方で湿布の匂いをぷんぷんさせながらラスがぼやいた。
「……言いたい放題だなおい……」
「両方だと思うよ!」
「……!? 分かってないなピノ。俺はお前と平穏無事に過ごすためにだな……」
「そういえばピノちゃん、こないだ撮ったプリクラ、ケータイ転送成功してた?」
 聞いちゃいない、という感じで真菜華がそれを遮った。にっこにこ笑顔である。
「あ、うん! 来てるよ! ほら」
「待ち受けにしない? マナカとお揃いにしよ!」
「……え、コレを……? いいけど、開ける度に吹き出しそうだなー」
「……? 何の話だ……? まさか……」
 嫌な予感がして立ち上がり、覗き込む。
「!!!!!」
 そこには、人格入れ替わり事件の時の、妙にテンション高いラス(中身ピノ)のプリクラ写真だった。妙にテンション高い真菜華のパートナーも一緒に写っている。鳥肌が立った。
「ななな、何で……没収したはず……!」
「最近のプリクラは、撮ったやつをケータイに転送できるんだよ。ねーっ」
「ねーっ!」
「何が『ねーっ!』だ! 消せ! すぐ消せ! つーかどうして待ち受けにしてんだよっ!」
 真菜華はぱたんっ、と携帯を閉じると胸の谷間に突っ込んだ。ユニフォームにはポケットが無いのだから仕方がない。
「…………!!!」

 そして、写真といえば――
「おう、理子、久しぶりだな」
 その頃、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)王城 綾瀬(おうじょう・あやせ)と一緒にVIP席を訪れていた。そこには、高根沢 理子(たかねざわ・りこ)セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)が揃っていた。ツァンダのこのスタジアムでは運営が中立にこだわっている為、東と西の関係者が勢ぞろいしているのだ。
「ん? こんな所に何の用よ……って、お菓子? ジュースもあるわね」
「ああ、エリザベートに頼んで、セレスティアーナを紹介してもらおうと思ってたんだけどな。全員一緒にいるんならそれはそれで都合がいいから直接来たわけだ」
「は? 全員? 何言ってんの?」
「ちょうどお腹がすいてたんですぅ。そのお菓子、寄越すですぅ〜」
 手を伸ばすエリザベートに、缶ジュース1本とクッキーを渡す。セレスティアーナは、突然の男の登場に混乱しかけていた。
「りりりりり、理子! 男だぞ。ななななな、何なんだ、何者なんだ? い、いい奴なのか?」
 自分の背中を盾にするように隠れる彼女に、理子は少し考えてから言う。
「時と場合にもよるけど……まあ、悪いやつじゃないわね」
「何か微妙な言い方だけど、そーゆーこと。危害は加えないから信用しろよ」
「ほほほほほ、本当か……?」
 まだびくびくしているセレスティアーナに、ルミーナが安心させるように微笑みかけた。
「わたくし達もいますから、安心してください。何も悪いことは起きませんよ」
「ところで、結局、何しに来たんですかぁ〜」
「あ、そうそう……」
 トライブが写真でも撮らないかと軽い調子で持ちかけると、理子達はなんだそんなことか、と撮影に応じた。そして、4人の写真をGETして戻ろうとした時、トライブはコート上の異変に気が付いた。エリザベートに言う。
「そうだエリザベート、むきプリはどこにいるんだ?」
「むきプリ君ですかぁ〜?」
 何故か驚いたように、エリザベートは目をまんまるにする。珍しい。まんまるだ。
「面白いから、むきプリの写真も撮っとこうと思ってな」
「今日はむきプリ君、なんだか人気がありますねぇ〜」
 それからトライブは、エリザベートに案内されてむきプリ君の所に行った。ルミーナも一緒だ。

「ど、どうして変なやつばっかりやってくるんだ!」
 むきプリ君は、ペナルティ部屋に来た遙遠を警戒しまくり、廊下の壁にぴたっと貼り付いていた。彼は以前、遙遠とそのパートナーに懐柔されかけ、騙され、ぼっこぼこにされてホレグスリレシピを奪われた経験がある。むきプリ君のパートナーであるぷりりー君は別に抵抗無く渡していたのだが、彼からすれば奪われたという感覚だ。また、先にやってきた朔も、月光蝶仮面としてむきプリ君をぼっこぼこにしている。むきプリ君はその招待に気付いていなかったが――どうにも朔からは恐ろしい気配がするのだ。触ったら火傷する。絶対にちょっかいを出すな――
 本能に言われるままに、むきプリ君はびくびくと朔を監視していた訳だが。
 新手である。
「ペナルティを犯しただけですよ。あなたに会いにきたわけではありません。……入ってもいいですよね」
「……も、勿論だ……」
 そこに、トライブ達が和気藹々と歩いてきた。エリザベートもいるし、今度は安全なパーティーのようだ。そして用件を聞いて、むきプリ君は2つ返事で、大層喜んで頷いた。
「俺のプロマイドだと……? そうかそうか! どんどん撮るがいい! ふふふ、どうだ! 俺の魅力ある肉体を皆で拝みたいか。そうか!」
 ……誰もそこまでは言っていない。
 何はともあれ、トライブはむきプリ君の写真をGETした。グランドに戻る途中で、彼は綾瀬に話しかける。彼女は歩いている間、ずっとデジカメをいじっていたのだ。
「で、どうだ? コスプレ写真はうまく出来たか?」
「……手元に見本が無いとうまくいかないわね。どれもぼけてるけど……」
「ぼけてる?」
 トライブは綾瀬に、ソートグラフィーを使って今日会った女子達のコスプレ写真を念写するように言っていた。ブルマは期せずして正規の方法で手に入ったが、他に、スク水、バニーガールにセーラー服、ナース、キャビンアテンダントその他エトセトラエトセトラ……を頼んでいる。普段から気分精神的にも肉体的にも不健康が信条の綾瀬は、ダウナーな気分だったこともあり、試合に出ろと言われるよりはマシだと素直にそれに協力していた。
「スク水とセーラーは成功してるじゃねーか! 単純だからか?」
「どれも、本人達を見てさっさと撮ったやつよ。別れてからのはやっぱり失敗するわね」
「……そんなもんかー」
 そこで、デジカメを見るトライブの動きが止まった。めっちゃ凝視している。
「その中で、どうしてこれが成功するんだ?」
 それは、縄で縛った……亀……的なものであった。
「トライブの部屋で見つけた本と同じだわ。縄とかが好きなのね。……これ、見つかったらヤバイんじゃない? くくっ」
「なにこそこそしてるんですかぁ〜?」
「!!!!?」
 トライブはびくぅっ、として慌ててデジカメを仕舞った。これだけはバレてはならない。ヤバイなんてもんじゃない。

 えーん、えーん……
 観客席の最後方で、小さな女の子が泣いていた。しかし、誰もそれに気付いた様子は無い。いろんな意味で試合に夢中になっていた。
「どうしたのですか? こんな所で。お母様かお父様は……?」
 最初に気付き、声を掛けたのは空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)だった。女の子は彼の呼びかけにも反応せず、ただただ泣き続けている。
「えーん、ママーーーー!」
「迷子のようですね……とにかく落ち着いてください。ジュースを差し上げましょう」
「……?」
 クーラーボックスからよく冷えた缶ジュースを取り出し、女の子の頬にぴとり、とつける。彼女はびくっとしてから缶を受け取り、ぐすぐす言いながら飲み始める。
「君、お名前は?」
「……ミュウ……」
 名前を聞き出せたことにほっとしつつ、しかし、困惑して周囲を見回す。子供を捜す親がこの辺りにいないだろうか。
「……それにしても、困りましたね……」
「狐樹廊? その子は?」
 巡回をしていたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が近付いてくる。迷子になってしまったらしいことを説明すると、リカインは言った。
「ロビーカウンターに連れて行きましょうか」

 その頃、ロビーカウンターにはメイベルが座っていた。落し物受付や席の案内、サービス案内など、インフォメーションとしての仕事を受け持っている。落し物はちょこちょこと届けられ、それは記録と共に背後の事務室で保管されていた。
「暇ですねぇ」
 メイベルは誰も居ないロビーを眺めながら言う。試合がいいところなのか、広い空間に観客の姿は無かった。無論、仕事も無い。
「メイベル、差し入れだよ。クッキー作ったから、ちょっと休憩しない?」
「そうですねぇ〜」
 リカイン達が迷子を連れてきたのはそんな時だった。