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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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 16、救護所崩壊、そして暴動
 
 
 西からの再開になり、セシルはボールを受け取ると、それを外野のあさっての方に投げた。カイルフォールがバーストダッシュでその位置まで移動してキャッチし、また投げ直した。セシルは、試合前にシュート技について話してから、こんな事を言っていた。
『俺とカイル、内野と外野に別れて連携とって、隙見せた奴を狙い撃ちしようぜ!』
 と。まあ、それだけでは無いのだが。
《西チーム、またパス回しを始めました!》
『さっき、パス回しをうまく使って1人外野送りにしているネ。オーソドックスだけに効果もあるワヨ〜。それにしても、東チームの動きが悪いワネ、どうしたのかシラ?』
 悠希のユニフォームが簡単に破けたことで、東チームの選手達は気付いたのだ。ユニフォームが今、非常に危うい状態になっているということに……!
 ――絶対に、当たれない!
 その思いを胸に、過剰にボールから逃げる選手達。紙一重で避けていたのでは駄目だ。風圧でやられる! キャッチも駄目だ。思い切り破ける! どうすれば……!?
 しかし、翻弄される東チームの中でもマイペースに動く選手がいた。アスカと悠希だ。アスカは、この状況でも冷静だった。敵の外野からの攻撃を避けた時に自陣の外野にボールが飛ぶように計算して動いていた。ドッジボールにはファイブパスというルールがある。5回目にはシュートをしなければいけない。それに則り、セシルとカイルフォールペアは大体4回目か5回目にシュートをしていた。攻撃役はセシル。彼は、コートのラインぎりぎりを狙ってシュートしていた。バウンドした瞬間に外野に出るので、敵にキャッチされる恐れが少なくなる。加えて、ボールには轟雷閃やら爆炎波やらが纏われているので、そんなものをキャッチすれば一糸纏わぬ姿になるのは目に見えている。
 だが――
《アスカ選手、悠々と攻撃から逃れています! この余裕はどこから来るものなのでしょうか》
(攻撃をしたり、ボールを受け止めるのって子供の時から苦手なんだけど、何故か避けるのだけは得意なのよねぇ。スキルを使った攻撃だって、威力があっても当たらなければ意味がないしね〜。とりあえず、内野の彼だけ注意してればいいかしら。にしても、うちの外野に届くようにシュートしないわねぇ。どうしようかしら〜)
 そしてこのパス回し、救護所の方にも影響を与えることになる。セシルがシュートした際、バウンドしたボールをカイルフォールがキャッチ出来ないのだ。
「あ、熱っ! 痛っ! セシル、普通のシュートを撃ってくれ! これじゃあ取れないじゃないか」
 飛んでいくボールを慌てて取りに行くカイルフォール。家族達の冷たい視線を感じるのは気のせいだろうか。気のせいだと思いたい。そして、何度目かのシュートボールをとり逃し――
「カイル! ちゃんと取れよ! 救護所に……!」
「げっ! こっち来る!」
「ファーシーさん!」
「きゃあ!」
 ティエリーティアは、ファーシーとピノをかばえる位置に立ってどんっ、と押した。こけた。ちなみにラスはガン無視である。レディファーストである。
 押されて勢いよく進む車椅子を抑え、フリードリヒがファーシーをひょいとお姫様抱っこした。
「きゃあ!」
 再び、ファーシーが悲鳴を上げる。
(うし、リベンジ成功!)
 そのまま、フリードリヒは救護所を離脱した。
「ふぁ、ファーシー様!? くぅ! 取られました。ノルン様、ミュウ様、行きますよ!」
「マナカも行くよ!」
「助けるのはやはりそういう者達なんだの……」
「俺も逃げるぞ!」
 望がノルニルを連れて素早くその場から離れ、真菜華と山海経、ラスがそれに続いて脱出する。
「綾耶、先に逃げろ! って……どうした? 大丈夫か?」
「あ、な……なんでもありません。先に行ってますね!」
「おい、綾耶!」
 某は、走り出そうとした綾耶が一瞬顔を歪めるのを見逃さなかった。自分も身をもって体験したあれだと即座に気付く。
「某様、綾耶様と逃げてください。スカサハ様はわたくしがお連れいたします。ああ……本当にこんなことになるとは……!」
 エルシーがラビを抱えて脱出するのを見届けると、半ばパニックになりながらもルミはそう申し出た。
「あ……わ、悪いな」
 ルミがスカサハを抱くと、某も綾耶の背を守りながら救護所を出る。
「ティエルさん、逃げますよ!」
「だ、大地さん?」
 起き上がった大地が、ティエリーティアの手を取って脱出する。火事場の馬鹿力というやつだろうか。
「隼人さん!」
「る、ルミーナさん!?」
 ルミーナが隼人を抱き上げ、白い羽を出して飛んでいく。
「七日、何処だ? 七日?」
 皐月が七日を探して救護所内に首を巡らす。見当たらない。外は……
「あ」
 七日は既に、羽を使って脱出していた。救護所からはもう随分と離れている。何気にファーシー達と一緒だ。
「……逃げるか……」
 運営側も協力して、怪我人を運ぶ。
「メガネいとこを運ぶんじゃあ! あと、動けんやつは……膝枕と……!」
「膝枕は僕が運ぶよ。さあ、早く脱出だ!」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が政敏を、翔一郎が聡を運び出し、救護所から離れた。
 これだけのやりとりが数秒のうちに行われ――
 がっしゃーん! どがどがどが!
 頑丈に作られた救護所の中に飛び込んだボールは、壁に跳ね返り跳ね返り暴れ回り、再び救護所を飛び出してきた。それをカイルフォールがキャッチする。
「フォール! 格好いいとこ見せないと離婚するよ!」
 カイルフォールははっ、となると、バーストダッシュでコートに戻り、素早くアスカにシュートした。セシルにパスをするだろうと目を移していたアスカは避けれず、足元にあたる。幸い、そこは元から露出している部分だったので、ユニフォームは破けなかった。
「あら〜」
「アウト!」
 バウンドしたボールを、悠希が拾う。悠希は、先程よりもユニフォームをボロボロにしていた。パス回しに対して、遠慮無く逃げ回っていたせいだ。西チームの男子諸氏は、目の遣り場に困って目を逸らしたりしている。エヴァルトは、完全に背を向けていた。ロートラウトが突っ込む。
「ちょっとー、試合中だよー」
「いやいや! たとえ試合中であっても女性のその……あの……見るのはだな……!」
 悠希は最初はびっくりしたものの、せっかくだから翡翠達男性陣を女の子姿を生かして翻弄しようと動いていたのだ。
「お、落ち着いてセレスティアーナ!」
「ゆ、悠希! あ、危ない……あぶないぞ、悠希は男の子……ああああ見ていられない!」
 VIPルームでは、いろんな意味でセレスティアーナが赤くなった顔を両手で覆って錯乱していた。女の子だと思っていた時の事とか今現在あられもない姿になっているとか……。まあいろいろである。理子が止めようと声を掛けるが、彼女は当分静かになりそうにもなかった。
 そんな事になっているとは露知らず、いや少しは想像しつつ、こんとらどっじさんが『頼むから帰ってくれ』と言いそうな白い(下着の)天使は投球体勢に入った。それを見て、翡翠は目を覆いながら言う。
「悠希様! 目潰しは無しで勝負致しましょう! 負けた時は潔くブルマを穿きます!」
 悠希はそれを聞いて、彼に視線を定めて了承するように笑った。少し恥ずかしそうに。
「この姿で全力で投げたらブラ丸見えになっちゃう……恥ずかしいっ……!」
 再び金剛力とドラゴンアーツを使ってボールを投げる。
「でも……勝つ為にっ!」
 翡翠は両手を広げてシュートを待ち構えた。シュートの風圧で悠希のユニフォームが散っていく。白いブラが……
「…………!?」
 一生懸命に平静を装い、ボールに集中しようとする翡翠。博識で軌道を予測し、正中線――ど真ん中で受け止められるように、身体を移動させる。しかし。
 目が一瞬だけ、動いた。
 直後、正面からボールが直撃する。慌てて受け止めようと力を入れるが、反応が遅れたのが痛く、一気に押される。
「わっ……わっ!」
 吹き飛ばされて仰向けに倒れかけ、ボールが手から離れた。勢いを失いつつも未だ凶器といえるそれは、観客席との仕切り板に激突して思い切りべこんと凹ませて壊す。観客達はしばし絶句し、それから慌てて逃げ出した。乱入してくる客もいる。客の1人がボールを拾って試合に参加しようと走り出した。
「も、もう我慢出来ねえ! 俺も混ぜてくれーーーーーー!」
「来ましたね。客が暴れるとは少々想定外ですが、止めましょうか」
「では……」
 クリスが肉弾戦で観客を沈めていく中、瀬織がファイアストームを放つ。客達の悲鳴と怒声が響く。
《これは……乱入です! 乱入です! 今大会はどうなってしまうのでしょうか! というか、ここは安全なんでしょうか……!》
『ここまでは広がらないネ。じきにおさまるヨ。運営にも兵が揃ってるからネ〜』
「こういうの、ニュースとかで見たことがありますわ。あの時は、どうやって収集をつけていましたっけ……」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)がデジカメで暴動を撮影しつつ、のんびりとした口調で言う。
「わあああああ、どうしよう! 大変なことになっちゃったよ! 御神楽校長に怒られるーーーーーーーー!」
「それでは、私がお止めいたしますねー。コネタントさんは綺人さん達と試合を進めてくださいー。それと、販売用のユニフォームレプリカが倉庫にありますから、持ってきてはいかがですかー?」
 隣に立って藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が言うと、コネタントは初めて気付いた、という顔をして慌てて戻っていった。
「……さあ、お楽しみの時間ですね」

「えっと……西側からの再開でいいんだよね。じゃあ、いきますよー」
 コネタントが代わりのボールを西チームに投げる。余談だが、ボールは試合が中断する度に新しいものに取り替えられていた。そうしないと、ボールが保たないからだ。だから、ボールだけは腐る程ある。腐らないけど。
「よし! 今度は俺達のパス回しを魅せてやろうぜ!」
 紫音がボールを取り、外野の風花にパスをする。2人は無言のまま精神感応でパスを続けた。東チームは、成す術もなく逃げ回る。誰だって、全国放送で服が脱げるのは避けたい所だ。相変わらず動いているのは悠希だけだったが――彼も先程の投球でブラが脱げかけ、動きが鈍い。
(ブラが取れたら、流石にまずいですっ)
 そこに、パス5回目でボールを受け取った外野、アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)がシュートした。
「あっ!」
「アウト!」
 転がったボールをキリカ・キリルク(きりか・きりるく)が拾う。そこで、コネタントが倉庫からユニフォームレプリカを持ってきた。
「東チームの方は、これに着替えてください! 時間無制限としましたが、ここで臨時の休憩時間とします! ただし、5分で戻ってきてください!」
 そして、コートの中は一旦無人になった。