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リアクション
15、西シャンバラチーム、逆襲開始〜アシッドミストの効果〜
(何だか、ユニフォームが心許ないですね……)
悠希は、先程からそれが気になっていた。アシッドミストで濡れたユニフォームが、紙製になってしまったかのように不安定な気がする。身体に張り付く感触も気持ち悪い。
(みんなも同じ筈だけど……)
東のユニフォームはぴったりしたタイプだから、あまり気にならないのだろうか。兎にも角にも。
(一刻も早く……着替えたい……!)
ということで、悠希はボールを受け取ると、コートの中央にいる翡翠を見定めた。チームの勝敗で決着をつけるのもいいけど、どうせなら直に決めたい所だ。でも……!
「ボク……もう我慢できないですっ!」
「わっ!」
翡翠に光術で目潰しをしつつ、金剛力とドラゴンアーツで怪力を得ると一気にアタックする。翡翠は、小さな体型を活かそうと、腰を落としてやや前傾姿勢でキャッチに備えて陣取っていた。博識を使って、魔法を纏った攻撃じゃないことは判ったが――ボールが見えないとなると、受け止められない――!
「詩穂さん! これをキャッチするのは危険です、跳ね上げてください!」
少し遠くの方――外野から影野 陽太(かげの・ようた)の声が聞こえる。騎沙良 詩穂(きさら・しほ)がサポートに回ってくれたようだ。彼女は作戦会議の時、必殺技を積極的に受けると言っていた。自分が倒れなければ他のメンバーのアウトを防ぎ、また、跳ね上げれば攻撃に転化することも出来る、と。
「うん、分かった!」
視力が回復してくる。ばんっ、という音と同時、詩穂の苦しそうな呻きと、続いて、地面に倒れる音がした。「ボクが応急処置するよ!」というロートラウトの声がする。
ぼやけた視界で見上げると、そこには宙を舞うボールがあった。刀真が素早くキャッチし、上空で投球体勢に入る。
「刀真様、悠希様は私がやります!」
翡翠に一瞬だけ目を遣り、刀真は金剛力とヒロイックアサルトで上げた攻撃力にソニックブレードの音速能力を応用して必殺シュートした。狙うは、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)である。
「強化装甲を施し、怪力の籠手をはめたスカサハは早々倒れたりはしないであります!」
ドライブを掛けられているが真正面。スカサハは、腰を落としてボールに挑もうと構える。しかし、大砲のようだったボールは彼女の目前で突然曲がり、脚にぶつかった。
「ああっ!」
脚の装甲を破壊されて吹き飛ぶスカサハ。1度バウンドするものの、ボールの勢いは衰えず、地面に大きな穴を開けて更に東の選手を襲う。
「あ」
「あ」
翡翠と刀真がほぼ同時に言う。ボールが、悠希に向かって一直線に飛んでいく。だが悠希は、バウンドの直前に博識でそれを察知していた。
「そんな激しい攻撃……壊れちゃうっ!」
超感覚を使って、紙一重で避ける。しかし、風圧までは避けれなかった。悠希の感覚は正しい。アシッドミストで脆弱になっていたタンクトップ、そしてスパッツが破ける。
「……!」
慌てて、悠希は胸を両手で覆った。バレる……! あ、ブラは無事だ。
ボールは更に、外野のアイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)へと飛んでいく。迷彩塗装人間隼人と作戦について話していたアイナは、慌てて彼を盾にした。
「お、おい!」
「男がか弱い女の子を守るのは当然でしょ!」
直後、隼人にボールが直撃する。西チームであっても外野。アシッドミストの影響を受けていたのか、隼人のユニフォームが吹き飛んだ。迷彩塗装が剥がれ、ついでに意識もグランドから剥がれた。
「……やりすぎたか」
しまった、という顔になる刀真に、クリス達が近付いてきた。
「むきプリ部屋にどうぞ」
「……罰ゲーム的な役割を与えられるとは……どんな男なんだ? そいつ」
「さあ。私達も会ったことないので知りませんが」
「こんな奴、だな」
瀬織が言うと、トライブが撮ってきた写真を3人に、ついでに選手達にも見えるように掲げる。イルミンスール制服が全く似合わない筋肉ムキムキのプリン男に、刀真達は言葉を失う。
「……むきプリ部屋へどうぞ」
「嫌だと言ったら?」
どごっ!
ここぞとばかりに、クリスは刀真の腹に1発入れた。ちなみに彼女は、料理をする時にまな板までさくっと斬ってしまう怪力の持ち主だ。それを材料と勘違いしたまま鍋に投入してしまうほど自然に調理器具を壊す怪力の持ち主だ。故に。
「×○△☆※!? ……………………」
「……こうなります」
笑顔で言うと、クリスは刀真のユニフォームを掴んだ。
「スカサハさん! 大丈夫?」
「ファーシー様! 全然平気でありますよ!」
一方、東コートにはファーシーがやってきて、心配そうに声を掛けていた。しかし、表情が少しだけわくわくしているのは気のせいだろうか。
「そっか……。ねえリタさん、スカサハさんを救護所のベッドに運んでくれる? 『わたしが』直すから」
「分かりましたぁー」
「え……、ファーシー様、出来るんでありますか……?」
スカサハの顔が引きつる。リタはショウと協力してスカサハを担架に乗せた。運ばれていく途中で、彼女は別の場所へと運ばれていく刀真に言った。
「フォークボールなんて卑怯であります! 正々堂々と勝負するでありますよ!」
「……相手の捕りやすいボールを投げる理由が無いだろう?」
引き摺られながら、それでも刀真は冷静な調子で答える。そんな彼らの脇で、トライブは撮影した理子とセレスティーナの写真を掲げていた。
「優勝チームには両陣営の代王のベストショットを副賞としてプレゼントだ! あ、負けたチームはむきプリの写真を進呈ね」
…………!?
選手達がばっ! と写真に注目する。好きな人の膝枕プラス、代王のベストショットだと……!? しかし――
――むきプリの写真は全力で要らない。
理子達の写真に興味の無い選手達も、その点だけは共通していた。
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15、5 見習いアーティフィサーの暴走と憂鬱
空いてるベッドにスカサハを寝かせると、ファーシーは工具箱を取り出した。やる気満々だ。
「本当にやるのか? 確か、独学と……」
「独学!?」
司の言葉を聞いて、スカサハはますます慌てる。
「ファーシー様! お話するであります! 久しぶりに会ったわけで、積もる話もいろいろ……」
「うん、直しながらになっちゃうけど、一杯話そうね!」
「いえ、ですから……! 他に、アーティフィサーの方は居ないでありますか!?」
「……そんなに信用無いかなあ。でもほら、研修医の人とかも経験を積んで一人前になっていくわけでしょ? やっぱり実際にやらないと、ねえ」
「実験台でありますか!?」
「一応、俺はアーティフィサーだけど」
そこに、某が近付いてきた。機晶技術のマニュアルを持っている。
「……!」
スカサハが心底助かった、という顔をする。そのマニュアルを、ファーシーはひょいっ、と取り上げた。
「あ、見せて見せて!」
何と……!!!
「機晶姫じゃあ唾つけとけば直るってわけにもいきませんかねえ?」
「それは無茶だろう。しかし、こんなに怖がっていたら治療しづらいだろうな。押さえるくらいなら手伝えるが……」
サクラコと司が口々に言っていると、必殺、子守唄ラビがやってきた。ラビはさっきまで、治療に飽きてコートの選手達を応援していた。だが、このプチコントを見て興味を持ったらしい。
「ラビがオチをつけてあげるー」
「う……? ん……。眠くなってきたであります……」
スカサハの身体から力が抜け、目を閉じてこてんと眠り出す。
「……それじゃあ、直そうか……普通に」
それが1番大事だとでも言うように、某は語尾を強調した。
2人になり、かちゃかちゃと工具の音を立てながら治療は進む。実技が初めてということもあり、ファーシーははっきり言って作業を間違いまくっていた。その都度、先端テクノロジーと機晶技術を持った某が修復する。ファーシーは、ティエリーティアのことを言えないんじゃないだろうか。
――だが、破損箇所が小さかったこともあり、今のところは順調(?)だ。
「……しっかしなぁ、パラ実と百合園が敵勢力になっちまうってのには参ったな、ホント」
パラ実には皐月が、百合園には恩人がいる。
「……あいつらとは殺し合いなんてしたくないな。もちろんそんな気はさらさらないけどな」
「うん……。どうしてこんなことになっちゃったのかな……。いがみ合ったって、良い事なんか何も無いのにね……」
ファーシーが少しだけ沈んだ声を出した。そんな彼女を見て、某はことさらに明るい調子で言う。
「エリュシオンとのいざこざもさ、この大会みたいに楽しく解決できればどんだけいいか。無理だってのはわかってるけどさ」
「そうね、楽しく……。これが始まりで、終わりならいいのにね」