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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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 11、歌の侵食と愛の力
 
 
(これはまずいですね……。遙遠も今日は対抗策を持っていません。1度、歌が聴こえない所まで退避しましょう)
 『地獄の天使』で空を飛んでいた緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)が、更に高く舞い上がる。
 そして地上。恐怖と悲しみの感情に駆られた西チームには暗雲が立ち込めているように見える。立っているのはほんの数人。残り人数としてはこちらの方が多い筈なのだが――
「やる気が出ないです〜。これが意気消沈というやつなのでしょうかー」
「ああ、私はもう終わりです。西シャンバラチームはこのまま敗北してしまうでしょう……。精神攻撃……。最早これを防ぐ術はありません。私は13歳にしてブルマ姿に……」
 コートに体育座りをしていたひなが、がっくりと膝をついて言う翡翠を振り返る。翡翠は、状態異常なら博識で何とかしようと思っていた。しかし感情面に干渉されては博識も形無しである。
「翡翠さん、何のお話ですか〜?」
 さめざめと事の次第を説明する翡翠。コートが広い為、落ち込んだ状態で話すと、他の選手達の耳にまでは入らない。否、東チームの超感覚使いにだけは聞こえていた。
(翡翠ちゃん……! そんなにブルマが嫌……まあボクもばれちゃうからはかないけど。でも、勝負を持ちかけてきたのはそちらですからね! 今は東が有利……!)
 悠希がそんなことを思っている一方、話を聞いたひなはやる気を奮いおこし、立ち上がった。
「可愛い可愛い弟にそんな格好はさせないのですっ! 西が勝ちますよーっ」
 地面に転がったままのボールを拾って、残っている東メンバーを見る。
「歌も手強いですが、私は腕力の強い人を倒すですー。ということで、ガチ戦闘の経験もあるラルク! あなたがターゲットですっ!」
 指名されたラルクは、活き活きとした目で嬉しそうに笑った。
「よっし! 受けて立とうじゃねーか!」
「いっきますよー」
 ひなが投球体勢に入る。彼女からの闘気を、びりびりと感じる。
(こりゃあ強烈なのが来るぜ! だがきっちりガードしてやる!)
 2人の気迫に、選手達も観客も運営チームも実況も副音声も息を呑む。なんだかもう、ドッジボールではなくどこかの格闘漫画の荒野の決闘、という風情である。
 ポイントは、如何にキレのあるボールを投げるか。
「小細工無しの真っ向勝負ですよっ! 低めにづばーんと決めてやるですーっ」
 ひなの言葉に呼応して、ラルクが腰を落とす。ジャイロ回転しながら迫り来るボールを正面から受け止め、吼えた。
「うおおおおっ!」
 ぎゅるるるるっ! と回転するボール。等活地獄の装備効果も相成り、ドラゴンアーツの力を以ってしても回転は止まらない。
『摩擦で手の中から煙が出てますネ! あれはアツいですヨ!』
「全筋肉を総動員してボールをキャッチしてやるぜ!」
「ふふーんっ、できますかね〜っ?」
 ボールを投げた姿勢から、自信に満ちた顔で言うひな。ほぼ同時、ボールはラルクの手を擦り抜けて顎に直撃した。仰向けに、弧を描いて宙を飛ぶラルク。ボールは、そのまま天高く上がっていった。
 鍛え上げられた体が、どんっ、と音を立てて地面に倒れる。
《ラルク選手、ダウン! ……ではなく、アウトです!》
『起き上がらないですネ。脳には直接当たっていないし、軽い気絶だと思いますネ。寝かせとけば大丈夫ヨ』
 重量がある為、堕天使ではなく男2人――翔一郎とショウが駆けつけて担架に乗せて運んでいく。強敵を倒しても、歌が止まるわけではない。心頭滅却や残心を持たず、恐れと悲しみを克服できない選手達は、未だ試合が出来る状態ではなかった。東のチームにもそれが伝染し始め、少しずつ活気が失われていく。
「おい、ミイラ取りがミイラになってどうする!」
「ほら、みなさんがんばりましょう! こちらに影響が無いように、歌は歌われているのですから」
 東チームで残心を使っていたヴァルと、畏怖対策をしていたザカコが声を掛ける。
 そして西では、透乃が仲間達を鼓舞していた。
「みんな、元気出して! この試合、まだ勝てるよ! 陽子ちゃんも、私がいるんだから何も不安に思うことないんだよ?」
「透乃ちゃん……」
 陽子が顔を上げて、光明を見たかのように少し微笑んだ。いつの間にか応援席からティーカップパンダ達が降りてきていて、メガホンを持って飛んだり跳ねたり、一生懸命応援していた。
((((((か、かわいい……))))))
 そうは思っても、やはり万全な状態にはほど遠い。
「ティエル、今だ!」
「だ、大地さんー。大丈夫ですか、ファイトですよー。えっと……える・おー・ぶい・いー・がんばれだいち!」
 何故か活き活きとしたフリードリヒに言われ、ティエリーティアがボンボンを振りながらメモを読む。
「「え……?」」
 驚いて、大地は顔を上げた。ティエリーティアも、口に出してからぴたっと動きを止める。
 える・おー・ぶい・いー……
 L・O・V・E……
 らぶ。
 ちあがーる。
「ティ、ティエルさん……!」
 大地は感動と共に一気に元気を取り戻し、ボールの行方を追おうと空を見上げた。一方、ティエリーティアはフリードリヒをぽかぽかと叩いている。
「ふ、フリッツー。なんでひらがななんだろうと思ったら、何言わせるんですかー! は、はずかしいですよー……。流れました……よね。テレビで流れましたよね……!」
「んー? いーんじゃねーの? らぶ、なんだろー」
 ふふーん、と鼻歌でも歌いだしそうなフリードリヒ。
「フリッツさん……ひどい! 外道! わたしも気をつけないと……」
 ファーシーの評価がまた下がった所で、大地が唯乃に指示を出す。
「1度、歌を止めてください! 西チームはしばらく回復しません!」
 そこで、遙遠がボールを持って高速で舞い降りてくる。
《遙遠選手が戻ってきました! 西チームで動けるのは、透乃選手とアシャンテ選手、外野……しかし内野同士ではパス出来ませんし、外野も、少なからず歌の影響を受けていますね。さあ、どう動くか……!?》
(……彼女は、ある意味最大のアタッカーです。たとえ外野でも、攻撃されるということをお教えしましょう!)
 立ち位置を見定めてから、アシッドミストで東コート全体を霧で包む。ボールの出所を分からなくさせる為だ。
「な、何?」
 東チームがきょろきょろと狼狽える中、遙遠はその外に向けてボールを投げる。ボールが唯乃の頭上近くまで到達し、サイコキネシスと奈落の鉄鎖で勢いをつけて落下――
「危ない!」
 超感覚を使った大地が、先読みを併用してジャンプ。無事にボールをキャッチする。
「うっ……!」
 だが、奈落の鉄鎖で重力増大したボールは、試合前にかけられていた防御を打ち破った。胸を強打され、骨が折れる音がする。それでも地面に落ちる前に、大地は根性でパスを出した。外野に飛んだボールに、涼介が素早く反応した。パワーブレスとバーストダッシュを使った『バーストキャッチ』で受け取ると、再びバーストダッシュで高く飛ぶ。それに天のいかづちを纏わせ、西チームにシュートする。
 雷と共に急降下してくるボールに対し、陣は咄嗟に必殺技を使っていた。サイコキネシスの物理障壁を多数展開。ボールの威力に干渉する。雷電が、火花のように周囲に散る。
「その程度では、私の『ホルスの裁き』は敗れません! 第一、歌の影響が残っているあなたの力では……!」
「歌なんかに俺が負けるか! 『プリベントキャッチ』で必ず……!」
 だが、ボールは防御を突破し、陣を攻撃する。それは腕に勢い良く当たり、押し込むようにして彼と一緒に地に落ちた。
「アウト!」
「ヨウくん!」
 無事だった方の腕でボールを投げる。アウト後ならば、内野同士のパスにはならない。遙遠は上空でそれを受け取ると、舞い上がった。
(彼はまだやる気のようですね……。でも、その身体では無茶でしょう。とどめをさしてさしあげますよ!)
 晴れかけていた霧に追加のアシッドミストをかけ、再びサイコキネシスと奈落の鉄鎖を使う。今度は一度投げることはせず、直球だ。
 大地は迫り来るボールから、目を逸らさなかった。友人が多いから、と東チームとして出場した。あえて世界情勢は無視した。しかし。
 やるからには勝ちたい。
 負けるとしても、最後まで全力を尽くして見苦しく負けたい。
「潔く負けるとか、クソ食らえですよ」
 ボールを掴む。力一杯――
「大地さーん!」
 ティエリーティアの必死な声が聞こえる。胸が痛くて、息が詰まった。ロケットの鎖が切れる。それを咄嗟に掴んで――大地は意識を失った。

 跳ね上がって外に出たボールを、西チーム外野のカイルフォールが掴む。彼はセシルにパスしようとしたが、歌の影響だろう、セシルは珍しく不安そうな顔をしていて、カイルフォールまで不安になった。
「こっち!」
 手を振る透乃にパスを送る。彼女は元気溌剌な表情をしていた。ボールを受け取ると、透乃は、まだ霧の残る東コートにシュートを放った。
「このまま形勢逆転するよ!」
「痛っ!」
 霧の中から声がした。彼女のシュートは、レロシャンの腰を捉えていた。
「アウト!」